スヴェンが撃った二発の.600LRマグナム弾がエルロイの上半身と下半身を撃ち砕き、肉片と血飛沫が大理石の床にぶち撒けられる。
--残り装填弾数は4発。無駄弾は撃ちたくねぇが、奴の空間魔法をどう攻略するかだ。
床に着地したスヴェンは再生を開始するエルロイの肉片の背後に回り込み、銃口を構えた。
肉体が元通りに再生する前にエルロイの頭部に銃口を押し付け、
「脳天に零距離だ……死なねえってのも難儀だな」
引き金を引き、銃弾がエルロイの頭部を撃ち砕く。
床に脳の破片が飛び散るも、やはり脳も心臓を潰した程度エルロイに死を与えることは叶わない。
それどころか、再生途中で残り三発の銃弾を浴びせてもエルロイの再生速度に変化は訪れない。
--殺し続ければ再生速度に影響が出ると踏んでいたが……。
少なくとも追跡者は五回殺した辺りで再生に二分も時間を要していたが、邪神に直接呪われたエルロイの再生速度は一瞬。それこそコンマ単位による再生だ。
スヴェンは弾切れを起こしたガンバスターに敢えて銃弾を装填せず、ブラフの意味も込めて再びガンバスターの銃口を構えれば、肉片から元の状態に復活したエルロイが射線上から離れた。
「死なねぇアンタに鉛弾は意味がねぇだろ」
「……はじめてだよ、頭が頭蓋骨と脳味噌ごと吹き飛ぶ刹那の激痛を受けるなんて。それだけじゃい、ソレ一発でわたしの肉体は再起不能までに損壊する--ソレは人を一撃で葬り去る凶器だ」
「……アンタが何度でも復活する限り何度も殺す。そこに転がってる奴の為にも」
「ふむ? お前は彼女の死を気に留めていないと思っていたが、感情に出さないだけか」
ミアの死はあの瞬間--いや、今回の作戦を彼女と共に立てた時から受け入れていた。
だからこそスヴェンの中にミアに対する死への怒りは無い。
ただ有るのは障害に対する底無しの殺意だけ。
スヴェンはガンバスターに魔力を纏わせ、内に留まる殺意を解放した。
「その状態、観察させてもらったが一体どういう仕組みなのか」
エルロイの問い掛けにスヴェンは肩を竦めた。敵に手の内を馬鹿正直に話す奴など居ない。
仮に悠長に語る者が居るとすれば、それは余程の自信家か無謀な馬鹿だ。
そもそも殺意の解放は単に相手の認識を少々妨害する程度の小手先の技に過ぎず、エルロイが想像しているような技術では無い。
スヴェンは床を踏み抜き、縮地と共にエルロイの背後から横払いを放つ。
不意打ち気味に駆り出された一閃は、空間の孔から出現したエルロイの剣によって防がれる。
それなら速度を速め攻め続けるのみ! スヴェンは音を置き去りにエルロイの周囲を高速で動き、殺意と残像と共に斬撃を繰り出す。
だが、一撃一撃が的確に空間の孔から発生する斬撃に防がれ残像が斬り裂かれ、跳躍と同時に振り下ろしたガンバスターがエルロイの双剣に防がれた。
「チッ! 厄介な空間の孔だな!」
空間の孔が生じる際にエルロイが詠唱した素振りは無い。だが、魔法の発動の共通点--魔力操作の痕跡だけは視える
。
以前ミアに詠唱破棄について質問したことが有ったが、彼女は詠唱破棄した魔法の威力は極端に下がると語っていた。
空間に孔を空けるという事は、世界が構成する空間に干渉する必要が有る。
それを詠唱破棄で難なく熟す辺り、エルロイはその魔法を極限まで極めているのだろう。
刹那の思考と共にエルロイの刃を弾いたスヴェンは、腰を僅かに落とし--左右に高速で飛べばエルロイの眼が確かにこちらを追う。
エルロイの眼に追い付かれる前に更に加速を加え、四方に高速移動を繰り出し同時に衝撃波を放つ。
「……残念、お前が非常識な速度で技を放とうともわたしはそれよりも速く動ける」
そんな言葉が耳に届く頃にはエルロイの姿が目前から消え、衝撃波の衝突波だけがその場を襲う。
--だろうな。アイツが空間魔法を使えるなら物理的な距離なんざ意味がねぇ。
破壊音と耳に届く鋼鉄が風を斬る音に、スヴェンが背後に振り向き後方に跳ぶ。
確かに振り斬られたエルロイの双剣が視界に映るが、肝心の刃先は空間の孔の中に--回避は無理だ。そう頭で理解した時にはスヴェンの上半身に交差した斬撃が走る。
鋭い斬撃によって上半身が斬られ血飛沫が舞う。
これはまだ許容範囲の傷だ。四肢が無事なら、生きてる限り戦闘継続は可能だ。
夥しい血の量が床に流れてもなおスヴェンはガンバスターを構え直す。
「お前も大概異常だよ。そんなに大きく斬り裂かれてもまだ殺意は愚か闘志が消えないとはな--普通は死んでも可笑しくはないはず」
興味深そうに眼を細めるエルロイから自身の傷に視線を落とした。
出血こそしているが、空間の孔による距離の短縮なら自身の上半身など両断されても可笑しくはない。
刃、空間の孔同士が結ぶ点に限界距離が有るのか? そもそもなぜエルロイは.600LRマグナム弾を空間の孔で防がなかったのか。
