傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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17-9.必然的な再会

 遅めの昼食を終えてから一階事務室の家具配置を事務所らしく替え、必要な書類を作成し気付けば既に魔法時計が時刻十九時を指していた。

 書類作成に凝り固まった肩を解したスヴェンは、窓から見える月を見上げる。

 守護結界の上空で輝く星空と月の明かり。同じ夜空の筈が、なぜこうもテルカ・アトラスの夜空を見上げてしまうのか。

 考えても恐らく答えは出ない。自身の心境に変化が訪れたなら自ずと理解もできるが、未だ心の奥底で戦場を求めている。

 戦場こそが傭兵にとっての生きる場所であり居場所だ。しかしこの世界にはスヴェンが望む戦争が無い。

 無いからこそ自身は単なる世界のノイズでしかない。そんなことを考えても仕方ないのも事実だ。

 

「……気晴らしに外でも出歩くか」

 

 立ち止まって悩むなら外の空気を吸いながら依頼人を探した方が現実的だ。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 ガンバスターを背中に背負ったスヴェンが職人通りを適当にぶらつくと、聴き覚えの有る三人の声と若い少女の声が耳に届く。

 

「お姉さんはもしかして心配性なの?」

 

「一応三人の保護者なのよ、これでもね」

 

「エルナ、カノンさんも心配してわざわざジルニアから来てくれてるんだ。あまり無碍に扱うのもどうかと思うよ」

 

「えぇ〜? 無碍に扱ってないよ。外泊の許可は取ってるからこのままカノンお姉さんの部屋に厄介になろうと思ってるだけだよ」

 

「あ〜ボランティア活動のために外泊許可を取ったのは良いけど、まだ泊まる場所も見つけてないんだった」

 

「待ってエルナ、私の部屋はいま凄いことになってるからっ!」

「凄いこと? カノンお姉さんって真面目そうな顔して実は掃除が苦手なのかな」

 

「違うけどね、しばらく帰って無かったから大変なことなってると思うのよ」

 

 声の方向にそのまま進めば、ラピス魔法学院の青と白を基調とした制服を着こなしたラウルとジルニアで出会った二人組、そして騎士甲冑を装備した緑の長髪の少女--カノンと呼ばれたエルリア魔法騎士団の隊長がそこに居た。

 一応三人は顔見知りだが、既にカノン部隊長が対応してる。そこでわざわざ自身が話に入るのもお門違いだ。

 だからこそスヴェンは彼らの横道を歩くのだが、ラウルとエルナ、そしてロイの視線が向けられる。

 

「あっ! アニキ!!」

 

 ラウルの呼び声にスヴェンは足を止め、わざとらしく肩を竦める。

 

「……ラウルか、こんな所で奇遇だな」

 

「嘘だこのお兄さん、絶対面倒だから素通りしようとしたよ」

 

 エルナの視線にスヴェンは態度を変えず、眼を輝かせるラウルに視線を移す。

 

「アニキはジルニアからエルリア城まで旅行に?」

 

「いや、魔王が救出されたから帰って来たんだよ」

 

 嘘は言っていない。魔王が救出されたのは紛れもない事実で、エルリア城に帰還したのも事実だからだ。

 だがエルナには引っかかる点が有るのか、小首を傾げながらじっとこちらを見詰めていた。

 

「お兄さん……エルロイ司祭に会った?」

 

「奴となら旅の道中で遭遇したな……そう言えばジルニアに来てたらしいな」

 

 思い出したように呟けば、カノン部隊長の肩が僅かに強張った。

 スヴェンは彼女の僅かな挙動を見逃すことは無かったが、恐らく自身の死亡に関する事だ。

 

 --ミアは生きてることが既に周知されているが、俺はまだ死んだ扱いだったな。

 

 だから朝に出会った異界人も自身のこと知らない。いや、恐らく男の情報には興味が薄いのだろう。

 偽名を使うことも一瞬浮かんだが、自身の素性を詳しく知る人物はそう多くはない。

 死亡した異界人のスヴェンと同性同名が居ても特別不思議なことでも無い。

 

「私は貴方に謝罪しなければならない」

 

 今後の身の振り方を思案していたスヴェンにカノン部隊長が弱々しい声でそんな事を口にした。

 

「謝罪? その件は詳細を含めて姫さんからも聴いてるさ、改めてアンタが責任を感じる必要はねぇよ。それに結果的に事態は好転したわけだ」

 

「そうは言ってもね、私が納得しないのよ」

 

「カノンお姉さん……もしかして身体で払うの!?」

 

「えっ? この子は一体なにを言い出すの?」

 

 困惑を浮かべるカノン部隊長を他所にスヴェンはため息を吐く。

 別に死亡情報に関して最初から彼女に何かしてもらう気など無ければ、状況を利用したのはこちらも同じこと。

 

「状況を利用した結果、エルロイを一時的に撒けたんだ。それだけでもアンタの選択に間違いはなかったさ」

 

「……そう。そこまで言うならこの話は終わりにするけど、本当に何も要らないのかしら? 例えば部隊長権限でハリラドンを一頭譲ることもできるのよ」

 

 ハリラドン一頭にスヴェンは眼を見開いた。あの勇敢で圧倒的な脚力を誇る生物を一頭でも確保できれば依頼の効率が遥かに増す。

 それどころかわざわざ荷獣車に搭乗することも無く、外から脅威に備えることも可能になる。

 

 --姫さんに相談して一頭だけ買うつもりだったが、ここは渡りに船か。

 

 頭ではハリラドンの重要性を理解してるが、もうカノン部隊長に対してそこまでしてもらう義理が無い。

 

「渡りに船だが、ハリラドンは自分で買うさ」

 

