傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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第三章 狂信の崇拝
3-1.旅に問題は付き物


 エルリア城を内密に出発してから整備された街道を進み、早くも一時間が経過した頃、荷獣車は何事も無くエルリア城の守護結界領域を抜けた。

 程なくしてすれ違う荷獣車、隣を並行する荷獣車が増え始める中ーースヴェンは予定に付いて切り出す。

 

「そういえぁ、メルリアの観光名所ってのはまだ聴いて無かったな」

 

 事前に決めた装い。これはレーナを通して既に二人に伝わっている内容だ。

 うっかり忘れていなければの話だが。

 

「町中と外に立つ風車群や古代の石碑、高所から眺める噴水広場とか大市場で毎週行われる競り合いかな。でもなんと言っても観光に欠かせないのは地下遺跡が一番の見所だよ!」   

 

 楽しみで仕方ないと会話を弾ませるミアにスヴェンは並行する荷獣車から視線をーーこちらを探るような視線を受けながら会話を続けた。

 

「地下遺跡か、宝の一つや二つでもありゃあ興味が湧くんだがな」

 

「残念ながらそれは無理かな。観光客を装った盗掘人も居るからね」   

 

「そいつは仕方ねえな。一儲け出来そうな仕事もありゃあいいが」

 

 そう言ってスヴェンは眼を瞑る。  

 

「先からずっとそうしてるけど、もしかして眠いの?」

 

 視線だけ向けるミアに首を振った。

 

「違えよ。襲撃に備えて警戒してんだよ」

 

 移動中、特に気を抜いた時が一番襲撃に遭いやすい。

 護衛の依頼で護送車があと数メートルというところでミサイル砲撃で吹っ飛びかけたことも有る。

 あの時はいち早く気付き、電磁加速による狙撃で事な気を得たがーー今は頼みの綱が破損状態だ。

 こればかりはブラック・スミスで注文した品が届くまで待つしかない。

 

「これだけの速度で移動してもモンスターって普通に追い付いて来る奴も居るからね」

 

 特に周囲にはハリラドンが引く荷獣車が多い。

 ここでそんな速度を出せるモンスターに襲撃を受ければ混乱により大惨事が引き起こされることも有るだろう。

 

「ここで遭遇したくねえな」

 

「でも中には知能が低くて直線一方で大した事ない奴も多いよ」

 

 本当に大した事無いのだろうか?

 推定時速八十五キロで走行するモンスターを果たして魔法も無しに相対しーー大したことが無いと言い切れるのか。

 スヴェンは無理だと結論付けた。

 デウス・ウェポンのモンスターで二門ブースターと爆撃機搭載型バハムートですら万全の装備でやっとまともに戦える手合いだからだ。

 尤もあちらは音速飛行による強襲を得意としていたが、

 

「……この世界にやぁ、爆撃機搭載型バハムートが居ないだけマシか?」

 

 それと類似するモンスターが居ないと願うばかりだ。

 

「なに? その聞くからに物騒なモンスターは? えっ、というか竜種ってスヴェンさんの世界にも居るんだ」

 

「もって事はやっぱ竜種は居んのかよ」

 

「こっちの世界の竜種はモンスターじゃないけどね」

 

 モンスターではない竜種がテルカ・アトラスに存在している。

 その事実にスヴェンは驚きを隠せないが、敵対の可能性に付いて問うた。

 

「竜種は人を襲うのか?」

 

「基本霊峰とか人が寄り付かない秘境でお爺ちゃんみたいな生活送ってるよ。でも巣に入ると適度に追い返そうとしてくるかな」

 

 巣穴に入らなければ敵対はしない。

 そうとも言い切れない自分も居る事にスヴェンは肩を竦める。

 

「間違って竜種と遭遇しねえ事を祈るしかねえな」

 

「うーん、その可能性も捨て切れないよね。たまに人里近くに棲み着く竜が居ないこともないし、姫様が使役する竜王は気紛れにエルリアの空を飛んでるしさ」

 

「竜王ってのは気になるがその話は後だな」

 

