傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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20-10.包囲救出戦

 スヴェンとリノンがユグドラ空洞の探索を続けている頃、リーシャを連れ去った野盗団の拠点がシルフィード騎士団の大部隊に包囲されていた。

 脱出は困難と判断した野盗は篭城戦を決断し、エルナはセシルの部隊とと共に動かない戦局を静かに見詰める。

 野盗が拠点に選んだのはミルディル森林国に点在する遺跡だ。大木の根に覆われた木造の遺跡に陣取る野盗の魔法がシルフィード騎士団の防御魔法に阻まれる。

 状況的に戦力差では絶望的だが、野盗は本物のリーシャを見せることで突撃を妨げた。

 初手を封じされたが、遺跡を中心に展開されたシルフィード騎士団の大部隊は何人たりとも通さないだろう。

 例えこの気に乗じてリーシャ確保を狙う他勢力さえ一万の騎士相手には突破も不可能だ。

 

「長期戦かな」

 

 魔力を全身に流し込みいつでも魔法を唱えられるように備えるラウルの言葉にエルナは考え込む。

 シルフィード騎士団が無策に包囲殲滅戦を仕掛けるとは思えない。

 現にリーシャが人質にされて手が出せない状況だが、セシルを含めた騎士全員が安堵の息を吐きこそしたがーー野盗の行動と要求には無反応だった。

 

「野盗の要求は野盗集団の身の安全とミルディルの財宝、そして国外に逃すこと。でも騎士は応じるつもりが無いってことは……」

 

 特殊作戦部隊によるリーシャ救出の算段が既に整い、後は彼女が無事に救出されるのを待つのみ。

 恐らく包囲する前日の内に特殊作戦部隊の隊員が遺跡に侵入してるのだろう。

 エルナはそう長くはかからない。いや、最早救出も終わると結論付けると、遺跡から赤い煙が上がった。

 

「リーシャ様確保の合図だ! 総員突撃用意! 君達は我々の支援を頼んだ」

 

 セシルの指示に騎士が木々を足場に遺跡に突撃を仕掛け、エルナとロイの二人が野盗に対して魔法を放ち、動きを牽制させラウルが遺跡の中央広場に水流を唱えーー遺跡の中央広場から野盗を外側に向けて押し流す。

 突如の攻勢に動じた野盗はシルフィード騎士団の矢に射貫かれ、押し流された体勢を崩した野盗に騎士の刃が振り下ろされる。

 目の前で人が殺される。見たくも無い光景、しかしこれは自分達が選んだ道の一つだ。

 人殺しの手伝いをして罪が一つ清算される事は決して無い。それでも邪神教団が起こした事件を、自分とロイはもう無関係だと無視できるほど利己的でも無いのは確かだ。

 これが正義感による義務感と問われればそれも違うが、何もせずただ日々を過ごすより少しでも解決の手助けをした方がより建設的に思えたからスヴェンに無理を言って同行した。

 だからこそエルナは人の死から眼を背けず、

 

「『銀の鎖よ、捕縛せよ』」

 

 魔法陣から放たれた銀の鎖が野盗を雁字搦めに縛る。地面に転がる野盗に対してシルフィード騎士団は捕えるだけで命までは取らなかった。

 スヴェンなら殺していたいただろう。目撃者一人を残さず後々の遺恨を残さないために。

 捕縛され連行される野盗と不意に眼が合う。

 彼の増悪の眼差しに身体が震える。収監されれば脱獄は困難だが、これから自分達は誰かの復讐心に怯えながら過ごさなければならないのか。

 エルナがため息を吐く中、窶れたリーシャを連れた少年がこちらに近付く。

 

「スヴェンは居ないんだ」

 

「……もしかして特殊作戦部隊の? 噂には聴いてたけど本当に子供だけの部隊なんだ」

 

「キミも子供でしょ? それでスヴェンは何処に行ったの」

 

「お兄さんならユグドラ空洞に行ってるよ」

 

