レーナ達がエルソン村でセシル達と会ってる頃、スヴェンはエルナ達を連れてとある情報を確かめるためにフライス村に来ていた。
スヴェンはリノンと会話した晩、闇医者と長い緑髪の女性が重傷を負った白髪の少女を運び込んでいるとの情報を情報屋の悪魔から得たのだった。
エルソン村からはフライス村まで実に四日間の距離だ。今頃レーナ達も国境を越えてミルディル森林国に入国してる頃合いか。
分担して書き込み調査をしながらレーナ達の動向を考えていたスヴェンに、
「スヴェン、次はあそこの露店主に聴いてみないか?」
ロイがぬいぐるみを販売している露店主を指差した。パルセン酒造場の案内看板の側で露店を営む男性にスヴェンは歩き出す。
「少しいいか?」
「おっ、男の子連れの客とは珍しいね」
棚に並ぶぬいぐるみはどれも女の子が喜びそうな物ばかりだ。中でも人気! っと札が貼られた子猫のぬいぐるみは他の物と比べてあと一つだけ。
しかしスヴェンの知り合いにぬいぐるみを好みそうな歳頃の少女が思い浮かばず、情報収集のおまけに買うのも商品を無駄にするだけか。
そう判断したスヴェンは棚から露店主に視線を移す。
「いや、買いに来たわけじゃねえんだ。少し聴きたいことが有ってな」
露店主は露骨に訝しげな表情を向けた。
「聴きたいことぉ〜?」
露店主の態度は商品を買わない客に対する対応としては当然のものだ。
ここで門前払いを喰らわない辺り、露店主は人の良い性格なのかもしれないが。
「あぁ、フライス村で目撃が有った闇医者に付いてな」
「……捕まえようってんの?」
「俺に誰かを捕らえる権限はねえよ、子連れの観光客が闇医者を探してるってのも不思議かもしれねえが……コイツの妹が闇医者の世話になってるかもしれねぇんだ」
ロイに指差し、視界の端でロイが妹を想う悲しげな眼差しで露店主の情に訴えかける。
「あ、最近物騒だったからな。子供が野盗に誘拐され、ケガをしながら逃げた先でドクターに助けられるなんてことも良く有るなぁ」
「それで闇医者の居場所は?」
「教えてやりたいのは山々だけど、訳ありの患者を多数抱えてるドクターの居場所を簡単に教えるのはちょっとなぁ」
信用が無い。金で闇医者の居場所を知るのは不可能だろう。それほど露店主から闇医者への恩義と信頼を感じるからだ。
「そうか、邪魔をしたな。詫びと言っちゃなんだが連れのガキに此処を紹介しておく」
「お、是非とも頼むよ。なんせ此処のぬいぐるみはかわいいって評判なんでな」
スヴェンとロイは露店主に別れを告げ、次にフライス村の広場に足を運ぶ。
▽ ▽ ▽
大木の切り株から湧き出る噴水と背景の森林。この情景を楽しむために置かれたベンチに腰掛けるエルナとラウルが口に何かを含みながら、
「うん、むぐぅ!」
「むぐ、ほぐ!」
何かを話していた。そんな二人にロイが呆れたため息を吐くのも無理はないことだ。
「2人ともちゃんと飲み込んでから喋れよ」
「ん……リンゴのタルト美味しかった!」
「ほう? それで何か収穫は有ったのか」
リンゴのタルトを堪能したエルナとラウルに訊ねると、二人は同時に視線を逸らしながら告げる。
「じ、実は闇医者がフライス村か外、何処かに居るのは間違いないんだ。でも誰も詳細な居場所を教えてくれなかったんだよ」
「シルフィード騎士団の第八遊撃部隊の騎士にも聴いたら、闇医者の所在は騎士団でも判らないんだって」
国家戦力が国内に居る闇医者の所在を把握していない。露店主の反応から闇医者が罪を犯している様子は感じられないがこうも考えれる。
国内に多数の拠点を抱え、一定周期で居場所を変えているのだと。
