傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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20-8.ユグドラ空道

 八月二十一日の朝、エルソン村から一番近いユグドラ空洞の入り口に到着したスヴェンとリノンは、空洞の奥深くから感じる気配に眉を歪める。

 まだ相当距離が有るのか、正確な気配は掴めないが少なくともユグドラ空洞に何か有るのは間違いない。

 

「ここは慎重に進むか」

 

「えぇ、それじゃあ貴方が前でわたしが後ろから支援するわ」

 

「任せる」

 

 ここに来る道中で互いに出来ることを共有したが、リノンは支援魔法と二種類の攻撃魔法が使える。

 いずれもアトラス教会由来の魔法。魔王救出時ではアトラス教会の魔法や戦闘スタイルを見ることは無かったが、今回は眼にすることが出来るかもしれない。

 スヴェンはアトラス教会の魔法に期待感を胸に大樹の根でできた道を警戒しながら歩き始める。

 それに対して適度な距離と歩幅を合わせてリノンが付いて歩く。

 壁に灯る燭台の炎と硬い靴の音がカツン、カツンっと二人分の足音を鳴らす。

 奥へ反響する靴音は敵に侵入を知らせるには充分だ。

 

「敵がお出ましなら楽なんだが……」

 

「罠を張ってるわね。スヴェン、気を付けて……そこら中に小さな魔法陣が刻まれてるわ」

 

 リノンに言われたスヴェンは素早く魔力を眼に流し込む、

すると壁や天井、床に小さな魔法陣が二重に刻まれていた。

 スヴェンは壁の二重の魔法陣に眼を凝らし、刻まれた術式を読み解く。

 

「……形状操作、構築、影、物質化と解除?」

 

 辛うじて自身の知識で読み取れる術式にリノンの感心が宿った吐息が響く。

 

「正解よ、これは影を操る魔法陣ね。影による攻撃、魔法陣が在る限り本人は動かずとも獲物を狙える」

 

 隙間と間隔、簡単に避けられる程度に刻まれた魔法陣にスヴェンは一つ推測を浮かべる。

 敵は獲物を追い詰め、最後の最後に討ち取ることを好む手合いだ。

 これにアシュナが狙われたとしたら自身が以前に話した事が原因だ。

 彼女がなぜ特殊作戦部隊と合流しなかったのかも、自身が標的にされ二次被害を防ぐためにーーアシュナは脱出を目指した。

 スヴェンは背後を振り返り、リノンの横を通り抜け出口に向けて歩き出す。

 そして出口付近を注意深く観察すれば用意周到に仕掛けられた魔法陣の発見に至る。

 脱出を図る獲物を貫くことに特化した影の攻撃魔法。これにアシュナがやられたのだと理解が及ぶ。

 同時に影には明確な弱点が存在する。影を払うほどの光りだ。

 

「アンタは影を消せるほどの光を出せるか?」

 

 リノンに質問する傍らスヴェンは一つ結論を出していた。

 戦闘時に影に対する対策は必須だが、わざわざ魔法陣を野放しに理由は無い。

 

「目眩し用に習得した閃光魔法なら可能よ、でも此処で解体して行くのも手よね」

 

 如何やらリノンも同じ考えのようで、刻まれた魔法陣を指で撫でる。

 

「『聖なる祝福よ、我が声に応じ悪しき魔を祓いたまえ』」

 

 詠唱によってリノンの指先に光りが灯る。リノンは光が灯った指先で魔法陣を人撫で。たったそれだけの動作で魔法陣が音もなく崩れ去った。

 

「解析や解除魔法要らずだな」

 

「そうでも無いわよ。構成が単純だもの」

 

「そうなのか」

 

「そうなのよ」

 

 互いの軽口に肩を竦め、リノンは手当たり次第に魔法陣の解除に移った。

 移動しながら次々に解除されていく魔法陣、これで敵がどう動くか。弄した策が封じられ冷静さを掻くならそれで良い。

 逆に別の方法で迎撃に移る可能性も有るが、最も避けたいのはリノンとの殺し合いだ。

 同じ顔の相棒を自らの手でまた殺すことになる。それともリノンに殺されるか、どちらも御免被りたい。

 そんな思考に晒されていると不意にリノンが足を止めた。

 

「ここら辺の魔法陣はこれで全部かな」

 

 周辺に眼を向ければすでに魔法陣は無くなっていた。自身が思考を挟んでいる間に。

 

「早いな」

 

「数の多さだけよ……でも変ね、これだけ解除しても何も仕掛けて来ないだなんて」

 

「狡猾で残忍な奴ほど周到に用意してるもんだ」

 

 まだ先に何かが有る。そう告げるとリノンは考え込む素振りを見せ、やがて何かを探るような視線をこちらに向ける。

 彼女の眼は不確かな感情と困惑が宿っていた。しかしそれは一瞬のことで彼女はすぐさま視線を外した。

 

「何なんだ?」

 

「な、んでも無いわ」

 

「具合が悪いなら帰れ」

 

「嫌よ、貴方は1人にできないもの」

 

 相棒(リノン)と同じことを言う彼女にスヴェンはため息を吐く。

 歩き出すスヴェンにリノンが語り掛ける。

 

「そうやって貴方は独りを好むけど、周りは決して貴方を独りにしないわ」 

 

 背後を付いて歩く彼女にスヴェンは視線を向けず呟いた。

 

「迷惑な話だ」

 

「スヴェン、確認なのだけれど……貴方に妹って居なかったかしら?」

 

 血の繋がった家族と呼ばれる者は自らの手で殺害した。だから妹などという存在は居ない。

 だが、自身を拾い育てた傭兵団のボス。その一人娘のシャルナからは一応兄貴とは呼ばれている。

 スヴェンはふと違和感に見舞われ、改めてリノンに振り向く。

 なぜ妹が居たかと疑問系で質問をするのか。

 

「血の繋がった妹は居ねえよ」

 

「そう? 貴方には爆破好きの妹が居たような気がしたのだけど……わたしの勘違いかしら」

 

「なぜそう思ったんだ?」

 

「なぜって……うーん、なんででしょう?」

 

 疑問を疑問で返されたが、リノンは戸惑いを浮かべている。

 如何やら先程の疑問は無意識に出たようだ。

 色々と考えたい事は有るが、今はユグドラ空洞の探索を最優先にすべきだ。

 スヴェンは左右と上下に別れた道に足を止め、リノンに振り向く。

 最も強い気配は下に続く根の道だ。そこは崖で底の見えない暗い空間、降りるには太い根を伝う他に方法はない。

 

「アンタの疑問は今は置いておくとしてだ、どっちに進む?」

 

「気配はまだ感じ難いけど、下から死者の気配を強く感じるわ」

 

「なら俺が先に降りる」

 

「魔法陣には気を付けなさい」

 

 リノンの忠告にスヴェンは太い根を掴み、そのまま崖の下へと降り進む。

 後から間隔を空けてリノンが続く中、スヴェンは崖一帯に仕掛けられた魔法陣に息を吐きーー全て輝き出す魔法陣に跳躍した。

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