突き出した杖の先端が防壁魔法に防がれることを織り込んでいたミアは引いた拳に練り込んだ魔力を纏わせ、
「せいっ!」
余裕を浮かべるリンの防壁魔法に正拳突きを打ち込み、練り込んだ魔力を防壁魔法に流し込む。
すると外部の魔力干渉を受けた影響によって防壁魔法を構成する魔法陣が音を奏でながら砕け散る。
一瞬リンが驚愕する中、ミアは再度拳を引き戻しーーリンが腕をクロスさせた直後にミアは身を屈め足払いを仕掛けた。
足を取れたリンが連絡橋の通路で尻餅付く。
「いっつうっっ! い、痛いじゃ……はっ? ま、待ってよ!?」
未だ体勢を崩したリンに対して待つ事など有り得ない。それだけ彼女とまともに戦えば勝ち目は皆無。更に背後で剣戟を繰り広げるスヴェンに余計な流れ弾が行きかねないからだ。
だからこそミアは彼女の静止を無視してでも、練り込んだ魔力を踵に纏わせーー振り上げた踵をリンに振り下ろした。
ズッシーンっ!! 踵が対象に当たる直前で魔力を開放し、開放時の衝撃波で威力を底上げしたが、リンは横に転がり魔力防壁を張ることで踵落としと衝撃波から逃れていた。
それでも連絡橋の床に亀裂がリンの元まで走る。
ーーおっと、もう少し魔力を抑えないと連絡橋が崩れちゃうなぁ。
「……治療魔法の天才だと聴いていたけど、中々侮れないわね!」
床から立ち上がったリンは素早く弓に魔力の矢を違え、こちらに向けて弦を弾き絞り魔力の矢を放つ。
手足を正確に狙った魔力の矢をミアは、掌で杖を回転させることで魔力の矢を弾く。
ーー弾ける程度に加減してる。それに下手に弾くと背後のスヴェンさんとアウリオンさんに流れ弾が行く、か。
ミアはちらりと背後に視線を移す。
解放的な連絡橋で縦横無尽にスヴェンとアウリオンが互いの剣技をぶつけ合い、時にスヴェンは魔力を込めた衝撃波を放ち対するアウリオンが漆黒の刃で斬り払う。
だが、スヴェンの魔力を纏わせた衝撃波は竜血石によって強化されている影響か、斬り払われた衝撃波が西塔の外壁を掠めた。
あっちもあっちで互いに加減せず戦っている。なぜ男性は戦闘となれば譲れないのか。
一瞬だけ浮かんだ疑問は中央塔の窓から覗き込んでいる信徒やーーなに、あの空間の孔……まさかエルロイ司祭も観てるの?
邪神教団に戦闘の様子が観られているとなればスヴェンは手札を切らず、しかしアウリオンに対して加減することもせず戦っていることが判る。
ミアが思考に気を取られた一瞬の隙、リンの放った魔力の矢が足元に突き刺さった。
「なによそ見してるのよ……今度はその小顔を射抜くわよ」
「悪かったですね。今度は練り込んだ魔力をあなたに直接打ち込んであげますよ」
ミアは杖の先端に練り込んだ魔力を纏わせ、槍を扱うように巧みに杖を振り回す。
そんな様子にリンは頬を引き攣らせ距離を取った。
彼女の後方には中央塔に続く扉が在る。他にも窓から中央塔に入ることは可能だが、窓から覗き込む信徒が居る以上はリンを中央塔の扉まで押し込んだ方が早い!
ミアは距離を取ったリンに対し、距離を詰めるべく床を蹴り駆け出した。
そこに接近するのを待っていたと言わんばかりにリンが構えた弓に魔法陣が浮かび上がる。
「『閃光よ、我が敵を呑み込め』」
彼女の詠唱に呼応するように魔法陣に光が集う。
魔法陣に集った光りが膨れ、ミアの額に冷や汗が浮かぶ。
ーーあの魔法は光属性の直線型迎撃魔法の一種!
