傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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21-6.狂い子の司祭ジギルド

 ジギルド司祭が振り向く直前、スヴェンがガンバスターを薙ぎ払う。

 完全な不意打ち、子供相手に誰しもが卑怯だと宣う蛮行。それでもスヴェンには予感が有った。

 悪魔の存在、足元の大規模魔法陣と不気味な祭壇。彼は待っているのだと。封印の鍵が届くことを。

 しかし、慈悲も躊躇いも無く払った一閃はジギルド司祭の真横から現れた腕によって掴まれてしまう。

 

「チッ!」

 

 真横に突如現れた複眼の悪魔、それは身体は人の形だが全身の複眼がスヴェンとリノンに視線を集中させる。

 そしてガンバスターを掴んだ腕から逃れようと力を込めるが、悪魔の腕力によってびくりとも動かない。

 

「大人が不意打ち、しかも失敗なんて恥ずかしいなぁ。悪魔、コイツに見せてやりなよ」

 

「対価は? 力を行使するなら対価を求める。小僧が出せる対価は残り少ないぞ」

 

 どうやらジギルド司祭は遊びが過ぎたようだ。冷静な口調で対価を要求する複眼の悪魔にジギルド司祭が忌々しげに息を荒げた。

 

「対価ねぇ。そこの2人の魂なんてどう?」

 

「我々悪魔は魂を喰らうために力を行使しない。魂を喰らう時、それは契約不履行が起きた時だ」

 

 ジギルド司祭の舌打ちが広場に響く。複眼の悪魔に対価が払えず協力しないのであれば残りはジギルド司祭のみ。

 

「アンタがどんな悪魔かは知らねえが、離してくれねぇか?」

 

「ああ、人の子よ。それは出来ぬ、この場で小僧を守護する契約を結んでいるのでな」

 

 契約が結ばれている限り複眼の悪魔はジギルド司祭殺害を妨害してくる。

 結局のところジギルド司祭を討伐するには目の前の悪魔をどうにかしなければ話にならない。

 しかし一度だけ試してみる価値は有る。

 スヴェンは力を脱力させ、ガンバスターの柄を手放しーー同時にその場から消えるようにジギルド司祭の背後に回り込む。

 クロミスリル製のナイフでジギルド司祭の首筋に刃を振れば、刃がまた複眼の悪魔によって掴まれ、今度はナイフの刃が呆気なく握り潰されてしまった。

 

 ーーなるほど、怪力に全方位死角無し。おまけに反応速度も高い、か。

 

 ーー眼、複眼の悪魔の眼にはなんか有るのは明白だ。眼を媒体にした魔法。なら眼を合わせるのは危険だな。

 

 複眼の悪魔を出し抜きジギルド司祭の討伐は不可能。そう判断したスヴェンは複眼の悪魔と視線を合わせず地面に落とされたガンバスターを拾う。

 

「……異様に速いねぇ。前に追わせた何者かみたいだ」

 

 楽しげに嗤うジギルド司祭にスヴェンは背後の魔力を感じ取り一度距離を取る。

 自身と入れ替わるようにリノンが放った魔法ーー光の矢が雨となりジギルド司祭と複眼の悪魔に降り注ぐ。

 複眼の悪魔が腕を振るいジギルド司祭だけを魔力障壁で覆う。

 魔力障壁によって護られるジギルド司祭、しかし複眼の悪魔の全身に光の矢が貫く。

 身体中の複眼が光の矢によって潰され、複眼の悪魔から感心した息が漏れる。

 

「アトラス神の信徒、見事な悪魔祓い魔法だ」

 

 リノンに対する称賛の言葉、彼女はクロスボウを向けたまま複眼の悪魔の眼に視線を合わせないように背後のジギルド司祭に標準を定めていた。

 悪魔が張った魔力障壁は並の魔力では防がれてしまうだろう。

 スヴェンはガンバスターに練り込んだ魔力を纏わせ、刃を形成させる。

 