 ミアと事実を隠しながら話す会話に、スヴェンは警戒すべき点を浮かべた。

 まだ他国に付いて知らないことが多いが、魔王アルディアを人質に取ることでレーナが真っ先に無力化されていることを考えれば、他国に対しても個別に何かしらの手を打っている事は予想も難しくない。

 特に邪神教団が竜種を操るか手懐け、襲撃に利用しないとも限らないだろう。

 スヴェンが思考を並べる最中、何かが近付く気配に一度思考を片隅に追いやりーー砂塵の中に見えた影に眼を開く。

 

「スヴェンさん!」

 

 ミアの焦り混じりの叫び声にスヴェンは窓を開け眉を歪めた。

 土煙を撒き散らしながら荷獣車を片手にハリラドンを咥えた獰猛なモンスターが真っ直ぐこちらに迫っているのだ。

 徐々に距離が縮まる中、はっきりと視認できる姿に一瞬言葉を失う。

 それはまるでゴリラのような背格好に尻尾の先端に刃状に発達した赤黒い刃ーー刺突と斬撃に発展した刺剣尾と凶悪な顔を誇るモンスターが他の荷獣車に一切眼もくれずこちらを標的にしているのだ。

 分厚い筋肉に血がこびり付いたような外皮を纏うモンスターにガンバスターを握り締める。

 

「何でこんな場所にタイラントが!?」

 

 ミアが有り得ないと言わんばかりに叫ぶ。

 彼女の言葉に本来この地方に生息しないモンスターだと判る。

 

「普段の生息場所は?」

 

「荒野と山岳地帯だよ!」

 

 辺りを見渡せば山岳地帯とは縁遠い平原の街道。

 エルリア城を出発して一時間弱で生息地域が異なるモンスターの来襲ーー偶然と考えるには楽観的過ぎる。

 タイラントと交戦は避けたいが、向こうはこちらに目掛けーーハリラドンと荷獣車を手放さず突進している。

 スヴェンはあの荷獣車を投擲利用される事を踏まえ、

 

「次の守護結界領域までは?」

 

「この子の脚でも30分! だけどタイラントの瞬発力には逃げ切れないよ!」

 

 確かにあの速度では他の荷獣車を避けながら逃げるのは無理そうだ。

 それに、無理に逃げようとすれば最悪荷獣車同士の衝突事故も起きかねない。

 

「なら最低限の距離を保てよ」

 

 簡素な指示を出し、軽々と屋根に登った。

 そしてガンバスターの銃口をタイラントに構える。

 

「おいおい! 兄ちゃん、何する気だ!」

 

 こちらを観察するような視線を向けていたーー並行を続ける人物の声にスヴェンはわずかに視線を向ける。

 茶色のコートを纏った頬が痩せこけた銀髪の男性、彼の容姿を再認識したスヴェンは、

 

「あん? こうすんだよ!」

 

 タイラントに躊躇なく引き金を引いた。

 ズドォォーーン!! 一発の銃声が平原に轟く!

 迫る銃弾を前にタイラントは避けず、身を護る障壁が銃弾を弾く。

 突き刺さりもしない銃弾ーー予想の範疇だとスヴェンはガンバスター両手に構え直す。

 タイラントが握る荷獣車を強く握り締める。

 そしてタイラントは咥えていたハリラドンを噛みちぎりながら荷獣車を投げ放つ。

 弾丸のように力強く投げ放たれた荷獣車に向けーースヴェンは飛び込むように跳躍した。

 

「オラァッ!!」

 

 怒声と共にガンバスターを縦に振り抜き、荷獣車を真っ二つに叩き斬る。

 二つに斬り裂かれた荷獣車の残骸が弾け飛ぶ。

 中に乗車している奴が居れば、そいつは運が無かった。

 簡単に割り切ったスヴェンは地面に降り立ちーーミア達の無事を確認しつつタイラントと対峙する。

 

「魔法支援でも有ればなぁ」

 

