傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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23-2.見舞いの後に

 翌日の朝、スヴェンは一人エルリア城に来ていた。

 見舞い用に買ったフルーツの盛り合わせを片手に騎士と使用人が行き来する廊下を何食わぬ顔で進む。

 何度かすれ違った騎士や使用人と軽い言葉を交わしながら医務室に到着したスヴェンはドアを開き、奥のベッドで並ぶアシュナとリノンにため息を吐く。

 知り合い二人が同室のベッドで並び医者から治療を受けている。これもレーナの采配なのか、それとも単に患者数の影響か。

 城下町には診療所が幾つか在るがそれ以上にエルリア城常勤の医者には名医が多く揃い、またレーナとオルゼア王によって誰問わず適正な価格で診察、治療を受けられるのだからエルリア城に患者が集まっても不思議なことではない。

 むしろ患者の中にはレーナの姿を一眼見たいという思惑も有るのだろう。

 医者から処方された薬を苦々しい表情で飲み込むアシュナとリノンにスヴェンは歩み、

 

「元気そうだな」

 

 アシュナに問い掛ければ、相変わらず無表情でフルーツの盛り合わせに視線を向け眼を輝かせた。

 

「もしかしてお見舞い?」

 

「あぁ、ミルディル森林国じゃあ結局会わなかったからな」

 

「ん、仕方ない。重症で動けなかったし。それにまだ治療が必要」

 

「その話はルイから聴いたが、ミアの治療魔法を受けなかったのか?」

 

「傷の治療は終わってるから治療魔法を使っても効力が少ないんだって。それに手術の後に治療魔法は身体の負担も多いから」

 

 アシュナはまだ十代だ、怪我の度合いは知らないが成長途中の彼女の身体には負担が大き過ぎるのも頷ける。

 

「そうか」

 

 フルーツの盛り合わせをアシュナ側のミニテーブルに置いたスヴェンは不満そうな視線を向けるリノンにため息を吐く。

 

「アンタは今度な」

 

「じゃあ楽しみに待ってるわ」

 

「2人は知り合い?」

 

「そんな所だ、じゃ俺はもう行くからな」

 

 短い見舞いを終え、そそくさと医務室から退出したスヴェンは廊下でクルシュナとフィルシスとばったり遭遇した。

 満面の笑みを浮かべ闘気と魔力を滲ませる彼女にスヴェンもそれに応えるべくガンバスターの柄に手を伸ばす。

 

「待ちたまえ、患者の多い医務室前で殺気立つでない」

 

 クルシュナの的を言った言動にスヴェンとフィルシスは互いに戦意を解き、改めて彼に向き直る。

 

「騎士団長と技術開発部門研究所の副所長って組み合わせは珍しいな」

 

「我輩も用事が無ければフィルシス騎士団長と個人的に会うことは少ないがね。今回は彼女にも協力を得なければ難しい事態でしてな」

 

「……そりゃあまた面倒ごとか?」

 

 また何処で邪神教団の過激派が行動を起こしたのか? 警戒心からクルシュナに問えば、彼はゆっくりと首を横に振ることでは否定した。

 

「今回の件はミア殿の個人的な要望でしてな」

 

「ってことはアイツの故郷に関することか」

 

「貴殿は既にミア殿から詳細を?」

 

詳しい詳細はまだだが、既に依頼に応じると口約束を交わし後は彼女が正式に依頼書を持って来るだけで依頼を請ける手筈だ。

 

「いや、詳しい詳細に付いてはまだなにも。ただ、アイツとは依頼を請ける約束はしちまってるからな」

 

「ふむ、であるならば話は早いか。フィルシス騎士団長殿は彼と我輩の部屋で待ってて貰えるかね?」

 

「技術開発研究所じゃなくて良いのかい?」

 

「貴女に物珍しさから開発中の魔道具を壊されては敵わないのでな」

 

「なぜだい? 私は普通に触れただけなのに……」

 

「スヴェン殿も覚えておきたまえ、フィルシス騎士団長は魔道具の扱いが苦手なのだ」

 

 機械音痴ならぬ魔道具音痴とは一体? いや、魔道具が使えなくとも生活に支障が出ることは少ない。

 なぜ魔道具が壊れるのか本人も原因が分からないのか、当惑しながらもクルシュナの自室に向けて先導を始めた。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 クルシュナの自室に案内されたスヴェンとフィルシスは主人不在の室内でソファに座り、

 

「ところで邪神眷属と直に戦ったんだってね」

 

 フィルシスが淡々とした表情でそんな質問をしてくる。

 淡々としているのは邪神眷属によって被った被害を考慮した結果か。

 

「アレと戦って力不足を実感した」

 

 こちらの繰り出す攻撃は通じていたが、再封印には至らずシャルル王子が間に合わなければリノンも自身も殺されていた。

 

「ならやることは一つだよ、弟子」

 

「ミアの故郷に向かう前にアンタと鍛錬が必要だな」

 

「今度はより激しく、熱くやり合おうじゃない」

 

 通り掛かりの誰かが聞けば変な誤解を生む言動と熱っぽさを感じるが、フィルシスの眼は戦闘意欲に溢れている。

 スヴェンがそんな思考を浮かべると、突如背後のドアがバンっ! 勢い付けて開けられ視線を向ければ顔を真っ赤に染めたミアが立っていた。

 

「た、他人の……部屋で、なっ、な、な、何を話してるの!?」

 

「鍛錬の話だが……それよか、アンタもクルシュナに呼ばれて来たんだろ」

 

「た、鍛錬? あっ、フィルシス騎士団長と鍛錬かぁ。……っとそうだった私も故郷の事でクルシュナ副所長に呼ばれて来たんだった」

 

「ふーん、キミもスヴェンと鍛錬するかい?」

 

「え、遠慮しておきます。あ、その鍛錬はどの程度期間を設けるんですか?」

 

「前回は三日三晩ぶっ続けでやったけど、色々と教えておきたいことも有るから1週間か2週間は欲しいかな」

 

「うーん、スヴェンさんの生存率が上がるなら私としても構わないですけど……」

 

 フィルシスとの鍛錬で死にかねないとでも言いたげなミアにスヴェンは肩を竦めた。

 実際に下手をすれば死ぬ。少しでも手を抜けば鍛錬中に死ぬ事も有る。彼女との鍛錬とは実戦形式であり互いに殺す気でやるからこそ意味が有る。

 

「死なねえように気を付けるさ」

 

「……定期的に差入れするよ。多分まともにご飯食べないと思うし」

 

 それは有難い提案だ。スヴェンは表情に表さないが、ミアの健康食の差し入れに期待感を寄せていた。

 フィルシスも鍛錬期間中にわざわざ食事を用意するのは億劫なのか、ミアの提案を笑みを浮かべて受け入れ、

 

「じゃあお願いしようかな。お酒も少し用意してくれると助かるかな」

 

 酒を所望した。

 そういえばミルディル森林国のパルゼン酒造所から幾つか酒を購入して来たが、それを持参するのも悪くはないのかもしれない。

 スヴェンは一週間の鍛錬に必要な物を思案しては、クルシュナが部屋に入って来た頃合いで思考を仕事に切り替えた。

 そして彼がテーブルに広げた長いスクロールに書かれた文字に一同は眉を歪めることに……。

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