「それはダメ、許さない『影よ、汝に纏わり付き我が意のままに』」

 

 静観していたジギルド司祭の詠唱に魔法陣が形成され、影の塊が放たれた。

 影の塊が蠢く触手で這いずる中、

 

「させるわけないでしょ『我が祈りの光よ、影を祓いたまえ』」

 

 背後から唱えられたリノンの詠唱によって光が影の塊を蒸発させた。

 

「……邪魔しないでよ異端者、今から新しい玩具で遊ぶんだから」

 

 まるで子供のはしゃいだ声だ。歪み狂った眼を向けるジギルド司祭にスヴェンは無言で袈裟斬りを放つ。

 竜血石で鍛えられ、竜血石を媒介に魔力で形成された刃が悪魔の張った魔力障壁に阻まれ火花が散る。

 目の前で子供が無駄な足掻きと嗤う。硬く強固な魔法障壁だが、一点に集中された攻撃ならどうか?

 スヴェンは全く同じ位置、箇所に三度ガンバスターを振り抜きーー魔力障壁に小さな亀裂が入る。

 ジギルド司祭の小さな悲鳴が響く。

 同時に理解する。複眼の悪魔は本気で魔力障壁を張っていないのだと。対価を払う気が無い子供を本気で守護する気はないのだと。

 スヴェンが思考を浮かべ身を屈めた瞬間、

 

「そこね」

 

 背後でリノンがクロスボウの引き金を引き、魔力を纏ったボルトが飛来する。

 スヴェンの頭上を超え、魔力障壁の亀裂にボルトが突き刺さった。

 

「亀裂が入った時は驚いたけど、無駄だね。さあてどう遊ぼかなぁ〜」

 

 完全に防いだ、自身を傷付ける術は無いのだと確信を抱いたジギルド司祭が嗤う。

 経験不足、精神性が幼く視野も狭い。なぜ魔力を纏ったボルトをそのままに安心し切っているのか。

 慢心ゆえの油断にスヴェンは呆れ混じりのため息を漏らした。

 

「なんだよ、玩具が息を吐くなよ」

 

 ジギルド司祭は気付いていない。リノンがボルトに仕込んだ魔法陣に。

 

「『光よ、炸裂せよ』」

 

 リノンの詠唱に呼応したボルトの鏃から光のレーザーが炸裂した。

 

「っ!?」

 

 光のレーザーはジギルド司祭の手足を貫き、魔力障壁内部が彼の鮮血で染まる。

 

「い、痛い、痛い! 痛い痛い痛い!」

 

 痛みに堪え切れずジギルド司祭が地面をのたうち回る。

 

「障壁が破れぬなら穴を開け、魔法を内部に撃ち込む……いい連携だ」

 

 複眼の悪魔の絶賛にスヴェンはガンバスターを構え直す。

 まだジギルド司祭は生きている。油断が過ぎる子供だが、様々な勢力を殺し合わせたのも事実だ。

 スヴェンが警戒を浮かべる中、複眼の悪魔が一歩踏み込む。

 

「小僧にいま死なれては対価が貰えぬのでな、これに抵抗されたら我は諦めるとしよう」

 

「『我が眼を眼にし者よ、我が囁き声に耳を傾けよ』」

 

 複眼の悪魔が魔力を解き放つ。

 広間全土が魔法陣に埋め尽かされ、スヴェンとリノンに鳥肌が立つ。

 魔法陣に現れる眼、勘が告げている。アレと眼を合わせればたちまち殺し合いが始まると。

 故にスヴェンとリノンは同時に眼を閉ざした。

 敵を前に眼を閉じるのは危険だが、視覚以外の五感で戦う他にない。

 ガンバスターに再度練り込んだ魔力を纏わせた瞬間、魔法陣から現れた複眼と()()()()()

 眼を閉じてるにも関わらず、眼と眼が合う。

 

 ーーコイツ、瞼の裏に魔法陣を!

 

 そう理解した時には既に遅く、複眼の赤い光りが広がった。

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