視界を埋め尽くさんばかりに地下から溢れた亡者にスヴェンは動き出す。
迫り来る亡者の群れをガンバスターの一閃が薙ぎ払う。
多少マシになる視界、地下の入り口からこちらに向かって地を走る斬撃と黒弾に眉が歪む。
魔力を纏った斬撃と黒弾が亡者を巻き込む中、スヴェンは刃を振り抜き二発の斬撃を放つ。
地を走る斬撃が黒弾を呑み込み、もう一方の斬撃は魔力を纏った斬撃の前に呆気なく掻き消される。
それで良い。魔力の有無が威力に直結するならそれは当然のこと。加えて自身の力量はまだ成長していないということだ。
距離を縮め迫る魔力を纏った斬撃にスヴェンは身体を横転させる事で避け、フィルシスと村娘に向かう亡者共を斬り裂く。
自身が避けた事で後方に待機している彼女らに斬撃が向かうが何の問題もない。
「甘いね」
凛とした声が響く中、フィルシスの振り抜いた剣先が魔力を纏った斬撃を真っ二つに--二方向に分かれた斬撃が亡者を呑み込む。
所詮は使い捨ての戦力、巻き込み前提の遠距離攻撃など常套手段だ。
しかし決して楽観視など出来やしない。無駄に数の多い亡者とグレンとヘルギム司祭による攻撃、自分達の背後に五人の村娘と新米騎士が居る限り下手に避けることはできない。
じり貧という言葉が頭の中を駆け巡るが、そんな浮かんだ言葉はすぐに消えた。
「も、亡者なんかぁ!」
「腐った死体に喰われてたまるもんですか!」
「まだ結婚もしない内に死でたまるかぁ!」
「フィルシス騎士団長様が居る状況……勝機は我らにあり!」
「やってやるわ!」
各々奮起した村娘が放った魔法--爆炎と雷光、氷塊、嵐と岩石が亡者の群れを容易く呑み込んだ。
この世界の住人は当たり前に魔法を使える。だからこんな光景は必然とも言えるが、人やモンスターに対しては恐怖が勝り精神力の乱れから魔法が上手く使えなくなる。
「へぇ、キミ達やるじゃないか」
それでもただ護れるだけよりは遥かに上等だ。これで敵に専念できると判断したスヴェンは亡者を斬り刻みながら直進する。
背後で斬撃音と魔法による爆音が鳴り響き、前方から黒弾の弾幕が魔法陣から展開された。
ガンバスターに魔力を纏わず、黒弾の弾道を逸らすように刃で弾く。
弾いた黒弾を黒弾にぶつけ相殺させる。
フィルシスが見せた動きから学んだ方法と技術。技量を必要とするが大した魔力を込められていない魔法なら今の自身でも可能だ。
スヴェンは足を止めず、地下の入り口に接近するっと影が飛び出す。
「おっと」
飛び出した影が振るった一閃をガンバスターで防ぐ。
目前に現れた交戦的な笑みと狂気に歪める緋色の髪の男--グレンにスヴェンは感情の色を見せず、奴の大剣を弾いた。
大剣を包む炎の刃、グレンから魔力を流し込んだ形跡は見られない。
それに亡者もグレンの周辺には近寄らないのか、背後からこちらを襲う素振りは見せずフィルシスを集中して狙っている。
「へっ、魔剣を魔力無しに弾くなんざぁ……多少楽しめそうだなぁっ!」
正に戦闘狂。グレンの歪んだ狂気と感情の昂りに魔剣の炎が圧縮されより洗礼された刃に変わる。
魔力を纏えば弾き防げるかもしれないが、それでは時の悪魔対策にならない。
振り抜かれる魔剣を前に、スヴェンは半身を晒すことで刃を避ける--だが零れた炎が服を焦がす。
近距離で避けようとも零れた炎に身を焼かれる。これは魔法を使えない者にとって厄介だ。
スヴェンは半身を捻り円を描くようにガンバスターを振り抜く。
腰を軸に回転を据えた斬撃をグレンは避けず、魔剣で受け止める。
軋む刃、漏れ出る炎と熱気。魔剣の性質は詳しくも無ければ初見だ。
ただ理解出来ることは一つ。フィルシスが扱う魔力を使った剣技は魔剣の性質を基に編み出されていること。
つまり所有者がわざわざ剣に魔力を流し込む工程を必要とせず、最初から剣に魔法を付与させ所有者は魔法に魔力を割ける。
推測を浮かべる中、グレンが徐に口を開く。
