ガンバスターの刃がフィルシスが振り抜く剣の刃に弾かれ、宙に打ち上げれる。
隙が生じた胴体にフィルシスの二太刀目の追撃が振り抜かれた。
咄嗟に魔力を解放し刃を防ぐ。思考に浮かんだ防御にスヴェンは舌打ちする。
刹那の一瞬に浮かんだ思考を捨て、まだ届かない刃にスヴェンは身体を後方に飛び退かせることで刃を避けた。
だが、フィルシスが放つ一振りはそれだけでは終わらない。
ただの薙ぎ払いから生じる衝撃波にスヴェンは身を屈めて避けた。
対象を失った衝撃波が後方の木々を薙ぎ払い、木々が倒れる。
背後から轟音が響く中、間合いを詰め肉薄するフィルシスにスヴェンは舌打ちした。
ガンバスターと剣から火花が散り、
「いい感じだね……」
笑みを浮かべたと思えば彼女の表情が一瞬で陰る。
ここはモンスターの生息地域だ、当然戦闘音や人の気配を察知したモンスターが来るのは当然だ。
スヴェンは近付く気配にフィルシスの剣を押し返し、気配のする方向に身体を向けーー刻々と近付くモンスターに眼を見開く。
目の前に居るのは昆虫系のモンスター、マンティスだ。それも鋭く鋭利な鎌に魔力を纏わせながら。
いや、問題はそこじゃない。人より多少巨体なマンティスに八つの蛸足に鋭利な鎌が有ることだ。
巧みに鎌を左右に揺さ振りながら接近するマンティスに背後のフィルシスが、
「……お、オクトパスマンティス……む、虫……い、いやぁ」
今まで聴いた事もない弱々しい、それこそ恐怖に弱った声が背後から響く。
まさか昆虫系が駄目なのか? スヴェンがチラリと背後に視線を向ければ、顔を青褪めさせいつも見せる不敵な笑みは無く凛とした赤い瞳も揺れ動き身体を震わせていた。
「駄目なのか? 虫とかああいうの」
「む、昔から駄目なんだよ」
完全に弱った声にスヴェンは意外そうに表情を歪めた。
「アンタにも人並みの弱点が有ったのか」
「私だって人なんだ、苦手なものの一つや二つは有るさ」
強者であろうとも苦手の一つや二つ有るのは当然のこと。そこに何ら不思議な事でもないが、今は接近しているオクトパスマンティスを討伐しない事には鍛錬も再会できない。
スヴェンかガンバスターを構え直すっとオクトパスマンティスは間合いの中でピタリっと脚を止め、十本の鎌を同時に左右に揺れ動かし始めた。
デウス・ウェポンのアーカイブに記録されている昆虫の中でも肉食のカマキリ。
本来獲物を待ち伏せして大顎で捕食するらしいが、目の前のオクトパスカマキリはモンスターだ。獲物を待ち伏せする必要は無い、そもそも獲物みずから生息地域に侵入しているのだから。
スヴェンは視線で左右に揺れ動く鎌を観察しながらオクトパスマンティスが展開する分厚い障壁に思わずため息が漏れる。
久しぶりの相棒でのモンスター戦だ、障壁を破るには何度も繰り返し斬るか.600LRマグナム弾を撃ち込む他に無い。
これを時の悪魔に通用するまでに鍛え練り上げる必要が有る。
これもその為の鍛錬の一環に過ぎないっとスヴェンは縮地でオクトパスマンティスの背後に回り込んだ。
そしてガンバスターを薙ぎ払い障壁に刃が阻まれ、八本の蛸足鎌の内四本の鎌が鞭の如く真空刃を繰り出しながら迫る。
「コイツは……」
繰り返し放たれながら迫る真空刃と接近する蛸足鎌、だがオクトパスマンティスは正面を向いたままで振り返る素振りは見せない。
スヴェンは真空刃を斬撃で弾き、鞭の如く繰り出される蛸足鎌をガンバスターで弾き、身体の柔軟性を駆使しながら刃を避ける。
まだ迫る蛸足鎌の刃ーーまだ見切れる範疇だが、早急に障壁を破るか。
スヴェンはガンバスターで袈裟斬りを放ち障壁に弾かれる事を利用し、そこから縦斬りを繰り出し衝撃波を放つ。
衝撃波が障壁ごとオクトパスマンティスを押し、フィルシスがスヴェンの背後に跳躍した。
