傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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24-8.シェルノーグ村

 四人の村娘と虚な新米騎士を連れ、漸くシェルノーグ村に到着したのは夜の帷が深まった頃だった。

 村には野盗に襲撃された影響が鮮明に刻まれている。

 一部の民家は倒壊し畑は荒らされ、出荷予定だった鉱石が無造作に地面に投げ捨てられ--静けさがシェルノーグ村を包む。

 

「随分荒らされたな」

 

 布巻きで身体を隠した新米騎士を抱えたスヴェンは村の惨状に一言だけ呟く。

 

「復興は騎士を動員するとして、支援金は定例通り国から補填されるから安心すると良い……と言っても補填できるのは民家の修繕費、治療費にその日の予定されていた収入に限られるけど」

 

「ありがとうございます……少しは村人達の気も紛れるでしょう。ですが、その犠牲になった騎士の方々は……」

 

 村も手痛い被害を受けたが、それ以上に騎士から戦死者が出た。その事を村娘の一人が代表してフィルシスに問えば彼女は普段通りの表情で答えた。

 

「どんなに魔法技術が優れていても死者は戻らないよ。それに戦死した騎士の遺族には保険金が支払われる手筈になっているんだ。少しは安心するんじゃないかな」

 

 死人に口無し。戦死した騎士が安心するかは誰にも判らないが、これは死者に引っ張られない過ぎないための方便でしかない。結局の所は自身の生死は自己責任だ。

 スヴェンが彼女らの会話を聴き流しながら村に一歩踏み込む。

 

「立ち話もなんだ、キミ達も疲れてるだろうけど家に帰って家族を安心させると良い」

 

「は、はい! あの、騎士団長様は如何するのですか?」

 

「私とスヴェンは騎士団の詰所に寄って一泊かなぁ」

 

 四人の村娘は互いに顔を見合わせ、改めてフィルシスに深々と頭を下げてから各々の自宅に向かった。

 四人を見送ったスヴェンとフィルシスは騎士団の詰所に歩みを向ける。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 詰所に近寄るとフィルシスに気付いた門番の騎士が彼女に敬礼する。

 

「騎士団長!……っ、彼女は……」

 

 万感の想いを宿した瞳にスヴェンは眼を瞑った。

 その感情は実に様々だ、フィルシスに対する畏れと敬愛。戦死した味方、変わり果てた新米騎士の少女に対する感情。

 これが敗者に訪れる末路だ。戦闘に携わる者なら決して避ける事も眼を背ける事もできない。

 敗北の結果だけがただ事実を突き付けるのだ。

 

「キミ、一先ず報告は明日で良いかな?」

 

「は、はい! ディルック部隊長から騎士団長と同行者を通すように仰せつかってますから」

 

「それじゃあ彼女とコレの事も頼むよ」

 

 フィルシスの言葉と同時にスヴェンは新米騎士と魔剣を騎士に預け、彼女の背中を追うように歩き出す。

 敷地内から建物に入り、そのままロビーから廊下を突き進む。

 二人は無言のまま廊下の突き当たりまで進むと右手側の通路から、

 

「あれ? スヴェンさんとフィルシス騎士団長の2人が如何して此処に?」

 

 ミアの呼び掛けの声にスヴェンとフィルシスは顔を向けた。

 杖を片手にミアがそこに確かに居た。

 治療師として優秀な彼女が負傷した騎士の治療の為に派遣されても不思議なことではない。

 

「ミアじゃないか。ラオも仕事が早いね」

 

「えぇ、今回は負傷した騎士の治療にラオ副団長の要請で派遣されましたから。……ただ、みんな重症でして暫くは療養が必要ですね」

 

「その方が良さそうだね……ただ療養を終えたら鍛え直しかな」

 

 笑みを浮かべて告げるフィルシスにミアは肩を震わせた。

 

「お、お手柔らかにお願いしますね……せっかく治療したのに重症を負われても困りますし」

 

「……善処はするよ」

 

 それは出来ないと言ってるようなものだ。その証拠に既にフィルシスの眼が怪しく輝いている。

 今の彼女はどんな鍛錬を施すか、頭の中で騎士団に対する訓練メニューを考案しているのだろう。

 スヴェンとミアはお互いに顔を見合わせ、思わずため息を吐く。

 

「ま、騎士が強くなることに越したことはねぇ」

 

「分かってるけどさ……あっ、そう言えばスヴェンさんも鍛錬してたんだよね? そこに野盗討伐も加わって結構疲れてるんじゃない?」

 

 疲れていると問われれば然程疲労感は無い。しかし明日の鍛錬を考えれば早めに休む事に越した事は無いのだ。

 

「そうだな、今日はもう休むわ。……ん? ミアは明日から如何すんだ?」

 

「私? 私は早朝に転移クリスタルでエルリア城に帰るよ……って休む前に!」

 

 一瞬だけ眉を歪めたミアは杖の先端を右肩の傷に向け、小さく詠唱を唱えると淡い緑の光がたちまち傷を塞ぐ。

 相変わらずの治療魔法にスヴェンが感嘆の息を漏らせば、

 

「間近でミアの治療魔法を見るのははじめてだけど、噂以上じゃないか」

 

 フィルシスがミアに微笑む。それは頼もしい治療師を歓迎しての笑みをだった。

 確かにミアの治療師としての能力は実際に眼にしなければ判断し辛い所が有る。

 治療魔法一つで傷は一瞬で塞ぎ、彼女が開発した再生治療魔法によって臓器の損傷も千切れた腕も元通りに治療されるのだ。

 それもミアの魔力と己の生命力だけで。

 

「……ミアがエルリア城に居るならもう少し無茶な鍛錬メニューを課してよさそうだ」

 

「あれ? もしかして余計なことしちゃったかな」

 

 余計な事とは思わない。鍛錬を経て自身の生存率を上げられるなら鍛錬は厳しければ厳しいほどより効果的だ。

 

「スヴェン、明日も楽しい1日になるよ」

 

「それは良いが速いところ部屋に案内してくれねぇか?」

 

「そうだったね。この先に騎士団長用の部屋が在るんだ、今日はそこで休むとしよう」

 

「それじゃあスヴェンさん、フィルシス騎士団長もお休みなさい」

 

 ミアと別れたスヴェンとフィルシスは早速騎士団長用の部屋に向かい、フィルシスは鎧を外しインナー姿でベッドに。

 スヴェンはガンバスターを壁に立て掛け、ソファで寛ぐように眠るのだった。

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