傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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17-7.絡まれ、宣伝の後で

 引越しの荷造りを済ませたスヴェンがエルリア城の自室から廊下に出ると、異界人の少年と出会した。

 エルリア城滞在中に見た覚えもない顔付きの彼にスヴェンは目も向けず、廊下を歩き出すと。

 

「ちょっと待てや!」

 

 苛立った声と同時に右腕が肩に伸ばされる。スヴェンは敢えて歩く速度を早め、伸ばされた腕を避ける。

 そして振り返ってから異界人の少年に改めて顔を向けた。

 

「何か用があんのか?」

 

「その背中の武器に見えるシリンダー……お前、まさか異界人か」

 

 名も知らない彼を含めて異界人は異界居住区で生活している。だから此処で偶然出会ったのは面倒しか無く、故にスヴェンは瞬時に思考を切り替えた。

 

「いいや、これは遺品を譲って貰ったんだ」

 

「い、遺品? あぁ、もしやスヴェンとかいうモブのか……」

 

 彼の言うモブは創作物に使われる用語の一つだが、実際に言われる日が来ようとは予想外で有る意味で新鮮だ。

 同時に異界人の彼が背中のガンバスターに物欲しそうな視線を向け、次に何を提案して来るのかが予想も難しくはない。

 

「悪いな、遺品譲渡の際に厳重に保管するよう厳命されてるんだ」

 

 先手を打てば異界人の少年が挙動不審に視線を揺らした。

 

「……か、顔に出てたか?」

 

「あぁ、しっかりとな」

 

 はっきりと指摘すれば彼は視線を外し、スヴェンはもう用事は無いだろうと判断し歩き出すと。

 廊下の曲がり角から現れたミアが、こちらを見付けた瞬間に笑みを浮かべた。

 今ここで名を呼ばれるのは拙い! スヴェンはハンドサインでミアに異界人の存在を伝え、彼女は笑みを浮かべたまま駆け寄った。

 

「やっほー! 手伝いに来たけど、もう終わっちゃった?」

 

「まあ、荷物はこの通りだからな」

 

 持って行く荷物は旅に使った小物や着替えの衣類に加え、各種必要な書類と報酬金だけ。

 滞在していた部屋も元通り、最初から誰も住んで居ないと誤認させるように片付けられている。

 そう伝えるとミアは納得した様子を浮かべ、異界人に聞かれて拙いのかハンドサインで耳を隠すように伝えてきた。

 ミアの口元に耳を近付けた途端、背後の異界人から嫉妬混じりの敵意が向けられる。

 

「えっと(今日からラウル君達が城下町でボランティア活動に入るそうだから、もしも気になるなら事務仕事を手伝わせても良いんじゃないかな?)」

 

 以前ラウルには他の生き方を教えることも叶わず、魔法騎士団に任せる形で別れてしまった。

 彼がどう生きるかはまだ判らないが、ミアの提案に乗るのも悪くはない。

 だが、まだ新事業の宣伝も終わっていない。傭兵を護衛として雇うのも何も知らなければ抵抗感を抱くだろう。

 

「宣伝状況によってだな」

 

「あなたが宣伝ねぇ……手伝う?」

 

 ミアが懸念顔を向けるのも、自分が他者に対して友好的な宣伝できると思われてないのも仕方ない。

 

「いや、アンタも論文の発表が控えて忙しいだろ。それに……妙に怪我人が多い」

 

 昨晩、城内でレイや他の騎士から聴いた情報。一昨日から運ばれて来る怪我人が不自然に多いこと。

 そして怪我人全員には裂傷が共通点として--何か妙なことでも起きてんのか?

 

「あ〜そうなんだよね。論文は発表するだけだけど運ばれて来る怪我人には裂傷が多くて……」

 

「宣伝がてら城下町で情報を集めておくが、実際に動くのは騎士団になるな」

 

 傭兵として雇われない限りタダでは動かない。その趣旨も含めてミアに告げれば、彼女もその辺りを理解してるのか同意を示すように頷いた。

 ミアと別れ城下町で宣伝に移れる。そう思考した瞬間、

 

「ちょっと待てよ、お前とその美少女の関係は何だ?」

 

 嫉妬混じりの声を掛けられた。

 なぜ異界人は嫉妬深いのか、振り向けば以前に出会った三村夜長と似た眼差しで睨んでくる。

 ミアとの現状の関係はビジネスパートナーだ。それ以上でもそれ以下でも無い。

 

「ただの顔見知りだな」

 

「そっ、顔見知りで実はお互いの名前も知らないんだ」

 

 取り繕った表情で嘘を真実として語れば、異界人の少年は拍子抜けした様子を浮かべた。

 そこにもう嫉妬混じりの視線も無ければ敵意も感じられない。案外この少年は騙し易い--物分かりの良い少年なのかもしれない。

 

