傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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20-3.レポートはピザの後に

 宴会を続ける野盗を追跡するには機会を待つ必要が有った。ゆえにスヴェンは先にラウルに宿部屋の確保をさせ、ミルディル森林国の名物と名高い野菜とチーズたっぷりピザを注文する。

 人数分のピザと冷えた水が運ばれて来た頃にラウルはスヴェンに宿部屋の鍵を手渡し、

 

「宿屋クレストで部屋は大部屋を一部屋確保できた」

 

 彼の言葉にスヴェンは早速馴れた様子で鍵をサイドポーチに仕舞う。

 そしてスヴェンはテーブルに並べられた焼き立ての野菜とチーズたっぷりピザに視線を落とし、深い深い吐息を吐いた。

 焼けた平らなパンにふんだんに盛られた野菜とチーズ、中でも芳ばしいチーズとトマトソース、そしてバジルの香りがスヴェン達の食欲を大いに刺激する。

 

「んじゃあさっそく食べるか」

 

 スヴェンは自皿のピザを手に取り、熱々のピザを口に運び齧り付く。

 焼けた平らなパンを噛みちぎれば、とろとろに溶けたチーズが伸びる。

 スヴェンは落とすまいとすかさずチーズを口に入れ、ゆっくりと噛み締めた。

 タマネギ、パプリカ、ブロッコリー、バジル、トマトソースに溶けたチーズの濃厚な味にスヴェンは眼を見開く。

 

 ーーう、美味すぎる!?

 

 心が幸福に満たされるほどの旨味、それだけに飽きたらず平たいパンに入った切り込みがピザを切り取りやすく、なおかつカットしたピザは片手間で食べられるときた。

 

「なにこれ、なにこれ!? こんなに美味しいなんて……これが噂に聞いていたピザ!」

 

 エルナの満面の笑みにロイとラウルが釣れるように笑みを浮かべる。

 

「エルリアの料理も美味しいけど、なんだろう……大自然を感じた!」

 

 ラウルの大袈裟にも取れる感想に周囲の客が小さく笑みを浮かべ、それはまるでミルディル森林国で育った農作物に対する誇りさえ感じる笑みのようだった。

 この国は菜食主義として有名だが、他国の旅行客や行商人には他国から仕入れた肉を振る舞うと云う。

 だが、肉類はいつでもエルリアで食べれる。それは野菜も同じだが、野菜や酒造を売りにしている国家の野菜というのも肉抜きで味わいたくなるも仕方ないと言えるだろう。

 スヴェンはピザを食べ続けながらそんな事を頭の中で浮かべては、すっかり酒が回り始めた野盗に眼を向ける。

 

 ーー幸福的な味の前に仕事を忘れたくなるが、連中の尾行は必要なことだ。

 

 宴会中の野盗は二十人程度、恐らく拠点にも居ると踏まえれば中規模程度の野盗集団だ。

 その程度なら一人でどうにでもなる人数だが、問題は本命を獲得しているかどうか。

 連中の拠点に本命が居れば野盗の殲滅は前提条件として、身柄の確保と特殊作戦部隊に任せるまでの護衛も必要になる。

 リーシャの確保が他勢力に知られれば、自身を含めた四人は各勢力の標的にされるのは間違いない。

 思考しながらピザを食べ終えたスヴェンは、エルナ達が食べ終えるのを静かに待つ。

 

「ふぅ、美味かった。考えてみるとけっこう美味しいものをご馳走になってるな」

 

 ロイは金銭面の心配をしてるのか、何処か遠慮した様子でそんな事を口にした。

 懐事情など子供が気にするような物でも無いし、美味い食事で英気を養うのは至極当然のこと。

 

「気にすんな、その分アンタらにも働いてもらうんだからよ」

 

「ピザをご馳走になったから気合い入れるよー、なんなら頭をフル回転させて5手先の作戦でも考える?」

 

 気合い充分と眼で語るエルナにスヴェンは静かに首を横に振る。

 此処は人も多い。誰が聴き耳を立てているか判らない状態だ。そんな場所で迂闊に作戦会議でもしようものなら何の意味も成さない自殺行為ーーだが、敢えて周囲に聴こえるように作戦を話すのも一つの手では有る。

 尤も後者の小細工に引っかかる者は稀だ。

 スヴェンは咳払いと共に指先で三度テーブルを叩く。

 出発前に事前に決めた合図にエルナは思い出したように手を叩き、

 

「おぉ、そういえばレポートがまだだった」

 

 荷物の中から紙を取り出し、手早く羽ペンを走らせる。

 そこにロイとラウルも頭を寄せ、レポートの内容に小難しいそうに顔を歪めた。

 紙に書かれたのは行動目的は宴会中の野盗を強襲、問題点はリーシャの所在の有無と当たりを引いた場合。

 リーシャが居れば奪還は当然として身柄の安全が確保されるまで護衛の継続。それは少人数で到底不可能に近い状況。

 エルナが冷静に分析した結果、導き出した内容にラウルが顔を顰める。

 敵対勢力が不特定多数、そこに加えて邪神教団の司祭を四人で相手にするのはどう考えても無理無謀だ。

 犠牲を厭わなければ、エルナ達に殺しを強要させるなら不可能では無いがーーそんなものは最初から視野に入れるべき選択肢などではない。

 

 スヴェンは紙に書き足された内容に眼を向ける。

 リーシャが居なかったはずれの場合、次の野盗か邪神教団の強襲。エルソン村から近い拠点は三つの内どれを攻めるか。

 最初に攻めるのは宴会中の野盗と確定しているが、次に狙うべき拠点はエルソン村から北に位置する拠点だ。

 そして村を中心に西と東の拠点を強襲し、エルソン村周辺の安全を確保する。

 スヴェンはエルナから羽ペンを受け取り、はずれ時の予定を書き記す。

 それにエルナは思案顔を浮かべ得心した様子で、

 

「後続を考えると補給路と退路の確保って大事なんだね。……まあ、騎士になる気は無いけどねぇ」

 

 独り言を呟く。周辺の客や野盗は彼女の言葉に学生の勉強を邪魔しては悪いと感じたのか声量を抑えはじめた。

 

 ーーお人好しが多いのか? 

 

 エルナ達の服装は正にラピス魔法学院の制服、何処からどう見ても学生にしか見えない。

 視覚的な情報からレポートを書くエルナは単なる学生と認識したのだろう。

 スヴェンは内心で彼らに苦笑を浮かべ、エルナが書き足した内容に眼を見開く。

 次々に書き足されていく作戦と予備、それが五手先の内容まで書き記した途端、エルナは書く事を止めた。

 

「うん、満足!」

 

「……すごい笑顔だけどさ、おれにはさっぱりなんだけど?」

 

「エルナは頭が良いからな」

 

 頭が良いとロイは気軽に語っているが、スヴェンはこう質問せざるを得ない。

 

「アンタは(みらい)でも視えてんのか?」

 

「視えないよ、ただ空想に描いた(みらい)に向けてどうやったら辿り着けるか順序立てて設計しただけ」

 

 確かにエルナが書いた五手先の作戦は推測と予測混じりでまだ正確とは言えないが、ミルディル森林国で活動を続ける内に彼女の練る作戦はより精度を増すだろう。

 

 ーーなんだって身近の女共は何処かしらで優秀なんだ?

 

 スヴェンは改めてエルナの優秀な一面に強い感心を抱きながら、いよいよ動き出した野盗に合わせて席を立つ。

 食事代の銅貨二十枚をテーブルに置き、スヴェン達は行動を開始する。

 

 

 

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