傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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第十七章 変わる生活
17-1.家を求めて


 スヴェンはエルリア城の自室、ベッドの上で考え事に耽っていた。

 邪神が永い封印の果て魂に異常を来し本来望まない封印解放を望むようになり、現在の邪神教団の精神が狂気に汚染され復活を熱望するようになった。

 そして狂気の汚染を逃れたエルロイを始めとした信徒が中心に本来の邪神の願いを叶えるために穏健派の組織を開始--そこまでは良い。問題は過程は如何あれ、エルロイの目論見通りに巨城都市エルデオンに集結した過激派の討伐、封印の鍵入手の阻止まで彼の掌の上だったことだ。

 

「……野郎の行動が無ければ異界人がこの世界に召喚される必要も無かったか」

 

 アルセム商会のヴェイグ会長が邪神教団のエルロイ司祭だった件は、レーナとオルゼア王を始めとした重鎮達に広く知れ渡った。

 会長が邪神教団の司祭に入れ替わっていた点から、商会が知らずの内に悪事に加担してる可能を考慮し、エルリア魔法騎士団はエルロイの件を伏せながらアルセム商会の調査を開始。

 調査の結果、悪事の証拠となる帳簿がヴェイグの執務室から発見されたが--邪神教団の穏健派と巨城都市エルデオンに流す物資は全てヴェイグが直接交渉、仕入れを行い売買記録に記されたサインも全て彼だけのものだった。

 エルロイがアルセム商会のヴェイグに成り変わった事実を考慮したオルゼア王は内密にアルセム商会を不問に処し、ヴェイグに関しても罰を与えないと結論を出した。

 

 --アルセム商会を潰せば国外問わず輸入、輸出に20%の損害が出るとなりゃあ下手に潰せねえわな。

 

 それだけアルセム商会は巨大な商会だ。そもそもヴェイグが会長職に就任した年から事業実績は右肩上がり続きだったと云う。

 

「切り捨てるだけならそこまでやる必要は無いか」

 

 エルロイも存外真面目な人間だったということだ。

 スヴェンはベッドから身体を起こし、魔法時計に視線を向ける。

 時刻は午前九時、エルリア城下町の不動産屋が開く頃の時間帯だ。

 スヴェンは最近購入したエルリア繊維と呼ばれる魔法の糸を使用した黒いノースリーブシャツに袖を通す。

 

 ー-物理防御面は防弾シャツに劣るが、魔法に対する防御性能に優れているか。

 

 今まで愛用していた防弾シャツはエルロイの斬撃によって補修不可能なまでに損傷、いい機会だと購入したのが黒いノースリーブシャツだった。

 着替えを終えたスヴェンは一瞬だけカレンダーに視線を移してはため息を吐く。

 

 魔王救出から既に五日--8月1日だ。このままエルリア城で世話になり続けるってのは姫さんに悪い。

 特に自身を除いた異界人の殆どが緊急招集令に従いエルリア城下町の北区に建造された異界居住区で保護の名目で生活を開始している。

 むろん中には監禁だと揶揄し要請を拒む者も居るが、魔王救出を果たした英雄を護るための安全政策だとレーナに語られた異界人は半ば納得する形で受け入れた。

 ミアは単純だと苦笑していたが魔王救出を終えた以上、自身を含めた異界人ははっきり言って用済みだ。

 

 --それでもしっかり面倒を見る辺り、姫さんらしいと言えばらしいか。

 

 それでも異界人は事件を起こし過ぎた。だから彼等は異界人が起こした事件を清算しなければならない。

 

 スヴェンは思考半分に壁に立て掛けたガンバスターを背中に、自室を後にした。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 アルディアの救出が公表されてからエルリア城下町は連日のようにちょっとした祭り騒ぎだ。

 道路は彩な魔法の柱が架けられ、魔法で模られた魔法動物と本物の小動物が魔法の柱の上で踊り歩く。

 

「……不思議な光景だな」

 

 テルカ・アトラスの魔法技術には慣れたつもりだったが、この光景は慣れそうにもない。

 見物人は喝采の拍手を奏で、魔法動物と小動物の後列にアトラス教会の聖歌隊が魔力を乗せた美声と楽器の演奏を披露し、何かを訴えかける。

 周囲を見渡せば聖歌隊の演奏に感動する者達ばかりで、なぜ感涙しているのかが理解できない。

 

 --ミアが居れば解説の一つも聞けたか?

 

 ミアは現在、巨城都市エルデオンで行われた邪神教団掃討作戦で負傷しエルリア城に転移させられた彼等の治療で多忙の日々を送っている。

 そもそも負傷した魔族兵の傷の原因は邪神教団の眼を欺くためとは言え、フィルシス騎士団長によって付けられた傷が原因らしい。

 スヴェンは出会いたく無い人物筆頭の彼女を思考から追い出し、周囲に耳を傾けつつ目的の場所まで歩き出す。

 

『北区の異界居住区の話を聞いたか?』

 

『えぇ、誰が真の英雄か揉めてるそうね』

 

『そっ。それで毎回アンドウエリカ(安藤恵梨香)って子が仲裁に入ってるらしい。そんな事で揉めるよりもレーナ姫の為になることやれってさ』

 

