傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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18-4.護衛の影に

 翌朝の七時前、エルリア城下町の正門でルドマンと合流したスヴェン達は荷獣車にラウル達を乗せ、自身は黒いハリラドンに跨り手綱を左腕で握る。

 

「それじゃあ出発しやすよ」

 

 御者がハリラドンの荷獣車を走らせ、スヴェンも後方に付くように黒いハリラドンを走らせた。

 晴れ渡った青空とメルリア方面に続く街道に出たスヴェンは、北の方角から感じる殺意と悪意に息を吐く。

 視線を向ければ土煙を撒き散らしながら集団が移動してる様子がここからでも見える。

 スヴェンは黒いハリラドンを走らせながらサイドポーチから万眼鏡で北の方角を覗き込む。

 身なりの悪い十名の野盗、いずれも痩せたハリラドンに騎乗しているが問題は、紅いフードで顔を隠し血に汚れた大鎌を担いだ人物だ。

 土煙と紅いフードで顔は見えないが、歪んだ口元ははっきりと見える。あの手合いは血に飢えた渇きを満たすために人殺しを躊躇わない。おまけに既にこちらに対して紅いフードは警戒心を向けながら魔力を全身に巡らせている。

 幸いにも注意すべきは紅いフードだけで、十名の野盗はクロスボウを所持しているが、ハリラドンの速度で正確に狙いを定めるのは難しい。

 スヴェンは黒いハリラドンを荷獣車に近付けさせ、荷台の壁を三回叩く。

 事前に決めた合図の方法、敵を早期に発見した場合の合図を受けたラウル達が動く音が荷獣車の中から僅かに響いた。

 

 --さて、問題はどのタイミングで仕掛けて来るか。

 

 狙いはルドマンの古代遺物ならメルリアに到着する前に確実に、だがまだエルリア城から離れて居ないこの位置で仕掛けて来ることも無い。

 殺人の証拠を手っ取り早く隠滅するから守護結界領域を抜けたモンスターの生息地域だ。

 つまり敵が距離を縮め、仕掛けて来るのは一時間後。よほど気の早い馬鹿でなければの話だが。

 同時にスヴェンは周囲に視線を向ける。敵の獲物は何もルドマンだけでは無い--他にも街道を走る行商人や旅人の荷獣車やハリラドンも野盗の標的に入るだろう。

 スヴェンが思案していると荷獣車の窓から顔を覗かせたラウルが、

 

「アニキ! 魔法の準備はいつでも!」

 

 こちらにだけ聴こえる声量で伝えた。備えは上々とも言えるが、あの紅いフードだけは一筋縄では行かない--傭兵としての直感にスヴェンはラウルに伝える。

 

「野盗は十人だが、その中に居る紅いフードのヤツだけには最大限警戒しておけ」

 

「敵は全員で11人か。それなら油断してる隙に先手を取るのはどう?」

 

「いや、紅いフードのヤツは既に警戒態勢だ。恐らく魔法も警戒してるだろうよ」

 

 スヴェンがラウルに告げれば、彼の頭を押し退けてエルナが顔を見せた。

 

「でもさ、結構距離が開いてるのにどうやって追い付くつもりなんだろうね」

 

 エルナは既に予測が付いた上で質問している。

 

「そうだな、考えられるとすれば守護結界領域ぎりぎりの位置で待ち伏せか……それか単純にハリラドンの加速魔法だな。アンタの考えは如何だ?」

 

「うーん、あらゆる方法を模索したけど無名の野盗ができることってせいぜい戦力を分担した待ち伏せありきだと思うんだ。それに資金面も考えれば痩せてるハリラドンに加速魔法を使わせるのは自殺行為だね」

 

「待ち伏せが前提……スヴェンなら如何するんだ?」

 

 敵が西の方角で待ち伏せしてるなら対処は簡単だ。黒いハリラドンの足なら南西に迂回し、待ち伏せの背後を強襲する。

 だが、問題は外から護る護衛が一人だけ。そして紅いフードは自身の移動に間違いなく気付く。

 

「コイツの脚前提になるが強襲を仕掛け、荷獣車の進路を確保する……俺が一時的に離れるその間、アンタらは北側の野盗共が距離を縮める素振りを見せたなら魔法で構わず牽制しろ」

 

「なるほど、スヴェンなら強襲を選んで逆に敵の意表を突く。そして混乱してる隙に荷獣車を突破させるんだな」

 

 ロイの言葉にスヴェンは無言で頷く。

 敵に強襲を仕掛ける以上、敵はどうあっても殲滅する。スヴェンは一度御者に近寄り、先の様子を見て来る趣旨を伝えてから南西に向けて黒いハリラドンを走らせる。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 街道を南西から大きく迂回し、守護結界領域外からモンスターの生息地域に入ったスヴェンはそのまま黒いハリラドンの速度に任せ、北西の位置に向かう。

 するとエルナの読み通り二十人の野盗がハリラドンに騎乗しながら得物を片手に、

 

『古代遺物とルドマンの首、合わせていくらだっけか?』

 

『古代遺物が強力な物なら大金貨、ルドマンの野朗は銀貨400枚の首だったな』

 

 スヴェンは野盗の会話を耳にガンバスターを引き抜く。そして黒いハリラドンに近付く様に手綱を握れば、意図を察したのか手綱で指示を出す前に黒いハリラドンが減速せず野盗の集団に向かう。

 利口な判断にスヴェンは上出来だと笑みを浮かべ、ガンバスターを構える。

 距離が徐々に近付く中、黒いハリラドンの足音に気付いた野盗の一人が頭だけ動かすー-だが、スヴェンは黒いハリラドンを足場に跳躍した。

 誰も騎乗していない黒いハリラドンを視界に移した野盗の一人が首を傾げ、

 

