傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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20-9.底を目指して

 一斉に発動する魔法陣を前にスヴェンは、根を足場にリノンの元に駆け抜ける。

 魔法陣から放たれる無数の影の槍と影の剣山が迫る中、リノンを腰から抱えたスヴェンが壁を足場に跳躍した。

 魔法が殺到し、破壊音とと共に二人が掴んでいた根が崩れ落ちる。

 なおも魔法陣は自動でスヴェンとリノンに狙いを定めている。

 

「捕まってろ」

 

「回避は任せた」

 

 リノンはポケットから羽ペンを取り出し、スヴェンは彼女を左腕で抱えたまま壁を足場に駆け出す。

 影によって形成された魔法の雨を駆け抜け、掠める魔法のみ魔力を纏ったガンバスターで薙ぎ払う。

 その傍らリノンが羽ペンの先端から魔力の線を放ち、解除式を書き足すように羽ペンを動かす。

 スヴェンが壁を駆け抜けているにも関わらず正確に魔法陣を解除していくリノンの技量に感心せざるを得ない。

 ミアも魔法陣の解除はできたが、彼女の場合は魔力を直接流し込むことで魔法陣の魔力に干渉させ内部から崩壊させる技だった。

 何方も自身には到底真似できない完成された魔力操作と技術に脱帽の息が漏れる。

 

「ちょっと数が多いわね」

 

 このまま下を目指して壁を垂直に走ることは可能だが、視界を埋め尽くす魔法陣の量だ。

 これを全て無傷回避できると驕る気はない。だからと言って回避しつつ魔法陣の解除となればそれだけで時間を要し、足止めに繋がる。

 それが邪神教団の司祭による狙いなのかっとスヴェンが思案した途端ーー肌がチリつく感覚、膨大な魔力の流れにスヴェンとリノンは天井を見上げ息を呑んだ。

 天井に構築された巨大な魔法陣、それはこの辺一帯を容易く呑み込むには充分な魔力と威圧感を放っていた。

 大量の魔法陣から弾幕の如き絶えず繰り出される魔法、まだ発動に至っていない巨大な魔法陣。一体どこにそれだけの魔法陣を維持する魔力が在るのか。

 

 ーーいや、違えな。結界魔法の応用か。

 

 ミアから習った結界魔法の知識。結界魔法の類は一度発動してしまえば魔力供給を受けずとも持続し続ける。

 結界魔法の基点となる魔法陣は一度生成された魔法陣に魔力循環の術式を加える事で可能になると云う。

 加えて自動的にこちらを狙い続ける魔法陣の仕組みにも察しが付く。対象の魔力を探知し自動で照準を定めるように術式が組み込まれているのだろう。

 

「アレは解除できそうか?」

 

「ちょっと無理ね、あの規模となると数分間動かずに解除に集中する必要があるわ」

 

 解除ができず、現在進行形で魔法の集中砲火を避けている状態だ。

 迫り来る魔法の集中砲火に対してスヴェンは、ガンバスターの表面に魔力を集めーーそれを細かく放つ。

 すると細かい粒子状に飛ぶ魔力に対して魔法の集中砲火が降り注ぐ。

 

「魔力を使ったチャフ……いえ、何でもないわ」

 

 リノンが機械技術の言葉を口にしたが、今はこの場から離脱することが先決だ。

 ならやるべき事は一つしかない。スヴェンが足に力を込め魔力を流し込むとリノンは察したのか、羽ペンを仕舞い左腕を強く掴む。

 

「『聖なる歌声よ、か弱き我らの身を護りたまえ』」

 

 リノンが詠唱を唱えると、生成された魔法陣から歌声が響く。

 温かな歌声にスヴェンが眉を歪める中、自身とリノンを結界が包み込む。

 

「あの巨大なのは無理だけど、この防御魔法なら突破できるわよ」

 

「いい支援だ!」

 

 スヴェンは壁を靴底に纏わせた魔力の解放と同時に蹴り抜き、爆発力と共に崖の底に走る。

 急激な速度に魔法陣の察知能力が追い付いていないのか、狙いは粗末で影の魔法は散漫的だ。

 回避や防御を気にせず影の魔法による集中砲火を突っ切る中、この崖は何処まで続くのか。底の見えない暗い空間と徐々に膨大な魔力が圧縮されはじめる感覚が天井から感じる。

 天井の魔法が発動されるまで数秒も無いだろう。

 リノンを抱えたスヴェンは靴底に再度魔力を流し込む。

 魔力操作と形成技術の応用によって靴底に力場を作り出し、一気に魔力の力場を踏み抜き落下速度に更に加速を加え、ガンバスターに練り込んだ魔力を纏わせる。

 加速した落下速度によって魔法の集中砲火を振り切るが、未だ終点は見えず。

 視界一面に広がる闇、この先はユグドラ空洞の下層に続いてるのか? そんな疑問さえ芽生えたスヴェンは耳に神経を研ぎ澄ませ、僅かに聴こえる風の音を拾う。

 何処かに風が吹き抜ける穴が有る。それだけ判れば充分だ。

 

「まだ加速するが、大丈夫か?」

 

「平気よ、貴方がしっかり抱きしめてくれるならね」

 

「悪りぃがガンバスターは保険だ、逆にしがみ付いてくれ」

 

 そんなことを告げれるとリノンは躊躇いなく力強くしがみ付いた。

 これでうっかり落とす心配は無くなったが、彼女の赤髪から匂う柔かな香りに思わず眉が歪む。

 香水に気を取られてる場合ではない。そう自身にそう言い聞かせたスヴェンは再び靴底に魔力を纏わせ力場を形成させ、風の音に向かって跳躍した。

 微かに聴こえた風の音がはっきりと聴こえる中、天井の巨大な魔法陣から膨大な影の塊がーーまるで産まれるように落ちる。

 根を呑み込みながら落下する影の塊、しかもそこそこ速い速度で落下してるではないか。

 タイミングを誤れば死ぬ。やるだけのことをやって死ぬなら結局自身はその程度だったと諦めも付く。

 スヴェンは死を覚悟しながら風の音に向かい、漸く視界に見え始めた光に口元が吊り上がる。

 そしてガンバスターを天井に向け、纏った魔力に更に魔力を注ぎ込むことで魔力を推進力がわりに噴射させた。

 速まる加速力と縮まる横穴、そして追い付かんばかりの影の塊。

 そして人が通るには充分過ぎるほどの横穴が真横に近付く。

 スヴェンはガンバスターの魔力を弱めることなくそのままの状態を維持し、魔力を噴射しているガンバスターを強引に左に向けることで身体を横穴に突っ込ませた。

 ガンバスターの魔力を解放するも、推進力を強引に方向転換させた勢いは殺せずーースヴェンとリノンはユグドラ空洞の床を転がることに。

 漸く止まる頃にはリノンの顔が間近で、彼女の息遣いが鼻にかかる。

 

「離れてくれ」

 

「待って、急加速から転がって目が回るの」

 

 自身は平気だが、確かにリノンの眼は焦点が定まらず回っていた。

 

「落ち着くまでこのままで居させて」

 

 かなり無理矢理な方法で突っ込んだ手前、リノンに強く出られない。

 スヴェンは崖から響く影の塊による破壊音と振動、土埃を受けながらリノンが回復するまでそのままの体勢で待つのだった。

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