傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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16-2.魔王城潜入

 魔王城の屋上の窓から城内に潜入したスヴェンとミアは視線の先に警戒心を宿しながら向ける。

 そこには誰の姿も無い。しかし確実にこの階には信徒や魔族ーーおまけにアンノウンの気配が漂う。

 

「ここは城内のどの辺だ?」

 

「えっと私達は西外周から登ったから西塔最上階かな」

 

 それなら目指すべきは中央塔の下層エントランスホールだ。

 そこに向かうには中央塔へ移動するか、西塔の下層から向かうか。

 何方も発見される危険性は伴うが、スヴェンは屋根の上から見渡した光景を思い出す。

 中央塔を繋ぐ二箇所の連絡橋。そして中央塔最上階の庭に位置する空中庭園が眼に映った。

 連絡橋を渡れば確かにすぐに中央塔へ移れるが、あそこ遮蔽物もない解放的な空間だ。そんな所で敵と遭遇すれば西と中央から挟み討ちにされるのがオチだ。

 スヴェンは連絡橋を通るという選択肢を除外し、ガンバスターを片手に魔力を宿した大理石の廊下を歩き出す。

 幸い此処には身を隠すために最適な柱や遮蔽物、更に人一人が隠れられる窓辺まである。

 魔力探知や気配に鋭い相手には通用しないだろうが、それでも奇襲しつつ進行するには充分だ。

 スヴェンは僅かに最上階の屋根に視線を向け、覗き込むアシュナと目が合う。

 

 ーーこのまま頼む。

 

 目で指示を出せばアシュナは頷き、そこから姿を消した。

 だがアシュナが気配を断とうともスヴェンには彼女が何処に居るのか認識できる。

 逆に言えばスヴェンに可能な事は、エルロイ司祭やアウリオンに出来ても可笑しくはない。

 自分にだけ出来る、それは単なる驕りだ。自身に出来る技術は誰かしら出来て当然だと思えば自然と警戒も向く。

 

「アシュナの気配は敵に認識されてる可能もあんな」

 

「流石にそれは……いえ、スヴェンさんがわざわざ指摘するんだからその可能性は考慮すべきだよね」

「あぁ、アイツの技量は高いが熟練者だとかは中々誤魔化せねえもんだからな」

 

 スヴェンとミアの二人は廊下の壁を背に通路の曲がり角を覗き込み、敵の姿が無いことを確認してから歩き出す。

 レッドカーペットが敷かれた通路を進めば、廊下に並ぶ部屋から話し声が聴こえる。

 

『侵入者は中層で暴れ回ったらしいけど、その後見失ったらしいよ』

 

『その話何処で聴いたの?』

 

『さっき清掃の時に邪神教団が雁首揃えて話してんだ』

 

『ふーん、魔王様は大丈夫なのかな』

 

『判らないけど侵入者の身元次第になるんじゃないかな』

 

『はぁ〜早く魔王様が解放されて欲しいなぁ。あのお方の髪を梳かす仕事はあたしの遣り甲斐なのに』

 

 どうやらこの部屋に居るのは使用人のようだ。声からして女性のものだが、此処で見付かれば彼女らに迷惑をかけることになるだろう。

 スヴェンとミアは音を立てずに急ぎその場から離れ、一本道の通路をそのまま直進する。

 

 ーー邪神教団は俺達を見失ったのか。

 

 先程聴いた情報を頭の隅に置いたスヴェンは、複数の足音に足を止める。

 一本道の通路で隠れる場所は周辺の部屋のみ。

 スヴェンは気配が感じられない部屋のドアを静かに開け、ミアと共に部屋の中に入り込む。

 ついでにドアの鍵をかけ、聴き耳を立てる。

 

『中層の指導者から連絡は?』

 

『まだ無いよ。ただ外周区の死体やらを見るに侵入者は既に移動したはず』

 

『一番近いのは上層の外周区だが……上層で目撃情報は?』

 

『それも無いらしい』

 

 どうやら上層の外周区から一気に魔王城の屋根に登ったことが功を成したのかは、それを判断するにはまだ速い。

 スヴェンはもう少しだけ気配を断ちながら聴き耳を立てつつ、部屋の内装に視線を向けた。

 するとそこには女性物の下着類が所かしこに散乱し、ミアが小さな息を漏らす。

 あまり女性の下着を見るな。ミアの言いたい事を察したスヴェンは視線を窓に向ける。

 

『……ふむぅ、上層の外周区から魔王城に入るには城柱を登れば速いが、あの高さを登るなら時間もかかるか』

 

『魔族みたいに翼で飛べれば話は別だけど……となると上層の何処かに居ることは間違いないのか』

 

『そうだなぁ。まぁ合成獣やアウリオン達も居るんだ、万が一って事は無いだろうさ』

 

『その考えは捨てろ。いいか? アウリオン達は魔族だ。連中にとっちゃあ魔王を救う可能性が有るなら俺達に従う理由は無いんだ』

 

『人質に取ってるんだから従わざるおえないだろ。それに反抗するなら魔王の氷柱を見せしめに削ればいいじゃん』

 

『忘れたのか? 我々の目的は封印の鍵だ、それさえ手に入ればこの国に用は無い』

 

『そりゃあそうだけど……魔王を人質にして譲渡された封印の鍵って幾つよ? 未だ0だぞ? 何処もかしこも何処に在るのか知らぬ存ぜぬを貫きやがってよ』

 

『我々信徒としても由々しき事態だが、そう苛立つ必要はあるまい』

 

『だな、魔族には悪いけどもう少し我慢して貰おう……それに酪陽とか畜産物に興味が有るんだ』

 

『……あの拠点で安定した食糧が確保出来るようにするには畜産物の知識は必要だよな』

 

 故郷とも言える拠点の現状に付いて話し合う声と共に足音が遠のく。

 スヴェンは窓に近寄り、外の様子を伺うと邪神教団とアトラス教会が各地で交戦してるのか至る所で散発的に爆煙が挙がる。

 

「……アトラス教会も動き出したか」

 

 これで城内の邪神教団が駆り出されれば良いが、そう甘くはいかないのが現実だ。

 それに先程から廊下から忙しなく足音が鳴り響いている。恐らく侵入者やアトラス教会の件で邪神教団が動きているのだろう。

 廊下を進まないなら窓伝いに壁を進むだけだ。

 スヴェンはガンバスターを鞘に納め、窓を開けた。

 

「窓辺を進むんだね。それぐらいなら私でも出来るよ」

 

「ならちゃっちゃと行くか」

 

 外へ出た二人は窓の淵を足場に窓伝いに廊下をしばらく進んだ。

 スヴェンとミアは誰の気配も姿も無い廊下を発見し、窓から入り込んでは螺旋階段に向かって駆け抜けた。

 そして螺旋階段に到着した二人はそのまま一気に駆け降り、西塔の下層を目指す。

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