傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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22-7.混乱

 森林の中を黒いハリラドンが荷獣車を牽引して走る中、火の手があちこちで挙がりモンスターに魔法で応戦しながら逃げる住民の姿も。

 障壁を砕きモンスターに魔法を放つ。そこまでは良かったが、背後から迫るモンスターに気付かなかった者の末路は悲惨だ。

 恐竜を彷彿とさせるモンスターの顎が住民の頭部を喰らい潰し、側に居た子供の絶叫が森林に木霊する。

 エルナとロイ、ラウルが子供を助ける為に詠唱するが、子供は荷獣車から見て西の方角ーー千メートル先.600LRマグナム弾の射程外だ。

 到底間に合わない。スヴェンは冷徹に子供を見捨て、こちらに飛び掛かる二足歩行のモンスターに対して練り込んだ魔力を纏わせたガンバスターで障壁ごと薙ぎ払う。

 同時に助けられない子供は恐竜系のモンスターに頭から腰にかけて噛みちぎられ、上半身は木々に投げ捨てられ下半身は屈強な脚に踏み潰され短い生涯を閉じた。

 

「お、お兄さんっ……小さな女の子がっ」

 

 エルナの悲痛な声、ロイとラウルの悔やむ声が響く。

 こればかりは強者でも覆すことが難しい現実だ。目に届く範囲の全てを護ろうとすればいずれ手が足りなくなり、余計な重荷で潰れる。

 少なくともデウス・ウェポンではそうだった。しかしテルカ・アトラスなら多少なりともマシな結果を生むのではないか?

 だが、まだ子供の三人にこの言葉だけは決して口にしてはならない『次は護れるように強くなれ』期待と重積、子供を助けられなかったという現実を押し付けるような言葉など。

 まるで呪いのように根深く残る言葉など到底子供に言うべきでは無い。

 

「この状況だ、全て助けようなんざ思うな」

 

 だからスヴェンは敢えて厳しい口調で三人に告げた。冷徹非情な人間だと思われても構わない。死を目撃した者の行動など後は進むか止まるかの二択だけだからだ。

 

「今はエルソン村でセシル達と合流することだけを考えろ……その後だ、あそこに居るクソタレをどうこうするのはな」

 

 邪神眷属は未だユグラドラ空洞中心部の上空で停滞している。

 恐らく主目的は邪神復活。奴がこのまま何処かへ飛び去り守護結界を破壊して周りでもすれば各国は邪神教団の討伐どころでは無くなってしまう。

 混乱に乗じて封印の鍵の回収が予想されるが、今は動く気配すら見せない。

 

「なんで、なんで動かないんだ?」

 

 ラウルの疑問にエルナが考え込む様子が見える。

 思考と推測は彼女に任せ、今は黒いハリラドンを走らせエルソン村に急行することが先決か。

 スヴェンが手綱を片腕で握り締め、周囲に視線を移す。

 フライス村を離れたが、森林の中はモンスターだらけでオマケに火災が広がっている状態だ。

 特に目指したい方角は火災と燃え尽きた大木が倒れ、道を塞ぎモンスターが大群を成して獲物を探す様子が見える。

 このままエルソン村を目指してはモンスターの大群に呑み込まれ死ぬだけ。

 スヴェンはまだ火の手が及ばない北に向けて黒いハリラドンに進路を変更させる。

 手綱の通りに黒いハリラドンは走り、モンスターの大群がこちらに気付く。

 

「ラウル、今はモンスターの迎撃が先だ。水流で火災ごと流せるか?」

 

「魔力が足りないな……あれ? アイツらなんか空を見上げてないか?」

 

 ラウルの声にスヴェンはモンスターの大群に視線を向け、奴らが邪神眷属の方向を見上げていることに気付く。

 そしてモンスターが一斉に怒りに満ちた咆哮を叫び、邪神眷属が居る方向に走り出した。

 

「……自然の破壊者は存在問わず、か」

 

「こ、これで邪神眷属もどうにかなるのか?」

 

「ラウル、それは無いよ。邪神眷属は邪神が直接魔力と力を分け与えて産み出した眷属だよ……それにどうして封印されてたと思う?」

 

「ど、如何してって倒す前に邪神が封印されたからじゃないのか?」

 

 ラウルの見解は封神戦争を知らない者からすれば一つの見方としては正しい。

 だがエルナの口振からすれば、邪神眷属は倒し切れず仕方なく邪神と共に封印されたのだという事が判る。

 

「倒し切れずにってことか……」

 

「うん、エルロイ司祭なら当時のことを詳しく知ってると思うけど……でもちょっと変かな」

 

「変? それは邪神眷属から言う程の魔力を感じないことか」

 

 ロイの指摘にスヴェンは改めて邪神眷属に視線を向けた。

 確かに封神戦争で生き残り封印された存在にしては膨大な魔力は感じられない。

 全盛期程の魔力が無いなら勝算は充分に考えられるが、だが地形を破壊するほどの魔力は健在だ。決して油断の出来ない敵、シルフィード騎士団やアトラス教会と上手く連携して対処しなければ倒せない相手だ。

 

「なおのこと合流が先決だな……」

 

 黒いハリラドンが走る中、サイドポーチの魔道念話器が光り出す。

 手綱とガンバスターで両手が塞がれてる状態でリノンに応答出来ない。

 しかしガンバスターを鞘に納めるにはまだモンスターが多過ぎる。

 

「よいしょっと、少し借りるね〜」

 

 荷獣車から飛び出したエルナがサイドポーチから魔道念話器を取り出し、

 

「手が離せないスヴェンに変わって私が受けるよ〜」

 

『その声はエルナね……状況は理解してると思うけれどエルソン村に来ても合流は出来ないわよ』

 

「もしかして既に避難中なの?」

 

『えぇ、セシルの遊撃部隊とレーナ様の護衛小隊と共にエルソン村や周辺の村の住人を巨樹都市ユグドラシルに避難させる為に動いてるわ』

 

「じゃあ私達も巨樹都市ユグドラシルに?」

 

 巨樹都市ユグドラシルはミルディル森林国の中心に聳える巨大樹の建造された都市だ。

 此処からミルディル森林国の中心に向かうには、此処から南西に、火の手とモンスターを避けながら進む他にない。

 幸いユグラドラ空洞から最下層のあの場所を貫いた場所は巨樹都市ユグドラシルから離れた場所に位置している。

 

『戻る途中だと思うけれど、気を……『グギャァァァッ』!?』

 

 リノンの忠告と共にモンスターの咆哮と魔法の炸裂音が響き、魔道念話器が切れた。

 

「……あっちも厄介な状態らしいな」

 

 スヴェンは手綱を操り、黒いハリラドンに進路を変更させ巨樹都市ユグドラシルに向けて走らせる。

 その際に黒いハリラドンが凄みの効いた目で睨む。

 

「ミルディル産の干し草とリンゴをたっぷり食わせてやる」

 

 そう告げると黒いハリラドンが加速魔法を唱え、砂塵を巻き起こしながら森林を走るのだった。

 その際に巨体を誇るモンスターを弾き飛ばしながら。

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