傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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22-8.避難

 避難民と共に巨樹都市ユグドラシルに向かう幼い子と老人を乗せた荷獣車の中でレーナとリーシャは揺られ、避難民の哀しみと不安に苛まれた様子に苦心した。

 そんな避難民をシルフィード騎士団に混じったシャルル王子とレイ小隊が懸命に支える。そこにアトラス教会も加わり彼らの護衛は磐石に思えた。

 

「油断はできないわね……アレが動く前に何か対策を打たないと」

 

「竜王はいま何処に?」

 

 リーシャの問い掛けにレーナは静かに首を振る。確かに竜王なら復活した邪神眷属を再び封印することは可能だ。

 恐らく竜王は邪神眷属の魔力を感じ取ってこちらに向かってる可能性は高いが、果たして気付いてくれるかどうかは賭けになる。

 

「気付いてくれれば急行してくれると思うわ……それにお父様も動くわね」

 

「オルゼア王と竜王……ミルディル森林国が保つのかな?」

 

 それは保証できないことだ。娘の自分が思うのも可笑しいことかもしれないが、父オルゼア王は人間を辞めている。

 フィルシス騎士団長を含めたエルリア魔法騎士団全軍を相手に余力を残して勝つような人だ。

 それでも人の範疇、人智を超えた存在である邪神眷属を再封印することは難しい。

 

「それ以前に邪神眷属が動き出したら被害は甚大よ。幸いモンスターはアレに向いてるようだけど」

 

 ユグドラ空洞中心部の上空で停滞を続ける邪神眷属は依然としてモンスターが放つ魔法の集中砲火を受けているが、禍々しい魔力によって展開された障壁が魔法を跳ね除けている。

 このまま魔力を削って欲しいが、事はそう上手くいかないだろう。

 レーナが窓から邪神眷属に視線を向けるっと、眩い混沌とした光が溢れ出した。

 モンスターに禍々しい球体の一雫が落ちる。圧縮した魔力を単純な破壊力に転換させる古い魔法が、モンスターの中心で弾けた。

 空間が真っ白に染まり、禍々しい魔力がモンスターを障壁ごと呑み込みあっさりと消滅させーー衝撃波が大木を薙ぎ倒す!

 

「全員防御結界を!」

 

 レイの咄嗟の指示にシルフィード騎士団やアトラス教会が防御結界を展開し、邪神眷属が放った魔法の余波を防ぐ。

 お陰で避難民を護れたが、薙ぎ倒された大木が進路を塞ぐ。

 

「急いで大木の除去を!」

 

 セシル部隊長の指示にシルフィード騎士団が進路を塞ぐ大木に駆け寄る。

 

「怪我人はいませんか! 怪我をした方はゆっくりと手を挙げるか、魔力を発してください!」

 

 ミアの怪我人に呼び掛ける声が響く。

 レーナとリーシャは荷獣車から降り、進路を塞ぐ大木に近付く。

 ミルディルの大地で育った大木は数十人の騎士が持ち上げようとしているが、それでも大木は重く持ち上がらない。

 

「全員少し退いてて」

 

 レーナは腰から剣を引き抜き構えを取る。この行動にシルフィード騎士団が察したのか、その場を退ける。

 そして小さく一呼吸と共に刃を振り抜き斬撃を放った。

 斬撃が大木を斬り裂き道を作る。これで進路を阻む大木は無い。

 

「これで通れるわね」

 

「そうだね……それにしても酷い有様だ」

 

 リーシャが向ける視線の先、ユグドラ空洞中心部から広がる焦土の大地ーー大木の木々は消え、焼け残った灰と荒れ果てた大地だけが残っていた。

 自然豊かな大森林が一度の魔法で破壊され、おまけに星の魔力が地上に溢れ出ている。

 傷付いた大地を癒すように星の魔力が溶け込み、竜型のモンスターが骨格から産み出されようとしていた。

 最強種の竜をモンスターとして産み出される瞬間にレーナ達は戦慄し、渦巻く膨大な魔力が竜の形へと変えて行く。

 

「拙いな、邪神眷属に加えて竜系のモンスターか」

 

「シャルル王子、鍛えた筋肉でどうにかできそう?」

 

「この鍛えた筋肉は竜に通じないことは既に証明済み……」

 

 試したの? シャルルの王子のそんな言葉を聴いていた全員がそんな疑いの視線を向ける。

 

「……まあいい、それよりも避難を急がせよ」

 

 どの道竜系のモンスターと邪神眷属を相手にしながら避難民を護ることはできない。

 それはシルフィード騎士団、レイ小隊、アトラス教会も共通の認識だった。

 だからこそ今は同じく巨樹都市ユグドラシルを目指してるスヴェン達と合流するのが先決だ。

 再び荷獣車に乗り込んだレーナとリーシャは走り出す荷獣車に揺られ、その場を急ぎ離れることに。

 しかし急ぐレーナ達を逃すまいと突如発生したモンスターが怒り狂ったように次々と迫る。

 ハリラドンが引く荷獣車にモンスターは追い付けないが、竜系のモンスターが放つ咆哮に激しく大地が揺れる。

 遠くに居る筈なのに近く感じる存在感、此処まで対応に遅れてしまうことにレーナは内心で懸念の表情を浮かべながらそれでも避難民を不安にさせまいと気丈に振る舞う。

 

「大丈夫よ、シルフィード騎士団があなた達を護ってくれるわ」

 

 今の自分にできることはこうして声をかけることだけ。

 レーナは自身の無力感を胸に邪神眷属と竜系のモンスターから遠ざかることに。

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