傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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23-6.朝の教室

 スヴェンが出掛けた頃。ラウルはラピス魔法学院の中等部一-Cクラスの教室、自分の席で欠伸をしていた。

 朝早くからアニキと慕うスヴェンが次の依頼に向けた長期鍛錬に出掛けたのだが、ラウルは疑問に息を吐く。

 

「どったのラウル? 朝から締りの無い顔して、それにため息も」

 

 顔を近付けて覗き込むエリナにラウルは視線だけを向け、隣に静かに立っているロイにも視線を移す。

 

「いやぁ、アニキって鍛錬に出掛けたろ? あれ以上強くなってどうするのかなぁってさ」

 

「それは、前回の事を踏まえてじゃないか? それに強くなれば依頼の幅も増えるだろうし……いや、そもそもスヴェンって強い弱いに拘って無いように思えるんだが」

 

 確かにラウルの言う通りスヴェンは強さに拘りは無いように思える。

 そもそも彼本人の口から自身は強いっと聴いた事が無い。それ以前に自身の強さを誇示するような性格でも無い。その辺を含めて大人らしいと言えば良いのか。

 クラス内では力自慢の話、ボランティア活動中に魔法でモンスターを倒せたなんて自慢話をちらほら耳に届く。

 

「エルナはアニキのそう言うところどう思う?」

 

「カッコいいっと思うよ。実際に顔は悪くないし硬派だからけっこうモテるかも……少なくともリノンのお姉さんにはね」

 

「やっぱアニキはカッコいいよなぁ。……いやいや、そうじゃなくておれ達を置いて修行に出掛けるのってどうよ?」

 

 ラウルは昨晩にスヴェンから告げられた決定事項に少なからず不満を抱いていた。

 修行に連れて行って欲しかったがそれはきっぱりと交渉の余地も無く断られてしまったのだ。

 元々スヴェンは人と馴れ合うことや誰かと行動する事を嫌っている節が有るが、今回の修行はフィルシス騎士団長と一緒にだと言う。

 なおさら成長できるなら是非とも修行に連れて行って欲しかったが、学生の領分を忘れるなと言われてしまえば反論などできなかった。

 頭ではスヴェンの言った事は正しい。それでも心は納得できず、不満としてつい吐き出してしまった。

 エルナとロイは先程の不満、もとい質問に付いて口を動かす。

 

「お兄さんは私達が学生だから一線を超えないように配慮してくれてるんだよ。それにほら、お兄さんはあの戦いの時も私達を後方に待機させたでしょ」

 

「うぐ、それを言われるともう反論できないんだけど? いや、というか納得はしてるんだよ」

 

「まあ、ラウルの気持ちは分かるよ。俺もこのままで良いのかってさ」

 

 ロイの言葉に肩が跳ね上がる。

 それはこちらの内面、焦りを見抜いたような言葉だ。

 正直に言えば前回の依頼、邪神眷属の復活時にはなにも役に立てることは無くーーむしろ避難中に歳の近い少女を助けれなかったことが今でも悔いに残っている。

 少女がモンスターに無惨に喰い殺される光景が、時折り夢として出て来る。以前は奇妙な夢に魘されることも有ったが今は悪夢が続いている。

 

「お兄さんは昨日こうも言ってたよ、今は学生生活で学べることも多いだろうって。つまり基礎をしっかり学んでおけってことだよ……特にラウルの魔法は独学で独自の呪文と術式を使ってるから魔法効果にムラが出るでしょ」

 

 それを言われてしまえばますます修行に行きたいなどと言えない。

 ふとラウルが教室に備え付けの魔法時計に視線を向けると、既に八時十四分を刺していた。

 まもなく予鈴が鳴り学業が始まる。それを察したエルナとロイも自身の席に戻って行く。

 そして予鈴が響き渡り、眼鏡を掛け白衣を羽織ったワイズ教授が教室にやって来る。

 

「やあ! 生徒諸君ごきげんよう!」

 

