傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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18-3.依頼の訪れ

 スヴェンは自宅のハリラドン用の小屋に黒いハリラドンを入らせ、自宅の玄関のドアを掴むとラウル達以外の気配が事務室から感じる。

 依頼人ならそれで良し、近所の住人ならご近所付き合いは面倒では有るがそれも良し。

 玄関のドアを開け、そのままの足取りで事務室のドアを開け--なぜかスヴェンのサングラスを装着し制服に着替えていたエルナと、彼女の両脇を固めたロイとラウル。そしてそんな三人に困惑とは別に何かに対する恐怖心と不安の感情を見せ、鞄を大事そうに抱える若い男性の様子にスヴェンは眩暈に襲われた。

 

 --クソガキ共に留守を任せたのが失敗だったか?

 

 スヴェンは己の失態に内心で舌打ちし、一度二階のキッチンに向かい紅茶を淹れてから茶請け用のお菓子と共に事務室に戻り若い男性の前に差し出した。

 

「茶請けも出せねえアホどもで済まないな」

 

「あ、いやぁ、中々にユニークな……従業員? で良いのかな?」

 

「……ラピス魔法学院の実地ボランティアの生徒達だ」

 

「あぁ、そういえばもうそんな季節だったね」

 

 若い男性は差し出した【ペ・ルシェ】のクッキーをひとつまみ。ほんのりと口に広がるハチミツとバターの味に若い男性は顔を綻ばせ、紅茶に一口付ける。

 スヴェンは彼がティーカップを置いたタイミングを見計らって訊ねた。

 

「それで、今回はどんな要件で?」

 

 若い男性は先日配った広告紙を取り出し、何かを恐れている様子でゆっくりと口を開く。

 

「しょ、紹介が遅れたね、ぼくは考古学者のルドマンだ」

 そう言って彼は身分証を差し出した。考古学者にしか持つ事を許されない絶対的な身分証にスヴェンは視線を向けた。

 名、生年月日、そして所属のメルリア考古学研究所と記されていた。

 

「えっと、この広告紙に書かれている通りにぼくの安全を保証してくれるのかい?」

 

「何に怯えているかは知らないが、先ずは詳しい話を聞きたい……そうだな、何処まで護衛して欲しいだとか、期限や何に怯えているのか。原因に検討が付かないなら直近で起きた身近なことでも良い」

 

「そ、そうだね。まずぼくをメルリア考古学研究所まで護衛して欲しい。そこまで行けばぼくが発掘した古代遺物を然るべき安全な場所に保管できるからね」

 

 遺跡の町と呼ばれるだけあり、メルリアは遺跡に関連した施設も多い。前回の旅では目的を最優先にしていたため考古学研究所や古代遺物管理所に立ち寄ることはなかった。

 怯えた様子を見せたのは古代遺物を狙う野盗に対して、そこで一つ解せないのは何故エルリア魔法騎士団を頼らないかという点だ。

 本来なら古代遺物をはじめとした研究価値の高い物はエルリア魔法騎士団を経由して安全な場所に運ばせた方が確実、それができない立場に居るのか、何か別の理由が有るのか。

 

 --恐らく騎士団に頼れない事情があんだろう。

 

 スヴェンはルドマンの眼を真っ直ぐに見詰めながら確認するように訊ねる。

 

「メルリアの考古学研究所……古代遺物を狙った連中から身を護って欲しいと解釈して良いんだな?」

 

「……えぇ、コレを狙う野盗やあらゆる勢力から護って欲しいんだ」

 

「あらゆる勢力……ソイツの中に騎士団が含まれねえなら依頼として請けるが?」

 

「騎士団を含むって、そんな馬鹿な真似はできないよ」

 

「ほんの冗談だ……エルナ、悪いが引き出しから書類を出してくれないか?」

 

 エルナに頼むと彼女はリビングの引き出しから書類を取り出す。

 

「はい、こっちが契約書類だよ。契約事項に眼を通してから下の項目に護衛、目的地、提示する報酬金、最後に署名にサインを書いてね」

 

 昨晩少しだけ契約書類に関する内容をエルナ達に教えはしたが、彼女は書類に眼を向けることなくルドマンに説明した。

 物覚えが良いならこのままボランティアとして置いても良さそうだ。

 

