傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

256 / 325
24-3.拠点を目指して

 スヴェンは平原に整備された街道を歩きながら、ラオ副団長から齎された報告書を兼ねた討伐指令書の内容を頭に浮かべていた。

 グレン率いる野盗団によってシェルノーグ村が襲撃された結果、討伐に出たディルック部隊長が負傷し数名の騎士が戦死 新米騎士の少女一人と五人の村娘が誘拐されたという。

 相手は掠奪を生業とする野盗、そんな手合いに誘拐された女の末路というのは何処も悲惨だ。

 

「アンタは騎士団長として慣れてんのか?」

 

「野盗に捕まった女性の末路かい? 騎士をやってると嫌でも眼にするけど慣れることは無いかな」

 

 顔は歪めているが、精神は落ち着いている。いや、無理でも落ち着かせ冷静を保っているのだろう。

 同時に瞳には一種の覚悟も秘めている。部下か村娘のどちらかを優先するのかを。

 スヴェンは彼女の眼から悟った上で訊ねる。

 

「それで? どっちを優先すんだ」

 

「キミは意地悪だね。でも、私の優先順位は常にエルリア王家と国民で有ることに変わりは無いよ」

 

 フィルシスも判っているのだ、いくら強くともどうにならない状況が時として訪れることを。

 しかし彼女のことだ。結果的に両方救出することになるだろうが、優先順位が設定されている以上は新米騎士の生命は保証できない。

 そもそも既に心が死んでる可能性の方がずっと高い。

 

 --いや、ソイツは捕まった村娘にも言えることか。

 

「そうか……どうも連中の目的が読めねぇ。アンタという最高戦力を敵に回すってことはどうなるかバカでも判るはずなんだがなぁ」

 

 ラオ副団長の報告書を読んでから疑問だった事を口にすると、フィルシスが肩を竦めた。

 

「目的は判らないけど、キミにも情報を共有しておくよ」

 

 スヴェンは歩きながら話を続ける彼女に耳を傾ける。

 

「全国指名手配犯グレン・アルドメシア。ドラセム交響国の産まれで詳しい過去は知らないけど幼少時から掠奪、殺人を犯していたそうだ」

 

 何処か自分と通じる所が有る外道だが、そこに決して共感は生まれない。

 傭兵は戦闘行為で一般人を不本意な形で巻き込むことは有るが、故意に狙うことはしない。

 そこがグレンと自分の違いと言うべきか。スヴェンはそんな事を考えながらフィルシスに相槌を打つ。

 

「そこから10代で野盗団を結成、ドラセム交響国の聖歌隊から掠奪行為を繰り返した挙句の果て国外逃亡を果たしそうだよ」

 

「随分暴れたな」

 

「国外逃亡してからもここ10年ほどはドラセラ交響国の周辺国で暴れ回ってたらしいね……それでどういう訳かエルリアに来たらしい」

 

「各地を転々としながらエルリアにか……ソイツは戦闘狂か?」

 

「掠奪大好きの戦闘狂さ」

 

 グレンの狙いは単なる金と宝石に女だとばかり思っていたが、本当の狙いはフィルシスな気がしてならない。

 フィルシスは戦闘狂だ。そんな彼女の噂を聞き付けてわざわざエルリアの地に足を踏み入れた--少なくとも女騎士が捕まっている以上、その可能性は低いようにも思えるが連中の背後関係によっては零では無いか。

 

「……仮に目的がアンタの首だとすれば、背後関係は邪神教団か」

 

「ヴェルハイム魔聖国から逃げたヘルギム司祭の行方を内密に探らせてはいたけど、どうにも共に行動しているらしい」

 

 生贄確保のためにグレン率いる野盗団を雇ったが、本命は排除しても生贄にしても有り余るお釣りが来るフィルシスということか。

 その為の人質。恐らくフィルシスは報告書を読んだ時には予測していたのだろう。本命が自身で有る事を。

 

「……連中の本命がアンタなら捕まった新米騎士と村娘は誘き出す為の撒き餌か」

 

「たまに私に挑む手合いは居たけど……こんな方法は初めてだ」

 

 暗い表情でフィルシスは静かにそう漏らした。

 表情にこそ表れていないが、彼女から感じる殺気は本物だ。それだけフィルシスはグレン達に明確な怒りを抱いている。

 そもそもグレン達の目論見には穴が有る。

 フィルシスが討伐に来ない可能性の方がずっと高いが連中は随分と部の悪い賭けに出たものだ。

 それともフィルシスが直接出向くまで何度も掠奪を繰り返す腹積りだったのか。

 それだけの腕に自信が有ると考えるべきか、単なる自身の力に溺れ慢心した馬鹿なのか。

 果たしてグレンという男はどちらか。

 

「背後にヘルギム司祭が居る以上、ろくな事は考えてねぇんだろうなぁ……アンタ、苦手なもんは昆虫以外にあんのか?」

 

「動く死体と霊体はダメだね。亡者は臭くて生理的にね……」

 

「霊体は単純に討伐が困難だからか?」

 

「……透明でふわっと現れて怨念の宿った眼差しで睨まれるのって怖くないかい?」

 

 ーーなるほど、純粋な恐怖心から霊体が苦手なのか。

 

「俺がアンタを殺し前提で攻めるなら弱点を突くが……亡者は召喚されて当然か」

 

「野盗は私が斬るからキミは亡者とヘルギム司祭を任せたよ」

 

「……了解した」

 

 それだけ亡者を相手にしたくない。そう理解したスヴェンは彼女に歩調を合わせながらグレン達が潜伏しているとされる廃墟を目指した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。