 いつも以上に高いテンションであいさつを告げるワイズ教授に一人の女子生徒が首を傾げた。

 

「教授、今日は機嫌が良さそうですね」

 

 なぜ朝からそんなにテンションが高いのか、疑問を訊ねる女子生徒にワイズ教授が眼鏡をクイッと持ち上げ不敵な笑みを見せる。

 

「かわいい教え子達のボランティア先での活躍はしかと耳に届いていた。特にボランティア先の者達から感謝の言葉が届くと先生としても非常に喜ばしいことなのだよ」

 

 だから喜びのあまり朝からテンションが高いのか。ラウルは半ば納得しながらふと思う。

 途中編入してまだ日の浅い自分達もワイズ教授の言うかわいい教え子達の中に入っているのか?

 このクラスに居る生徒全員は初等部から長い付き合いの生徒ばかり。自分やロイ、エルナのように訳アリで途中編入する生徒も珍しい訳では無いが、やはり何処か疎外感を感じてしまうのだ。

 それでもエルナは他の生徒とも上手く付き合えているように思える。

 今だって隣席の女子生徒とかぶりを振り小躍りするワイズ教授に対して楽しそうに談笑しているのだ。

 それにロイもロイで男子生徒と何やら小声で話してる様子が最後尾の席に位置するここから充分に見える。

 ラウルは呆然とワイズ教授を眺めるとふと彼が手を叩き、

 

「ああ、忘れるところだった! 実はこの中にミルディア森林国から恩賞を得た生徒が3人も居るんだ!」

 

 これまた嬉しそうに語り出した。

 それに対して教室内が騒めく。

 

「えっ!? ボランティア活動中に隣国ミルディアで勲章をっ!?」

 

「あれ? エルナちゃん達はボランティアと社会見学の一環でミルディア森林国に行ってたんだよね?」

 

 一人の女子生徒の呟きに生徒全員の視線が自分達に注目する。

 

「詳細は秘匿事項も含まれているため省くけど、ラウル君達はミルディア森林国に多大な貢献をしたのだよ!」

 

 名を呼ばれ、生徒達の驚愕と歓喜の声が一瞬で教室の中に響き渡る。

 

「はい、みなさん静かに! いやぁそれにしてもまさか恩賞を貰って帰って来るなんて先生、うっかり眼鏡を3つほど割っちゃったよ」

 

 陽気に語るワイズ教授の声は生徒の歓声の前に掻き消され、隣りの女子生徒に脇腹を突かれた。

 

「後で詳しく教えてよ」

 

 顔、目鼻立ちが整い、短めに切り揃えられた紫色の髪。エルナと同い年とは思えない豊満な胸を誇るーークラスの中でも人気が高いマドンナ的存在のシフォンにラウルは悩みながら答えた。

 

「えっと、答えられる範囲でなら」

 

 答えられる範囲など非常に限られているが、少しだけ浮いてしまっているクラスの中に溶け込むまたとない機会だ。

 ラウルはそんな事を考えるとワイズ教授の手拍子が再び生徒の注目を集める。

 

「はい、色々と聴きたいことが有るだろうけど先ずは一時限目の授業に集中だよ。今日は一時限目から実戦授業だからねっ!」

 

 朝からクラスの生徒と魔法を交えた試合形式の対戦が行われる。

 誰と当たるかは授業が始まらない限り分からないが、責めてロイとエルナ以外の生徒と当たりたい。

 ラウルがそんな事を考えているとワイズ教授が魔法時計を見上げ、

 

「おっと、そろそろ時間だね。それじゃあひと足先に第三グランドで待ってるから遅れないようにね」

 

 それだけ告げるとワイズ教授は終鈴の音と共に教室から退出した。

 

「あ、ワイズ教授……ホームルームで連絡事項言い忘れてる」

 

 一人の生徒がポツリと呟けば、自然と教室内に笑い声が溢れるのだった。

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