傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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19-4.不在者

 スヴェンとフィルシスが鍛錬を開始した頃。

 レーナは公務の合間を取ってミアを連れ、レヴィとしての装いで楽しげな足取りでスヴェンの自宅を訪ねていた。

 庭に視線を向ければ、何処となくスヴェンを彷彿とさせるいかにも人に懐きそうにも無い黒いハリラドンが当てがられていた干し草を食べながらこちらを睨む。

 

「うーん、旅を共にしたあの子と比べて可愛げが微塵もないなぁ。というかスヴェンさんに何処か似てるよね」

 

「ペットは飼い主に似るとはよく言うけど、人に心を許しそうにないところが本当に似てるわ」

 

 なぜ彼がハリラドン牧場から黒いハリラドンを選んだのかは、恐らく脚力や性格を選んだのだろう。

 なんとなくそう理解したレーナはドアを軽く叩く。

 しかし、スヴェンは寝てるのか不在なのか返事が返って来ない。

 三分ほど待てどもドアは依然と開かれることも無く、ただ沈黙が続くばかり。

 

「……不在なのかしら?」

 

「現在時刻は8時40分……早くからスヴェンさんに依頼がきてたのかな」

 

「商売が上手くいってるなら喜ぶべきだけど……」

 

 レーナは念の為にともう一度ドアを軽く叩いた。

 しばし待てども一向にスヴェンが現れる様子も無く、仕方なく踵を返す。

 

「スヴェンが不在じゃ仕方ないわね」

 

「ラウル君達に頼む訳にもいかないしね、というかスヴェンさんならあの子達を関わらせようとはしないかも」

 

「スヴェンなら危険が伴う依頼には連れて行かないわねぇ」

 

 これから自身がスヴェンに出す依頼もまた危険が伴うことに変わりはない。

 ミルディル森林国の件はなるべくエルリア魔法騎士団や特殊作戦部隊で片付けたいが、敵が敵なだけにあらゆる油断も許されない。

 オルゼア王とも話し合ったが、リーシャを無事に救出しつつ封印の鍵が邪神教団に渡ることは防がなければならず。

 それに加え、シャルルと偽りの婚約を結ばないように立ち回りつつ時間を稼がなければならない。

 ミルディル森林国の入国手続きが完了するまでまだ数日の猶予は有るが、それまでにアルディアと片付けておきたい公務も有る。

 路地裏を歩きながらそんなことを考えていると。

 

「あれ? ……レヴィだぁ! なんだか久しぶりに会うね!」

 

 道端で荷物を抱えたエリシェとばったりと再会し、彼女はこちらに微笑んでいた。

 そんな彼女にレーナはレヴィとして笑みを返し、

 

「フェルシオン以来だから久しぶりね、エリシェ!」

 

 友人として抱擁するとエリシェは驚きながらも受け入れてくれた。

 自身の正体を未だ隠しているというのにエリシェは気にした様子も見せない。そのことに罪悪感が湧き立つが、時期を見て正体を明かすことも躊躇してしまう。

 正体を明かし、友人から王族のレーナとして接されるのが今では堪らなく怖いのだ。

 友人との距離感が離れてしまうような感覚がレーナに正体を明かすことを躊躇させる原因だ。

 

「およ? 何か悩みでも有るのかな」

 

「些細な悩みよ。ところで今から何処かに出掛けるところかしら?」

 

「注文を受けていたクロミスリル製のナイフを納品しにすぐそこ……って路地裏から出て来たってことはスヴェンを訪ねに?」

 

「そんなところよ、ただ今は留守のようね」

 

「そっかぁ、用事が入らない限りは家に居るって言ってたけど……合鍵で荷物だけでも置いて置こうかな?」

 

 エリシェから語られた合鍵にレーナとミアの身体が硬直した。

 いつの間に合鍵を任される程の仲になったのか、いやスヴェンのことだ。長期不在を視野に入れて近くに住むエリシェに頼んだ可能性の方がずっと高い。

 レーナが冷静に思案するとミアがエリシェに訊ねた。

 

「そういえばそんなやり取りが有ったね……じゃあスヴェンさんが何処に行ったか知ってる?」

 

「うーん、知らないけど……あっでも朝早くからフィルシス騎士団長が父さんを訊ねて来たよ」

 

 フィルシスの名にレーナは嫌な予感に額から冷や汗が流れ始めていた。

 彼女は帰還時の報告でスヴェンと少し手合わせがしたいと言っていたが、フィルシスの少しは全く当てにならない。

 むしろフィルシスがスヴェンを気に入れば、彼女は様々な技術や魔力操作と応用を教えるだろう。

 結果的にスヴェンが強くなることは喜ばしいことだが、フィルシスが付きっきりでというのは何処か面白くないようにも思える。

 

 ーー待って? まだそうとは決まった訳じゃないのに、私は如何して面白くないって感じたのかしら?

 

 自身の感情に困惑を浮かべたレーナはこちらを覗き込むミアとエリシェの視線にハッと気付き、毅然とした態度で視線を返す。

 

「フィルシスって歴代最年少のエルリア魔法騎士団長かしら?」

 

 あくまで恍けるように疑問を口にすればエリシェは静かに頷く。

 

「そのフィルシス騎士団長だよ。学生時代から父さんの常連だっては聴いていたけど……すっごい美人だよね!」

 

 眼を輝かせながら憧れを口にするエリシェに二人は同時に顔を見合わせた。

 

「「分かる」」

 

 フィルシスは胸こそ自分とエリシェよりやや大きい程度だが、鍛え抜かれた美貌と芸術的なプロポーションに加えてまだあどけなさを残す顔立ちがより美しさを際立たせていた。

 そして何よりもフィルシスは強過ぎた。実の所彼女が扱える魔法は日常の生活に応用が効く汎用性の高い魔法ばかりで、強力な魔法は一つしか修得していない。

 していないがその魔法を使う前にフィルシスの剣技の前に決着が付くか、そもそもあんな大規模破壊魔法を何処で使うのかと問われれば誰しもが首を傾げるだろう。

 

 ーー竜王と契約した私が言えたことじゃないけど、使い道に困る魔法も考えものね。

 

 レーナがそんなことを内心で浮かべていると、ミアが気になる話題を口にする。

 

「フィルシスさんとは最近になってはじめて城内で会ったけど、間近で見ると凄い美人で思わず見惚れちゃたよ」

 

「あたしもはじめて会ったけど、レヴィとはじめて会った時並に衝撃を受けたなぁ」

 

 二人の会話に若干置いてけぼりに感じたレーナは苦笑を浮かべながら、ハッと思い出す。

 今は偶然再会した友人と語らっている時では無いことを。

 

「ごめんなさいエリシェ、急ぎの用が有ることを忘れていたわ!」

 

「そっか、また近くを寄ったら今度はうちにも来てね!」

 

 そんな彼女の言葉に笑みを浮かべたレーナはミアを連れてエルリア城に向けて駆け出した。

 そして二日後、スヴェンを訪ねに彼の自宅を訪れるのだがーー彼の自宅で世話になっているラウル達がスヴェンは三日も帰って居ないことを告げるのだった。

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