「……えっと、要約すると金を払えば護衛として雇われる。その代わり依頼主の身の安全は責任持って護り、万が一負傷した場合、あるいは護り通せなかった場合は遺族に対して依頼金の返還及び賠償金を支払うと」

 

 ルドマンは敢えて口に出さなかったが、契約事項の最後の項目にはエルリアに対する敵対行為が露呈した場合やこちらを裏切った時はそれ相応の対応をすると記載して有る。

 

「腕にはそれなりに自信は有るが、モンスターや野盗を相手にした戦闘に絶対は無いからな……ま、最後に記されている契約反故を働かない限りは何が何でもアンタを護るさ」

 

 最後の言葉にルドマンは安堵したのか、契約書類に羽ペンを走らせる。

 

「あれ? アニキはこの人を何に乗せて行くんだ?」

 

「たいして荷物がねえならハリラドンの背中に乗せるが……」

 

「あぁ、その辺のことは大丈夫。ぼくも考古学者であちこち旅をするから自前の荷獣車が有るんだ」

 

 それなら話は簡単だ。荷獣車の中にラウル達を同行させ、自身が外から黒いハリラドンと共に並走すれば外からの襲撃に対応しやすい。

 護衛道中に農村フェナンスで目撃された通り魔と遭遇しないことを祈るばかりだが、スヴェンはあらゆる脅威に対する警戒を胸に、

 

「それならアンタの荷獣車にコイツらを乗せ、俺は外から護衛を務める……それで、出発時刻は如何する? 今から出発すれば夜にはメルリアに到着する予定だが」

 

「いや、今日はエルリア城下町で……そ、その待ち合わせが有ってね」

 

 頬を赤らめ気恥ずかしそうに語るルドマンにスヴェンは察した様子で頷き、彼が書き終えた契約書類を受け取る。

 そしてスヴェンは契約書類に不備が無いか眼を通してから最後に報酬金に視線を落とした。

 エルリア城からメルリアまでの片道護衛、あらゆる危険が予測されるが銀貨十枚は妥当な報酬金だ。

 ルドマンは初回の依頼人で最初の依頼人でも有る。今後の顧客獲得の為に報酬金を下げるべきだ。

 

「アンタはボディガード・セキュリティ開業始まって以来の最初の依頼人だ、報酬金は銀貨五枚で構わない」

 

「えっ! 半額でいいの!?」

 

「あぁ、その代わり依頼が成功したら宣伝の方をよろしく頼む」

 

 スヴェンは受諾書類の必要項目に羽ペンを滑らせ、次にルドマンが保管すべき依頼人控え書に羽ペンを滑らせた。

 

「よし、コイツをアンタの方で控えてくれ。それが俺とアンタとの間で書類上の契約を交わした証拠品だ」

 

 お互いに書類を保管し合うことで行き違いを防ぐことに繋がる。

 書類を鞄に閉まったルドマンは、

 

「報酬の受け渡しは後払いで良いんだったよね?」

 

 確認するように訊ねた。

 

「報酬金の半分を前金として要求することも有るが、今回の場合は成功時の払いで問題ない」

 

「分かった。それじゃあ明日の7時に正門で!」

 

 安心したのかルドマンは怯えた様子が嘘のように、軽やかな足取りで立ち去った。

 スヴェンが書類をまとめ、三人から向けられる視線に顔を向ける。

 

「なんだ?」

 

「お兄さん、私達の仕事があんまり無かった」

 

「明日から労働が始まるんだが、それじゃあ不服か?」

 

 働く意欲が有るのか、ラウル達は頷いてみせた。

 意欲が溢れるのは結構だが、それよりも三人には最初に学ぶべきことが有る。

 

「……そうだな、次に依頼人が訊ねて来たら飲み物と茶請けを忘れずに」

 

「分かった。他にすることは?」

 

「あとは明日に備えるだけだ……さて、必要になりそうな医薬品の買い出しに行くか」

 

 護衛を含めた五人分の医薬品と夕飯の食材を買うためにスヴェンは、ラウル達を連れて市場に出向くのだった。

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