『その子の噂は良く耳にするわね。異界人って碌な事件しか起こさないけど、その子がボランティアで清算して回ってるとか』

 

『結構各地を移動してたみたいでさ、俺は案外その子が英雄なんじゃないかと思ってるんだ』

 

『その子にモンスターから助けられた人は意外と多いわ。その意味では彼女も英雄かもね』

 

 噂話を語る住民の言う通り、英雄は他者の評価で誕生する。

 それこそ誰かの為の個人的な英雄や大衆に触れるような活躍をした人物など様々だ。

 誰が英雄を自称しようが英雄と讃えられようが興味は無いが、自身がそう呼ばれることだけは死んでも避けたい。

 外道が英雄と呼ばれる日が来る。それは蛮行や悪行を是とするような行動だ。特に自身のような外道は英雄などと呼ばれてはならない。

 数多の殺戮で成り立つ英雄に価値は無い。

 目的の看板を前に足を止めたスヴェンはドアを開け、

 

「らっしゃい! カイナ不動産屋にようこそ!」

 

 アーカイブで閲覧した狸に酷似した風貌の男性が笑みを浮かべて出迎えた。

 スヴェンはカウンターまで進み、店主に要望を伝える。

 

「空家を買いたいんだ、物件を紹介して欲しい」

 

「物件……上着はエルリア繊維のノースリーブシャツ、しかしズボンは見た事が無い材質。もしやお客様は異界人でしょうか?」

 

 現在異界人は北区の異界居住区で生活している。そこで異界人が家の購入で訪れれば不審に感じるのも無理はない。

 確かに異界人は異界居住区で生活しなければならないが、特例も付き物だ。

 テルカ・アトラスで商売を始め、その為に必要な事務所兼住居を購入するならば査定結果によって許可証が発行される。

 

「あぁ、俺は異界人だが商売を始めようと思ってな」

 

 オルゼア王のサイン付きの書類と許可証を提出し、

 

「失礼……なるほど、サインの筆記と魔力もオルゼア王の物ですね」

 

 書類と許可証に偽造が無いか確かめた店主は笑みを浮かべながらファイルを棚から引っ張り出した。

 

「こちらに我が不動産屋が取り扱っている物件が記載されていますが、何かご要望は有りますかね? 予算によって紹介できる物件も変わってきますが?」

 

「そうだな、予算は銀貨800枚と金貨100枚と言ったところか。要望の方は特に譲れないってもんが有る訳でじゃねえんだ」

 

 元々三年後には帰還する身だ。その辺を踏まえた上で家選びは慎重に進めなければならない。

 だが元々住処に頓着が無ければ、それこそ必要最低限の寝床と雨風が凌げる自宅でさえ構わない。

 

「ふむ。節約したいとお考えなら中古物件をご紹介しましょう」

 

 店主は一度取り出したファイルを棚に仕舞い、隣の棚から中古物件と記されたファイルを取り出し、ページを開いて見せた。

 書類に記載された坪面積と外観特徴、内装に眼を滑らせ最後に住所に視線を移す。

 それを数ページに渡り繰り返すが、眼を通した書類に記載された住所はどこもエルリア中央部を離れ、北部の町や村ばかり。

 顔色を窺う店主の視線を感じながらスヴェンはページをめくり続け、一枚の書類にめくる指が止まる。

 

「築年数新築、エルリア城下町職人通り?」

 

 新築だが中古物件で扱われ、住所も此処から近い場所だ。

 それにエリシェと専属契約を結ぶ際の利点も得られる。

 問題はなぜ新築物件が売り払われたのかだ。二階建ての住宅、庭にはハリラドン用の小屋も有りまともに買うとなれば値が張る物件に疑問が湧く。

 

「ああ、その物件でしたら最初に住んでいた家主が建てた家なのですが、数日生活してその後お亡くなりになりましてね」

 

「モンスターか?」

 

「えぇ、まあそんなところでしょうな。しかし何度かその物件を購入した者は居るのですが……その、全員お亡くなりになっておりまして、もしもお客様がその辺りを気にしないのでしたらお安くしますし、最低限の家具や風呂付きに加えてハリラドン用の小屋も有りますが如何なさいますか?」

 

 起きた住民の死亡が偶然にも重なり、曰く付き物件として扱われた。

 守護結界領域外を移動するだけで死が伴う世界だ。そこに住むだけで死ぬなどという噂で購入を断念するにはもったいない。

 それに掲載されている写真の外装と内装から見るに、レンガ造りに二階建て地下室付き。おまけに風呂付きときた。

 特に二階が住居スペースとして設計されたのか、リビング、キッチン、浴室、寝室が二階に集中しておりおまけに寝室用の部屋が四つほど有る。

 二階だけでも広い間取り、更に一階は事務所として扱うなら丁度いい間取りをしている。

 しかし掲載されている写真や書類から読み取れる情報は限られている。

 

「此処で構わないが、先ずは実物を見たい」

 

 そう告げれば店主はおおらかな笑みを浮かべ、鍵を手に。

 

「ご案内しましょう。おーい! ちょっとお客様を案内して来るから店番を頼んだぞ!」

 

「あいよ!」

 

 奥から聴こえた女性の声を背中にスヴェンと店主は職人通りに出発した。

 気配を断ちながら尾行する人物の気配を感じ取りながら……。

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