傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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16-8.解放と脱出

 スヴェンはエルロイが語った事実と情報を頭に叩き込み、起き上がる気配すら見せない彼に振り返らず、ミアの下に歩き出す。

 

「彼は何か言ってたみたいだけど……」

 

「その件は後でゆっくり話すさ。それよりも魔王は大丈夫なのか?」

 

 救出対象が既に死亡していたとなれば全てが無意味だ。アルディアの安否に視線を向ければ、すぐにこちらの心配は杞憂だったと判る。

 彼女に支えられたアルディアの眉がぴくりと動き、唸り声が小さな口から漏れたからだ。

 どうやら三年も凍結封印に封じられた悪影響は今のところ無いらしい。

 スヴェンは救出対象の生存にひと息吐き、魔王の間の外から一人の気配が遠退く--アシュナも動き出したか、あとは彼女を連れてエルリア城に帰還するだけか。

 此処に小型転移クリスタルを設置できれば楽なことは無いが、謁見に使う施設に置く訳にはいかない。

 スヴェンは本来の予定通りに事を運ぶためにミアと共に歩き出すと、

 

「……ゔ、うぅ……」

 

 アルディアの呻き声に二人は足を止め、エルロイの視線がこちらに向けられる。

 スヴェンは彼が不意打ちしなか、最大限の警戒を浮かべつつアルディアに耳を傾けた。

 

「……さ、寒い、お、おなか、お腹痛い」

 

 譫言のように呟かれた言葉にスヴェンとミアは互いに顔を見合わせると、大扉が開かれ信徒の大軍が雪崩れ込んだ。

 雪崩れ込んだ信徒の大軍は状況に眼を見開き、アルディアが解放されたことと床に倒れたままのエルロイを見渡し、

 

「……ヘルギム司祭の命により魔王殺害、エルロイ司祭の拘束及び侵入者の排除を執行する!」

 

 冷徹な声が魔王の間に響き渡る。

 

 --なるほど、穏健派と過激派に別れてるってのは本当らしいな。

 

 スヴェンは視線をエルロイに向ければ、床に倒れていた筈のエルロイの姿が既に無くなっていた。

 

「……離脱しやがったな」

 

「うそぉ、全部私達に丸投げ? というか邪神教団の内部抗争に巻き込まれたく無いんですけどぉ」

 

 スヴェンはミアに同意しながら彼女と同時に駆け出す。

 信徒の大軍が魔法陣を展開する中、スヴェンはサイドポーチから取り出したスタングレネードに魔力を流し込み、大軍の中心に放り込む。

 

「な、なんだこれ!?」

 

「異界人の道具……異界人が得意げに語っていた手榴弾とかいうヤツじゃ!?」

 

 慌てふためく信徒の大軍を他所にスタングレネードは眩い閃光を放ち、大軍から光りを奪う。

 混乱と集中力の乱れによって魔法陣が消失し、スヴェンとアルディアを抱えたミアが同時に大軍の頭上を飛び越え、地下エントラスホールに躍り出る。

 

「おっと、土産だ」

 

 スヴェンは去り際に魔力を流し込んだハンドグレネードを大軍に放り投げた。

 小階段を駆け降り、背後から爆発音と瓦礫が崩れる音と信徒の悲鳴が響き渡る。

 一発のハンドグレネードで大軍を壊滅できれば簡単な話だが、背後から告げる瓦礫を退かす物音がそれは有り得ないと告げていた。

 たった二人で魔王城内に残存する邪神教団を相手になどできない。特に救出対象を連れて居る状態では尚のこと。

 

「ミア、このまま安全地帯に向かい脱出するぞ」

 

「分かった!」

 

 二人は気を失っているアルディアを連れ地下エントランスホールを駆け抜けた。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 城内の至るところで戦闘音が響き渡る。

 中央塔一階に到着したその先では、既に魔族と信徒が交戦状態に入っていた。

 その指揮を執るのはアウリオンとリンの二人--此処までは潜伏組みの作戦通り。

 