 スヴェンは特殊作戦部隊でも知れ渡っているのか、彼らは一様に納得した様子を見せていた。

 彼と特殊作戦部隊がどんな関係に有るのか、そもそも今回の依頼を持ち込んだレヴィと名乗るレーナと瓜二つの人物。

 スヴェンが異界人なのは初見で判っていたが、彼には死亡したとの情報も出回ってもいた。

 興味本意で調べても良いが、スヴェンに世話になってる身であれこれ詮索するのは無遠慮過ぎる。

 それに深く探りを入れて知らなくても良いことに首を突っ込むのは自分の性分じゃない。

 エルナは敢えてスヴェンの事を訊ねず、特殊作戦部隊の面々に護られるリーシャに視線を移した。

 平民の出と言われてるが、美しい緑色の髪と窶れているにも関わらず気高い眼差し。

 そういえば彼女は人質として脅迫されてるにも関わらず、全く動じず終末無言で野盗を威圧していた。

 なるほど、全く動じない強い精神が自身に欠けている。足りない経験なのだとエルナは理解する。

 それにしてもずっと両腕を拘束されてるのはあんまりだ。

 

「腕枷を外してあげないの?」

 

 少年の悲痛な声にロイが苦笑を浮かべ、目が腕枷を外してやれと語りかける。

 

「……野盗が鍵を無くしてしまったらしいんだ」

 

 現状銀の鎖を絶えず魔法陣から放ってるが、並行して別の魔法を唱えるのも銅製の腕枷の造形を操作するのも造作もないことだ。

 魔封じが施されている銅製の腕枷だが、問題は無い。所詮は野盗が用意した安物の魔封じ。既に構築魔法陣は綻び欠損してる状態だーーあれ? 魔封じって安物でも欠損するものだっけ?

 疑問が芽生えるがエルナは魔法を維持したままリーシャの腕枷に触れる。

 

「『枷よ、平らになれ』」

 

 造形変質魔法を唱え、腕枷が平らに変化し地面にごとりと落ちる。

 既に魔封じが無力化に近い状態だからこそ造形変質魔法が通ったが、エルナはなんとなくリーシャを上目遣いで見上げる。

 

「もしかして内側から解除を試みた?」

 

「王子の嫁としてタダ捕まってるのも、じっとしてるのも性に合わないんだ」

 

 どんな方法で魔封じを綻ばせたのか気になり、質問を問い掛けた時だった。

 後方部隊から騒ぎ声が響き渡ったのは。

 

「お、王子!? お待ちください、まだ殲滅戦の最中ですからっ!」

 

「あ、あっ! あ! おやめください王子!」

 

 複数のシルフィード騎士団の騎士が貴賓溢れる緑の衣を着た大男を取り押さえようと試みも、大男は数人に抱き付かれても物ともせずこちらに向けて直進して来る。

 

 ーーいま王子って!? う、嘘!? エルフの血を継ぐシャルル王子が筋肉質の大男だなんて!

 

 王子という存在に少女として夢を見ていたエルナの理想は現実の前に儚くも脆く崩れ去り、ロイとラウルの悲鳴が響き渡る。

 ついでに恐怖で涙を流す特殊作戦部隊の姿も視界の端に映り込んだ。

 

「おお! リーシャ! 無事だったか!」

 

「無事だけど、たったいま子供達の夢が散ったところだ」

 

「ここは既に戦場……あ、いや、俺が原因か」

 

 自身の容姿を把握しているシャルル王子の言葉にエルナは気を持ち直し、ロイとラウルの背中に身を隠す。

 

「オルゼア王の秘蔵っ子達と学生諸君よ、怖がらせてすまなかったな!」

 

 咆哮にも似た声から語られる謝罪にエルナは何もかもがどうでも良いっと達観した眼差しで遺跡に視線を戻した。

 既に野盗の殲滅が完了しつつ有る状態だ。そしてリーシャの救出も無事に終わり、残すは邪神教団と悪魔のみ。

 それでも決して油断できない状況には変わりなく、エルナは次々と対策を思案しては後でセシルに告げるのだった。

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