--空間操作には高い空間認識能力、座標軸が必要だったな。
デウス・ウェポンで開発された空間跳躍銃がその最たる例だ。
銃を撃つ者に求められるのは高い空間認識能力、座標軸、弾速の速度及び対象との距離計算処理能力も求められる。
対象との距離が離れれば離れるほど、運ぶ物体の速度が速ければ速いほど計算難度も上がる。
もしもエルロイの魔法にそれと似た制約が有るなら試す価値は有る。
だが、スヴェンが行動に出る前にその前に四方八方に空間の孔が開く。
同時に突き出される刃が迫り来る--魔力を纏わせたガンバスターを振り払えば、突き出された八本の刃が砕ける。
スヴェンは息を吐き、全身に魔力を巡らせ地を蹴った。
先程よりもより速い速度で。
エルロイの背後に周り込む刹那の一瞬、解放した殺意をその場に置き去りに--纏った殺意を心の奥底に封じ、空虚な心でエルロイの左横からガンバスターを薙ぎ払う。
空間の孔がエルロイの背後に現れ、孔から刃が出現するが--そこに既にスヴェンは居ない。居るのはその場に置き去りにされた殺意の残像だ。
エルロイの防御行動が無意味に終わった結果、ガンバスターの刃がエルロイの左脇腹を斬り裂き鮮血が舞う。
そしてスヴェンは、自身とエルロイの立ち位置に無表情で弾切れ状態の銃口を構える。
だが、突如スヴェンの視界が鮮血に染まった。遅れてやってくる熱と冷気。身を焼き焦がす炎と身を震わせる冷気、そして激痛、遠くに聴こえる心音。
朦朧とする意識の中、スヴェンは視線を真っ直ぐエルロイに向ければ、残念そうに何処か哀しみを帯びた眼差しで、
「わたしの空間魔法は音さえも消せる……だからお前はわたしの詠唱に気付くことは無かった」
理解した。エルロイが魔法を放ったことを。
自身の腹部に視線を落とせば、炎と氷の刃が腹部を貫いていた。
二種の魔法を同時に喰らい、裂傷と体内に広がる炎の熱と氷の冷気が内側から襲う。
急速に生命力と力が身体から抜け落ち、膝から力が抜ける。
倒れてなるものか! スヴェンはガンバスターを支えに立ち上がった。
--まだだ! まだ、意識を喪うには10秒早ぇ!
「お前は……死も恐れないんだな。しかし、その傷では助かるまい……彼女さえ無事なら治療も間に合ったのだろうがな」
エルロイの声と氷柱に歩き出す足音と共に、スヴェンの意識は暗い闇の底に堕ちる。
エルロイに対して最初から勝ち目は無い。なら隙を付ける保険を用意しておくものだ。
ミアがスヴェンの胸に刻んだ条件付き発動す治療魔法--それが巨城都市に着いた時に彼女が用意した保険。
条件は
発動条件を満たした治療魔法陣がスヴェンの胸に浮かび、癒しの光りが生命力を繋ぎ、致命傷を瞬く間に癒す。
貫かれた傷と体内の火傷、凍傷は元通りに治り、負った傷口も綺麗に塞がる。そして一度止まったスヴェンの心臓が殺意を纏いながら鼓動を取り戻した。
意識を取り戻したスヴェンは背を向けるエルロイを視界に、右ポケットから最後の保険を取り出す。
瑠璃の浄炎を封じ込めた瑠璃色の銃弾--.600LRマグナム弾をシリンダーに装填し、ガチャン! シリンダーを嵌め込んだ音が鳴り響く。
音の正体を探る為に振り向いたエルロイは驚愕に打ち震え、
「バカな、お前は確かに致命傷を負ったはず……っ!」
なぜ生きているのか理解できないと言いたげに狼狽えるエルロイにスヴェンは無表情で引き金を引いた。
ズドォォーーン!! 一発の銃声が魔王の間に響き渡り、瑠璃の浄炎を纏った銃弾が飛来する。
射線上に居たエルロイはその身に刻んだ痛みと肉体的な死に咄嗟に身体を横転させ、瑠璃の浄炎を纏った銃弾が魔王アルディアを封じ込める氷柱を撃ち抜いた。
瑠璃の浄炎が氷柱の発生源たる凍結封印を瑠璃の炎で燃やし、氷柱が音を奏でながら砕け散る。
氷柱に封じ込められていた魔王アルディアが解放される中、スヴェンが駆け付けようと踏み込むも視界が揺れる。--チッ! 血を流し過ぎたか。
魔王アルディアが床に落ちる--そんな小柄で華奢な身体を長い青髪の持主が受け止め、
「よっと! スヴェンさん!」
今まで死んだ振りをしていたミアがスヴェンの名を叫ぶ。
スヴェンは足に力を込め駆け出した。
そして呆然と結果を目にしていたエルロイにガンバスターを振り抜き、
「アンタはしばらく! 肉片にでもなってろっ!」
魔力と殺意を纏わせた渾身の一撃を叩き込む。
エルロイの肉体を縦に斬り裂き、纏った殺意が斬撃と激痛、肉体的な死と共にエルロイの心に侵蝕する。
それでもエルロイに刻まれた呪いが彼を休めることなどせず、本人の意志など無視して肉体の再生を開始した。
床に崩れたエルロイはこちらに視線を向け、スヴェンは彼の視線を無視してミアの下に歩き出す。
「--、--」
だが、突如エルロイの口から語られた事実にスヴェンは足を止めた……。