傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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第二十四章 野盗の狙い
24-1.空から見た光景


 デリバリー・イグールの配達員ーーシェナは相棒の大鷲ゼラと共に地上の光景に目を奪われていた。

 ラオ副団長から請けた配達の依頼。エルリア城を度々留守にするフィルシス騎士団長に届ける指示書--もとい討伐要請書の配達に彼女が居るエルリア南東部に位置するベルヌア平原を飛んでいたのだが、土埃を撒き散らしながら大地を疾走するモンスターの大群と何度か配達の関係で知り合ったスヴェンが居る。

 そして彼の隣には騎士甲冑を纏いブラックが鍛造した最高傑作の一つと名高い無銘の剣を構えるフィルシス騎士団の姿も。

 最初はいくらフィルシス騎士団長と言えども多勢に無勢、加勢に入ろうとした所ーー驚くべきことに、いやそれは正に自殺行為と言うべきか。スヴェンとフィルシスはモンスターの大群を相手に魔力、魔法を一切使わずモンスターの障壁に武器を振り始めたのだ。

 

 ーーいやぁ、人ってあんなに速く動けるもんなのかな?

 

 モンスターが様々な魔法を放ち、まさに魔法の嵐とも呼ぶべき光景を前に二人は眼で追えない速度で動き、魔法を刃で弾きながら確実に障壁に亀裂を入れて行く。

 なぜ魔法と魔力を使わないのか疑問が芽生えるが、フィルシスの楽しげな笑みを浮かべ、時折りスヴェンに何かを語りかけ彼がその通りに動いている様子を見るに指導中だという事が判る。

 以前に出会ったスヴェンは旅行者と身分を偽りながら魔王救出を目的に行動していた異界人だ。

 それがなぜフィルシスから指導を受けることになったのかは判らないが、きっと何か意味が有るのだろう。

 二人は剣技で魔法を弾き、阿吽の呼吸で同時に同じ箇所に刃を叩き込む事でモンスターの魔力を減らし障壁を確実に破る。

 剣戟の蓮撃、高速移動から繰り出される斬撃の数々はどれも魔力で動体視力を補って漸く認識できる程だ。

 

「フィルシス騎士団長にあそこまで付いて行ける人ってどれぐらい居たかな」

 

 付き合いの長いラオ副団長は当然として、彼女の師匠であるオルゼア王も当然難なくフィルシスに合わせられるだろう。

 それ以外でっと言えばレーナ姫、そしていま現在フィルシスと連携しているスヴェンだ。

 だからなの? フィルシス騎士団長があそこまで嬉しそうに頬を緩めているのは?

 シェナは上空から見たフィルシスの様子に内心で浮かんだ問い掛けを胸の内にそっと仕舞い込む。

 そして二人が次々に斬り刻むモンスターに視線を移す。

 大群の中心でまるで指示を与えるように吼える大型のモンスターが一体、異質な存在感を放つ獅子の姿を持つモンスターが。

 いや、それどころかそのモンスターの指示に従うように他のモンスターが動き始めているではないか。

 

 ーーモンスターが連携を? 今まで本能に従って人類を襲っていたモンスターが?

 

 モンスターには多数の種類が居る。中でも死域を展開する強力な個体、滅多に発生しない竜種系のモンスター。

 人類絶滅のために待てる魔力を本能のままに解き放つモンスターだったが、統率というものは無かった。

 そもそも守護結界が無ければ人類は遥か昔に絶滅していただろう。

 モンスターがこれから統率力を持って人類を襲うようになればきっと今まで以上の損害が出ることになる。

 それでもフィルシスが率いるエルリア魔法騎士団は対応してしまうという信頼から来る期待感が有る。

 シェナが他モンスターを統率するモンスターを観察する中、スヴェンが真っ先にモンスターの群れを突き進む。

 獅子のモンスターに真っ直ぐ、他に眼も向けずひたすら突き進む。

 そんな無謀な行動とも言えるスヴェンをフィルシスが援護する様に他のモンスターを斬り払う。

 障壁ごとモンスターを斬り裂く一太刀、相変わらず芸術さえ感じるフィルシスの剣技にシェナは眼を奪われつつスヴェンの動きに注目する。

 

 ーー常連に成り立つ有る彼は一体なにを考えて?

