傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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第二十一章 底の司祭を目指して
21-0.アシュナの行方


 野盗団が壊滅しリーシャが救出された頃。

 自然を彷彿とさせる大木の内部に造られた部屋、部屋の壁には植物の蔓が巻き付き、窓辺近くに置かれたベッドの上で横たわる白髪の少女と少し離れた場所で椅子に腰を下ろした女性の二人が静寂の中で眠っていた。

 

「うっ、うぅ……んっ!?」

 

 魘され目覚めたアシュナは額の汗を拭い、身体を起こそうと動かすが腹部に走る激痛を前に起きる事を断念した。

 激痛か走った腹部を見るために患者服を捲り上げる。

 ぐるぐる巻きにされた包帯。しかしまだ完全に癒えて無いのか血が滲んでいた。

 あの時、自分は確かに背中越しから腹部を影に貫かれ瀕死だった。それなのにまだこうして生きている。

 頭が生きていると理解した途端、眼に熱い想いが込み上がった。

 生きていることに自然と涙が頬を伝う。アシュナは頬を伝う涙を拭い一呼吸。

 

「ここ何処?」

 

 頭だけを動かすと何処かの大木内部に建てられた部屋だということは判る。

 問題は誰に治療されて見知らぬ場所に連れて来られたのかだ。

 邪神教団か野盗か、それとも気を失う直前に光の魔法で影を払った人物か。あるいはアトラス教会の者か。

 後者なら良いが前者なら治療したのも情報を得るためにだと予測が付く。

 果たしてどちらかなのか。動けない身体で後者だったらっと想像するだけで胸の鼓動が早まり、緊張から荒げた息が漏れる。

 もしもの場合は尋問される前に舌を噛み切るか風の魔法で迎撃するしか無い。

 

 ーーまだ最悪の状況と決まったわけじゃない。舌を噛み切るには速い。

 

 最悪な状況かそれとも良い状況か、自身の疑問を晴らすべく明確に人の気配と生活の名残を感じる部屋内に視線を動かす。

 自然溢れる部屋、心が安らぐアロマの匂いに混じった薬品の臭い。そして椅子に座ったまま眠る一人の女性に訝しむ。

 此処は何処で彼女は何者なのか。顔立ちは目鼻整った美人な大人、長い緑髪、服装は町娘のようなブラウスのシャツとロングスカートで戦闘には向かない。

 おまけに武器らしい物を所持していない事が判るが、正直召喚や空間から呼び出す魔法が有るため武器の有無は判断材料にはならない。

 おまけに彼女は寝てるはずが一切の隙が感じられない。

 寝てるのに隙が無い姿はまるでスヴェンが目の前に居るような安堵感を感じるが、それは敵だった場合最悪を引いた事を意味する。

 動かない身体でどうするべきか、相手の正体を知るためには試しに起こすべきか。

 悩ましげなため息を吐くと女性の眼が開かれた。

 眼が合う女性にアシュナは息を呑む。そして敵か味方か判らない状況で身体が震える。

 

「だ、誰」

 

 自身の声かと疑うほど、弱々しく情けない声で漏れた。

 女性は心中察したような凛とした眼差しを向け、

 

「大丈夫、大丈夫ですよ。私は貴女の敵ではありませんから」

 

 穏やかな声で優しく語りかけられた。

 敵では無い。女性の真摯な眼差しにアシュナが安堵から息を漏らす中、

 

「味方でもありませんけど」

 

 何食わぬ顔でそんな事を言い出した。

 

「えっ?」

 

「ふふ、感情の起伏が非常に薄いですが良い反応をしますね」

 

 判ったことが有る。彼女は敵でも味方でもない、そして自分が思っている自分は以上に彼女のことが苦手なようだ。

 

「……此処は何処で誰なの?」

 

「此処はミルディル森林国の南西、フライス村から少し離れた闇医者の隠れ家ですね」

 

「や、闇医者」

 

「あぁ、私は違いますよ。これでも邪神教団の司祭を務めてますから」

 

 さらっと何食わぬ顔で告げられた一つの事実にアシュナは思わず頭を抱えそうになった。

 こうして会話してることから彼女は穏健派に属してるとなんとなくだが判る。

 特に彼女からは不思議と邪神教団特有の薄暗さや狂気が感じられない。むしろアトラス教会のシスターのよう温かさを感じる。

 