アシュナの怪我の具合や治療魔法の有無で移動距離も限られるが、現状で闇医者を捜すのは難しいだろう。
「……同行していた長髪の緑髪の女性に付いて調べるか」
「長髪、緑髪の女性……そっちの方はおれ達で捜そうか?」
ラウルの提案にスヴェンは思案した。村内だけなら三人に任せても問題は無い。むしろエルリア魔法学院の制服を着ている三人なら余計な警戒心を与えることも無いだろう。
それならこちらは子供が立ち寄れない場所で情報を集めるべきだ。
スヴェンがラウルの提案を受け入れると同時にサイドポーチの魔道念話器が光り出した。
リノンからの連絡に魔道念話器を取り出したスヴェンは、
「何か有ったか? そろそろ姫さん御一行が到着してる頃合いだが……」
要件を訊ねると魔道念話器からリノンの声と微かにレーナとミア、そしてレイと聴き覚えが無い三人の声が聴こえる。
『何も問題は無いわ。ただセシルと会う筈がシャルル王子とリーシャ様も居て、まあ賑やかな状況ね』
まだユグドラ空洞に閉じ籠った邪神教団が片付いていない状況で国の王族が一ヶ所に集まるのは得策とは言えないが、アトラス教会も周辺の警戒に当たってる状態で無用の心配か。
スヴェンは頭に浮かんだ思考を取り払い状況に付いて訊ねる。
「それで方針は決まったのか?」
『えぇ、ユグドラ空洞を塞ぐ硬質化した結界を破ってシルフィード騎士団とアトラス教会による共同討伐作戦が展開されることになったわ』
半ば予想通りの結果と言えばそうだが、果たして追い詰められた邪神教団が大人しく討伐されるのか。連中は封印の鍵を既に入手しているのだ、邪神復活のために激しく抵抗されるだろう。
「あまり追い詰め過ぎるなよ?」
『貴方の懸念は良く分かるわ、共同討伐作戦と言ってもユグドラ空洞の最下層に構築された儀式魔法陣を解体するのが目的だもの』
ジギルド司祭が死亡し、封印の鍵を確保した状態で邪神教団が国外に撤退しないことに違和感が有る。
国境封鎖状態で逃げられないからヤケ糞で篭城してると言われればそれまでだが、まだ邪神や邪神眷属の解放条件が不明瞭だ。
エルナとロイも具体的な方法を知らない。分かってることは封印の鍵に司祭クラスが触れるだけで無条件で邪神眷属が解放されることだけ。
他にも方法が有るねのか、なぜ司祭クラスでなければならないのか。邪神眷属は過去に一度も解放されたことがない前例だ。
「連中、ジギルド司祭が死んだ状況でなぜささっと逃げない?」
『……その件はまだ議論中だけれど、大半は逃げ場のない抵抗という声が多いわね』
「楽観的過ぎるのか、俺達が単に心配症ってだけなのか」
『警戒して損は無いわよ。それにレーナ姫も解放条件が判らない状況で楽観視は危険だって訴えているわ。だから最悪の状況にはならないと思うわよ』
やはり警戒を促す人物が信頼の高いレーナなら様々な勢力が意識を傾ける。
これは傭兵には決してできないことだ。
「そうか。こっちは引き続き捜索に移るが、姫さんの要請が有るなら切り上げて戻るっとだけ伝えてくれ」
『なんならこの場所で変わろうかしら? レーナ姫とミアって子が代わりたそうにしてるもの』
「本人の前で言ってやるなよ……」
スヴェンはレーナと軽いあいさつ程度の現状報告を告るべきかと、思案すると怪しげな風貌の人物が人目を避けて大木の枝で出来た路地に入って行くのが見えた。
何か情報を得られるかもしれない、そう判断したスヴェンの決断は速かった。
「悪いな、急ぎの用事ができたから後で連絡する」
それだけ告げて魔道念話器の魔力を断ち、ラウル達に後を追う事を告げてからスヴェンは路地に駆け出した。