一本道の連絡橋でそれはミアに対し正に必殺の一撃だ。逆に言えばスヴェンとアウリオンの跳躍力なら簡単に避けることも可能だが、生憎と魔力が高くとも身体能力は二人には到底及ばない。
ならやることは一つだけ。ミアは靴裏に魔力を流し込み、一気に床を蹴ることで加速させる。そしてまだ光が集い切らない魔法陣に杖の先端を当て、自身の魔力を流し込んだ。
戦闘に於ける魔法の無力化は多岐に渡るが、魔法陣を分解する魔法が使えないミアが唯一できる方法が魔力干渉による術式の破壊だ。
魔法陣は緻密に計算された術式と詠唱文、魔力制御で成り立つ。そこに外部から魔力を流せば魔力制御は崩れついでに魔力で構築された術式も破壊される。
「ま、また魔力干渉をっ!」
リンは驚いているが、外部から魔力干渉を防ぐ方法も当然有る。
尤も簡単なのは他者の魔力が入り込む隙が無いほど緻密な魔法陣の構築。他にも他者の魔力干渉を跳ね除ける程の魔力差、魔法陣の中枢に呪いを仕込む方法が挙げられる。
ミアは弓矢を構えるリンに魔力を練り込んだ杖を横に薙ぎ払う。
薙ぎ払った杖をリンは二歩退がることで避け、代わりにミアの右肩と左足に魔力の矢が貫く。
魔力の矢は消え、傷口から鮮血が流れる。じんわりと痛みが広がるがミアは歯を食い縛ることで痛みを堪え、
「くっ『我が傷を癒せ』」
自身の傷口に魔法陣を形成し、淡い緑の光が瞬く間に傷口を塞ぎ痛みを消す。
これで治療は完了したが、既にリンは魔力の矢を放っていた。ミアは咄嗟に横転することで魔力を矢を避けーーガキンっと鈍い音が鳴り響く。
そっと視線をそちらに向ければ、スヴェンがガンバスターで弾いた姿が見えた。
向こうは相変わらず激戦を繰り広げているがーーちょっと、連絡橋が亀裂だらけじゃない!
あと何か大きめの一撃を放てば連絡橋が崩れ落ちてしまいそうだ。
ミアは急ぎ進路を確保する為に、自身の下丹田の魔力を活性化させる。
同時に両足と両腕に魔力を練り込み一気に地を蹴り、リンとの距離を縮めた。
驚愕に染まる彼女にミアは微笑み、
「さっきのお返しっ!」
腹部に唸らせた拳を叩き込む。
「かはっ!」
叩き込んだ拳を引っ込めず、ミアは彼女の耳元で囁く。
「(このまま倒れてください。魔王様は私とスヴェンさんが助けますから)」
「(わかったわよ。でもしくじったら次は本気で襲撃するから)」
リンの失敗は許さないと言わんばかりの言葉を受け取ったミアはそのまま拳を引っ込め、彼女は連絡橋に倒れ込んだ。
その直後、疾風が通り抜け髪が乱れたかと思えば気付けばミアはスヴェンに抱えられ宙を舞っていた。
「す、スヴェンさん!?」
「悪いな、まだアウリオンは納得しちゃあいないらしい」
スヴェンの静かな声と共に連絡橋から濃密な魔力が膨れ上がり、漆黒の剣に練り込んだ魔力を纏わせたアウリオンの姿が映り込む。
「もしかしなくともヤバい?」
「やべぇだろうよ」
なぜそんなに冷静なのか問いたいが、恐らく経験の一言で片付けられる。
そう理解したミアは諦めたようにスヴェンの腰にしがみつく。
同時に稲妻を纏った漆黒の衝撃波がこちらを狙って放たれ、スヴェンは中央塔の外壁を足場に跳躍することで避ける。
中央塔の外壁はアウリオンの放った一撃に穿たれ、生じた穴にミアを抱えたスヴェンが入り込んだ。
そしてスヴェンがミアを床に降ろした途端、背後に現れたアウリオンが剣を振り下ろしーーソレをガンバスターで受け止めたスヴェンが彼と共に落下して行く。
「スヴェンさん! ……って、え?」
周囲に視線を向ければ窓辺の支えの上。おまけに移動するには狭い支えを通らなければミアはその場から移動することすら叶わない。
下を覗き込めば、邪神教団を巻き込んだスヴェンとアウリオンの大立ち回りと火花が映る。
「はぁ〜仕方ないなぁ。私は私で地下エントランスホールに向かうべきね」
ミアは早速地下エントランスホールに向かうべく狭い支えの上を慎重に歩きだした。一歩踏み外せば落下する恐れもあるが、それでもミアは慣れた様子で軽やかな足取りで渡るのだった。