傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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16-10.依頼達成、旅の終わり

 エルリア城に帰還を果たしたスヴェン達は傷付いた身体を癒し身形を調え、騎士に連れられる形でレーナが待つ謁見の間に通された。

 大扉が騎士の手で開かれ、最奥の玉座に座るレーナとオルゼア王がゆっくり立ち上がる。

 

「姫様、陛下! 此度の功労者を連れて参りました!」

 

「ありがとう、スレイ」

 

「はっ! 自分はこれで失礼させて頂きます!」

 

 スレイは退出間際にお辞儀をしてから謁見の間から去った。

 スヴェンは真っ直ぐとレーナとオルゼア王に視線を向け、相変わらず柱の影や天井に潜む気配に何食わぬ表情で玉座の近くまで進んだ。

 するとレーナは眼が眩むほどの眩しい笑みを浮かべ、

 

「スヴェン、ミア、アシュナ! アルディアを無事に救出してくれてありがとう!」

 

 感涙した。この瞬間こそがレーナが三年間待ち望んでいた瞬間だ。

 彼女が嬉し泣きするのも無理はない。そしてミアと普段無表情のアシュナも誇らしげな笑みを浮かべる。

 ただスヴェンはいつもと変わらない表情で二人に告げるべき報告を述べた。

 

「魔王アルディアの救出は成功。現在彼女は医務室で休んでるが……まあ、なんつうか凍結封印の影響が出たらしい」

 

 流石に凍結封印の影響でアルディアが腹を壊したなどと彼女の名誉のために敢えて伏せ、次に邪神教団の内部抗争に付いて告げる。

 

「魔王救出の過程で邪神教団が穏健派と過激派に別れ内部抗争中だという事が判明した。ま、最初は半信半疑だったが、エルロイ司祭が過激派に狙われて漸く確信したってところだ」

 

「ん、魔王解放の狼煙を挙げたらヘルギムと名乗る司祭に襲撃されたよ」

 

 なぜアシュナがボロボロの状態で現れたのか、彼女は彼女でヘルギム司祭と交戦した結果だった。

 それを知ったのはエルリア城に戻ってすぐのこと。だからまだ巨城都市エルデオンにヘルギム司祭が残っている可能性が高い。

 不審な点が有るとすれば魔族も邪神教団もヘルギム司祭の存在を言及しなかったことか。

 怪しいのは最下層の潜伏組みの誰かだが、内部の清掃もアウリオン達の仕事だ。

 

「そう、ヘルギム司祭がまだ巨城都市に居るのね。それでエルロイ司祭はどうなったのかしら?」

 

「アイツは眼を離した隙に離脱したさ。ただアイツは気になることも言い残していたが……」

 

「気になること? そう言えばヴェイグの正体はエルロイ司祭だったのよね」

 

「知ってたのか、なら話が速い。エルロイは結果的に穏健派に所属する司祭でどうにも封印の鍵が過激派に渡らないように行動してたらしい」

 

 奴は封印の鍵が渡れば司祭の肉体を依代に邪神眷属が復活し、邪神の封印が一つ解放されると語っていた。

 

「でもフェルシオンで暗躍していたのはエルロイとアイラ司祭だったわ。その事を踏まえると本当に信用できるのかしら?」

 

 フェルシオンで齎した被害を考えればエルロイの行動は、レーナ達にとっては到底許されるものでは無い。

 アルセム商会の処遇も今後の議題で決まるだろう。

 

「奴が齎した被害が被害だ、信用する必要もねぇさ--ただ、過激派の戦力を削るなら内部に紛れ策を巡らせることも可能だろうよ」

 

「そう。彼の真意はいずれ確かめるとして……スヴェン、貴方は英雄になる気はないかしら?」

 

 唐突に告げられた言葉にスヴェンは眉を歪め、レーナを真っ直ぐと見詰めた。

 彼女の瞳には打算は感じられず、本心からそうなることを望んでいる眼だった。

 それでもスヴェンは傭兵として英雄になる事を拒む。

 

「冗談は辞めてくれ。俺は英雄になんざなる気も無い、魔王救出の功労者も異界人って情報だけで充分だろ」

 

 報酬も依頼書に記された金額だけで充分だ。

 

「はぁ〜それじゃあ当初の予定通り、貴方には契約通りの報酬額だけで良いのね? 貴方が望むならこのまま城に滞在しても良いのだけど」

 

「いや、金額が金額だ。そいつを元手に家でも買って傭兵稼業を始めようと思っててな」

 

 自身の今後の考えを告げるとオルゼア王が眼を細め、

 

「具体的な業務内容を聴いても?」

 

 戦争を促すようなら今にでも刃を振り抜く。そう言わんばかりに眼力に込められた殺意に冷や汗が浮かぶ。

 穏やかな口調と表情でいながら死を連想させる静かな殺意。

 だが、彼の心配は杞憂だ。多少のいざこざは有るが平和な世界で戦争は求められていない。傭兵としてその辺りを宣伝したとしても需要が無い。

 むしろすぐに危険因子として始末される。

 

