傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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16-6.立ち塞がる怪物

 アウリオンを気絶させたスヴェンは、行く手を阻む邪神教団の信徒を片手間で排除しながら中央塔の地下エントランスホールに到着していた。

 そこの壁には歴代魔王の肖像画や巨城都市建設の様子を描いた絵画、そしてレーナと椅子に座る小柄で長い銀髪の魔族少女を描いた絵画が飾れていた。

 飾れたプレートには『永遠の友情』と描かれ、スヴェンは椅子に座る魔族少女こそが魔王アルディアなのだと理解が及ぶ。

 絵画から視線を外したスヴェンは背後から近付く気配に振り向き、

 

「アンタも到着したか」

 

 ミアが杖を片手にこちらに訊ねた。

 

「アウリオンさんは?」

 

「生きてるさ……ま、アイツに手加減されていた影響が大きいがな」

 

 先程の戦闘は明らかにアウリオンは全力を出していない。それは対峙したスヴェンだからこそ理解できることだった。

 幾ら消耗していたとは言え、アウリオンの魔力はまだ多く--その気になれば強力な魔法も使えた筈だ。

 

「きっとスヴェンさんに期待してるんだよ」

 

「だといいがな」

 

 誰かに期待されようが、傭兵として雇主のレーナに答える。それは依頼を請た時点で決めていた覚悟だ。

 スヴェンはサイドポーチからハンドグレネードを取り出し、魔王の間に続く大扉の前に歩き出す。

 大扉越しに放たれる気配に一度足を止めたスヴェンは思考を巡らせる。

 この先からエルロイの気配が強く感じる。恐らく奴も既に戦闘態勢に入ってる事だろう。

 相手は封神戦争時代から呪いに生かされた不老不死の化け物。そんな相手を真正面から相手にして勝ち目は薄い。

 長期戦も持久戦もこちらの消耗が増すばかりで有効とは言えない。かと言って短期決戦に持ち込めるかと問われれば恐らく経験の差や単純な実力で覆されるだろう。

 そこをどう崩し、隙を見て魔王アルディアを解放するかだ。

 

 --ミアに渡した保険が活かさればそれに越したことは無いが。

 

 此処でごちゃごちゃ考え直しても仕方ない。結局、作戦などその都度の状況に合わせたアドリブが一番だ。

 思考を切り替えたスヴェンはミアに視線を向け、彼女は小首を傾げながらやる気に満ち溢れた眼差しで。

 

「どうしたの?」

 

「……覚悟は良いな?」

 

「……うん、大丈夫。スヴェンさんと私でやり遂げる覚悟は固まってるよ」

 

 杖を構えるミアにスヴェンは右手で握ったガンバスターを背中の鞘にしまい--大扉を僅かに引き開け、僅かな隙間から魔力を流し込んだハンドグレネードを躊躇なく魔王の間に放り込み、すかさず大扉を閉めた。

 瞬間、ドカァァーン!! 爆発音が鳴り響き、爆風による衝撃が大扉に亀裂を生じさせる。

 そしてスヴェンは今度はサイドポーチからスタングレネードを手に握り、

 

「俺が先に突入し、コイツを放り投げる。アンタはタイミングを見計らって突入しろ」

 

「分かった……けど、中の魔王様は無事だよね!?」

 

 スヴェンはミアの問いに答えず、大扉を開け中に突入した。

 ハンドグレネードの爆発によってひび割れた床、散らばった椅子の残骸とエルロイだった肉片。

 肝心の魔王アルディアを封じ込めた氷柱は無傷で部屋の最奥に安置されていた。

 スヴェンは散らばった肉片に警戒を向けたまま、ガンバスターを片手に最奥を目指して進む。

 すると散らばった肉片が不気味にも蠢き、スヴェンに立ち塞がるように集まりだす。

 はっきり言って不気味で気色悪い光景にスヴェンは嫌な顔を浮かべず、左手で握ったスタングレネードを構える。

 一箇所に集まった肉片が瞬く間にエルロイを形造り、

 

「……全く、いきなりとは酷いじゃないか」

 

 完全に復活したエルロイが床に落ちていた二本の双剣に視線を移す。

 一度爆殺されたにも関わらずエルロイには余裕も有れば、死に対する恐れも無い。

 むしろハンドグレネードの威力ではエルロイに肉体的な痛みを刻む事は難しいのか?

