傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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18-2.牧場のハリラドン

 八月三日の朝、スヴェンは一階事務室のソファで目を覚ました。

 テーブル越しの向かいのソファで眠るラウルとロイにため息が漏れる。

 ラウルとロイ、そしてエルナの宿泊を許可した結果、自室のベッドをエルナに占拠された挙句の果てに部屋のドアは魔法でロックされ、まだ寝室の用意も完了しておらず仕方なく事務室のソファで眠ることに。

 

「早めに三人分のベッドを用意しておくか? いや、ボランティア期間中の辛抱と思えば……」

 

 廊下から響く足音にスヴェンはドアに視線を向ければ、肌蹴たワンピースのまま眠たげなエルナが事務室に入って来た。

 

「クソガキ、洗面所は2階の浴室だ」

 

 顔を洗って眼を覚ませっと遠回しに告げるもエルナは眼を擦りながら辺りを見渡す。

 完全に寝惚けて正常に思考が回っていない。その状態で朝から騒がれても面倒に感じたスヴェンはソファから立ち上がり、脱いでいた上着を着直す。

 

「ん〜? コーヒーはどこぉ?」

 

「コーヒーも2階のキッチンだ」

 

「お砂糖とミルクたっぷりのコーヒーが飲みたいなぁ〜」

 

 眠気覚ましにコーヒーを飲むのも悪くない。

 廊下に向けて歩き出すと、ラウルとロイが欠伸を掻きながら起き上がり--そして肌蹴たエルナと目が合う。

 彼女の姿に面食らうラウルを他所に慣れた様子のロイが『またか』と言わんばかりにため息を吐く。

 

「エルナ、凄いことになってるから服装正したら?」

 

「う〜ん? ……ありゃりゃ、これは酷いねぇ」

 

 漸く自身の服装を直したエルナはまだ面食らうラウルに手を振って見せるが、依然として彼から反応が無い。

 寝起きで子供の裸蹴た姿を見た所で何も思わないが、同い年のラウルにとって些か刺激が強すぎたようだ。

 その反面、同じ場所で過ごしていたロイは特にこれと言って反応が無い。むしろ手のかかる妹を見ているような眼差しだ。

 

「ダメだね、完全に思考停止してる……女の子のパンツ見て思考停止って如何なのかな? ねえお兄さん」

 

「如何でも良いが、今は同居中なんだ。アンタも一応気を付けろよ」

 

「お兄さんは無関心、ロイは慣れてるから感心が無い。でもラウルは初心だから刺激が強すぎるかぁ……うん、次からは気を付けるよ」

 

「そうしてくれ、で? コーヒーは飲むのか?」

 

「お砂糖とミルクたっぷりの甘いコーヒーなら飲むよ」

 

「こっちは普通のコーヒーで」

 

 二人の注文を受け取ったスヴェンは二階のキッチンに足を運ぶ。

 キッチンに足を運んだスヴェンはコーヒーと軽い軽食も用意し、三人を呼んでからラウル達と早めの朝食を摂った。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 留守番をラウル達に任せたスヴェンはカノン部隊長から受け取った紹介状を懐に、エルリア城から北に位置する農村フェナンスに到着していた。

 一面に広がる麦畑と大量のハリラドンが駆け回る牧場と夏の日差しにスヴェンは眼を細める。

 食糧の買い付けに訪れた商人や村人が往来する道を真っ直ぐ進み、

 

「まただ……また夜中に通り魔の被害がっ」

 

「フィルシス騎士団長が帰って来たから事件は収束すると思うけど、犯人は捕まって欲しいわね」

 

 通り魔の噂とフィルシス騎士団長の帰還を耳にスヴェンは真っ直ぐ歩く。

 

「昨日はヘッロー兄弟が捕まったけど、なんだか最近犯罪が増えてない?」

 

「野盗のヤバい奴もエルリアに入って来たって情報も有るしなぁ……でも魔王様が人質に取られるよりはマシなのかねぇ」

 

 魔王救出からそう時間が経過した訳では無いが、急増した犯罪行為にスヴェンは思案した。

 稼ぎ時でも有るがボディーガード・セキュリティが多くの顧客に求められる時、それは魔法大国エルリアの秩序が低下したということになる。

 そうなる日はきっと訪れないだろう。訪れたとしても一時的なもので、帰還したフィルシス騎士団長やラオ副団長がすぐに取り締まる。

 ハリラドン牧場の前で足を止めたスヴェンは、作業着の従業員に声をかけた。

 

「すまないが、ハリラドンの購入はここで良いのか?」

 

 従業員はこちらに振り向き、

 

「おう! 購入はこっちで受け付けてるが紹介状は持ってるか?」

 

 紹介状を求められた。懐からカノン部隊長から譲り受けた紹介状を従業員に手渡し、彼はすぐさま中身を拝見する。

 拝見した従業員の表情が意外そうな眼差しに変わり、

 

「おお、カノンの嬢ちゃんが紹介状を贈るなんて珍しいことも有るんだな……となると騎士団御用達のランクB以上のハリラドンか」

 

 ランクが記されたプレートを首をぶら下げるハリラドンを指差される。

 どれも勇敢な面構えで脚力に自信が有るっと牧場の芝生を踏み抜く。

 どれを選べば良いのか判断に迷うが、値段で妥協する訳にもいかず。

 

「ハリラドンを選ぶ基準ってのは有るのか?」

 