「テメェはなんだぁ? フィルシスの連れだとすりゃあ……部下を殺したのはテメェか?」
生憎と人質を盾にされた状況で無傷で対象を救出する技量は無い。
そもそもフィルシスが背後に居る時点で気付くべきだ。あの惨状を起こした人物が誰で有るかを。
しかし答えてやる義理も無い。それに背後に控えるヘルギム司祭の事も有る。決して油断できない状況に違いはない。
スヴェンは無言で魔剣を弾き返し、グレンの腹部に袈裟斬りを放つ。
だが腹部に刃が届く直前--リンリンっ。
奇妙な音に刃が止められた。
「何の魔法だ?」
「ドラセム特有の魔法だっ『ドカン』」
これまで聴いた詠唱とは全く異なる詠唱にスヴェンは直感から距離を取った。
すると先程までスヴェンが居た場所が突如、ドカンっと爆ぜた。
音による魔法攻撃。音だからこそ眼に見えず、射程範囲も音が届く範囲だ。
お互い耳に届いてから魔法が発動するまで若干の隙が有るが、魔法の中でも攻めで使われば非常に厄介な類だ。
いや、魔法が使えない自身にとってはどれも魔法は厄介な物に変わりは無いが。
グレンが振り抜く魔剣の刃をガンバスターで弾けば、グレンの唱えた『ヒュルル』によって今度は見えない刃が左肩を斬り裂く。
攻撃と同時に発動する魔法。今までに無い戦い方だが、これも想定範囲内だ。
「オラァッ!」
右腕でガンバスターを振り抜き、頭部に向けて飛ぶ斬撃を放てばグレンの眼差しが深い狂気に染まる。
ガンバスターの刃を魔剣で防ぎ、顔を逸らすことで飛ぶ斬撃は頬を掠める程度で遥か彼方に飛んで行く。
そしてグレンは魔剣を引き、炎を活性化させながら刃を突き出すことで活性化した炎を一直線に放出した。
咄嗟に横転することで避けたスヴェンは、クロミスリル製のナイフをグレンの腕関節に投擲。
ぐさっと深々とナイフが突き刺さった。それこそ魔法で防げるナイフが容易く。
それでも魔剣からまだ放出される炎が亡者を呑み込み焼き焦がす。
「あァ、コイツを使うと動けねえ……その隙を狙いやがったなぁ?」
避けた後に反撃のためにナイフを投擲するのは単なる癖だ。
それが偶然にもグレンの右関節に突き刺さっただけのこと。
まだグレンは魔剣と魔法を同時に繰り出しては無い。出来ないのか出来るのか、どちらにせよ此処で殺す事には変わりない。
スヴェンは殺意を眼光に宿し、高速でグレンの背後に回り込む。
背後からガンバスターを右薙に一閃--刃がグレンの横腹を食込み、そのままの勢いで胴体を両断する。
「はぁっ? ここ、で……終わり、か、よ……」
グレンは吐血しながらそのまま死んだ。呆気なく死んだグレンにスヴェンは眉を歪める。
狂気を宿した瞳、アレは確かに何十人かそれ以上を殺している眼だった。
ドラセム交響国の聖歌隊やエルリア魔法騎士団を退けたグレンがこうもあっさり?
疑問に戸惑うスヴェンにフィルシスの腕が肩を掴む。
「魔剣は強力な武器だけど使い手を成長させてはくれないよ。彼は多分、慢心したんだろうね」
慢心。それは外道や困難を乗り越えた者、強力な武器を持った物が患う一種の病気だ。
「……あぁ、コイツもか」
グレンもまた慢心によって殺された。スヴェンはそう思うことで自身の中に宿る殺意を抑え込む。
それにまだ討伐対象は残っている。未だ亡者の召喚を続けるヘルギム司祭が居る。
「……また地下か、どうも連中とやり合う時は地下が多いな」
「また逃げられでもしたら面倒だけど、彼女達を置いて行く訳にもいかないか」
かと言って連れて行く訳にもいかず、依然として亡者は地下から溢れている状態だ。
一本道の入り口を強行突破してヘルギム司祭を討伐する。非常にシンプルで分かり易い単純な方法だ。
それにヘルギム司祭には問いたい事も有る。過去にエルリア城を襲撃した司祭の名と居所を。
「丁度聴きたいことも有るしな、行って来る」
「じゃあ私はこのまま地上で村娘達と
--あー、彼女なりの暗示か。
スヴェンは敢えて突っ込まず、迫る亡者を斬り刻みながら地下へ進んだ。