 スヴェンはガンバスターを片手に、視線を逸らすエルロイに対して魔力を流し込んだスタングレネードを放り投げる。

 エルロイの足元に転がるスタングレネードに彼は、

 

「おっと、また肉片にされるのは勘弁だ『魔よ、我が身を守護せよ』」

 

 スタングレネードが起爆するよりも早く詠唱を唱え、自身の身を防壁結界で包み込んだ。

 スヴェンは予めポケットに忍ばせていたサングラスを装着し、起爆したスタングレネードが眩い閃光を放ち魔王の間を包む。

 

「なっ!? め、眼がぁぁ!」

 

 なぜか防壁結界が消え、エルロイは眼を抑えながら大理石の床を転げ回る。

 

 --アンタのそれはブラフだろ、ヴェイグ。

 

 ヴェイグとして活動していたエルロイは間違いなく視覚を封じていた。その状態で他の五感で補うことが可能な彼がスタングレードで封じれる筈が無い。おまけに殺傷力が皆無のスタングレネードに防壁結界を無力化させることなど不可能だ。

 それを理解していたスヴェンは転げ回るエルロイに魔力を流し込んだ一閃を放つ。

 だが、エルロイは当然の如く立ち上がり--軽やかな動作で右腕の剣を振りガンバスターの刃を逸らす。

 更に左腕の剣が振り抜かれ、スヴェンは身体を逸らすことで刃を避け、ガンバスターを薙ぎ払う。

 再度迫るガンバスターの刃がエルロイの右腕の剣に防がれ火花が散る。

 ガンバスターが右腕の剣に抑えられ、エルロイが左腕の剣が振るわんと僅かに動き出す。

 スヴェンはエルロイが左腕の剣が降る前に、彼の左腕を掴むことで刃を防ぐ。

 

「熱烈だな、いずれお前とこうなることをわたしは心の何処かで望んでいたよ」

 

「はっ、気色悪いな……だが、アンタを巻き込んで自爆するのも悪くねぇかもな」

 

 エルロイの眉が歪む。

 これは脅しでも無ければ、エルロイの行動次第で打てる手札だ。

 

「無駄死を選ぶとは正気か?」

 

「さあ? 魔王を救出できりゃあ無駄死にならねえだろ」

 

「……判らないな。お前の目的は魔王救出、その方法も不明瞭、後を託すには彼女では実力不足だろうに」

 

 こちらが右腕の力を込め、右腕の剣を弾こうとすればエルロイは筋力の動きを察知し力の加え方に合わせて来る。

 ならばとスヴェンは左腕に力を構え、エルロイの左腕を握り締める。

 エルロイの左腕の骨が悲鳴をあげ、彼の左腕を捻じ切るように捻り回した。

 骨がねじ折れる音が響き渡り、握られていた剣が床に落ちる刹那の瞬間--ねじ折れたエルロイの左腕は瞬きするよりも速く元通りに治っていた。

 

「……骨はこうも簡単にねじ折れるものだったかな?」

 

「腕の骨はんな簡単に治るもんか?」

 

 互いに乾いた笑いが込み上がる。

 どうやら単純な筋力はこちらが上回っているが、技術面や不死生も合わせて依然向こうが圧倒的に有利だ。

 おまけにエルロイはまだ目立った魔法を使用していない。

 スヴェンは大扉が動く音を耳に、ガンバスターごとエルロイの右腕の剣を弾く。

 そのまま胴体を斬り裂く! スヴェンがガンバスターを薙ぎ払えば、突如空間に孔が開く。

 そこから飛び出す剣がエルロイの盾となり、ガンバスターの刃を防ぐ。

 