「魔王様は一時期安全な場所に匿う! 総員彼らを援護せよ!」

 

「「「「はっ!」」」

 

 そしてアウリオンはミアが抱えるアルディアに優しげな眼差しを向け、

 

「魔王様、一時期の別れですが必ず向かいに参ります!」

 

 魔王解放に動揺している信徒の一陣に一閃を放つ。

 魔族兵が混乱する信徒に交戦を仕掛け、混乱に陥る信徒が次々と無力化されていく。

 そんな信徒の姿を見た邪神教団の一部は撤退を始め、追跡者とアンノウンが魔族兵を襲う。

 だが、相手が悪過ぎた。魔族兵が放つ魔法の前にアンノウンは息を吐くかのように灰燼に呑まれ、追跡者がアウリオンの一閃によって両断される。

 それでも大量に放たれいてたのか、アンノウンが続々と一階廊下に雪崩れ込む。

 そして背後の階段から足止めした信徒の大軍が迫る。

 このままでは魔族兵は挟撃される。救出対象を傷付ける訳にもいかない状態で取れる突破方法は限られているが、スヴェンは側の柱に笑みを浮かべた。

 

「あの、スヴェンさん? 両手が塞がってる私が言うのも何だけどさ……何するき!?」

 

「一点突破を図るだけだ」

 

 スヴェンは柱に指を食い込ませ、力任せに柱を折った。

 

「む……なるほど、確かにそれは効率的か。総員道を開けよ!」

 

 状況を察したアウリオンの指示一つで魔族兵が一斉に道を開け、スヴェンは廊下に掴んだ柱を滑られせるように投げ込む。

 柱は豪快に廊下を突き進みながらアンノウンを蹴散らし、最奥の通路から姿を現す信徒の集団をついでに蹴散らす。

 出来上がった進路をスヴェンとミアが駆け出し、背後から迫る信徒の大軍がアウリオン率いる魔族兵に阻まれた。

 そして階段を駆け上がり、二人はテラスへ駆け込む。

 駆け込んだテラスから下層の様子が見える。魔王の間突入前から既に始まっていた戦闘は既に激化し、下層の至るところで火の手が上がる。

 

「……戦場だな」

 

 巨城都市内部に入り込んだ邪神教団の一掃及び連中に加担していた内通者の一斉摘発。それが魔王救出後の行動だが、その件はアウリオン達が果たすべき仕事だ。

 撤退したエルロイの動向と次の目的が気になるが、それも含めて一度レーナに報告することも有る。

 

「スヴェンさん、もしかして今すぐにでも戦場に参戦したいの?」

 

「俺が請た依頼は魔王救出だ。邪神教団の殲滅はサービス外だな」

 

 戦場に参加し邪神教団を殲滅する体力と気力は有るが、優先すべきはアウリオンから託されたアルディアの安全だ。

 スヴェンはサイドポーチから小型転移クリスタルを取り出し、背後に視線を向ける。

 肝心のアシュナがまだ戻らない。何かトラブルが起きたのか?

 城内の戦闘がより激化しつつ在る状況で彼女を待つためにこの場に留まるのは危険だ。

 救出対象の安全が最優先--ミアとアルディアだけでも先に転移させる。そんな判断を浮かべると背後から気配が忍び寄り、

 

「ん、遅くなった」

 

 背後を振り向けば傷だらけのアシュナが気怠るそうに佇んでいた。

 何が遭ったか話を聴きたいが、既にこちらに複数の足音が向かっている。

 スヴェンは悠長に話してる時間が無いと判断し、小型転移クリスタルを設置し魔力を注ぎ込む。

 --そして転移の光が四人を包み込み、眼を開けばエルリア城地下室の光景が広がる。

 漸く終わりを告げる魔王救出の依頼にスヴェンはミア達と共に歩き出した。

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