傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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20-4.争奪戦

 スヴェンはエルナ達を連れ、エルソン村の酒場に居た野盗の尾行を開始してから一時間が経過していた。

 森林の中を無警戒に陽気に歩き続ける野盗集団。スヴェンは木々の影から彼らの様子に眉を歪め、その先に在るであろう拠点に眼を向けるとーー黒煙が森林を包む夕暮れに立ち昇っていた。

 何者かに先手を打たれた。そう理解した時には野盗集団の陽気な気配は嘘のように緊張と焦りに早替わり。

 慌てたように乱雑に走り出す彼らにスヴェンはため息を吐く。

 

「拠点にどの程度人員を残していたかによるが、無警戒過ぎるな」

 

「急いで仲間を助けに行ったんなら襲撃者に対して反撃に出るんじゃないのか?」

 

「あれだけの煙だ、それなりの威力で撃たれ燃え広がってるかもしれねぇ」

 

 黒煙と火の色を映し出す夕暮れの空に、襲撃者はミルディル森林国の環境にお構い無しなのは明白だ。

 それに襲撃時に魔法で爆撃でもされれば混乱から容易く強襲を許すことになる。

 伝染する混乱と襲撃者に討ち取られる野盗、体勢を立て直す前に拠点は制圧。

 その可能性が高い以上、スヴェンは敢えて先を急がずガンバスターを肩に歩き出す。

 想定の範囲内、行動方針に変更も無い状況にエルナは燃える空を見上げた。

 

「ちょっと不味いかも」

 

 懸念を呟くエルナにスヴェンは敢えて足を止めず、野盗集団の拠点を目指す。

 

「火の手でリーシャを狙う勢力が集まる可能性が有るってことか……スヴェンならその場合どうするんだ?」

 

 ロイの質問にスヴェンは脚を止め顔だけを向ける。

 敵対勢力がリーシャを賭けて潰し合うならそれに越したことは無いが、一番面倒なのは徒党を組まれることだ。

 それに九月一日には護衛を連れたレーナがこの地にやって来る。

 レイとミアが居る以上、レーナの身に心配は無いが絶対など有りはしない。

 だがロイの質問の意味はそこじゃない。彼はリーシャを狙い集まる勢力に対してどう対応するのか。それが聴きたい答えなのだろう。

 

「そうだな、リーシャがその場に既に居ないなら強襲を仕掛けても良いが潰し合いを誘発させる」

 

「潰し合い……たくさん死ぬのか」

 

 冷酷に言えば一人残らず殲滅する。だが、悪魔から仕入れた情報と地図に記された敵の拠点を見るに少々距離が有る。

 一番近場の別の拠点からハリラドンを飛ばしても一時間は掛かる距離だ。

 

「そうなる可能性は低いだろうよ。煙が上がってから3分も経ってねぇ、他の連中が急行するには時間が有る」

 

「お兄さんの言う通りだね、ちゃちゃと片付けて帰れば連戦は避けられるかな」

 

「エルナも気楽に言うけどさ……アニキ、おれ達はどうすれば良い?」

 

 乱戦ともなれば敵味方の区別など難しい。そこにエルナ達を連れて駆け回るのは得策とは言えない。むしろ学生服を着た三人は嫌でも目立つ。

 なら三人にさせるべき行動は後方支援だ。

 

「ラウルは魔法が届く範囲まで来たら火の手を消化しろ、エルナとロイも敵に魔法を当てねえように後方支援だ」

 

「アニキに着いてダメなのか……」

 

 ラウルが落胆気味に肩を落としたが、彼は大きな勘違いをしている。

 後方支援とは退路の確保も担う重要な役割の一つだ。強襲して囲まれて離脱不可能では話にならない。

 

「アンタらは退路も確保しておけ……いいか? いざって時はなりふり構わずエルソン村まで逃げろ」

 

 それだけ伝えると三人は深妙な眼差しで頷き、スヴェンの耳に戦闘音が届く。

 どうやら拠点の襲撃者と戦闘が始まったようだ。四人はその場を駆け出し野盗の拠点に向かう。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 戦闘音と魔法が生じる廃墟をスヴェンは大木の太枝から銃口を構え戦場を観ていた。

 廃墟広場と魔法に巻き込まれた大木と木々が炎上し、空に煙を上げる中、魔法や矢が戦場を飛び交う。

 廃墟を襲撃者から護る野盗と合流した集団、襲撃者側は撤退を始めたのか逃げるように応戦し、そこに第三者の魔法が掠める。

 魔法を放った邪神教団の信徒に両者が互いに魔法を放ち、三つ巴化した戦場に激しく魔法が飛び交う。

 混戦にしては良い状況だが、問題は襲撃者側が撤退を始めている点だ。

 襲撃したが想定以上の防衛戦力によって撤退を始めたか、それとも既に目標を連れ出したのか。

 少なくとも襲撃者側にリーシャと思われる人物の姿は無い。

 襲撃者の位置は廃墟の北西側、そこに撤退したいが野盗に阻まれてる状態で更に邪神教団の介入は彼らにとっても思わしく無い状況だろう。

 