 言動とは裏腹にたタイラントと対峙したスヴェンの表情が変わる。

 胸の内側から熱が沸き立ち、強敵を前に生の実感が宿る。

 彼の表情にタイラントは興奮したのか、血のような外皮を赤黒く変貌させーー更に形相を悪魔染みた顔に変貌させた。

 暴君の名を冠するだけは有る。

 スヴェンはタイラントが放つ威圧に動じず、冷静にその動きを見定める。

 左右に揺れ動く刺剣尾が突如ブレれ、地を走りながらこちらに伸びる。

 スヴェンはガンバスターを右薙に払うもーータイラントが纏う障壁を前に刃が阻まれた。

 

「チッ!」

 

 ガンバスターの刃が火花を散らし弾かれ、がら空きの胴体に刺剣尾が容赦無く迫った。

 刹那の瞬間、この戦闘を見守っていた誰しもが息を呑み、ミアの悲鳴が届く。誰しもがスヴェンーー名も知れない異界人の死を連想した。

 だが連想通りとはいかなかった。

 スヴェンは身体を捻ることで辛うじて凶刃を避け、即座に薙ぎ払われた刺剣尾を後転することで躱したからだ。

 

 獲物を仕留め損なった事にタイラントが両腕の筋肉を膨張させ熱気を放つ。

 ハリラドンの捕食を続けながら駆り出される拳をーースヴェンは縮地の出発力を利用することで背後に回り込み避ける。

 同時に拳が深々と地面を破壊し、亀裂が街道に向かって広がった。

 タイラントは亀裂に魔法を唱えたのか、裂けた大地から地の槍が剣山の如く突き出る。

 あの攻撃に誰一人巻き込まれなかったのは幸いと言えるだろう。

 

「馬鹿力がっ」

 

 吐き捨てるようにスヴェンはタイラントの背後に一閃放つ。

 障壁に刃が弾かれる反動を利用し、浮き上がる刃を強引に両手腕で振り下ろす。

 重厚な鈍い音が平原に響く。

 障壁に護れ、弾かれる刃を鬱陶しいと思ったのかーータイラントは捕食を続けながらその場で身体を引き、腰を捻り出す。

 地面に亀裂を走らせる程の馬鹿力を誇るモンスターが力任せに回転を駆り出せばーー嫌でも想像が付く。

 スヴェンはタイラントの行動よりもいち早くその場から、大きく斜め方向に飛び退いた。

 地面に着地と同時、タイラントが剛腕と馬鹿力、刺剣尾による斬撃から真空波と竜巻を駆り出す。

 狙いの定まらない真空波が四方八方に飛び平原に鋭利な斬痕を刻む。

 竜巻がスヴェンが直前まで立っていた地面ごと深く抉り、地面を空に打ち上げる。

 馬鹿げた力技に驚く暇も無くタイラントが打ち上がった地面に向けて跳躍した。

 

「スヴェンさん!!」

 

 遠くからミアの叫び声が聴こえるが、スヴェンはガンバスターを霞に構える。

 ぶっつけ本番の荒技ーー下丹田の魔力を右腕にかけてガンバスターに流し込む。

 ガンバスターの刃に魔力が宿る。

 その過程で銃弾に刻まれた魔法陣が魔力に呼応するがーー何処まで破壊力が増すのか試す価値も有るが成功するとも限らない。

 スヴェンは生死を分けた賭けに出る。

 同時にタイラントがスヴェンに向けーー打ち上がった地面を弾丸の如く撃ち出す。

 迫る弾丸の地面。

 失敗は死、だがあの速度は避けられない。ならやるしかやい。

 スヴェンは縦薙ぎに衝撃波を放つ。

 鋭い刃となった衝撃波が目前に迫る地面を斬り裂く。

 衝撃波がそのまま宙で滞空していたタイラントを巻き込む。

 地面の破壊と衝撃波が生み出した破壊力に土煙が舞う。

 スヴェンはタイラントから距離を保ち、汗を滲ませ息を吐く。

 

「……こいつは」

 