「お〜初めての購入者はそこで迷うよなぁ。旦那から学んだことなんだが、騎乗なら体格と脚。荷車の牽引なら体格だな」

 

 今回欲しいのは騎乗用のハリラドン。そうと決まれば選ぶべきは大人と子供あるいは大人が二人乗れ、ガンバスターを振り回しても問題ない体格を持つハリラドンだ。

 スヴェンは群れの最奥に居る黒いタテガミのハリラドンに目を向けた。

 体格も申し分なく中々人に懐きそうに無い--ハリラドンの中でも異彩を放つ個体にスヴェンは指差す。

 

「あの黒いタテガミのハリラドンは?」

「あれは確かに優秀な個体なんだがな、人に懐かず背中に乗せることも嫌う……いや、人嫌いの珍しいハリラドンだな」

 

「勇敢で人懐こい印象だったが、その辺も個体ごとに違いが出るのか」

 

「まあ、あそこまでの変わり種は珍しいけどな」

 

 人嫌いで護衛を蹴り飛ばさないかっという懸念も有るが、脚力が他よりも勝るなら購入すべきか。

 

「あの黒いハリラドンを買いたいが、競争させても?」

 

「構わないけどよ、お前さんが騎乗できるならな」

 

 スヴェンは柵を飛び越え黒いハリラドンに歩き進む。

 こちらの接近を察知した黒いハリラドンは前脚を握り、鋭い目付きで警戒心を顕に唸る。

 その様子はまるでアーカイブで閲覧した手負いの狼を彷彿とさせるが、スヴェンは黒いハリラドンの睨みに対し鋭い目付きで睨み返す。

 しばし睨み合い、風が芝生を撫でる。それが十分程度続いた頃、漸く黒いハリラドンが背中を見せた。

 

「ほぉ〜そいつが自分から背中を見せるとはなぁ! 何か通じる所が有ったのかねぇ」

 

 互いに馴れ合わない体格が通じたのか、黒いハリラドンの考えることなど理解は難しい。

 それでも背中を向けられたなら黒いハリラドンは騎乗を許したということ。

 旅の途中でミアから聴いていたハリラドンに関する知識が役立つ。しかし、肝心の騎乗や手綱の握り方だけは教えてはくれなかった。

 

「騎乗経験がねえんだが、その辺もレクチャーしてくれるか?」

 

「? 騎乗の仕方はラピス魔法学院なら必ず習うはずだが……ああ、パルミド小国かドラセム交響国から来たのか」

 

 勝手に一人で納得してくれる従業員にスヴェンは何も答えず、ただ肯定するばかり。

 彼は仕方ないと手綱と鞍を手渡し、黒いハリラドンに取り付けるように告げた。

 言われた通りに手綱と鞍を手早く取り付け、片足に鎧をかけ背中に跨り手綱を手に持つ。

 その感覚はどこかメルトバイクに近く、感覚のままに試しに黒いハリラドンの鎧を蹴る。

 すると黒いハリラドンが歩き出し、別のハリラドンに騎乗した従業員が並走した。

 それが黒いハリラドンの癪に触ったのか、徐々に加速をかけ芝生を駆け出す。

 中々の速度だが、メルトバイクの方が圧倒的に速い。

 

 --体感で時速八十キロ、それにあわよくば振り落としてやりたいって意志を感じるな。

 

 騎乗させた人間を振り落とす意志と他を並ばせたく無いという気概を感じたスヴェンは手綱を握り締め、

 

「やれるもんならやてみろ」

 

 黒いハリラドンに静かに告げた瞬間、速度を上昇させ時速が百二十キロに瞬く間に到達する。

 黒いハリラドンは円周の牧場を一周し、従業員を乗せたハリラドンを追い越す。

 スヴェンは黒いハリラドンの速度に満足していた。騎乗者を考慮しない加速と隙あらば振り落とす気概もなおさら気に入る要因だった。

 握った手綱をミアと同じように引っ張ることで黒いハリラドンが徐々に速度を落とす。

 芝生に降りたスヴェンは彼に視線を向ける。この個体は人嫌いに加えて人に飼い慣らされることを良しとしないプライドの持ち主だ。

 

「気に入った、アンタは俺が飼うことにする……いや、ここは互いに共生と行こうじゃねえか。仕事の成功に俺はアンタに美味い餌を与える、アンタは俺を騎乗させるだけ良い。悪くねえ提案だろ?」

 

 人の言語を理解している黒いハリラドンが頷き、従業員が驚いた様子で近寄った。

 

「ハリラドンは人に従うことを極上とするんだが、まさか共生を選ぶなんてなぁ。よし! ソイツを銀貨50枚で譲ろう!」

 

 スヴェンは予め用意していた銀貨二百枚入った金袋から銀貨五十枚を取り出した。

 代金を受け取った従業員は黒いハリラドンのプレートを外し、小屋へ駆け出す。

 何事かとしばし見詰めれば、ずた袋を担ぎ戻って来る。

 

「こいつはサービスの餌だ。1日に2食、バケツで一杯な」

 

「おう、餌は何処で買えば?」

 

「エルリア城下町なら雑貨屋でも扱ってるさ。ただ美味い餌となればアルセム商会から取り寄せだな」

 

 アルセム商会の名に一瞬だけ眉が歪む。個人的にあまり接触したくない大商会だが、スヴェンはヴェイグが不在のままなら利用するのも有りだと思い直す。

 ずた袋を従業員から受け取ったスヴェンはそのまま黒いハリラドンに跨り、彼を自宅に向けて走らせた。

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