傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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24-6.地下のヘルギム司祭

 朽ち果てた地下通路、狭い通路を埋め尽くす亡者の集団に対してスヴェンは迫る亡者を淡々と斬り刻みながら通路を直進していた。

 既に老朽化が激しい地下だ、強い衝撃で崩壊する恐れも充分に考えれる。

 直線状に固まる亡者の集団を飛ぶ斬撃か衝撃波で蹴散らしたいが、ここは貫通力の高い.600LRマグナム弾による射撃が最も効果的か。

 スヴェンは亡者の集団に突撃を仕掛けながら刺突から引き金を引き、銃口から放たれた.600LRマグナム弾が亡者の集団を貫く。

 銃弾による衝撃が周辺の亡者までも巻き込み、肉片が通路に飛び散る。

 

「今だな」

 

 スヴェンは腕を伸ばす亡者をものともせず通路の真ん中を突き進む。

 そして道なりに進む事で人の気配を感じる広間に辿り着く。

 入り口から比較的に近い位置の広間、蝋燭が照らす部屋の中心に佇む老人--ヘルギム司祭にスヴェンは無言でガンバスターを構える。

 ちらりと部屋全体を見渡せば他に出口らしい物は見えない、完全な行き止まりだ。

 

「……まさかフィルシス以外が来るとはのぉ」

 

 予想が外れたことに対する落胆か、ため息混じりにそんなことを。

 

「騎士団を敵に回すなら充分に有り得る可能性だ」

 

 それだけでは無い。エルリアの敵は国民にとっての敵、いやレーナとオルゼア王の敵こそがエリアル全土の排除すべき敵だ。

 もしもグレン率いる野盗団とヘルギム司祭がフィルシスでは無く、レーナに狙いを定めたら彼女のファンクラブが黙ってはいないだろう。

 その意味でもスヴェンはヘルギム司祭に攻勢を仕掛ける前に訊ねる。

 

「なぜフィルシスを狙った? 生贄や国を混乱させてぇならレーナでも良かったろうに」

 

 質問にヘルギム司祭は長い白髭を撫でながら質問に答えた。

 

「レーナ姫のぉ。護りが硬すぎるというのも有るが、呪い発現から1年も生きられない者は生贄に適さぬ」

 

 呪いの発現から一年以内でレーナが死ぬ? 

 それはきっと十一年前に彼女が邪神教団の司祭に襲われた際に受けた呪いなのだろう。

 当たって欲しくない推測ばかりが当たる。

 

「……呪いを仕込んだのは11年前、か」

 

「ほう? 彼奴の独断とは言え知っておったのか……しかし解呪方法が存在せぬ呪いでは対応もできぬじゃろう」

 

 現段階でレーナに仕込まれた呪いがどんなものか判らない。そもそも呪いはフルネームが揃ってはじめて十全な効果を発揮する。

 実際に呪いを受けたことは無いが、相手は老人だが更に情報を引き出す為には演技も必要だ。

 経験豊富な老人に果たしてどこまで通じるかは判らないが、やってみる価値は充分に有る。

 

「フルネームを知らねえと効果は半減……猶予は有りそうだがなぁ」

 

 情報を引き出すために敢えてまだ時間的余裕が有るっと笑みを浮かべて見せた。

 そんな演技にヘルギム司祭が鼻で笑う。

 

「呪いが仕込まれてから11年、その間に呪いが彼女の心臓まで侵食しているならば手遅れじゃよ。少なくとも時期から計算して今年中に兆しが現れる」

 

 つまり呪い発現まで残り猶予が無い。

 仮に今月中に呪いが発現したとすれば、レーナが呪いに殺されるまで一年の猶予が有る。

 その間にエルリアの魔法技術なら解呪方法も確立できそうでは有るが、何事にも絶対は無い。

 発現から一年の猶予もヘルギム司祭のブラフかもしれないからだ。

 絶対は無いからそフィルシスの計画に乗る必要が有る。例え自身の存在を対価にしたとしてもだ。

 

「……なるほど、これは呪いを仕込んだ張本人を捕らえた方が速いか?」

 

「無理じゃな。彼奴は集会でも無ければ全く姿を現さん……我々ですら居場所を知らぬのだ」

 

「居場所不明か……アンタを捕らえれば救出に駆け付けるのか?」

 

「無理じゃな。彼奴に仲間意識など無い……オルゼア王襲撃計画ですら独断専行、味方を見捨てて先に逃げるような奴じゃよ」

 

 自身の安全を優先する人物が十一年前にエルリア城を襲撃したとは考え難いが、オルゼア王不在のエルリア城ならその気にさせるだけ充分か。

 

「保身に走る奴ほど中々姿を見せねえか……しかしアンタはなぜ悠長に情報を吐く」

 

 老人ゆえの余裕か、スヴェンが警戒心からヘルギム司祭の挙動に注視すると彼は静かに重苦しい息を吐いた。

 

