幾度も議論の末に決定された邪神眷属封印作戦。それはオルゼア王の一撃から始まり、シルフィード騎士団の主力部隊が邪神眷属の魔法範囲外から遠距離魔法攻撃で削り続ける。
それが最初の第一段階、そこで封印可能であれば何も問題は無いが作戦の第二段階を浮かべたオルゼア王は息を漏らす。
空中庭園に吐く風がマントを靡かせ、大剣を床に突き立てたオルゼア王はミルディル森林国の方向に視線を移した。
「アトラス教会による魔法攻撃……あの者達に被害が出る事は避けたいが」
何の犠牲も無しに邪神眷属の封印など早速甘い考えだ。
犠牲無しで再封印できるなら誰も苦労はしないだろう。尤も封印完了後もまたしばらく多忙な日々が続くことになる。
オルゼア王はユグドラ空洞に大穴が生じたと話の中でしか知らないが、大地に生じた大穴と溢れ出る星の魔力。そして破壊された守護結界の修復。
特に村や町はモンスターによって荒れ果て、混乱に乗じて野盗が盗みを働く始末だ。
「カルドバス森王よ、今回の件でエルリア側は復興金を寄付しよう」
オルゼア王は背後に居るカルトバス森王に語りかけ、
「すまないな、友よ。しかし今後の事も大事では有るが今は邪神眷属が先決か」
彼は申し訳なさそうに眉を歪めていた。
こんな時でも無ければ同盟国としてしてやれることは限られている。
しかし、彼の言う通り今は邪神眷属に対して行動を起こすのが先だ。
オルゼア王は陰る空を見上げ、悠々と飛ぶ竜王に鋭い笑みを浮かべる。
突風がマントを揺らす中、突如目の前に姿を現した竜王にオルゼア王は動じた様子を見せず、
「今から邪神眷属に魔法を放つが、一発殴りに行くか?」
静かに彼に語り掛けた。
当の竜王は表情を変えず、ミルディル森林国に視線を移す。此処からでも感じ取れる邪神眷属の魔力と威圧感に竜王は眼を細める。
「……ぬぅ、かつてほどの力は出せないようだな。我が出向くには弱過ぎる」
竜王の声には落胆が込められていた。それは無理無いことだ、神を抜きにすれば竜王は最強の存在。彼とまともに戦える存在などこの世には何処にも存在しない。
仮に邪神眷属が完全復活したとしても竜王には及ばないだろう。ただ、その時が来れば間違いなく人類は未曾有の被害を被ることにはなるが。
「それに我の竜血石を託した者があの地に居る。大地の負担を考えれば我が出向かないことこそ最善と言えるだろう」
既にミルディル森林国は星の怒りによって竜系のモンスターが発生した。
それは大地に凄まじい負担と自然破壊故の自浄作用によって。
幸い人類に牙を向けなかったからこそレーナ達は無事に合流できたのだが、本来のモンスター同様人類の排除を優先していたらどうなっていたことか。
いや、間違いなく愛娘とシャルル王子達を喪うことになっていた。
「うむ、これ以上の負担は危険すぎるな」
竜王が静かに頷き、カルドバス森王が見護る中、オルゼア王は訪れる時間に魔力を高める。
下丹田の大量の魔力、それこそこんな事態でも無ければ使い道が限られる大量の魔力を圧縮させ、全身に流し込む。
身体から溢れ出る魔力の奔流が空中庭園に拡がり、メイド達が懸命に育て、レーナのお気に入りの花壇が魔力の奔流を受け吹き飛ぶ。
ーーしまった! 少々気合を入れ過ぎてしまったか!
これは後でレーナとメイド達に叱られる。いや、オルゼア王はそれも覚悟の上で一割の魔力で魔法陣を宙に描く。
多重構造式の魔法陣を展開したオルゼア王は詠唱を唱える。
「『我が魔よ、重き螺旋の球体となりて古の眷属に破滅を』」
「『星に備わりし重みよ、かの者を大地に押し潰せ』」
オルゼア王の詠唱と共に多重人格構造式の魔法陣に重力を帯びた魔力が螺旋状に集い、球体を形造る。
オルゼア王は完成した重力の球体をそのまま邪神眷属に向けて放った。
ーーズゴォォォッ!
凄まじい速度で重力の力場が空間を歪めながらミルディル森林国の方向に飛ぶ。
「友よ、今更なのだが……当たるのか?」
「先程の魔法陣には術者が強く思い描いた対象に飛ぶように魔法式を加えて有る。外れる事は無いが防がれる可能性は充分に有り得るだろう」
「あの魔力と重力の力場だ、防げたところで大地に押し潰れるか。随分と凶悪な魔法だな、エルリアの王よ」
「いやまだまだ。あの魔法にはまだ改良の余地が充分に有る……4年前にフィルシスの斬撃で斬り裂かれておるしなぁ」
愛弟子のフィルシスは人の身でありながら剣一本で重力の球体を斬り裂くことで防いでみせた。
あの時は驚嘆し、同時に若者の可能性と成長振りに心躍ったものだ。
オルゼア王が笑みを浮かべる中、カルドバス森王がぽつりと呟く。
「我が子も可笑しな方向に成長しておるようだが、フィルシス騎士団長のように人の道を外れて欲しくはないなぁ」
カルドバス森王の呟きに竜王は大笑いし、オルゼア王はまだ人の範疇だと述べながらレーナ達の無事を密かに祈るのだった。