傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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21-8.末路

 身体が重い、足が鉛のように重い。ジギルド司祭は視界が汗で遮られる中、ユグドラ空洞の壁に手を付き息を荒げた。

 

「お、おかしい……たいした距離を走って、ない。な、のに」

 

 異常な疲労と空っぽになった下丹田。魔力が枯渇するほど魔法を使った覚えはない。

 ましてや先程の戦闘で魔力はあまり使っていなかった。にも関わらず魔力が底を尽きた。

 二人、片方はアトラス教会のシスター。そしてもう一人の男に使った魔法は一つだけ。

 ジギルド司祭は壁に寄り掛かりながら大きく息を吸い込む。

 乱れた呼吸を整え、記憶を振り返る。

 此処まで異常な疲労感に襲われてる原因が何か。それは少し記憶を探れば判ることだった。

 複眼の悪魔との契約、二人から逃すために自身は寿命を差し出した。

 

 --疲労と底を尽きた魔力、寿命と関係ある?

 

 思い当たる節は複眼の悪魔との契約だが、ジギルド司祭はソレと疲労は結び付かないと考えた。

 まだ十代前半、対価として寿命を払ったにしても支障はない。

 ジギルド司祭は単に慣れない環境で体調を崩したのだと考え、自身の手に視線を落とす。

 骨と皺だらけの皮、それはまるで老人のような手がそこに有った。

 これが自身の手だと言うのか? ジギルド司祭は困惑と焦りを宿しながら自らの手を左右ち動かす。

 皺だらけの手が左右に動く--ぼく、の手だ。

 寿命、異常な疲労感と底を尽きた魔力。因果関係など無い。そう考えていたが、そうじゃない。

 真実は自身の想定以上に残酷で、未来の枢機卿候補たる自身の先が闇に染まる。

 寿命を対価に払った結果、複眼の悪魔はジギルド司祭が払うと考えていた数時間分の寿命よりも何倍もの寿命を吸っていた。

 そして本人が気付かない内に身体は老化し、いまなお朽ち果てようとしている。

 残酷な事実にジギルド司祭は頭を抱えその場に蹲った。

 

「うそだ、うそだぁ。まだぼくはお気に入りの玩具も、邪神様の包愛すら受けてないのに、こんなのウソダァ」

 

 老化という事実にジギルド司祭は譫語のように現実を否定した。だが幾ら否定しようとも支払った寿命が戻って来ることはない。

 閉じた未来。突如起こる動悸と点滅する視界、ジギルド司祭は覚束無い足取りで歩き出す。

 

 --こ、こんなことで死ねない! 

 

 まだ生きるっと足を引き摺るように歩くジギルド司祭の前に一団が姿を現した。

 

「うん? こんな場所に老人……いや、邪神教団のフードってことは信徒ってことだな」

 

 戦斧を抜刀するゴスペルの右腕を束ねる頭目がジギルド司祭を睨む。

 今はこんな連中にすら満足に戦えない。ジギルド司祭はかつて信徒が向けた自身に向けた媚びた眼差しを彼らに向ける。

 屈辱と煮え繰り返る憤怒を胸の奥底にしまいながら。

 

「わ、わしはただの貧乏人じゃ。これは落ちてた物を拾っただけで……どうか命だけはぁ!」

 

 人身売買を生業とした連中でも枯れ木のように弱った老人を痛ぶる趣味はないだろう。

 ジギルド司祭は頭目に視線を向けると、

 

「何が貧乏人だぁ? 舐めるなよガキ、俺達はずっとジギルド司祭の気配を追ってたんだからなぁ!」

 

 彼の怒号と共に腹部に強烈な痛みが走る。

 息を吸うことすら忘れてしまう激痛、老体にとって大の大人の蹴りは非常に危険だ。

 ジギルド司祭はあまりにも強烈な痛みにその場で疼くまり、命乞いをするべく顔を上げると--振り下ろされた戦斧が視界に映り込んだ。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 スヴェンとリノンはバラバラに解体された老人の遺体に眉を歪めた。

 寿命を対価に複眼の悪魔と契約した者の末路、それ以前に人を殺し合せ玩具で遊ぶように弄んだ彼の業の結果。

 しかしスヴェンはその光景を目にはしていない。外道の末路は大概だが、少年だったジギルド司祭は老化によって恐らく老衰間近だった。

 老衰間近で荒々しく、怒りと報復をその身に刻まれ死んだ。

 恐らくコレをやったのはゴスペルの右腕だろう。だが、彼らの復讐を咎め否定する権利など誰にも無い。

 彼らも復讐の結果、得られる一時的な達成感と一種の虚しさに苛まれるだろう。

 

「これも外道の末路か」

 

「責めてわたし達の手で綺麗なままに終わらせてあげるべきだったかしら?」

 

「少なくとも俺には無理だな、人体を損壊させた殺し方か圧死させるか斬り刻むぐらいしか方法が思い付かねぇ」

 

「……いずれにせよ彼は死の間際、後悔したのかしら?」

 

「さあな、外道ってのは大概自分勝手なもんだ。基本過去の行いなんざ棚上げだ……まあ、稀に自身の業に納得しながら満足気に死ぬ奴も居るがな」

 

 少なくともデウス・ウェポンの傭兵には後者の傾向が多い。

 スヴェンはバラバラにされたジギルド司祭の横を通り抜ける。

 

「いずれにせよ懸念の邪神教団の司祭が1人死んだんだ、姫さんも多少は安心だろうよ」

 

「……少し手伝って貰えるかしら?」

 

 そう言ってリノンはジギルド司祭の遺体の前に腰を屈めた。

 

「何を手伝えば良い?」

 

「地底湖の周りに土が有ったでしょ? そこに彼を運ぶのを手伝って欲しいのよ」

 

 彼女は死んだ野盗をわざわざ埋葬していた。それに一体なんの意味が有るのか判らないが、ジギルド司祭の遺体が利用されないとも限らない。

 そう判断したスヴェンは何も言わず、血に濡れバラされたジギルド司祭を一箇所に集めてから持ち上げた。

 

「ありがとう、埋葬してから結界で処理を施すわ。それで遺体の利用は防げるはず」

 

「司祭の遺体でも邪神眷族の器にできんなら対策した方が賢明だな」

 

 その後スヴェンとリノンは一旦来た道を引き返し、ジギルド司祭を埋葬してから地上に向けて歩くことに。

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