傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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22-14.帰国へ

 九月六日の昼頃、スヴェンはラウル達と共にレーナが待つ貴賓室に通されていた。

 レーナが座る椅子の両側を護るように立つレイと彼の部下に当たる若い騎士の三人。

 

「そちらに座って」

 

 レーナに着席を促されたスヴェン達は対面の椅子に座る。そしてスヴェンは護衛の彼らに視線を向け、

 

「ミアはどうした? アイツは一応護衛の1人だったろ」

 

 レイに問うと彼はため息混じりに答えた。

 

「彼女は朝早くから怪我人の治療に当たってるよ。今日が出発する日という事は伝えてあるんだけどね」

 

 自分の出来ることをやる。それがミアという少女の生き方なのだろう。

 それに対してスヴェンはとやかく言う気も無ければ、微笑むレーナに視線を移す。

 

「アンタが連れて来た優秀な治療師は何処に行っても引っ張りだこだな」

 

「えぇ、怪我人には親身に接する優しい子だから避難民にも人気が高いみたいなのよ」

 

 ミアが重宝され慕われていることに、レーナはまるで自分のことのように喜んでいた。

 それは純粋な友愛から来る感情だ。レーナの純粋な眼差しと暖かさを感じる瞳を前にすれば邪推する者など居ないだろう。

 スヴェンとレーナの軽い雑談に痺れを切らした若い騎士の一人ーーリジィが進言した。

 

「姫様、雑談も良いですが本題に入っては如何ですか? 雑談はその後でも……」

 

 彼の言う事は正しい。いや、そもそも最初に話題を振ったこちらにも非が有る。

 

「そうだったわね、それじゃあ貴方達を此処に呼んだ訳を話すわ」

 

 レーナが切り出す大事な話にラウル達は顔を強張らせ、肩に力を入れた。

 隣に座るラウル達の緊張感がこちらまで伝わって来るが恐らくレーナが此処に呼び出した訳は邪神眷属の一件か。

 スヴェンが半ば予想を立てる中、

 

「邪神眷属は復活して被害が出てしまったけれど、貴方達の働きが無ければリーシャの早期救出は叶わなかったわ。それに邪神眷属の再封印も厳しいものだったでしょう」

 

 単なる揺動や強襲だけの依頼がまさか邪神眷属再封印に至るとは。依頼がどう転ぶかは実際の所完了するまで判らないとは正にこの事だ。

 スヴェンが今回の一件を振り返る中、レーナは切り出す。

 

「そこで貴方達にはミルディル森林国から恩賞を用意されているのだけど」

 

 今回の件も仕事の範疇に過ぎず、邪神眷属再封印も単なるサービスでしか無い。いや再封印が成功したのは竜系のモンスターとの戦闘による魔力消費。作戦時にオルゼア王が放った魔法による消耗とシャルル王子のとどめの一撃が大きい。

 それに比べて自身は何もしていないに等しいのだ。そもそも仮に邪神眷属を再封印したところで元々恩賞など受け取る気が無い。

 

「恩賞か、悪いが俺は規定通りの報酬で充分だ」

 

 自身に用意されているであろう恩賞を断るとリディ達が驚愕に眼を見開く。

 

「王族から賜る恩賞を断るなんて! す、スヴェンは何を考えてるんだ!? こんなに名誉なことは無いのに……」

 

「そこは傭兵と騎士の価値観の違いってことで納得してくれ」

 

 簡潔にリディ達に告げれば、彼らは傭兵とはそう言うものなのかっと納得した様子で黙り込んだ。

 しかし自身の恩賞は断ったがエルナ達は別だ。彼女らはリーシャ救出作戦時に同行し、なおかつ邪神教団に対して警告していた。

 結果的に邪神眷属は予期せぬ方法で復活してしまったが、エルナ達は恩賞を受け取るだけの理由が有る。

 

「まあ、俺は断ったがコイツらには恩賞でも与えてやってくれ」

 

「スヴェンがそう言うなら私の方からシャルル王子に伝えておくけれど……貴女達はそれで構わないかしら?」

 

 三人は特に恩賞を断る理由も無く、ただレーナの言葉に諾く。

 これで三人は実績を得る事になる。王族からの恩賞などボランティア活動では得難い実績だ。少なくともボランティア活動よりも学業に費やせる時間が増えるだろう。

 

「分かったわ。私の用事はこれでお終い……じゃあ少し雑談でもしましょうか」

 

 レーナの提案に緊張が解れたエルナが手を挙げ、

 

「そう言えば特殊作戦部隊の子達ってどうなったの?」

 

 アシュナを含めた特殊作戦部隊に付いて訊ねた。

 

「あの子達ならお父様の要請で一足速く帰国したわよ。あ、スヴェンは帰国したらアシュナに顔を出してあげなさい。良い? 絶対によ」

 

 レーナにそう念を押されてしまえば断れない。面倒では有るがリノンの見舞いの兼合いならそこまで手間は掛からないだろう。

 それから雑談はお昼前まで続き、国内が落ち着かない状況も手伝ってエルナ達はそれぞれカルドバス森王から略式ではあるが恩賞を授与されることとなった。

 そして三人が恩賞を受け取った翌日の朝。帰国に向けて出発する筈がーー何故かレーナとリノンがこちらの荷獣車に乗り込み、

 

「良いかいスヴェン? くれぐれも姫様を傷付けないように」

 

 レイに念を押されたスヴェンは軽口で答えた。

 

「あぁ相手は王族だ、何か有れば斬首もんだろ」

 

「いや、斬首では済まないかもしれない。だから気を付けてくれ」

 

 斬首で済まない処刑方法とは一体? 非常に気になる所だが、知ってしまえば要らぬ緊張感を招き手綱の操作に無駄な力が入りかねない。

 ここは敢えて聞かない方が賢明な判断だ。スヴェンは手綱を鳴らし黒いハリラドンを走らせエルリア城に向け、戦闘の影響ですっかり荒れ果てた森林地帯を進みエルリア城に帰国することに。

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