傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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22-5.レーナとリノンと……

 スヴェン達がフライス村からエルソン村に向けて移動してる頃。

 数日にも渡る会議を終えたレーナは用意された宿泊施設の一室でリーシャ、リノン、ミア、ビビに視線を移す。

 王族の花嫁たるリーシャがこの場に居ても何も違和感はない。むしろ積もる話も有り誘拐されていた彼女に対してシャルル王子が気遣ったのだろう。

 ミアとビビは同性で自分の護衛だ、二人がベッドに座り香水や衣服に付いて話してるのも可笑しいことではない。

 レーナは改めて椅子に座り魔道念話器に微笑むリノンに視線を向けた。

 アトラス教会のシスターが何故同じ部屋なのか、スヴェンとはどんな関係なのか気になって仕方ない。

 そもそもここに彼女が居ることに関しては何も問題は無い。問題は無いのだが、リノンはスヴェンと魔道念話器で連絡を取り合っていた。

 彼のことだ、円滑に情報交換するために所持しているっと考えられるがーーそれにしてはリノンに対する声が何処か優しさを帯びてる様子さえ見受けられる。

 

 ーーむ、むぅ。これは私の勘違いかしら?

 

「レーナ姫、何か悩み事かな」

 

 リーシャに話しかけられたレーナはそれはこっちの台詞だと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

「私のはたいしたことじゃないわ、それよりもリーシャは平気なの?」

 

「この通りケガは無いよ、それに手を出そうとした野盗は再起不能にしたから大丈夫さ」

 

 男勝りとは常々思っていたが、誘拐された状況下で気丈に振舞いあまつさえ野盗を再起不能にするとは。

 やはり王族としても彼女のように強く在らねばならないのだ。

 

「私も貴女のように強く在りたいわ。それともシャルル王子が助け出すっと信じていたからこそなのかしら?」

 

「当然信じていたから耐えられたのさ、そうでも無ければわたしは拘束を破り野盗を血祭りに挙げていたところだったよ」

 

 そう言ってリーシャは平然と魔力を宿した拳を握ってみせた。

 彼女なら本気でやりかねないから困る。それはそれでオルゼア王達が計画した作戦や特殊作戦部隊を派遣した意味が無くなってしまうが、派遣は父親同士の友情に答えた結果とも言える。

 レーナが強気なリーシャに苦笑を浮かべると彼女は真顔を浮かべ訊ねてきた。

 

「そう言えばシャルルも不思議に思ってたけど、レーナ姫の魔力が全く感じないのはどうしてだ?」

 

 以前から交流の有るリーシャが訊ねるのも当然の疑問だ。

 そんな彼女の疑問に対してミアとビビが肩をびくっと跳ね上がらせた辺り、二人は政治的な場では護衛に向かないだろう。根が正直な二人はなおさらに。

 

「貴女とシャルル王子が感じてる疑問に答えるわ。簡単に言ってしまえば今の私には魔力が無いからよ」

 

「簡単に言うなぁ。それがどれだけ不安なことか、わたしには想像にも及ばないよ」

 

 確かに魔力が無いというのは不憫でいざという時に自分の身を護れないのも時に不安にもなる。

 ただ今は護衛が側に居て、何よりもスヴェンが居る。それだけで不安というのは和らぐものだ。

 

「私は周りに護られてるもの、そこに不安は無いわ。ただ……そうね、今回の件で率先して動けないのは少し辛いわね」

 

「同盟国のお姫様に事件を解決されたらシルフィード騎士団の立つ顔が無いよ」

 

「そうかしら?」

 

「そうなんだよ」

 

 二人はくすりっと笑みを浮かべ、

 

「そうだったわ、偽りのお見合いは中止になるけど代わりに結婚式を挙げるそうじゃない」

 

 シルフィード騎士団の詰所を去る際にシャルル王子からこっそりと教えられた事を告げるとリーシャが珍しくはにかんだ。

 普段は男勝りで下手な男性よりも頼りになる姉御肌だが、照れて幸せそうな笑みを浮かべるリーシャは正に乙女だ。

 

「ま、まあね……今回の件が後押しに繋がったと考えるとそう悪いことでもないけど、それでも国民には辛い想いをさせたよ」

 

 自身の幸せも有るがそれ以上に国民を想う気持ち。やはり彼女もシャルル王子の婚約者というだけ有り王族の花嫁に必要な心が備わっている。

 いや、自身がこう想うのは烏滸がましいことだ。何せシャルル王子が見初め選んだ相手だ。

 

「それじゃあこれからはリーシャ王妃と呼ばないとね」

 

「や、やめてくれよむず痒い。責めてこういう公務とは何も関係ない場でいつも通りで頼むよ」

 

「えぇ、分かったわ……そう言えばシャルル王子のことだけれど、また筋肉増したの?」

 

「あ〜うん、野菜しか食べてない筈なんだけどねぇ」

 

 久々に会ったシャルル王子は前回に会った時よりも明らかに筋肉量が増していた。むしろ体格も増してるようにさえ思う。

 同時に彼は一体何処を目指しているのか? そんな疑問が頭の中で浮かぶがそれは本人に直接聞けばいいことだ。

 レーナがシャルル王子から思考を変えた瞬間、リーシャが意地の悪い笑みを浮かべていた。

 一体なんだろうか? リーシャの様子に思わず身構えてしまう。

 

「ところでレーナ姫? さっきあそこのシスターがスヴェンって男と連絡を取った時は随分とそわそわしていたね」

 

 何故スヴェンの声を聴いただけで胸が高鳴り、嬉しさが込み上がったのかは判らない。

 良く分からないままレーナは自身の感情を誤魔化すように酸味に笑った。

 

「そ、そうかしら?」

 

