圧縮した魔力を込められた.600LRマグナム弾が邪神眷属の心臓を撃ち抜く。
魔力を消耗した影響が現れたのか、邪神眷属の胸から右半身が損壊し邪神眷属の血反吐と肉片が地面に振り撒かれる。
スヴェンは地面に着地し、鎖を解きガンバスターを構え直す。
心臓は既に潰された。後は体内に有る封印の鍵が邪神眷属を再び再封印するだけ。
人間の身体は既に死んでる筈だ、あとは再封印だけで終わる筈なのだが、邪神眷属は未だ倒れず。
「……アガァッ、ま、魔力。足りぬ……寄越せッ!」
邪神眷属の影から伸ばされた影の手がリノン達の足元に絡み付く。
「こ、これは……!」
影の手にアトラス教会の魔力が吸われているか、邪神眷属に魔力が戻り始める。
このままでは振り出しだ。加えてこちらは既にアトラス教会の執行者部隊の大半が壊滅してる状況。
まだシルフィード騎士団が無傷とは言えこれ以上の損害は後々に影響を残す。
スヴェンは再び地を蹴り、邪神眷属に唐竹を放つ。
頭部から喉まで斬り裂いたガンバスターの刃が突如として止まる。
引き抜こうにも刃はビクッとも動かず邪神眷属が忌々し気にこちらを睨む。
「また貴様か。よくも邪魔をする」
スヴェンの周囲に魔法陣が浮かぶ。しかしガンバスターは依然と抜けず、このままでは魔法によって殺される。
ガンバスターを手放し離脱することは可能だが、タイミングを誤れば避けた位置に魔法を打ち込まれる。それに魔力を強引に吸われた影響か、リノン達は膝を着き動けない。
スヴェンは魔力の流れを見極め、
「『矢を貫け』」
魔法陣から禍々しい矢が放たれた刹那の一瞬、スヴェンはガンバスターを手放しその場を縮地の応用で離れる。
クロミスリル製のナイフを五本引き抜き、邪神眷属の周囲を駆けたスヴェンは魔力を流し込んだ三本のナイフを投擲。
左腕関節、両脚関節に突き刺さるクロミスリル製のナイフに邪神眷属の眉が歪む。
リノン達から奪った魔力は邪神眷属にとって相性が悪いのか、
「……ぐっ、魔力が合わぬ。我の力にならぬ魔力など」
邪神眷属の身体が蹌踉めく。
「遅れてすまぬ! 総員突撃!」
後方部隊から到着したシルフィード騎士団がシャルル王子の指揮のもと突撃を仕掛けた。
風を纏った槍を突き出しながら突撃を仕掛けるシルフィード騎士団とリノン達の救護に向かう騎士達にスヴェンは油断せず、残していた二本のクロミスリル製のナイフに魔力を練り込む。
そして魔力の刃を纏わせ邪神眷属に迫った。
邪神眷属の身体を風を纏った槍が次々と貫き、シルフィード騎士団に対して邪神眷属が瘴気を纏った剣を魔力で生み出し、そのまま一閃。
騎士達の上半身が泣き別れし、地面に崩れ落ちる。
突撃したシルフィード騎士団を瞬く間に蹂躙し、殺し続ける光景にスヴェンの眉が歪む。
まだそんな余力と抵抗力が有るのか。これで推定一割未満っと全盛期に遠く及ばない力。
邪神眷属の強さを改めて実感したスヴェンはそれでも怯む事なく二本のナイフを同時に振り抜き、魔力の刃で邪神眷属の左腕を斬り飛ばした。
「腕が無くとも」
邪神眷属の蹴りが腹部に突き刺さる。押し流される魔力に腹部から骨が軋む音が響き、身体が弾かれる。
蹴りが当たる直前、下丹田の魔力を解放する事で辛うじて防ぐ事は出来たがそれでも骨は折れ、内臓と臓器がイカレタ。
血糊を地面に吐き出し、邪神眷属が振り落とす踵落としを横転することで避けるも地面を深々と抉り、解放された力が衝撃波として襲う。
身体がまた弾き飛ばされ、衝撃波の影響で二本のナイフまで弾かれてしまった。
おまけに邪神眷属の頭部に未だ突き刺さったままのガンバスターが有る。
スヴェンは身体に魔力を流し込み、再び駆け抜けようと足に力を入れた瞬間、口から血が溢れ出た。
ーー流石に内臓と臓器がイカレタ状態で力を入れ過ぎたか。
邪神眷属は両腕を失い、魔力も風前の灯火。あと少しの状態だと思いたいがまだ倒れる訳にはいかない。
スヴェンは血反吐を吐こうが御構い無しに拳を構える。
邪神眷属を睨み、隙を窺う中ーー邪神眷属が不敵に嗤った。
既に何かされたか、スヴェンがそう理解した時には既に地中から何かが這いずる。
反応が完全に遅れた。思考が追い付かない。動けば避けれるにも関わらずスヴェンの身体は動かない。
地面から突き出された禍々しい槍が迫る中、スヴェンの前に赤い髪が割って入った。
「かはっ!」
禍々しい槍をリノンの腹部を貫き、鮮血がスヴェンに掛かる。
「リノン……アンタはまたっ!」
まただ。また
腹部から引き抜かれる禍々しい槍、出血が大地を汚しながらリノンが仰向けに地に倒れかけーースヴェンは彼女の身体を抱き止めた。
苦痛に身体を歪めながらリノンは笑みを浮かべようと口元を動かし、
「だいじょうぶ、こんどはだいじょうぶよ」
目を瞑った彼女の腹部から溢れ出る淡い緑の光が傷を塞ぎ始めていた。
ミアの治療魔法には遠く及ばないが、それでも命を繋ぎ止める事は可能だということが判る。
耳元を近付ければ浅い呼吸音と心臓の鼓動がしっかりと耳に届く。
リノンは気を失っただけでまだ無事だ。
また死なせてしまうのかと後悔が一瞬芽生えたが、生きてるリノンにスヴェンは安堵の息を吐き、下丹田の魔力を全て全身に流し込む。
数分も持たないが、今の邪神眷属を相手にするには充分な魔力だ。
スヴェンがリノンを置いて立ち上がろうとすると。
「スヴェン殿交代だ。すぐにミア殿も駆け付けるはず、負傷者を連れて離脱したまえ」
全身に魔力を纏い筋肉を活性化させ、熱気を放つシャルル王子の腕がスヴェンを止めた。
立ち上がろうとするが彼の単純な腕力に動けない!