「そ、そうなのか? ……変に嫉妬するのも悪い癖か、悪いな変に絡んでよ」

 

「それは構いませんけど、今日は城内に何か用事が有ったんですか?」

 

「あー、外出許可が得られなかった奏多に変わって申請書を届けに来たんだよ」

 

「申請書……あ、それなら西塔一階廊下に異界窓口が設けられているのでそちらに提出してください」

 

「西塔の一階ね、ありがとうな」

 

 異界人の少年はそれだけ言い残して足早に去って行く。

 スヴェンは彼の気配が完全に遠ざかったことを確認してから疑問を口にする。

 

「……異界窓口?」

 

「ほら事件を起こした彼等以外にも善良な異界人も居るから、そう言った方々向けに受付窓口を増設したの」

 

「なるほどな……さっきの異界人は随分と聞き分けが良かったな」

 

「うん、でも報告書によると頭に血が昇りやすくて喧嘩沙汰が多かったみたいよ」

 

「城の中だから自制が効いたってことか? ま、何にせよ引越しだな」

 

「そうだ、ね。休暇を使って遊びに行くよ」

 

 そこは依頼人として来て欲しいが、まだ彼女は依頼を出すかどうかを迷っている。

 帰還するまでまだ時間は有る。その間にミアが答えを出し依頼するならなんでも良い。

 

「茶請けも必要になるな」

 

「お菓子は城下町の中央区に在る【ペ・ルシェ】が人気でお茶請けにも丁度良いよ」

 

「なるほど【ペ・ルシェ】か、帰りにでも寄ってみるか」

 

 スヴェンはそれだけ告げてからエルリア城を立ち去るべく、廊下を進んだ。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 エルリア城下町の中央区を訪れたスヴェンは、人通りの多い道路を歩きながらすれ違う人々に声を掛ける。

 

「忙しいところ済まないが、少し良いか?」

 

 人々は声を掛けれたことに一瞬驚くも、手に持つ広告紙束に興味を示したのか。

 

「そんなに時間を取らないなら」

 

「あぁ、近々開業予定のボディガード・セキュリティだ」

 

 スヴェンは広告紙を一枚だけ中心人物に手渡し、受け取った男性と彼の連れが興味深そうに広告紙を覗き込む。

 

「ボディガード・セキュリティ……聴かない名前だな。どんなことをするんだい?」

 

「あぁ、例えば守護結界領域を抜けモンスターの生息地域を移動するにも不安が有る。商談で取引先に黒い噂を聴き、護衛が必要になった……そう言った時に依頼主を護る護衛事業だ」

 

 質問に対して答えれば広告紙を受け取った男性が、

 

「へぇ、護衛として雇われるのか。まあ、魔王様が救出されて平和になるかと思ったけど……」

 

 杞憂に満ちた眼差しで不安を口にした。

 

「あぁ、最近近くの村々で頻発してる通り魔事件だろ? 不安は判るけど魔法騎士団が解決してくれるさ」

 

 エルリア魔法騎士団の名が出た瞬間、男性の杞憂に満ちた表情が嘘のように明るくなる。

 これが長年エルリアを護り続けたエルリア魔法騎士団の実績と功績による信頼関係だ。

 それだけエルリアの平和や秩序は彼等によって護られている。スヴェンは改めて市民とエルリア魔法騎士団の信頼関係を再認識しながら噂に付いて訊ねる。

 

「その通り魔事件ってのはいつ頃から噂されたんだ?」

 

「そうだなぁ、俺達が聴いたのは昨日の夜に酒場でかな」

 

 正確には一昨日から通り魔事件が発生しているが、事件が発生した村から噂が広がるまで一日掛かった。

 

「目撃者が居たとかは?」

 

「それがさ、夜の暗がりだったせいか誰も犯人の姿を目撃してないんだと」

 

 犯行時刻は夜間、付近に目撃者無しあるいは目撃者全員を斬っている可能性が高い。

 

「一昨日か、平和が訪れれば奇妙な奴も湧いて来るんだな」

 

「でも街道の移動は護衛を雇わないと危険だしぃ……彼を雇うか検討してみる?」

 

「いくら魔法が使えてもモンスターは……恐ろしい」

 

「今は準備中だが、御用が有れば職人通りの路地裏、ボディーガード・セキリュティを訊ねてくれ……護衛以外にも討伐を依頼したい時は是非ともよろしく頼む」

 

 それだけ言い残したスヴェンは次の集団に向けて歩き出した。

 そして広告紙束を全て配り終え、ミアが薦めた【ぺ・ルシェ】に立寄り適当な茶請け用のお菓子を幾つか購入してから新居に向けて歩んだ。

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