 --明確な防御行動、痛覚は感じてるようだな。

 

 魔王の間に入り込んだミアが氷柱に駆け出す中、スヴェンは袈裟斬りを繰り出す。

 だが狙いを察知したエルロイは双剣を巧みに捌き、ガンバスターが弾かれ、スヴェンの目前からエルロイが忽然と姿を消した。

 奴の狙いは魔王解放の阻止だ。そう理解していたスヴェンは--チッ、エルロイとミアが重なっちまってる。

 射撃による援護ではエルロイごとミアを貫いてしまう。それではミアが死ぬばかりで何の意味も無い。 

 スヴェンはすぐさまナイフを引き抜き、エルロイとミアの間に投擲と同時に地を蹴る。

 ナイフがエルロイの双剣に弾かれ、一瞬の隙にスヴェンはガンバスターを盾にエルロイの前に立ち塞がった。

 

 しかし、それでもなおエルロイは右腕の剣で刺突を繰り出し--刺突がガンバスターの腹部分に触れるか触れないかの直前、空間ぎ揺らぐ。

 スヴェンの背中に生温かい血の干渉が振り返る。

 背後に視線を向ければ、空間から突き出された刃がミアの腹部を貫いていた。

 

「ごふっ……す、スヴェンさん、ごめん」

 

 華奢な腹部から刃が引き抜かれ、鮮血と共にミアの身体が硬い大理石に崩れ落ちる。

 倒れたミアの手から封炎筒が床に転がり、床に出現した空間の孔が封炎筒を吸込み--エルロイの笑い声が響く。

 

「何かと思い期待してみれば、これがお前達の切札か!」

 

彼の手に握られた封炎筒が空間の孔に放り込まれ、

 

 「それにお前はミアに無謀な行動を取らせたな!」

 

 嘲笑い非難する言葉が告げられる。

 スヴェンは無感情のまま倒れ臥すミアからエルロイに視線を戻す。

 スヴェンは無言で魔力を纏わせた刃を横薙ぎに払う。

 放たれた一閃が嗤うエルロイを斬り裂き、泣き別れた胴体が大理石の床に崩れ--足りねぇ。

 殺し尽くせない。不老不死は死なない。ならばとスヴェンは再生途中のエルロイの胴体を素早く、何度もガンバスターで斬り刻み続ける。

 細切れ刻まれた肉片は再生を繰り返し鮮血だけが舞い、床と倒れ臥すミアが鮮血で汚れる。

 スヴェンが再生途中の肉片に目掛けてガンバスターを振り下ろせば--散らばっていた肉片の姿は無く、対象を失った刃が大理石を砕くばかり。 

 スヴェンは視線を動かし、優雅に双剣を構えるエルロイに駆け出した。

 

「まさかわたしを憎んでるのか? お前の失敗でミアは()()()

 

「はっ! 俺がんな感情で動く人間に見えるか?」

 

「……お前は獣だよ。仲間の死に対して何ら感情も浮かべない獣。いや、モンスターだ」

 

「死なねえ化け物に言われたくはねぇなっ!」

 

 縮地でエルロイの背後に周り込んだスヴェンは、後方に飛び退く。 

 振り向き様に軽く振るわれた横に二振りの斬撃が、衝撃波を飛ばす。

 スヴェンは迫る衝撃波を右に大きく駆け抜けることで避け、進行方向に浮かぶ魔法陣に舌打ちを鳴らす。

 魔法陣から放たれた鎖をガンバスターで弾き、足元に出現する空間の孔を跳躍することで避けたスヴェンは、警戒心を浮かべるエルロイに銃口を向ける。

 魔力を纏わせたガンバスターの引き金を引き、ズドォォーーン!! ズドォォーーン!! 射撃音と共に.600LRマグナム弾がエルロイに飛来する……。

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