傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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第二十章 出会いの果てに
20-1.森林国ミルディルの地


 黒いハリラドンは自然が形造った道路を進むが、辺りを見渡せども大木の木々と地面を縫うように伸ばされた太く丈夫な根ばかり。

 何処を見渡しても人工物は無い。森の中だから当然と言えば当然のことだが、此処まで緑に包まれた森を見たことも無ければ足を踏み込んだ経験すら無い。

 森と言えばルーメンの南に位置する森に入ったことは有るが、根本的な広さが異なる。

 おまけに守護結界とモンスターの生息地域を行き来する旅に慣れたかと思えば、この国にもヴェルハイム魔聖国と同じように一国を覆い尽くす程の守護結界領域が拡がっていた。

 そこは幾ら自然と共に生きる国民であろうとも星にとっては排除すべき癌細胞だ。

 一度星に有害と認識された生物は地上から一掃されるまでモンスターの攻撃対象になる。それは例え神でも例外では無い。

 スヴェンは漠然とした思考のまま、案内標に従って手綱を操る。

 黒いハリラドンは仕方ないと言わんばかりに鼻息を鳴らし、ジルヘル関所から南東に位置するエルソン村に進路を取った。

 

「なぁアニキ、木々ばっかりだな」

 

 黒いハリラドンが走る中、荷獣車からラウルの退屈そうな声が響く。

 何も起こらなければ確かに退屈だ。現にこの十日は魔王救出の旅と比べて何も起こらずに済んだ。

 あの日々と比較すると退屈で肩透かしだが、実際の旅は案外穏やかで退屈なものかもしれない。

 だが、それも今の内の退屈だろう。

 

「退屈なら休めるうちに休んでおけ」

 

「いやさ、道中なにか有るかと思ってたら何も起こらないじゃんか」

 

「何も起こらない方が良いじゃないか。……あぁ、けど関所の列の中には怪しい気配も居たな」

 

「うたた寝してるかと思えば気配は感じてたか」

 

 背後の荷獣車に視線を向ければロイは苦笑を浮かべていた。

 

「まあ、ほら感覚が鋭くなっているというかさ……」

 

 慣れない旅と緊張、そこに血の臭いを纏った不特定多数の人物が居れば嫌でも警戒してしまうものだ。

 特にエルナとロイは元々敵対関係に有ったアトラス教会とも会っている影響も有る。

 スヴェンにとって警戒して日々を過ごすことなど当たり前の感覚だが、エルナとロイにとってはまだ慣れない感覚なのだろう。

 感覚が麻痺した外道の邪眼など役に立つことは無いが、せめてもの気休めにはなるかもしれない。

 

「まだ感覚が過敏なら一度頭の中を綺麗さっぱり忘れて寝てろ。レポートだとか面倒なこともな」

 

「そうさせてもらうよ……って、エルナはずっと静かだがどうかしたか?」

 

 そう言えば此処に来てからエルナはずっと静かで何か考え込んでいる様子を見せていた。

 自身が悟れない何らかの気配を彼女が感じ取ったのか?

 

「何かあんのか?」

 

 スヴェンが改めてエルナに質問すると彼女は漸くこちらに顔を向け、

 

「お兄さん、関所で誰かと話してなかった?」

 

 寝てるかと思っていたがどうやら会話は耳に聴こえていたようだ。

 レーナとの会話は一部だけ聴かれていたが、まだ三人はレーナの正体を知らない。

 

「隣りの荷獣車の御者となら話してたが……それがどうかしたか?」

 

「隣の……声の距離からして確かに隣りだったけど」

 

 怪しむエルナにスヴェンは眼を逸らさず、

 

「確かミルディル森林国は野菜とチーズたっぷりのピザが有名らしいな」

 

 観光ガイドにも記されていた食べなければ損! そんな謳い文句が載せられる程の食べ物を話題にした。

 

「野菜とチーズたっぷり!? しかもピザってあのピザ!?」

 

 眼を輝かせるエルナにスヴェンは視線を逸らすように正面に向ける。

 

「あ? あぁ、たぶんそのピザだ」

 

 ーー誤魔化すために観光ガイドから引用したが、ピザってなんだ?

 

 ピザが何なのかは実際には知らない。

 旅の途中で様々な料理を口にして来たが、少なくとも記憶の中にピザと呼ばれるメニューは愚か名すら見た覚えが無い。

 判ることと言えば野菜とチーズを使った料理というだけで、パスタ料理なのかパイ料理なのかすら依然と判断が付かない。

 いま考えても仕方ない、ピザのこともアシュナの件も自分達が今後何をすべきかもエルソン村に到着すれば判ることだ。

 

「ロイ、どうしよう! ピザが楽しみ過ぎて考えていたことが頭から消えかけそうだよ!」

 

「お、落ち着け……ピザは一旦置いて何を考えてたのか話してくれないか?」

 

「あっ、そうだったぁ。野盗が悪魔を召喚したって話しが如何しても腑に落ちなくてさ。しかも複数の悪魔が国内に居るとなるともう少し騒ぎが有っても良いんじゃないかなぁと」

 

 エルナの指摘通りだ。悪魔と呼ばれる存在は元々邪神によって創造された僕だ。

 そんな超常的な存在が国内に出現しているならジルヘル関所で噂を耳にしても良いはず。

 それ以前に多数の野盗が入り込んでいる状況下で騒動を何一つ聴かないのは不自然だ。

 高度な情報操作が行われているのならまだ判るが、ミルディル森林国側に必要な情報をエルリアに隠すメリットが無い。

 むしろリーシャ救出に特殊作戦部隊が駆り出されている状況下で情報を隠すなどデメリットでしかない。

 

 ーー既に国の情報機関や中枢は邪神教団に抑えられているのか? いや、連中は魔王アルディア救出発表後には国内の拠点に撤退したと聞くが……。

 

 幾ら何でも情報不足過ぎる。昼食で新しい幸福を感じる前に先にフィルシスが用意した情報屋と合流した方が良い。

 そう判断したスヴェンは手綱を強く打つ。

 そして黒いハリラドンが速度を上げ、荷獣車の中でエルナ達が突然のことに抗議の声を挙げる中ーー道路を土埃が舞い、エルソン村を目指して荷獣車が走り抜ける。

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