スヴェンがエリシェと契約を交わしている頃、エルリア城下町の北区に位置する異界居住区の集会場で異界人が集まっていた。
緊急集会と評して呼ばれた安藤恵梨香はなぜ呼ばれたのか判らず、集まった面子を見渡す。
エルリア状在住組みだった佐藤竜司、如月紫郎、
しかし誰が救出したのか、騎士に訊ねても存ぜぬの一点ばかりで異界人が自称するのも無理は無いのかもしれない。
恵梨香は緊急集会を開いた
「今日は如何して集会を開いたの? これでもボランティア活動で忙しいんだけど」
開催を促せば直衛奏多は咳払いを一つ、そして全員を見渡しこう告げた。
「そろそろはっきりさせないか? 誰が真の英雄なのかを」
彼の言葉に英雄を自称する異界人がざわ付き、エルリア城在住組みから深いため息が漏れる。
「呆れたな、まだそんなことに拘ってるのか? それよりもこの世界で自立する方法を模索した方が建設的だ」
如月紫郎の言うことは尤もだ。元の世界に帰る気が無いならこの世界で生活しなければならない。
召喚した異界人に必要最低限の生活資金が毎月支払われるが、少しでも無駄遣いすれば資金不足に陥る。
恵梨香自身、元々一人暮らしで節約は得意だが事件を引き起こした異界人には負債を支払う義務が有る。
例えば今回の司会を務める直衛奏多は、魔王救出の大義名分を盾に無銭飲食や窃盗を働き旅の資金を豪遊に使うばかり。
レーナも魔王を救出のためにと負債額を自腹で負担していたが、魔王が救出された以上は負担する理由も無い。
ただこの件を公表したのはオルゼア王であり、公表時にレーナの申し訳なさそうな表情から彼女は最後まで異界人の面倒を見る腹積りだったことが窺える。
「自立? 金は毎月貰えるんだからその必要は無いだろ。それよりも英雄が贅沢するのは当然のことだと思わないか」
「キミ達が本当の英雄ならね……だいたい英雄なら各地で事件を起こさないだろ」
「……そうね、今もヴェルハイム魔聖国で籠城してる異界人も居るし、大人しくしてた方が身のためよ。ただでさえ私達はあなた達が思ってる以上に恨まれてるんだから」
「奴らは裏切り者だ、俺達とは関係ない。むしろ非難されるべきは野放しにしていたレーナだろ」
「非難されるべきって……問題を起こしたのはうちらでしょ? それに三村夜長が逮捕されたのも結局アイツが犯罪を犯したからでしょ、あんたらの中にも居るんじゃないの?」
邪神教団に降った異界人は確かに裏切り者だ。そのことは紛れもない事実だが、旅の道中で遭遇した邪神教団の一人が異界人を誘惑していたのも知っている。
あの時はカトレアの二人がかりでどうにか倒せたが--逃したのは今でも悔やまれるなぁ。
人を殺す度胸を持てず、結果逃してしまった。しかしエルリア各地に散らばる異界人がこうして一箇所に集まってる以上は下手に誘惑されることもないだろう。
同時に甘菜柑奈の指摘通り犯罪を犯した異界人も多数居る。その度にボランティアという形で印象や立場回復のために行動していたが、やはり一人では限界がありいくら頑張っても異界人としてでなく安藤恵梨香自身の評価にしかならない。
恵梨香は言い争う彼等を尻目に大人しい佐藤竜司に疑問が芽生える。
「どうかしたの? なんか上の空みたいだけど」
「……魔王救出から数日経ったけどさ、スヴェンが居ないんだよ」
恵梨香は峡谷の町ジルニアで一度だけ会ったスヴェンの名に表情が曇った。
彼は死域と呼ばれる危険な場所で死亡したと聴いているが、彼の名に口論していた直衛奏多が反応を示す。
「誰だそれ?」
「えーと、今年の5月頃に召喚された異界人だけど……」
「時期的に俺達よりも後輩か……? なんでその後輩が此処に居ないんだよ」
「死んだって聴いてるけど」
「なんだ、モンスターに勝てないモブか」
直衛奏多の発言に同意を示し、小馬鹿にしたような態度を見せる他の異界人に怒りさえ覚える。
他人の死をどうとも思わない冷徹な思考、それに彼等は現実を見ていない、言動や振る舞いが何処か夢の中だ。
だから人の死を現実として認識できないでいる。そんな彼等が真の英雄を自称するなど頭の痛い話だ。
「モブって……ゲームじゃないんだから」
「魔法やモンスター、美少女のレーナ。どう考えても夢の世界だろ?」
「……何をどう捉えたら夢だと認識できるんだか」
拙い、また険悪な空気になりつつ有る。昨日も険悪な空気から武器を用いた戦闘に発展し、仲裁に入ったが結局は止めきれず見回りの騎士に取り押さえられることになった。
同じ失敗を立て続けに繰り返しては、いよいよ居住区から追い出される可能性も有る。そう考えた恵梨香は手を叩き、
「これ以上口論しても結果なんて出ないわ。だからもうお開きにしましょう」
「そうだな、俺もそうさせてもらうよ。明日からまた騎士団の訓練に参加させて貰えるしさ」
そう言っていの一番に集会所から佐藤竜司が出て行く。一人が外へ出れば、エルリア城在住組みが続けて出て行くのも必然だった。
その流れに乗った恵梨香は出入り口で納得がいかない直衛奏多に顔を向ける。
「お願いだから面倒なトラブルとか起こさないでよ。中には就職が決まってる子も居るんだからさ」
それだけ言い残して恵梨香はその場を後にし、近場に居た騎士に告げる。
「今日も誰が英雄なのか揉めてるわ」
「キミも大変だな……そうだ、カトレアから手紙を預かってるんだ」
そう言って騎士は笑みを浮かべながら手紙を手渡した。
それを受け取った恵梨香は軽やかな足取りで自宅に戻り、カトレアの手紙を熟読し、恵梨香はテルカ・アトラスの言語で返事の手紙を書くのだった。