「ロイ、念のため北西側を偵察、痕跡を調べてくれ」

 

「廃墟の北西……今は夕暮れ、暗くなる前に戻って来るよ」

 

 指示に応じたロイが迂回するように廃墟の北西に向けて駆け出す。

 これで何か痕跡が見付かれば良いが、後で改めて周辺の痕跡を調べる必要も有る。別の勢力が到着する前にという条件付きでは有るが。

 スヴェンは左眼を閉じ、ガンバスターの銃口を構えた状態で標準を定める。

 距離は七百メートル、ガンバスターの射程範囲としては充分な距離だ。

 スヴェンは後方で指揮を飛ばす三勢力の人物に標準を定めーー引き鉄を引く。

 

 ズドォォーーン!! 一発の銃声と音に.600LRマグナム弾が野盗のリーダーの頭部を砕き貫き、呆然とする三勢力にお構い無しにスヴェンはもう一度だけ引き金を引いた。

 今度は信徒部隊の指揮官の頭部が消し飛び、エルナとラウルの引きずった声が響く。

 

「う、うわぁ〜あ、あんな簡単に人の頭って吹き飛んじゃうんだぁ〜」

 

「あ、アニキは容赦無いから。いや、ほんっと……」

 

 スヴェンは大木の太枝から地面に着地し、

 

「援護は任せた」

 

 それだけ言い残し廃墟に向けて駆け出す。

 指揮官を失った野盗と信徒が恐怖と混乱に陥る中、事態を好機と判断した襲撃者の集団が撤退を試みる。

 しかし、襲撃者のリーダーをむざむざ逃す理由も無ければわざわざ彼だけ残す意味がない。

 混乱する各勢力、尤も南の入り口から一番近い信徒部隊の背後からガンバスターを媒介に形成した魔力の刃を薙ぎ払う。

 横薙ぎに走った一閃が信徒部隊の背中を斬り裂き、地面に胴体が崩れ落ちる。その直前にスヴェンは死体を物陰として利用し、野盗集団の背後に回り込む。

 

「な、なにが?」

 

「連中、一体誰に? え? いや、何が起きて……」

 

 突然の状況に混乱に陥る野盗集団と襲撃者。スヴェンは一度魔力の刃を解き、野盗に向けてガンバスターを縦に振り下ろす。

 頭部から真っ二つに斬り裂かれ鮮血が舞う中、次の獲物に縮地で距離を詰める。

 野盗集団の数は転がっている死体を含めれば三十人。生きてるのは十人程度。

 スヴェンは気付かれる前にガンバスターを振り抜き、野盗を斬り裂く。

 

「お、お前!? い、いつの間に!!」

 

 漸くこちらの存在に気付いた野盗にスヴェンは躊躇無く首を撫で斬る。

 一度は状況を好機と捉えた襲撃者は戦場の中で足を止め身構えた。

 拠点の所在を追跡させないためには正解でも有るが、スヴェンにとって襲撃者のリーダーを確保すればそれで済む。

 思考を挟むスヴェンに野盗の一人が魔法を唱え、魔法陣から放たれた火球がこちらに向かう。

 まだ側に野盗が居るにも関わらずーースヴェンは近場の野盗を掴み、飛来する火球に向けて野盗を蹴り飛ばした。

 

「あっ」

 

 突如目の前に迫り来る火球に状況を理解した野盗から小さな声が漏れーー爆音と共に野盗が炎に包まれながら地面に斃れ伏す。

 自身の放った魔法で仲間の死を招いた野盗が瞳に絶望を宿す中、スヴェンは躊躇なく袈裟斬りを放つ。

 血飛沫と共にドサッと倒れる野盗の姿に八人の野盗が武器を手に同時にこちらに駆け出した。

 手間が省ける。スヴェンは腰を軸にガンバスターを円を描くように一閃。

 刃が八人の野盗を斬り裂き、鮮血が廃墟の地面や瓦礫を汚す。

 次の獲物は襲撃者のリーダーを除いた全員、スヴェンが一歩前に踏み出すと同時に空から魔法による雨が降り出し銀の鎖が襲撃者の身体に絡み付く。

 

 ーーラウルとエルナの魔法か。

 

 身動きが取れない襲撃者達は一斉に魔法を唱えようと声を発するが、

 

「「「ーーっ!? ーー!! ーー! ーーっ」」

 

 声が出ず詠唱が唱えられない!