 そんな笑みに対してリーシャはなるほどっと理解した様子で笑うが、何を理解したと言うのか。

 レーナが視線で疑問を訴えかけるっと、

 

「あ〜なるほどねぇ。レーナ姫は彼が気になるのね」

 

 何かを察した様子で同時に同情にも似た眼差しを向けるリノンに顔を向ける。

 

「ええっと、何故同情を?」

 

「苦労するわよ、あの男は恋愛は愚か愛情という概念を表面上でしか知らないもの。いえ、()()()()()知る事を恐れて避けてるわね」

 

 レーナはリノンの口調に違和感と戸惑いを浮かべた。

 それではまるでスヴェンを昔から知ってるような口振りだ。いや、デウス・ウェポンに居たスヴェンの過去全てを知ることは同じ世界の異界人でしか不可能だ。

 特に自身の過去に付いてこちらを気遣い話そうとはしない彼が簡単に話すとも思えない。

 レーナが真意を問うべきか迷うとミアがベッドから立ち上がりリノンに訊ねた。

 

「昔のスヴェンさんを知ってるような口振りですね。それともスヴェンさんから聴いたんですか?」

 

 迷った問い掛けを問うミアに全員の視線が向く。問われたリノンは彼女とこちらに真っ直ぐと見詰め、かと思えば若干困ったように頬に手を当てた。

 

「うーん、良く知ってると言えばそうなのだけど……話してもそう簡単に信じられるような内容でもないのだけど……困ったわね、適切な言葉が浮かばないわ」

 

 ーースヴェン、彼女に対して穏やかだった。話してる内容は相変わらず仕事や邪神教団に対する警戒だったが。

 

 レーナはリノンの眼を見て彼女が嘘を言っていないこと、スヴェンと彼女の間に何か。言葉では説明できない複雑な事情が有るのだと察した上で。

 

「それじゃあ質問形式で受け答えるのは如何かしら?」

 

「良いわよ、わたしは貴女達の質問に対してイエスかノーで答える。スヴェンに関する質問に対しては返答を控えさせてもうけど」

 

 それは当然だ。スヴェンが過去を話そうとしない限り、こちらが第三者のリノンに過去を聴くのは違う。

 レーナとミアはリノンに納得し、リーシャとビビが静かに見護る中最初の質問をした。

 

「それじゃあ最初の質問よ。貴女とスヴェンが出会ったのはごく最近、今回の事件中かしら?」

 

「イエス。ついでに言えばユグドラ空洞に突入したのも

私とスヴェンの2人だけね」

 

 ごく最近、警戒心の強いスヴェンが短期間で彼女に気を許したと考えるのが一番納得できる考え方の一つだ。

 しかし魔法の存在が在る以上、魔法や神秘的な重なりでデウス・ウェポンをリノンが知ってる事を考慮しなければならない。

 

「それじゃあ次の質問よ。貴女は間違いなくテルカ・アトラスの出身だけれどデウス・ウェポンを知ってるのね」

 

「イエスよ、あの世界のことは嫌というほど知ってるわ」

 

 リノンは何らかの方法でデウス・ウェポンを知った。どんな魔法を使えば異世界の情報を識り、知識として取り込めるのか。そこにスヴェンという存在を絡めて考えればーーあ、一つだけ限りなくゼロに近い可能性で有ったわね。

 無数に存在している異世界の中には、同一の存在が存在してる異世界が有る。

 そう言った話をアトラス教典に記されていることも以前にオルゼア王から聴いたことがあった。

 その可能性に辿り着いた時、レーナは自身でも驚くほどに困惑していた。

 

「あら、困惑してるようだけれど……他に質問は無いのかしら?」

 

「じゃあ姫様に変わって私が、あなたはあのクソ不味いレーションの味を知ってますか?」

 

「……懐かしいわね。イエスと答えたいところだけれど、ノーでも有るわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その酸味な答え方にレーナは確信を抱いた。彼女はデウス・ウェポンのリノンと混じり合ったのだと。

 突飛な確信だが決して有り得ない訳では無い。判断材料が揃ったならなおさらに。

 だからこそ質問はこうするべきだ。

 

「次は私が最後に質問するわ……貴女はデウス・ウェポンのリノンでも有りテルカ・アトラスのリノンでも有る。違うかしら?」

 

 そう質問した時、リノンは眼を見開き驚いた様子を浮かべ、やがて晴れやかな笑みを浮かべた。

 

「えぇ、イエスよ。だけど如何して理解したのかしら? 普通は有り得ないから推測にも浮かばないことよ」

 

「異世界の存在を知り、同一人物が居る可能性を見落とせば推測にも浮かばないわね。それに貴女は最初に言っても信じないと言っていたもの。だから私は限りなくゼロに近い、奇跡レベルの可能性に賭けたのよ」

 

「流石は魔法大国エルリアの姫君ね。これで私がスヴェンに詳しいのは分かったかしら?」

 

「充分に理解したわ……ところで、その貴女とスヴェンの関係を聴いても良い?」

 

「良いわよ……そうね、私とスヴェンは相棒だったわ」

 

 スヴェンの相棒、つまりデウス・ウェポンのリノンは傭兵だったことが判る。

 レーナは自身の感情の揺らぎよりもリノンに対して強い興味を抱いていた。

 

「ねぇ貴女の事を詳しく教えてくれないかしら?」

 

「良いわよ、その代わりわたしに貴女達の事を教えて貰うわ」

 

 レーナとミアは互いに顔を見合わせ、リノンに笑みを浮かべる事で返した。

 こうしてレーナとミアはしばしリノンを質問責めにしては、反撃と言わんばかりにリノンの質問責めに遭うことに。

 そんな様子をリーシャとビビに見守られながら穏やかな一夜を過ごすのだった。

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