「主に守護結界間を移動する旅行者、行商人を対象とした護衛業務だな。護衛の安全を脅かすあらゆる脅威からの守護だ」

 

「ふむ、護衛業務か。ならば後で必要な書類を用意させよう」

 

 オルゼア王の事実上の認可にスヴェンは呆けた。

 彼は異界人を信用していない。だから異界人の自身が商売を始めるとなればあらゆる懸念を抱き、許可はそう簡単に降りないと踏んでいた。

 

「良いのか? 俺は異界人だ、姫さんやオルゼア王の不利益に繋がるかもしれないんだぞ」

 

「何を言っている。お主はレーナの願いを聴き入れ、魔王救出を成し遂げたのだ。そんなお主をなぜ他の異界人と同列に扱わなければならない?」

 

 どうやら魔王救出をやり遂げたことで少なからずオルゼア王から信頼を得たようだ。

 それでも自身の失敗で得た信頼を全て不意にすることさえ有る。

 スヴェンはエルリアの王族から得た信頼を失わないために、自らに言い聞かせ戒めとして内に深く刻み込んだ。

 

「スヴェンさん……その業務内容には要人の救出、村や町の救援は入ってるの?」

 

 ミアの質問にスヴェンは振り向く。

 旅を通して随分とミアには世話になった。だからこそスヴェンは彼女に答える。

 

「俺個人が達成可能な範囲なら請けるが、アンタの場合は依頼料を五割引きで請けてもいい」

 

「そっか、それじゃあ私なりに結論が出たらお願いしようかな」

 

 その前にミルディル森林国の一件で何かしら動きがありそうだが、最早自身が拘ることも少なそうだ。

 既に魔王アルディアは解放され、国々を縛っていた枷は外された。そうなれば各国は自力で邪神教団の過激派を潰すだろう。

 スヴェンが暫くは退屈な日々が続きそうな予感を胸に抱くと、

 

「それじゃあスヴェン、家を購入するまでの間は城に滞在で良いわね?」

 

 微笑むレーナにスヴェンは黙り込んだ。

 別に城下町の安宿で構わないのだが、魔王アルディアの件を含めた詳細な過程をまだ話し終えてはいない。

 それに自身とミアは死んだことになっており、他の異界人がどうなるのかも確認しておく必要が有る。

 

「あぁ、購入までの間はお言葉に甘えるよ。それに異界人の件や俺とミアの死亡偽装の件も有るからな」

 

「えぇ、そちらの件は明日にでもゆっくり話しましょう。今はゆっくり休むべきよ、アシュナも限界そうだしね」

 

 言われて気付いた。既にアシュナが立ったまま眠そうに瞼を擦っていることに。

 いや、無理も無い。フェルム山脈で一泊し、そのあとまともな休憩無しにほぼ働き詰めだったのだから。

 

「そうだな……まだ日も高いが今日は早めに休ませてもらうか」

 

「是非ともそうしてちょうだい。あっ、貴方の部屋はそのままに残して在るわ」

 

 以前使った部屋がそのままの状態で残っているなら有り難く使わせて貰うだけだ。

 スヴェンは立ち去る前に首にぶら下げていたネックレス--封印の鍵をオルゼア王に手渡した。

 

「うむ、確かに鍵を受け取った。後で然るべき方法で封印させよう」

 

 封印の鍵は一個人で所有し続けるのは危険な代物過ぎた。持っているだけで何か影響が起こる訳では無いが、万が一邪神教団に封印の鍵が渡った場合の危険性を慎重に考えたからこその判断だ。

 鍵を譲渡したスヴェンは眠そうなアシュナを連れ、ミアと共にレーナとオルゼア王に一礼してから謁見の間を退出した。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 廊下に出たスヴェンとミアはアシュナと別れ、

 

「スヴェンさん、少し時間良いかな?」

 

「あ? 別に構わねえが、何処で話すか」

 

 恐らく旅の話だろう。それなら廊下を歩いてる異界人や騎士の耳に入れさせる訳にはいかない。

 

「それじゃあスヴェンさんの部屋で話そっか」

 

 別に断る理由も無い。スヴェンはミアに促されるまま自室に足を運ぶ。

 そして自身の部屋に入り、旅立つ前と何一つ変わらない内装に不思議と安堵を感じた。

 スヴェンは自室の壁に鞘ごとガンバスターを立て掛け、ベットに腰を下ろせばミアが椅子に座る。

 

「多分、私は近い内に治療部隊に戻ると思うんだ」

 

「そりゃあ今回の一件が終われば元の部隊に戻るのは当然だな」

 

「うん、城内には私にしか治療できない患者も多く運ばれるからね」

 

 治療師として優秀なミアが戻って来たならそれは自然の成り行きだ。

 ただ、明日から。正確には自身が傭兵として活動する頃にはミアの治療は気軽に当てにできないだろう。

 

「アンタの治療魔法は傭兵の技術なんざより価値が高え。そんなアンタを二ヶ月も拘束したと考えれば……なんつうか怪我人には悪い事をしたな」

 

