傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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17-5.契約

 夕暮れ、ミアとアシュナがエルリア城に帰ったあとスヴェンとエリシェはブラックを交え互いに用意した書類に眼を通していた。

 スヴェンがエリシェと専属契約を結ぶに当たって必要なのは、先ず前提条件となる毎月の基本報酬とこちらが出した製作依頼にかかる費用の全額負担だ。

 エリシェに支払う契約金は一月で金貨五枚と銀貨八百枚と銅貨四百枚になる。それがスヴェンが提示した契約金。

 それに対してエリシェは、

 

「高過ぎない? それに費用の全額負担に3年の期限付き契約……もう少し契約料金を安くして良いんじゃないかな」

 

 契約金に対して難色を示した。

 こちらが提示した契約金額はエリシェの技量を買ってのこと。それは傭兵としても譲れない所だ。

 

「いいや、アンタの腕ならそれだけの対価を払う価値が有る。それに俺はアンタが腕を振える鍛治工房を用意できない」

 

「その件ならこれまで通りに鍛治工房を自由に使用しても構わないが……」

 

「スミスの不利益になることはするなでしょ? 分かってるよ父さん、スミスの鍛治工房を使うということはスミスの刻印を入れる必要が有るからね」

 

「それに武具100単位を注文することもねえからな、こっちに優先的に都合してくれんならアンタはこれまで通りで良い」

 

 専属契約と言うがエリシェが注文に対して都合を付け易くするための方便だ。

 それに現状この世界でガンバスターを鍛造、整備や改良は彼女にしかできないことだ。整備ぐらいなら自身でも可能だが、専門職人と比べて完璧とはいかない。

 だからこそエリシェとの契約が必要不可欠だ。

 

「これまでと変わらない環境、あたしとしても有難いけどさ……スヴェンが損してない?」

 

 エリシェに不安な表情で訊ねられたが、契約を結ぶ関係で互いに損をすることなど有ってはならない。

 互いに何らかの形で利益を得られる契約が望ましいが、今回の契約もスヴェンが損をすることは皆無だ。

 

「損ではないな。俺の都合で腕利の鍛治職人を拘束できるんだ、そのための対価は必要だろ」

 

「うーん、確かにスヴェンのガンバスターとか銃火器の製造となると設計から始めないとだからね」

 

「そこに必要な素材。銃器の製造に必要な細かなパーツ……いや、銃器を依頼する気は無えよ」

 

「そうなの? スヴェンが他の銃も携行してたなら必要になると思ってたんだけど」

 

 戦場はガンバスターだけで切り抜けるほど甘くない。故に戦局に応じた銃火器の携行が必要だ。

 銃火器の製造を依頼する気は無いが、ガンバスターの銃身に装着可能なパーツはいずれ必要になる。

 

「確かに傾向していたが、銃種ごとに銃弾の製造も必要になる。使われてるプロージョン鉱石の加工と運用を考慮すれば危険性が高いだろ」

 

「確かにプロージョン鉱石は粉末加工するにも専用の魔道具が無いと無理だよ。それ以外でやろうとすると大爆発を招くことになるからね」

 

「それに万が一銃器が異界人の手に渡れば何処かで量産され世界の軍事バランスが崩壊しちまう恐れも有る。だから銃器の製造は依頼しないが、ガンバスターの銃口に装着可能なロングバレルの製造は頼むつもりだ」

 

「それってどんな物なの?」

 

「実物は無いが、銃弾の距離を伸ばすためのもんだな。.600LRマグナム弾の有効射程は800メートル有るが、ロングバレルで飛距離が1000メートルになる」

 

 あとは.600LRマグナム弾のプロージョン粉末量を増やせば飛距離も伸びるが、やはりそこは狙撃銃用の銃弾をクルシュナに開発して貰う方が早いか。

 スヴェンが会話の合間に思考を挟みながら話を契約に戻した。

 

「話が逸れたな、契約内容については他に何か問題は無いか?」

 

「最初は契約金額が高いと思ったけど、スヴェンが色々と考えての内容なんだね。それならあたしはこの契約内容で問題無いけど、スヴェンもその内容で良いの?」

 

「ん? ああ、鍛治職人を裏切らないって内容か。アンタやブラックが描いた設計図や鍛造技術を他者に売るような不義理はしないと契約する」

 

 裏切りとは一口に言っても様々有る。さっき例に挙げた内容以外にもエリシェとの契約を一方的に破棄することも、彼女が鍛造した武器を転売するような真似もしない。

 スヴェンは提示された契約書類にその趣旨を記入し、

 

「他に俺が遵守すべき事柄は有るか?」

 

 エリシェとブラックに視線を向けるとブラックが咳払いを一つ。

 

「職人柄武器を鍛造した相手が死ぬことも有る。それはモンスターが存在する以上避けられないだろう。だがそれでも鍛造した鍛冶職人は自身の腕が至らず死なせたと背負う事もあるんだ。……オレが提示することは娘を悲しませないこと、それが条件だ」

 

 父親が子を想う姿、なぜ親はそこまで自身の子供を大切にできるのか到底理解できないが--ブラックの眼は鍛治職人として死に触れ、哀しみを理解してる眼だ。

 

「了解した。ま、エリシェと契約期間が切れるまで簡単に死ぬつもりもねえさ」

 

 スヴェンは契約内容にエリシェを悲しませないっと書き足し、最後の記入欄に自身のサインを書き記した。

 そしてエリシェも提示した書類に自身のサインを記入し、ブラックが二枚の契約書を手に持つ。

 

「これで双方の契約は成立。次にスヴェンに渡すのが注文書だな」

 

 そう言って懐から取り出した注文書をスヴェンの目の前に置いた。

 スヴェンはクロミスリル製のナイフを二十本とロングバレルに倍率スコープの鍛造を注文し、

 

「これでいくらになる?」

 

 費用に付いて訊ねるとエリシェは笑みを浮かべて告げた。

 

「ロングバレルと倍率スコープは設計から入るから……全部で銀貨250枚だね! あっ、前に貰った竜血石が相当数残ってるけどどうする?」

 

「投擲に使うナイフに竜血石ってのもなぁ」

 

「うん、提案してなんだけどもったいないよね」

 

「竜血石は主にガンバスター関連に使ってくれ。って、ブラックの方で必要にならねえのか?」

 

 竜王の幻影から譲られた大量の竜血石を鍛冶屋スミスで必要になるかと思い聞いたが、彼は首を横に振った。

 

「ウチの在庫状況でも竜血石は足りてるからなぁ」

 

 三年の間に無理に消費する必要性は無いようにも思えるが、下手に手放すことも売ることもできない。

 

「そうか、貰い物とは言え扱いに困るな」

 

「そこはおいおい消費していくしかないよ」

 

 エリシェの鍛造したガンバスターが万が一損傷した場合、修復にも竜血石が必要になるだろう。

 スヴェンはエリシェの言葉に同意を示しながら、魔法時計に視線を向けては椅子から立ち上がる。

 

「そろそろ門限の時間だな……エリシェ、遅くなったがこれからよろしく頼む」

 

 彼女にグローブ付きの右手を差し出し、エリシェは静かに立ち上がり--その手を握り返した。

 

「こちらこそよろしくね」

 

 こうして無事に専属契約を結んだスヴェンは、レーナとアルディアの土産を持ってエルリア城に帰宅するのだった。

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