 衝撃波は普段の戦闘で使用する技だが、そこに魔力を加えて放つだけでスヴェンの体力と気力がごっそりと削がれたのだ。

 まだまだ荒削りの魔力操作の影響が著しく、これは何度も乱発できない。

 土煙の中からタイラントの咆哮が驚く。そしてあらぬ方向に投げ飛ばされる食べかけのハリラドンの死体が無惨にも平原に叩き付けられる。

 怒り狂い殺意を纏った咆哮が空気を震撼し、荷獣車から顔を覗かせるアシュナに気付く。

 いま彼女を目撃者の眼に曝す訳にはいかない。

 後の事を考えたスヴェンは今にも駆け付けそうな彼女をーー小さく頭を横に振ることで制する。

 それを受けたアシュナが不服そうに頬を膨らませた。

 だがスヴェンの考えとは裏腹に隣りに立つ影が。

 

「手を貸そう」

 

 黒い紳士服を着こなし、両目を布で覆い隠した白髪の双剣士が隣で構えを取る。

 気配も無く隣りに立つ人物に眉を歪めーー宿していた熱が急激に冷めた。

 

「……助力は助かるが、その眼でやれんのか?」

 

「視界以外のあらゆる五感なら眼が見えずとも戦えるさ」

 

 砂塵が晴れ、ひび割れた障壁を纏いながら拳と刺剣尾を振り抜くタイラントにスヴェンと双剣士が左右に飛び散る。

 追撃して来る刺剣尾の斬撃を巧みに避けながらスヴェンはタイラントの拳を躱した男に目を向ける、

 どうやら彼が言ったことは本当らしい。

 おまけに双剣士は二本の剣に風と雷を纏わせ、タイラントの障壁を斬り裂く。

 砕け散る障壁に双剣士から疑問の声が漏れた。

 

「ふむ? 随分と削られていたようだ」

 

 スヴェンはそんな疑問に、刺剣尾をガンバスターで弾き返しーー縦斬りで刺剣尾を切断した。

 宙を舞う刺剣尾に眼もくれずタイラントとの距離を詰め、右腕を斬り落とし素早く背中に跳躍し深く斬り付ける。

 

「魔法の効果がでけえんじゃねえか?」

 

「いや、風の音と血の臭い……それにタイラントの荒々しい吐息から判るとも。奴が風前の灯だってことはね」

 

 軽口から双剣士が繰り出した二閃が、タイラントの首を斬り飛ばす。

 断面図から血飛沫が噴出されーータイラントの肉体が魔力と共に散る。

 あとにタイラントの骨と切断された刺剣尾だけが残された平原でスヴェンはガンバスターを背中に仕舞う。

 そして警戒心を最大限に双剣士に向き直る。

 

「アンタ……名は?」

 

「ヴェイグ、そういうお前は?」

 

「スヴェンだ。単なる旅行者だがな」

 

「単なる旅行者が勇敢にタイラントに立ち向かうかな」

 

 こちらの素性を怪しむヴェイグにスヴェンは澄ました顔で続ける。

 

「何かと物騒だからな、自衛手段は備えてんだよ」

 

「ふむ……確かに正論だ。わたしも襲撃されれば手も足も出るな」

 

 ヴェイグは納得した素振りを見せるも、不審感を拭い切れない様子だ。

 そこまで不審に思われるのは単に用心深いのか、それとも……。

 

「怪しまれても困るんだがな」

 

「誰しもが交戦を避けるタイラントに率先して挑む……これ自体が自作自演の線も有るだろ?」

 

 彼の言い分は確かに有り得る手方だ。

 手っ取り早く実力を示し、一時凌ぎで名を売りたい場合なんかは傭兵がよく使う手方でも有る。

 逆に言えば恩を売りたい場合にも使われるのだ。

 仮にスヴェンがそうするなら、もっと手軽に討伐できるモンスターを選ぶ。

 

「なるほど……だが、そいつはアンタにも言えるだろ」

 

「ふむ、これまた正論だ。しかしタイラントをわざわざ襲撃させるメリットがわたしには無い」

 

「なぜ断言できる?」

 

「これでもわたしはアルセム商会の会長でね」

 

 そう言って双剣を鞘に納めーー手下りで懐を漁り、

 

「ふむ? 何処に仕舞ったかな……ああ、ここか」

 

 名刺をスヴェンに差出す。

 確かに名刺にアルセム商会会長ヴェイグと書かれていた。

 スヴェンはそれだけで敵の線を消す気は無いが、一先ず警戒を引っ込める。

 ここで必要以上に警戒する必要もない。むしろ過剰な警戒心は要らぬ勘繰りを与えるからだ。

 