「この老耄にもう逃げる気力など無い。邪神様の復活のためにあれこれ手を尽くしたが組織内部は対立……いや、邪神様の狂気に歪んだ我々の末路だ」

 

「邪神は復活を望んでねぇ。そう悪魔から聴いたことが有るが……」

 

「事実じゃ、わしは歪む以前の邪神教団を知っておる。奈落の底に安置された邪神像と共に静かに平穏に暮らす。それが本来の教団の在るべき姿だ」

 

 封印を護る邪神教団、それが本来在るべき姿だったのだろう。

 邪神教団の本来の姿を語ったヘルギム司祭は本心から事実を語っているが、既に歪んだ狂気からこちらを油断させ害する思考が明け透けに見えている。

 老人だからと油断していると思っているのか? むしろ老人こそ警戒すべき相手だ。

 スヴェンは企業連盟を束ねる老人の姿を思い浮かべながらわざと警戒を緩めて見せる。

 

「……ふむ、お主にはもう一つ語るべきだな。オルゼア王襲撃を提案したのはエルロイ司祭だ」

 

 愉悦と目論みを宿した瞳。これはヘルギム司祭の明らかな嘘だ。

 恐らく狙いはエルロイ司祭及び穏健派の殺害、これは過激派の戦力が著しく低下してるからこその虚言だろう。

 となれば聴くべき事は一つだけ。

 

「へぇ? それなら過激派の総力でエルロイを封印すれば済むだろ」

 

「そうしたいが、こちらの司祭はわしと彼奴--ラスラだけ。たった2人では彼奴を封印する事は叶わん……何よりも勝負という土俵から外れた存在に勝ち目などない」

 

 確かにエルロイは不老不死の化け物であり空間魔法の使い手だ。

 空間を発生さける隙間さえ有れば奴は魔法を自在に発動出来ると云う。

 そんな相手を厳重に密閉した状態で海底に捨てた所で何食わぬ顔で戻って来るのが目に見えている。

 それに過激派の司祭は残り二人だけ--デウス・ウェポン帰還前に過激派を潰すってのも現実的か。いや、必然的にそうなるか。

 

「過激派も残り2人……アンタを消せばあと1人か」

 

「貴様、老耄を嬲る気か?」

 

「何を今更……傭兵ってのは敵が生い先短い老人だろうが構わず殺すもんだ」

 

 殺意を滲ませ一歩踏み込めば、足下に魔法陣が出現する。

 ヘルギム司祭が用意していた魔法陣にスヴェンは顔色一つ変えず、魔法の発動に合わせて動く。

 魔法陣から黒炎の火柱が天井を貫き、

 

「油断大敵だぞ小僧!」

 

 勝ち誇ったヘルギム司祭の嗤い声が室内に響き渡る。

 ヘルギム司祭はミスを犯した。一つは心の奥底に宿る狂気とこちらに対する殺意を隠さなかったことだ。

 鈍い者や正義感に溢れる者なら騙せたかもしれないが、ヘルギム司祭の様な手合いは身に染みて馴れている。

 特に虚言混じりに策略を巡らせるタイプは脱出手段も用意している場合が多い。

 故にスヴェンはヘルギム司祭の背後の床に対し、魔力を纏わせたガンバスターの刃を突き立て--魔力干渉により浮き彫りになった魔法陣に剣先から魔力を流し込む。

 自分はミアの様に魔法陣の術式を書き替えることはできない。だから出来ることは魔力を流し込むことで魔法陣の魔力を狂わせ掻き乱すことだ。

 

「き、貴様!? 避け……いやそれよりもっ! なぜ転移陣に気付けた!!」

 

「アンタが悠長に逃げ道のねえ部屋に留まるってのは奇妙だろ」

 

 スヴェンは杖を構えるヘルギム司祭の最後に回り込み、首筋にガンバスターの刃を押し当てる。

 

「一応聞くがフィルシスを狙ったのは生贄目的か?」

 

「……エルリア最高戦力を消せば人攫いを増員できるじゃろ。グレンの提案は渡りに船だったが、あぁ地獄の入り口だったか」

 

 結局の所は彼も邪神に捧げる生贄確保のために動いていた。

 死ねば邪神の贄として魂の一部になれると信じているが、死者の行き着く場所など一つだけだ。

 

「はっ、死人が行き着く果ては消滅だ」

 

 スヴェンは冷徹に告げ、ヘルギム司祭の首を掻き切ることで彼の生命を刈り取った。

 地面に崩れるように倒れたヘルギム司祭を他所にスヴェンはガンバスターに付着した血を払う。

 これで過激派の残りはラスラ司祭だけだ。スヴェンは亡者を召喚し続ける魔法陣を消してから魔剣を回収したフィルシスと合流を果たし、村娘と新米騎士を連れてシェルノーグ村に向かうことに。

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