 

 獅子のモンスターの視覚外から確実に障壁に対して重い一撃を叩き込む。

 対する獅子のモンスターは眼で追えないスヴェンに対し、自身を中心に魔法陣を展開した。

 魔力に大気が震え、ゼラが怯えた様子で鳴く。

 

「よしよし……落ち着いて距離を取って。大丈夫、大丈夫」

 

 手で優しくゼラを撫でながら彼を上昇させる。出来るだけ巻き込まれないように距離を保つ。

 瞬間、地面の魔法陣から雷を纏った爆炎の火柱が空の浮遊岩ごと貫き天の果てまで届く。

 獅子のモンスターを中心に焼土と化した大地にモンスターの遺骨が残る。

 あの魔法にスヴェンは巻き込まれたのか姿が見えない。

 視線を動かすシェナの視界に映るのは、モンスターと戦闘を繰り広げるフィルシスだけ。

 どんなに速く動けようとも、戦闘経験が豊富であろうとも魔法をまともに受ければ人にとっては致命傷だ。

 特に範囲の広い魔法は防ぐ手段が無ければ危険過ぎる。

 シェナが知り合ったスヴェンの死に眼を瞑った。

 

 ーーお得意様になるかもしれない、見知った顔の死というのは慣れませんね。

 

 責めて後で手向けの花でも添えよう。

 そんなシェナの思考とは他所に、空にズドォォーーン!! けたたましい音が六回鳴り響く。

 何事かと眼を開ければ、獅子のモンスターから離れた位置で地面に伏せたスヴェンがガンバスターの線端から煙を立ち昇らせながら構えていた。

 既に何かをした後なのだと理解したシェナは獅子のモンスターに視線を移す。

 障壁が砕かれた獅子のモンスターに地を走る斬撃が駆け抜ける。

 頭部から真っ二つに両断された獅子のモンスターが地面に斃れ、シェナの喉が鳴る。

 

 ーー魔力を消耗して薄くなった障壁を貫いたってことぉ?

 

 スヴェンの身体を見れば魔法を使った痕跡は見られない。

 見られないが彼が持つガンバスターから魔法が放たれた痕跡が確かに有る。

 しかし詠唱は聴こえなかった。魔法は詠唱を唱えければ威力が減退しまともにモンスターの障壁を砕くことはできない。

 そう言えば彼に配達する荷物にはプロージョン鉱石の粉末を使った危険物が有るため配達には注意する様に。そんな事をクルシュナに言われた事を思い出したシェナは漸く得心を得る。

 ガンバスターの先端から発射した魔道具に封じ込められたプロージョン粉末が炸裂ーーそれだけでは魔法の残滓に説明が付かない。

 だから魔道具に刻まれた魔法陣に魔力を流し込み、魔法の効果を発動させた--異界人の武器や戦闘スタイルは初見では判り難い。

 考察も良いがモンスターは大群だ。司令塔に等しいモンスター初の討伐、それが群れに影響を及ぼすか未知数だ。

 ゆえにシェナがモンスターの大群に視線を移すっと、獅子のモンスターが討伐された影響か、モンスターはスヴェンとフィルシスから離れる様に走り去って行く。

 モンスターが人類を前に撤退した。通常なら肉体が滅びるまで襲い続けるモンスターが撤退を選択したことに驚きを隠せないが、それ以上にスヴェンの無謀とも言える行動に一つ自分なりに答えを出す。

 

 騎士団も野盗も統率する者が居なければ統率がとれず、部隊として崩壊し個々人で撤退を余儀無くされる。

 故に小隊長、部隊長に選任されるのは実力者はもとより的確に柔軟な指示を出せる者が選ばれる。

 同時にシェナははじめて眼にしたスヴェンの戦い方に理解を示す。

 

 --頭を潰して統率力を削いだんだ。

 

 しかしこれはスヴェンにも賭けに等しい結果だったのだろう。万が一獅子のモンスターを討伐してもモンスターが撤退してしなかったら?