「へぇ、会長ってのは剣の腕も立つのか」

 

「ふむ? その声色から警戒は解けたようだ。いやしかし、勇敢にもタイラントに挑んだ者に対する非礼だったな。メルリアで開催されるパーティに是非とも招待したいのだが、どうかな?」

 

 質問には答えず芝居のかかった口調でそんな事を。

 情報も手に入るが、単なる旅行者がパーティに出席。それは素性を問われることになる。

 スヴェンは面倒臭そうな口調で返答した。

 

「パーティってのは性に合わねえんだよ」

 

「称賛されるべき行動……そう、まるで英雄のような行動を称賛しない手は無いだろう」

 

 外道染みた傭兵を英雄と称賛、こちら素性を知らないとはいえ彼の言葉は的外れだ。

 

「バカ言え、うんな名声いるか」

 

「釣れないな……いや、しかし異界人なら喜んで飛び付く提案なのだが」

 

「異界人に限らず、会長主催のパーティなら誰だって飛び付くだろうよ。俺はうんな賑やかな場所より静かな場所で酒を呑んでる方が性に合ってんだよ」

 

 そもそもスヴェンは出発してから一度も異界人とは口にしていない。

 一応異界人の異世界観光という名目だがーーヴェイグの嗅覚がこの世界とは違う臭いを正確に嗅ぎ分けたのだろうか?

 それとも連れが服装からそう判断したのか。

 ふとスヴェンの脳裏に斬り裂いた荷車が浮かぶ。

 疑問よりも先に自身が斬った荷車の確認が先決だ。

 街道に転がる荷車の残骸に近付き中を確かめる。

 中身は散乱した荷物とあちこちに散らばる邪悪な一つ目の紋様を描いた布だけが残されていた。

 レーナ達から事前に聴いた邪神教団のシンボルーーそれが邪悪な一つ目の紋章。

 それ以外は比較的綺麗で血痕も死体も見付からない。

 タイラントは邪神教団の仕込み。そう理解したスヴェンはミアが待つ荷車に乗り込むと。

 

「わたしは君のストイックな姿勢が気に入った! 今度は君を口説き落とす品を用意しておこうではないか!」

 

 ヴェイグの突然の叫び声が響く。

 アルセム商会の会長の叫びに周囲の荷車から響めき声が、

 

「タイラントを相手に俊敏に立ち回り、異界人には無い修羅場を潜り抜けた貫禄……おまけに変人と名高いヴェイグ会長に気に入られたアイツは異界人で間違いないが……?」

 

 ーー変人なのかよ!!

 

「う、羨ましいわ! あのヴェイグ様に気に入られるなんて! ああ! アトラス神よ、嫉妬の炎で奴を焼き殺す許可を!」

 

 女性の嫉妬の炎が宿った視線にスヴェンは溜息を吐く。

 そしてあらゆる雑音を無視して、

 

「おい、早く出せ」

 

 ミアにさっさとこの場を離れるように伝え、ハリラドンが動き出す。

 そんな中、ミアがこちらに視線を向ける。

 

「目立ったね」

 

「想定内だ」

 

 タイラントとの戦闘の目撃者はスヴェンのガンバスターから既に異界人だと特定している。

 しかしモンスターに効かない銃弾に対する警戒心は薄められるだろう。

 むしろ身体能力と衝撃波の方に警戒が向く。

 だがこの手が上手くとは限らないと己に言い聞かせ、ミアの声に耳を傾ける。

 

「でも惜しいことしたね? アルザム商会って創業千年の歴史を誇る大商会で、定期的に主催するパーティはそれはもう豪勢なんだって」

 

「興味ねえよ」

 

「……あーあ、生ハムメロンとか普段食べられない高級料理が並ぶって噂なのに」

 

 スヴェンは高級料理を想像してーー自身の選択を非常に後悔した。

 後悔を若干引きずりながら荷車の残骸で見た物を二人に伝え、スヴェンは町に到着まで荷獣車の揺れに身を委ねた。


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