「本当に邪神教団の司祭なの? わたしが知ってる司祭は嫌な気配がするけど」

 

「えぇ、困ったことに同僚は頭の可笑しい連中が大半ですからね……特に貴女のお腹を貫いた人物はジギルド司祭と呼ばれる過激派の1人でして」

 

 敵対状態に有るとはいえあっさりとジギルド司祭の存在を明かすのは、彼女に何か企みが有ってのことか。

 ただ同時に一つ納得がいく。確かにあの異常な殺し合い空間を作り、影の魔法で執拗に襲って来た子供が邪神教団の司祭と言われれば不思議と納得がいく。

 

「教えてどうするの? 潰し合って欲しいの?」

 

「ジギルド司祭程度なら簡単に討ち取れるでしょう、特にあの子は精神的に未熟者で想定外のことに弱いのです」

 

「その弱いのに殺されかけたんだけど」

 

「影の魔法は相性によって脅威になりますからね。ですが光属性が扱える者が居ればたいして脅威になりません」

 

 光属性の魔法が使えないアシュナはジギルド司祭と相性最悪だ。同時にそれはスヴェンも相性的に不利と言えるが、彼の反射神経や警戒心から影の魔法で襲撃されても如何ってことは無いのかもしれない。

 

「ん、それにしても穏健派は如何してこの国に来たの?」

 

「過激派の妨害と邪神様の復活阻止ですよ。その為に潜伏させていた信徒にリーシャを連れ出させたのですが、野盗の奇襲に遭い彼女を連れ攫われたようです」

 

 だからあの時ジギルド司祭は誰がリーシャを連れ出したっとボヤいていたのだ。

 ふと野盗が多く入り込んでいる状況も彼女達の妨害工作の一環なのでは? そんな疑問からアシュナはまだ名を知らない彼女に問う。

 

「野盗が多いのも穏健派の仕業?」

 

 そう訊ねると彼女は困ったような表情を見せ、

 

「野盗は金儲けの臭いを嗅ぎ付けて何処にでも現れるものですよ、今回の件も金儲けになると判断して集まって来たのでしょう」

 

 自分達とは無関係だと答えた。

 

「じゃあ、あなたの名前は?」

 

「ふふ、私は先に所属を明かしましたが貴女はまだ名乗ってませんよ」

 

 名を訊ねる前に自分から名乗るのが礼儀、オルゼア王から教わったことを思い出したアシュナは顔を彼女に向けたまま静かに告げる。

 

「アシュナ……所属はちょっと言えない」

 

「名前だけ教えて貰えば充分ですよ。それにあの場所に子供が単独という点を垣間見れば自ずと推測もできますしね」

 

「ん、それであなたの名前は?」

 

「そうでしたね、私の名はセリア。因みに此処の家主の闇医者はルイと言います」

 

 邪神教団の穏健派に所属するセリア司祭、そしてもう一つ理解したことも有る。

 彼女が影を光で払い、重傷を負った自身を闇医者ルイの下まで運んだのだと。

 

「セリア……一応お礼は言っておく、助けてくれてありがとう」

 

「礼には及びませんよ」

 

 柔らかな、それでいて暖かく優しい微笑みを見せる彼女にアシュナは女性として一種の憧れを胸に抱いた。

 

「それにしても7日も寝込んでいたのに、意識もはっきりしてるようですし……存外強い子ですね」

 

「……7日? 今日って何日?」

 

「今日は21日ですね、お腹も空いてるでしょう」

 

 七日も意識不明で眠っていた事実にも驚きだが、定時連絡の時間も等に過ぎている。

 後で連絡を取らなければ心配を重ね重ねかけることになる。しかし腹部の傷の影響で下丹田の魔力が上手く操作できない。

 こうなっては仕方ない、今は静養して傷を癒すことが先決だ。

 

 ーーこんな時にミアが居たらなぁ。

 

 アシュナはミアの笑みを思い浮かべ、彼女に対する有り難みを胸にセリナが用意した野菜スープを食べさせて貰うのだった。

 

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