傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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21-9.帰還と安息のひと時

 八月二十七日。エルソン村の魔法時計が十五時を指す頃、スヴェンとリノンは村の入り口に到着していた。

 リーシャ救出を祝した祭り騒ぎがエルソン村中に響き、村人の歓喜した声にリノンが胸を撫で下ろす。

 

「これでこの国の問題は解決かしらね」

 

「あの魔法陣を解体、邪神教団や野盗の討伐が完了するまで気は抜けねえだろうな」

 

 決して油断はできない。死者の魂と怨念を集めるあの大規模魔法陣が儀式に使用されるのは素人目でも判るほどだ。

 つまりそこから導き出される推測は、既に邪神教団が封印の鍵の回収に向かっているということ。

 あくまでも推測の範疇だが、この件をセシルに報告する必要が有る。

 

「セシルと連絡を取りたいけれど、彼は魔道念話器を持ってないのよね」

 

「エルソン村にはシルフィード騎士団の詰所なんざ無かったか。一先ず宿部屋に戻ってエルナ達の行き先を調べ……」

 

 宿部屋に戻るべく足を向ければ、トマトの串焼きを両手にこちらに駆け出すラウルの姿にその必要は無かったっとスヴェンとリノンは顔を見合わせ、彼女はラウルの子供らしい一面に小さく笑った。

 

「アニキ! リノン! 帰って来たんだな!」

 

「おう、アンタは随分満喫してるようだが2人はどうした?」

 

「向こうの広場でエルナとロイなら出物を観てるよ」

 

 スヴェンとリノンはラウルの先導に従って広場へ向かった。そこでピエロが披露する魔法を眺めるエルナとロイに三人は近寄る。

 

「あ、お兄さんとお姉さん……帰って来たってことは終わったって認識で良いのかな?」

 

 察しの良いエルナにスヴェンは酸味な様子を見せた。確かにジギルド司祭は死んだが、まだ連中の企みを阻止したとは言えない。

 エルナはこちらの表情である程度察した様子を見せ、

 

「スヴェン、実は俺達の方でもセシル部隊長に進言して来たんだ。もしかしたら王族同士の婚約騒動も封印の鍵を捜し出す目眩しかもしれないって」

 

 ロイがこちらにだけ聴こえる声量で耳打ちした。

 元邪神教団としての違和感からあり得る可能性を潰すために動いていた。自分達で考え出した結論にスヴェンは何も言わず、むしろ現状で取れる最適解に対して舌を巻く。

 

「報告の手間が省けたな……こっちでも大規模魔法陣を発見したが調査、解体はアトラス教会に任せることにした」

 

「それが良いと思うよ。儀式用の魔法陣って素人が手を出すと痛い目に遭っちゃうから」

 

「うーん、立ち話も何だし酒場でご飯を食べながら話さないかしら? 実は結構お腹空いてるのよね」

 

 確かにここ六日間は獣肉の干し肉で済ませ、満腹感の少ない食事ばかりだった。

 空腹に襲われるのも当然で腹が空腹を告げるのも無理もないことだ。

 

「良いよ、物珍しさで出物を観てたけど……うん、ピザが食べたいなぁ〜」

 

 仕事の達成にまた美味いピザを食す。そこにパルゼン酒造場産の酒でも合わせれば幸福が訪れるのは明白。

 スヴェンはエルナの提案に同意を示し、いつもの酒場に足を運ぶ。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 酒場のテーブルに並ぶ人数分のピザ、スヴェンとリノンは赤ワインに一口呑み。

 

「そういえばアニキ、シャルル王子と会ったんだけどさ……人って拳で大地を破れるんだな」

 

 静かにラウルの話に耳を傾ける。

 

「ん? まあ可能だが、身体強化魔法の応用か?」

 

「いや、ただの拳だった。魔力も纏わずの」

 

「……王族ってのは技巧派つうか、技術面に長けた印象が有ったんだがやっぱ人それぞれ違うってことか」

 

 シャルル王子とはまだ一度も会ったことは無いが、スヴェンは彼の容姿を少しだけ想像した。

 菜食主義の国、自然に囲まれて育ったシャルル王子は細身で大地を破れるほどの拳を放てる。

 見た目と筋力はイコールではない。だからシャルル王子も見掛けとは裏腹に力が強いのだろう。

 スヴェンはピザを口に運びラウルの興奮し切った声に耳を傾ける。

 

「それでな! シャルル王子の怒声……あ、あれはもう咆哮の域で空気が震えたんだ。人って鍛えればそんなこともできるんだな」

 

「……肺活量が凄えのか」

 

「おお、到底信じられないような話なのにお兄さんは信じてくれてる!」

 

 ラウルの眼は純粋だ。そこに嘘など含まれず、眼にした事実だけを口にしているのは明白だ。

 だからこそスヴェンは何も疑わず腹を満たしながらラウルの言葉に耳を傾け、時折相槌を打つ。

 そんな様子が不思議だったのかリノンが、

 

「貴方は子供には優しいのね」

 

 そんな事を意外そうに呟いた。

 

「あ? 別に優しくはねえよ、これは普通の対応だ」

 

「お姉さん、お兄さんは普通に私達を投げ飛ばすんだよ」

 

「寝てるスヴェンは特に酷い」

 

 安眠を妨害する方が悪いと言いたいが、これは身体に染みた癖であり決して消せないものだ。

 睡眠中でも周囲を警戒し身体を休める。これが出来ない傭兵は高確率で死ぬ。

 それだけ戦場に安堵など無い。安堵は無いが、やはり戦場こそが自身の居場所なのだ。

 

「投げ飛ばされる光景が眼に浮かぶようだわ」

 

 スヴェンは思考の傍ら赤ワインを飲み、四人の会話を耳に黙々とピザを食べーー不意にリノンと眼が合う。

 向けられる柔かな笑み、何処か安心したような安堵の視線にスヴェンは一瞬だけ手を止めーー彼女は彼女だと意志を曲げず、ピザを食べる手を再開させる。

 向けられる感情や視線よりも目の前の幸福を味わうのが今のスヴェンにとって得難い時間なのだから。

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