ーーこ、こいつ! 始めて会った時も思ったが、こっそり肉食ってたろ!
そうでもしなければ菜食主義がそこまで肉体を鍛え上げることは難しい。
ーーいや、落ち着け。今は戦闘に集中すべきだ。
スヴェンが再び立ち上がろうとした時には、既に肩の圧力は無く。代わりに凄まじい突風と衝撃波が大地を揺らす。
何事かと目を向ければ邪神眷属に打撃を打ち込み、地面に殴り付けたシャルル王子の姿だった。
シャルル王子はガンバスターを引き抜き、それをこちらに投げる。
柄を掴み背中の鞘にしまったスヴェンは目の前の光景に眼を見開く。
「まだまだぁっ!」
邪神眷属に対して交互に打ち込まれる高速の打撃に空気が震撼する。
徐々に地面にめり込む邪神眷属と尚も続く打撃の嵐。魔力を纏った一撃は重く衝撃が地面を揺らすのも無理はないことだった。
シャルル王子が繰り出す打撃の嵐は既に邪神眷属の顔を原形も無く粉砕し、腹部から神聖とも言える光が見え始めていた。
「封印完了まで貴様を殴り続ける!」
それは恐ろしい死刑宣告だ。既に頭部が無くなった邪神眷属は足を必死に動かすことで抵抗の姿勢を見せているが、肝心の口がなければ詠唱はできない。
そもそもシャルル王子の打撃を一発受けることに邪神眷属の下丹田から禍々しい魔力が消えていく。
同時に神聖な光が輝きを増す。シャルル王子がトドメの一撃を振り翳す。
魔力を纏った右拳が邪神眷属の腹部を抉り、封印の鍵が放つ神聖の光が憑代から邪神眷属の魂を引き剥がした。
神聖の光が鎖を作り出し魂に絡み付き、封印の鍵に吸い込まれる。
憑代は既に死に封印の鍵によって邪神眷属は漸く再封印された。
「終わったか……しかし突撃部隊は全滅、執行者部隊も壊滅的被害を受けた」
これは果たして勝利と言えるのか。浮かない表情を見せるシャルル王子にスヴェンはリノンを抱き抱えながら彼に歩み寄る。
「スヴェン殿よ、俺がもっと早く駆け付けていたら状況は変わったか?」
シャルル王子は全魔力を練り込むに時間を要する。それには集中力を有し動きながら練り込むことは彼でも困難な技術だった。
加えて突撃部隊を指揮しながら距離的な問題も埋められず。仮にハリラドンに騎乗し突撃を仕掛けられたなら距離の問題は解決できただろう。
しかし、黒いハリラドンを除きシルフィード騎士団が保有するハリラドンは邪神眷属に怯え近付くことを拒んだ。
幾ら勇敢な生物と言えども本能には抗えない。
そもそもハリラドンを使えた状態ではシャルル王子が魔力を練り込む時間が足らず、前線に配置された全部隊は全滅していた。むろん自身を含めてリノンまでも死を迎えていた筈だ。
「いいや、アンタの膨大な魔力を練り込むには時間がかかる。それを踏まえた上での最後の詰めだったんだ……むしろ下手に駆け付けるのが早過ぎれば奴はアンタを警戒してたろうな」
「そうか……戦いに犠牲は付き物と言うが果たして勝利と言えるのか?」
不完全な形で復活した邪神眷属を再封印できたが、完全な勝利とは対象を殺害してこそ始めて得られる。
今回の戦闘を勝利と言うには厳しい。厳しいが戦死者は無駄な犠牲と切り捨てるには惜しい。
「アンタは王族だ、直に邪神眷属と一戦交えた唯一の王族なんだ。今回の件や対策を後世に正確に伝え遺した時が勝利と言えるかもな」
「……厳しいことを言うのだな。いや、今は宣言が先か」
シャルル王子は拳を空に突き出すことで魔力を解き放つ。
空を貫く魔力。それは事前に決めていた再封印成功の合図だ。
これで後は後方部隊とミア達と合流して治療を受ければーー突如スヴェンの目の前が歪み、視界が暗転した。