「脱走したハリラドン、か?」

 

 跳躍したスヴェンが標的に向けてガンバスターを構える。

 そして落下速度と共にスヴェンは刃を一閃することで野盗の一人を頭部から肩にかけて斬り裂く。

 刃が風を斬る鋭利な音、地面に着地する音。そして舞う血飛沫に十九人の野盗がスヴェンを視認した。

 突如仲間が殺され、いつ接近していたのか。疑問と混乱に惑う集団にスヴェンがゆらりと動く。

 地面を縫う様に駆けたスヴェンは手近な野盗に一閃放ち、胴体を斬り裂き、血飛沫が舞うよりも速く次の得物との距離を縮める。

 騎乗した野盗に跳躍し、すれ違いざまに首を斬り落とす。

 三人殺したところでハリラドンが主人を護るために痩せた体を無理に走らせ始めた。

 

 --やはりハリラドンは勇敢だ、おまけに主想いとは俺なんざよりも遥かに上等な生き物だな。

 

 スヴェンは近寄る黒いハリラドンの背中に飛び乗り、走り出す野盗とハリラドンを追う。

 対して間隔を空けない密集した陣形にスヴェンは口元を大きく歪ませた。

 

「野郎を殺せ! 魔法とクロスボウの雨を奴に味合わせろ!」

 

 一人の野盗の怒号に一斉に詠唱を唱え、クロスボウを向けられる。

 クロスボウのボルトに炎が纏い、野盗が引き金に指をかける。

 スヴェンはガンバスターの銃口を向け、躊躇なく引き金を引く。

 

 ズドォォーーン!! ズドォォーーン!! ズドォォーーン!! 

 三発の銃声と共に放たれた.600LRマグナム弾が先頭に居た三人の野盗を貫き、貫通した弾頭が後方の野盗を更に三人抜きする。

 九人の肉片が地面に崩れ落ち、肉片と血糊に足を滑らせたハリラドンが周囲を巻き込んで転倒した。

 野盗の叫び声とハリラドンの悲痛な鳴き声に混じった骨が砕ける音が街道の空に響き渡る。

 十二人仕留め、残り八人。.600LRマグナム弾の残弾は昨日届いた分を含めて四十発だ。

 だが、もう銃弾を使う必要は無いだろう。ハリラドンの転倒に巻き込まれた全員が既に立ち上がれない。

 クロスボウのボルトに纏わせた魔法も不測の事態によって消滅しているが、まだ腕を動かせる野盗がクロスボウを構える。

 

「く、来るなぁ……来るなぁァァ!!」

 

 一人の野盗が絶叫混じりにクロスボウの引き金を引き、ボルトが飛来する。

 銃弾よりも遥かに遅いボルト。ゆえにスヴェンはボルトの柄を左腕で掴み、それを撃った野盗に投擲することで返す。

 ボルトは野盗の額に吸い込まれる様に突き刺さり、また一人地面に斃れる。

 スヴェンはガンバスターを構え、残り六人に対し無感情のまま斬り裂く。

 地面は死体と肉片と鮮血に汚れ、転倒によって骨折したハリラドンの呻き声--そして恐怖によって悲鳴を叫ぶ野盗とそんな彼に近付くスヴェンがその場に残った。

 スヴェンは後退りする野盗の頭部を掴み、

 

「さて、アンタらの目的は?」

 

 冷徹な声で問う。

 

「は、話すから殺さないでくれ!」

 

 スヴェンは敢えて何も答えず、無言で野盗を睨む。

 

「お、俺達の目的はルドマンの首と古代遺物の回収と売買……他にも略奪を目的にしてる」

 

「ルドマンと古代遺物を狙う理由は?」

 

「あ、アイツは野盗の間で懸賞金がかけられているんだ……く、詳しい理由は知らないけどよ」

 

「本当に知らねえのか?」

 

「ほ、本当なんだ! 本当に何も知らない! ただ俺達は金欲しさに襲撃を計画しただけで、それ以上のことは!」

 

「なるほど……なら質問を変える。紅いフードはアンタらの仲間か?」

 

「あ、アイツか。アイツは不気味な奴で、でも腕が立つから今回だけ手を結んだだけで……素顔も知らないんだ」

 

「……ヤツとはいつ合流したんだ?」

 

「えぁ? さ、昨晩だ。キャンプ地に現れてこう語ったんだ『ここ数日、エルリア城付近で人を斬り続けた。如何だ? 未だ騎士団に捕まっていないワタシと手を組むのは?』ってよ」

 

 農村フィナンスで多発した通り魔事件の犯人が紅いフードなら疑問が一つだけ湧く。

 なぜ血に飢えた様子を見せながら誰一人として殺害してないのか--いや、ミアの優秀な治療魔法なら間に合えば死者を出さないことも不可能じゃねえな。

 エルリア城に急増した負傷者に付いて思案したスヴェンは、上擦った野盗の声に耳を傾ける。

 

「な、なぁ……質問には答えたんだ、俺を見逃してくれるよな?」

 

 聞くべきことは聞いた。ならこの男にはもう要は無い。

 だからと言って依頼人を狙う人物を見逃す理由にもならない。

 スヴェンは野盗の頭部から腕を放し、尻餅付いた彼に刃を一閃放つ。

 血飛沫を噴き出した首の断面図、地面に転がり落ちた頭部にスヴェンは目も向けず待機していた黒いハリラドンの騎乗し、そのままルドマンが乗る荷獣車に向けて走らせた。

 死体の山に群がる大鴉と地面でもがくハリラドン達を背後に……。

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