「ふふっ、二ヶ月も美少女の私と旅が出来たんだから思い出にもなったよね?」

 

 相変わらず彼女の言う美少女は見当たらない。ただ目の前に居るのはミアという優秀な治療師だけだ。

 

「アンタの薦める料理には外れが無かったし、料理も悪く無かった」

 

「……あれ? 私との旅の思い出って食事だけ? ま、まぁ料理はもっと頑張るよ」

 

「……しかしまぁ、アンタの治療魔法を受けられないとなりゃあ気を付けねえとな」

 

「スヴェンさんになら無償で治療してするよ」

 

 それこそ何の冗談だろうか? ミアの治療魔法は部位欠損まで後遺症も無く治療してしまえる。

 右眼を一時的に失った時さえ、機能も元通りだ。

 

「アンタの治療魔法に高額金を払っても良いんだがなぁ」

 

 ため息混じりに吐けばミアは微笑んだ。

 

「それはほら、気心知れた仲だからだよ」

 

 そこまで言われてしまえば断る理由は何処にも無い。スヴェンが一人納得を浮かべると、ミアは気になることが有るのか問うた。

 

「そう言えばスヴェンさんは傭兵稼業を始めるけど、鍛冶屋とも提携するの?」

 

「ん? いや、エリシェを専属契約を交わそうと……なんだ?」

 

 ミアは眼を見開き驚愕していた。彼女の驚愕は恐らく三年後に元の世界に帰ることを知っているからこそだろう。

 

「エリシェと専属契約……私と相棒になることは拒むのにぃ」

 

 --そっちかよ!

 

 ミアを観察すれば、エリシェに対する嫉妬の念などは無い。むしろ友人として鍛治職人の彼女を応援している様子さえ窺えるが、ただ有るのはスヴェンに対する不満のみ。

 

「専属契約と相棒とじゃあ訳が違う」

 

「……でも今回の作戦で連携できたと想うけど」

 

 確かにミアの用意した保険が魔王アルディア救出に繋がった。それこそ相棒として申し分ない働きをしたのも事実だ。

 それでもミアに、彼女の綺麗な手と小さな肩に殺しの重みを共有させるなどできない。

 仮に相棒という関係になったとして、自身は三年後にはデウス・ウェポンに帰還する。殺しを共有し手を汚したミアを置いて--それは相棒としてあまりにも不義理だ。

 

「違うな。エリシェと契約を結ぶことにも随分と悩んだが、俺は三年後には帰るんだ。契約に関して言えば時期を定めれば済むが相棒は違うだろ?」

 

 そこまで語るとミアは察した様子で顔を伏せ、

 

「ごめん」

 

 たった一言だけ、消えてしまいそうな声で呟いた。

 彼女と相棒の関係になることは無理だ。だが、三年の期間限定ならこの提案もできる。

 

「アンタとは相棒ってよりもビジネスパートナーの方がしっくり来るな」

 

「ビジネスパートナー? それって相棒とどう違うのよ」

 

「かなり違うだろ。俺は公的手続きを通してアンタに治療を要請する。アンタが要請を拒むのも自由だ」

 

「……あっ、傭兵稼業をはじめるということは、スヴェンさんはモンスターや野盗と戦うだもんね。それに邪神教団との戦闘も考えればいつ傷を負ってもおかしくない。うん、それなら私に要請して、その時は治療するから」

 

「まあ、そこは俺に限らず負傷した護衛対象もだな」

 

「任せてよ! 私なら一息で何人も同時に治療できるから!」

 

 やはり彼女に治療を要請する際はそれ相応の金を用意しておくべきだ。

 今回の依頼で得た報酬は三年も遊んで暮らせる程の金額だが、エリシェとの専属契約やマイホームの購入を踏まえればやはり金は幾ら有っても良い。

 何よりも残りの期間を異世界で暮らすなら、食事は贅沢までとは言わないが美味いものを食べたい。

 

「あ、スヴェンさん。依頼達成おめでとう、それとお疲れさま」

 

「あぁ、アンタもな。そうだな、依頼も達成したんだ、あとでアシュナを誘って飯でも食いに行くか」

 

 依頼達成の労いを込めて提案すると、ミアは嬉しそうに笑い承諾し--夕暮れに染まるエルリア城下町で食事を摂ることに。

 城下町の食堂、食事の傍らスヴェンは今後に付いて少しばかり思案した。

 今後の邪神教団の動向や南部の国境線に進軍したミルディル森林国の情勢。後者に関しては邪神教団が拘っているため、人質を失った彼らが討伐されるのも時間の問題だろう。

 それでもスヴェンはパスタにフォークを絡めながらある種の予感を感じていた。ことはそう上手く行かず、時に予想外の事態に発展するだろうと。

 たが、今は依頼を達成したばかり。レーナやミアに依頼されるまでの間は、自身の足場を固める時だ。

 

 その後、日改めたスヴェンはレーナの自室で事の詳細、邪神教団の件を含めた情報を共有し--死亡偽装や他異界人の処遇に付いて聴くのだった。

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