傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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22-4.闇医者

 路地に入ったスヴェンは、白と黒混じりの短髪、顔には右の眼帯と顔の縫い傷。やや猫背気味で痩躯の男性に悟られないように視線を向ける。

 男性は人目を忍び慣れた足取りで路地を進む。気配と魔力を断ち彼の呼吸と足音に合わせ歩き出す。

 久し振りの尾行、周囲には男性以外の気配も無し。欲しいのは闇医者の手掛かりであって不審な男性の身柄ではない。

 男性が路地の曲がり角に進み、スヴェンも曲がり角に進む。

 尾行に気付かれていないが、男性はそのまま直進して路地裏に進む姿が見える。

 

 ーー表通りじゃあ不審だったが、路地に入ってからは堂々してるな。

 

 背中から悪意は感じられない。だが血と薬品混じりの臭いを感じる。彼が探してる闇医者なのか、それとも単に薬品を扱う商人か医者のどちらか。

 スヴェンが路地裏に入ると、男性は路地裏の大木民家の前に留まり、二回連続で叩き間発入れず三度リズミカルにドアを叩いた。

 明らかに何らかの合図だ。怪しい男性が組織的な人間なのか。スヴェンは物陰に身を隠し男性の様子を窺う。

 

「あぁ! 来てくださったか!」

 

 右脚を引きずった男性が怪しげな男性を自宅に招き入れる。

 怪しげな男性に訊ねるなら彼が出て来るのを待つ他にない。

 幸い大木民家から感じられる気配は、怪しげな男性を含めて五人分だ。

 スヴェンは物陰に背中を付け、ユグドラ空洞の現状に付いて思考を向けた。

 

 ーー全出入り口を結界と硬化魔法で塞いだ、か。

 

 まだシルフィード騎士団とアトラス教会が内部に突入できてない状況にある。ということは出入り口を塞ぐ魔法を突破しない限り邪神教団を追うことすら叶わない。

 最下層に有った儀式魔法陣まで迷わず進めば三日。だが、魔法突破を含めれば邪神教団は充分に時間を稼げる。

 

 ーー問題は得た時間を何に使うかだな。

 

 あの儀式魔法陣に集まった死者の魂を利用して何をするつもりなのか。きっとろくなことではない、それこそ封印の鍵から邪神眷属や邪神の一部を解放するための用意ならまだ理解も及ぶ。

 いや、それ以外の最悪の可能性が浮かばないのが現状だ。

 

 ーー司祭クラスじゃなきゃ発動できねぇんなら杞憂なんだろうが。

 

 今回ばかりは単なる杞憂で有って欲しい。悪魔一体に対して有効手段が無い状態で邪神眷属の相手など果たして何処まで喰らい付けるか。

 いや、そう考えてしまってる時点で相対時に死亡が確定しているようなものだ。

 スヴェンはこれはいけないっと考えを改めた。何が何でも邪神眷属に喰らい付き殺してやる。

 まだ復活すらしてない存在に殺意を高めたスヴェンは、怪しげな男性が出て来るのをじっと待った。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 あれからどれぐらい時間が経過しただろうか。空を見上げれば既に夕暮れに染まり、大鴉の群れが空を埋め尽くす勢いで羽ばたいている。

 少なくとも気配が減った様子も無いが、中で何をしてるのやら。

 素性の分からない相手ほど判断材料が少ない。これも尾行する上で情報不足は厄介だ。

 スヴェンがただ呆然と夕陽を眺めていると、

 

「ありがとうございます! ありがとうございますっ! 貴方にはどう感謝すれば良いものかっ!」

 

 右脚を引きずった男が涙を流しながら怪しげな男性の両手を握り締めながら感謝の言葉を何度も何度も繰り返していた。

 大木民家に入って長時間、怪しげな男性が荷物を持ってる様子は無いが荷物の有無など魔法の前では関係ない。

 彼が当たりなのかもしれない。スヴェンがそう思案を浮かべると怪しげな男性は笑みを浮かべる。

 

「奥さんを大切になさい、今回は幸い手術が間に合ったから良かったものの……あれ以上腫瘍が大きくなっていたら危なかったでしょうね。ああ、2、3日は高熱が続くでしょうが、渡した薬はちゃんと飲ませなさい」

 

 彼の放った言葉は彼が医者である事を証明するには充分なものだった。

 スヴェンは物陰から姿を現し、こちらに向かって歩く彼に話しかける。

 

「アンタが有名な闇医者か?」

 

「……酷い血の臭いだ。野盗、ではないな? あぁ、ひょっとして傭兵かな」

 

 スヴェンは自身の正体を肯定するように頷く。

 すると彼は得心を得た様子で穏やかな表情を浮かべた。

 

「君がわたしを捜している……いや、捜してるのはアシュナという子かな」

 

 アシュナの名を口にした彼は間違いなく闇医者だ。こうも早くに当たりに辿り着けるのは行幸と言えるだろう。

 

「あぁ、知り合いでな。行方不明になったと聴いて捜していたんだ」

 

「ふむ、単刀直入に言えば彼女は生きてる。しかし背中から腹部にかけて貫かれたのだ、手術は終わってるがまだ彼女には安静が必要なんだ」

 

 医者としての見解を述べる彼に対してスヴェンは首を横に張った。

 

「アイツに療養が必要なら連れて行かねえさ、ただ生存の確認ができりゃそれで充分だ」

 

「物分かりが速くて助かるが、わたしはこんな見た目をしてるし闇医者だ。そんなわたしの言葉を信じられるとはね」

 

「アンタからは血と薬品の臭いがするが、その手やさっきの男の様子をみりゃあアンタが仕事に対して切実で真面目ってのは理解してるつもりだ」

 

「君は人をよく観察してるようだね。……あの子は完治次第わたしが無事に送り届ける事を約束しよう」

 

「あぁ、アイツを捜してる連中にも伝えて置く……あー医療費を払わせて欲しいんだが?」

 

 アシュナを治療して生命を繋ぎ止めた闇医者の彼には正当な報酬が必要だ。

 

「わたしは闇医者だからね、金貨10枚は頂くことになるけど構わないのか?」

 

 正直に言えば金貨百枚は請求される覚悟だったが、スヴェンは金袋から金貨十枚枚を取り出し闇医者の彼に手渡した。

 

「しっかりと頂いたよ……そうだ、わたしは皆に闇医者やドクターと呼ばれているが、わたしのことはルイと呼んでくれ」

 

 彼は見た目に似合わない名前だけど、そう苦笑していた。

 

「見た目と名なんざ対して重要じゃねえだろ、アンタは少なくとも立派な人間だ」

 

「そう言って貰えると医学を追放された身として少し心が楽になるよ。……ところで君の名を聴いても?」

 

「俺の名はスヴェンだ。いつかアンタに世話になりそうだしな、そん時は頼む」

 

「ミルディル森林国内であればわたしはいつでも駆け付けよう」

 

 闇医者ルイは軽快な足取りで路地裏を立ち去り、スヴェンもやや遅れてからエリナ達と合流し、闇医者と会ったこと捜してる人物の生存を確認した事を告げるのだった。

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