「そう? それなら紹介状を渡すからエルリア城から北のハリラドン牧場を訊ねてみて」

 

 どうやらカノン部隊長も頭が硬い部類らしい。ここで招待状を断ったとしても彼女が引くことは無い。

 

「北のハリラドン牧場か……今度行ってみるか」

 

「えぇ、あそこのハリラドンはどの子も加速魔法を使える優秀な子よ」

 

 加速魔法を使えるハリラドンにスヴェンは、パルミド小国の首都カイデスに引き返させたハリラドンを思い出した。

 あの後無事にエルリア大使館に戻り、魔王救出後は一度エルリア城に転移魔法で帰され、現在は魔法騎士団預かりだと聴く。

 あの勇敢で優秀なハリラドンと近いかそれ以上のハリラドンが牧場に居るとなれば自然と期待感が膨らむのも無理はない事だった。

 

「お? アニキが期待してるのってなんか珍しいな」

 

「優秀なハリラドンは新しく始める商売に必要だからな」

 

「商売……アニキの商売ってどんなのなんだ?」

 

「簡単に言えば依頼人の護衛だな」

 

 スヴェンがラウルに答えると、彼は思案顔を浮かべては意を決した様子で顔を見上げた。

 

「アニキ! 新しい商売なら人手も居るよな! おれを使ってくれないか!」

 

 確かにミアからも相談されていた事だが、ラウル当人もやる気だ。

 しかし問題はタイミング良く依頼人が訪れるかどうか。

 

「確かに人手は必要だが、依頼はまだ入ってねえよ。そもそも野盗を殺すことも有る……その意味が理解できんのか?」

 

「それは、人の人生を……生きる時間や可能性も奪うことなんだよな。だけど必ず殺す必要も無いはず」

 

 迫り来る野盗を無力化する。それも確かに一つの手では有るが、事はそう単純にはいかない。

 野盗が積荷や金品を目的に人々を襲い、その過程で殺されても自己責任だ。だか中には割り切れず逆恨みする者も居る。

 その矛先が何処へ向くか、恨みを果たすために護衛に付いた自分やラウルに向けばそれで済む。しかし自己の欲求を満たすなら弱い無力な者を対象に選ぶ。

 わざわざ金を払い護衛を雇った依頼人。そして護衛期間が終わっていれば野盗にとって都合の良い状況だ。

 復讐の対象はそれだけに止まらない、自身とラウルに関わる全てが復讐の対処となり得る。

 ラウルをボランティアとして雇う事を断るには充分過ぎる理由--だが、コイツも自分なりに生き方を探してるなら……。

 

「……分かった、そこまで言うならボランティアって形で雇おう。ああ、しくじっても責任は俺が取るからその辺は心配すんな」

 

「やった! ボランティア期間中はアニキの手伝いができる!」

 

 これが他の生き方を提示できなかった責めてもの責任だ。

 同時に他にもラウルに相応しい生き方も有るだろう。そこに彼が行き着くかは彼次第だ。

 大喜びするラウルを他所にスヴェンはロイとエルナに視線を移す。

 

「で? ボランティア期間中っていつまでなんだ」

 

「うーん、私達は罪の贖罪も含めてるから社会貢献度で決まるかな。それにボランティア期間中でも授業には出ないとダメなんだ」

 

「ま、本来授業は学生の本分だからな。……となるとラウルを連れて遠出は無理だな」

 

「ラウル君はバカだから私とロイもサポートするよ」

 

「……おい、アンタらは確か異端の烙印の影響で戦闘に支障が出ると聴いていたが?」

 

「あ、それならさっきの話に戻るけど……ジルニアで遭遇したエルロイ司祭に異端の烙印を消して貰ったんだよ」

 

 エルロイが二人の異端の烙印を消した。彼の内面や思考に付いては何も知らないが、異端の烙印に思う所が有ったのか。それとも永年生き続ける間に世代の成長を見守る老婆心ゆえか。

 魔法が使える元邪神教団の信徒、二人から改めて穏健派と過激派に付いて聴くのもありだが、しかしそれでは未成年の子供を三人も抱えることになる。そうなればおのずと事務所の評判にも関わることに……。

 スヴェンは期待感に眼を輝かせるラウル達に頭を悩ませ、

 

「……私が頼むのはお門違いかもしれないけど、3人をお願いして良いかしら?」

 

 カノン部隊長の頼みに顔を顰めた。

 

「アンタも既に聴いてるかもしれないが、俺は人殺しに躊躇が無い外道だぞ? そんな外道の下にガキ共を預けるってのは如何なんだ」

 

「そのことも含めて姫様とミアちゃんから聴いてるわ。スヴェンは絶対に同行者に殺しをさせないってね」

 

「……まさかとは思うが、姫さんから俺の商売に関する詳細を既に聴いてたか?」

 

「えぇ、もちろん騎士団全体で共有されているわよ」

 

 スヴェンは悟ってしまった。エルナとロイも纏めて面倒を見なければ後々面倒になると。

 その証拠に断れば面倒を起こす気満々の眼差しをしているエリナとそんな彼女に苦笑を浮かべるロイが居る。

 

「分かった、こうなれば面倒な事務仕事も振ってやる」

 

「おお〜これで私達もボランティア活動開始できるね、ついでに私達の宿泊先も確保!」

 

「……確かラピス魔法学院は寮制だろ? 距離も遠くはねえんだから通いでいいだろ」

 

「宿泊も社会勉強だってワイズ教授が言ってた」

 

 ラウルの言葉にスヴェンはなるほどと理解を示し、三人の空腹を告げる腹の音に一先ずカレン部隊長と別れ酒場で遅めの夕食を食べることに。

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