 いや、それもスヴェンとフィルシスは織り込み済みで行動してる節が有る。

 そうでも無ければ撤退すると判っているモンスターを、フィルシスはわざわざ相手にせずスヴェンと獅子のモンスターを狙ったはずだ。

 シェナはゼラを降下させ、スヴェンとフィルシスの下に降り立ち。

 

「毎度〜空が繋がる限り何処でも最速でお届けに参る【デリバリー・イーグル】のご利用ありがとうございます!」

 

「空から視線を感じていたが、アンタだったか」

 

 何度か顔を合わせてる内にスヴェンはこちらを覚えた様でガンバスターを鞘に納めた。

 そしてフィルシスがこちらの荷物に視線を移し、真っ直ぐとこちらの眼を見つめながら問う。

 

「此処に来たのは私に用向きかい」

 

 いや、既に彼女は察しているのだ。それはいつものことで慣れたシェナは荷物から封筒を取り出してフィルシスに手渡した。

 

「お察しのとおり副団長からお届け物ですよ」

 

「うん、出発して1日も経たずにか。緊急の案件かな」

 

 ラオ副団長が部隊を編成せず、この場所に居るフィルシス騎士団長に指示書の配達を頼んだ。

 それはきっと現地に彼女が居てどの部隊よりも近いからだろう。

 フィルシスは封筒に魔力を流し込む事で仕掛けられていた封を解く。

 そしてエルリア魔法騎士団の印が記された一通の羊皮紙をスヴェンにも見える様に--わざわざ肩と頭を密着させて読み始めた。

 それだけスヴェンがフィルシスに気に入られているのだと理解出来るが、当のスヴェンは嫌そうに顔を歪めるも半ば諦めたのか羊皮紙に視線を向けている。

 やがてフィルシスは最後まで内容に眼を通したのか、

 

「……へぇ、舐めた真似をしてくれるね」

 

 低い声で呟いた。

 

 --あぁ、哀れな愚か者が狼藉を働いたんだろうなぁ。

 

 フィルシスが低い声を出す時は決まって誰かがエルリア国民を害した時だ。

 

「……シェルノーグ村ってのは?」

 

「此処から1番近い村さ、それでも歩って3時間程は掛かるけど」

 

 なるほど、シェルノーグ村はエンケリア村に次ぐ鉱物資源産出村だ。

 多く採れる金や宝石の原石を狙って野盗がシェルノーグ村を襲ったのか、二人の様子からそんな考察をすると。

 

「さてスヴェン、今から私と野盗討伐だ。優先順位は攫われた民間人の救出及び野盗の殲滅」

 

「了解した、早速現地に向かうか」

 

「到着する頃には奇襲に適した時間になるからね」

 

 モンスターの大群と戦闘を繰り広げた直後に行動すると言うのか。

 二人を止めたい心情に駆られるが、シェナはデリバリー・イーグルの配達員としてその言葉をぐっと呑み込んだ。

 

「おっと、忘れる所だったよ。空からずっと観察していたキミにお願いが有るんだ」

 

 流石に上空に居ようとも気配でバレていた。シュナは相変わらずだと肩を竦めながら、

 

「御用件は新種モンスターの遺骨運びと報告でしょうか?」

 

 そう訊ねるっとフィルシスは話しが速いと笑みを浮かべた。

 

「そう、モンスターに指示を出す個体なんて今まで前例を聴いたことが無いからね。遺骨はモンスター研究所、詳細報告はラオ副団長に頼むよ」

 

「承知しました、手数料等はいつも通りでよろしいですね」

 

 シュナは懐からエルリア魔法騎士団専用の請求書を取り出し、そこにフィルシスが魔力を流し込んでから金額を書き記した。

 後は頼まれた遺骨とラオ副団長に報告し、請求書を提出するだけでデリバリー・イーグルに報酬が支払われることになる。

 

「毎度ありがとうございます! ではでは、次回もデリバリー・イーグルをご利用くださいませ!」

 

 宣伝文を告げたシュナはゼラに獅子のモンスターの遺骨を運ばせ背中に飛び乗り、歩き出す二人をゼラと共に見送ってから飛び立つのだった。

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