「危うく巻き込まれるところだったよ」
「だったら離れろよ」
「キミにアドバイスが有るんだけど聴くかい?」
自身が放つ衝撃波は単なる力技で密度も薄い。一応地面を抉る威力は有るが、化け物を相手にするなら結局はその程度の威力に過ぎない。
「ああ、コイツで魔力を纏った衝撃波は消耗が激しい。それ以外で頼む」
「簡単な事だよ。見てて」
そう言ってフィルシスは腰を落とし、剣を鞘に収まる様に構えた。
そして彼女は刃をそのまま音を置き去りに振り抜く。魔力を纏わず放たれた斬撃ーー孤月を描いた斬撃がオクトパスマンティスの障壁を火花散らしながら削る。
弾くことに特化した剣圧とは違って対象を斬ることに特化した斬撃ーーそれは何かに当たれば衝撃が分散してしまう衝撃波とは違う。ましてやオクトパスマンティスが繰り出した真空刃など比較にならない密度を誇っていることは見に見えて理解できた。
ソイツを放つには型はどうでも良い。必要なのは振り抜く速度と振り抜き様の手首の動き、柔軟性と足運びから呼吸の動き。
オクトパスマンティスが孤月の斬撃を十本の鎌で上空に弾く。
方法はゆっくり眼で観て観察した。フィルシスの身体の動きも筋力の動かし方も。
あとは自分に取り込む為に何度も繰り返すだけーースヴェンはガンバスターを構え直す。フィルシスの同じ構えで。
「良い感じだ」
フィルシスの歓喜の声にスヴェンはガンバスターを振り抜く。
音を置き去りに刃から生じた三日月状の斬撃がオクトパスマンティスの障壁を削る。
ーーあぁ、コイツは構えなんざ必要ねえ。試してみるか。
スヴェンは構えを解き、いつも通りガンバスターを振り抜く。袈裟斬り、逆袈裟斬り、払い、縦斬りを連続でより速く繰り出す。同時に放たれる三日月の斬撃がオクトパスマンティス障壁に迫る。
同じ位置、同じ場所に重なる三日月の斬撃がオクトパスマンティスの障壁を削り続け漸くに亀裂が走った。
まだフィルシスの放つ斬撃には遠く及ばない。もっと速く、より鋭く繰り出す。
スヴェンは再度縮地でオクトパスマンティスの背後に回り込む。そしてガンバスターを振り抜き、孤月の斬撃が空中を飛翔しオクトパスマンティスの障壁を切断した。
切断された障壁、宙を舞うオクトパスマンティスの右前脚の鎌と四本の右蛸足鎌がフィルシスに飛んだ。
「きゃっ」
随分と可愛らしい悲鳴が聴こえた気がするが、今は怒り狂ったオクトパスマンティスに集中すべきだ。
スヴェンはオクトパスマンティスの右側目掛け距離を縮め、右薙ぎ払いを放つことでオクトパスマンティスを右から切断する。
地面に崩れる身体、抜け出る粒子状の魔力。そして昆虫にも拘らず遺される遺骨にスヴェンはガンバスターを鞘に納め、刃が風を斬る音に刃を引き抜くことで刃を防ぐ。
「おい、何すんだよ」
ギチギチっと刃が鳴る中、フィルシスに問えば彼女は愚問だと言わんばかりにーーいいや、答えなど分かり切っていた。
「鍛錬再開に決まってるじゃないか。キミは私の期待通りに斬撃を遠距離攻撃として繰り出す術を修得した……うん、良い行幸だ。以前は魔力を刃に形成する方法を教えたけど、キミは魔力を使う技術よりも身体を使った技の方が覚えが速い」
「そりゃあ魔力なんざこっちに来てから使い始めたからな」
「キミにはやっぱり実戦の方が良いね」
そう言ってフィルシスは一度剣を引き放し、間合いを取る。
わざわざ間合いを取ったということは斬撃を飛ばすか、高速で間合いを詰め攻勢に出る。前回の鍛錬で魔法を使うことは無かったが、使わない可能性が無い訳では無い。
スヴェンがフィルシスの出掛けたを警戒すると、彼女はその場で剣を一閃ーー斬撃が地を走り抜け、スヴェンの脇を通り過ぎて行く。