 これもエルナの魔法なのか、魔法が主流の世界で声を奪う魔法はかなりの脅威だーーだがそれが通じない者も多数居る。

 フィルシス曰く声が封じられたら剣で斬れば良い、威力は半減するけど無詠唱で発動すれば良いと。

 魔法の発動に精神力も必要とされる中、魔法を使った素振りも見せない人物を目の前にして声を封じられればどうなるか。

 スヴェンは恐怖心と混乱で視線を彷徨わせる襲撃者にゆっくりと近付く。

 エルナなりの援護のやり方に舌を巻きつつ、ガンバスターを構える。

 スヴェンは躊躇いなく淡々と刃で襲撃者を斬る。

 そして残した襲撃者のリーダーにガンバスターを構え、ラウルの魔法が炎を鎮火させる中、狼狽える襲撃者のリーダーに訊ねる。

 

「お宝は運び出せたのか?」

 

「ーーっ!? こ、声が出る!」

 

「アンタの詠唱よりも速く斬るのは簡単だ、それともここで死ぬか? その場合、俺はアンタらの拠点に向かいお宝の所在を訪ねることになるが……」

 

「や、やめてくれ。話す、話すからもうこれ以上……奪わないでくれ」

 

 完全に心が折れた襲撃者にスヴェンは質問する。

 

「それで? ここにリーシャと呼ばれる女性は居たのか?」

 

「居た……彼女を確保すれば身代金の要求にも使えるし、良い金になると踏んでーー今頃仲間が拠点に連れて行ってる」

 

 最初で当たりを引いたが、果たしてリーシャは無事に拠点に連れ出されているのかどうか。

 

「護衛の人数は? それなりに利用価値が有るならそこそこ着けてるとは思うがな」

 

「……10人だ、拠点に待機中の仲間も合わせて15人居る」

 

 お互いに敵同士の中で十五人は少ないが、彼はリーシャの身柄が金になると理解している。

 

「他の連中に対して金の山分けでも持ち掛けて安全を計画でもしていたか」

 

「あ、ああ……お前も同じ考えだったのか。なら俺達と組まないか?」

 

 スヴェンは彼の言葉に何も興味を示さない。

 

「アンタと同じ考えがこの国にどんだけ入り込んでんだかなぁ」

 

「……それは判らない。ただ、噂だとこの国の何処かで敵味方問わずその場で殺し合いが始まる現象が多発してるらしい」

 

「今回みたいな状況でか?」

 

 疑問に襲撃者のリーダーはゆっくりと頷く。

 利を得るために何らかの魔法で殺し合わせる方が手っ取り早いが、同時にリーシャの居所を失う危険性も有る。

 スヴェンはそんな魔法を使う手合いは自身と同じように中々狂ってるか外道の類いだと結論付けた。

 ふと自分達はリーシャの容姿を知らないことを思い出す。

 

「確認だ、リーシャの容姿に付いて答えろ」

 

「緑色のセミロング、紫色の瞳。顔立ちは普通で服装は青と緑の破れたドレスだった」

 

 聴きたいことは聴いた。もうこの男は用済みだ。そう判断したスヴェンは躊躇なくガンバスターを横に斬り払った。

 襲撃者のリーダーだったものの首が地面を転がる中、エルナ達の気配が背後に近付く。

 視線だけを背後に向ければエルナとロイはなんとも言えない表情を浮かべ、似た状況で似た光景を体験してるラウルは真っ直ぐとこちらに眼を向けていた。

 

「アニキ……コイツらの拠点は壊滅してたらしい」

 

「……先を越されたか。いや、やけに足の速い連中が居るな」

 

 スヴェンは大木の影に現れた気配に一瞬だけ視線を向け、それがエルリア城で何度も感じた気配だと悟る。

 

「あぁ、地面にハリラドンの足跡が何処に向かってるかもはっきりと遺されてたよ」

 

「お兄さん、パターンCだけどどうする?」

 

 何者かにリーシャが確保され、別の勢力にリーシャが奪われ手掛かりが降り出しに戻る状況。

 まさにエルナの言う通りパターンCだが、行動方針に変わりは無い。

 

「いや、俺達は予定通りにエルソン村周辺の拠点を襲撃者する。敵対勢力の数を減らさねえことにはいつまで経ってもイタチごっこだしな」

 

 此処と襲撃者の拠点を調べたいところだが、他勢力の存在も在る。

 そんな状況下で三人だけエルソン村に帰すことも得策とは言えない。

 

「今日の所は撤収するぞ」

 

 エルナ達にそれだけ告げたスヴェンは、三人と共にエルソン村に戻りーーラウルが確保した宿部屋に向かうのだった。

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