傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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24-10.情報屋とミア

 スヴェンとフィルシスが鍛錬に励んでいる頃、エルリア城に戻ったミアは宿屋通りの騎士も御用達の酒場に訪れていた。

 朝という事も合間って閑散とした物静かさに木製ジョッキを拭く音が響く。

 騎士も労働者も居ない静かな酒場を見渡したミアは、薄暗い壁際の席に座る目的の人物に吐息が漏れる。

 別段探し回ったという訳では無いが、会いに行こうとすれば会えない。かと言って今日のように気紛れで酒場に足を運べば会えた。

 そんなもどかしい状況に思わずため息が漏れるが、これで必要な情報が手に入る。

 情報屋を営む双子の悪魔の片割れに近付いたミアに、

 

「私にいくつか情報を売ってくれませんか?」

 

 双子の悪魔は興味も無さげな眼差しを向ける。

 情報屋として儲けに味を占めたのか、儲けに繋がらない依頼に興味は無い。そういうことだろうか?

 スヴェンには協力的だったと聞くが、月を跨がない内に悪魔も金欲に染まったようだ。

 金欲に染まったなら話は速い。ミアが五枚のアルカ大金貨をチラつかせれば双子の悪魔は目の色を変えた。

 

「随分な大金だね? 人の価値基準で言うならアルカ大金貨1枚で屋敷を建てられるよ」

 

 これはラピス魔法学院卒業後に自身が稼いだ金額の一部。

 治療師としての給料と新しい治療魔法の特許権、そして博士号による定期収入だ。

 これだけで欲しい情報が得られるはず、悪魔しか知り得ない情報を。

 

「それだけあれば悠々自適な生活を送れますよね?」

「そうだけどねぇ、果たして君が欲する情報が提示する金額に見合うかどうか……」

 

 珍しく悪魔にしては弱気だ。普段なら悪魔を眼にするだけで精神が消耗するが、今の人形に収まった悪魔からそんな副作用は感じられない。

 恐らく人に悪影響を与えないように気配を抑えつつ、片割れ不在の影響も有るのだろう。

 ミアは内心で双子の悪魔の現状を悟りながら欲しい情報を提示する。

 

「時の悪魔の弱点、倒し方、攻撃手段と味方の有無に付いて」

 

 双子の悪魔はミアが欲する情報に顔を顰めた。人形とは思えない表情の変化にミアから汗が滲む。

 流石は希代の天才人形師と呼ばれる人物の作品なだけあって極めて人に近い感情表現だ。

 だからこそ少し怖いと思えてしまう。特に夜な夜な独りでに動く人形などーー恐い想像なんかよりも情報が先!

 未だ言い淀む双子の悪魔にミアは意を決して強気に出る。

 

「知らないの? それとも悪魔同士のしがらみで言えないのかな」

 

 嫌味を込めた笑みを浮かべれば、双子の悪魔が青筋を浮かべる。

 人形の身体でなぜ青筋が浮かぶのか不思議では有るが……。

 

「喋れるとも、人の子が知らないとっておきの情報もね!」

 

 挑発に乗った双子の悪魔にミアは小悪魔的な笑みを浮かべた。

 

「それってどんな情報ですか? 最初に言っておきますが、私達は時の悪魔に対して既存する魔法、魔力を使用した攻撃が一切通用しない事は分かってますよ」

 

「それだけで挑む気にはなれないだろうにね。そもそも時の悪魔がなぜ時間を操れるのか……時間を操る事なんて神である二柱にしか出来ないことなんだよ」

 

 単純に人よりも悪魔の方が魔力も知識も優れているから。最初はそう思い納得していたが、この悪魔の口振ではどうも違うらしい。

 

「それって時の悪魔が邪神によって創造された悪魔だからですか?」

 

「違うよ、いや正確には半分正解かな」

 

 半分正解ーーまさか、時の悪魔はアトラス神と邪神の二柱によって生み出されたというの?

 答えに辿り着いてしまった。それも最悪の答え、邪神が産み出したとされる悪魔や邪神眷属はどれも非常に厄介で人類など簡単に滅ぼせてしまう力を秘めいている。

 かつて孤島諸島の先に存在していたと云うテルカリーエ大陸は封神戦争、二柱の衝突余波で大瀑布になった。

 そんな強大な力を持つ二柱によって創造された時の悪魔。ただその事実だけでミアに絶望感が襲いかかる。

 それでも戦うのはスヴェンだ、自身が出した依頼によって。自身の産まれ故郷を解放するために。

 だから勝手に絶望して諦めかけるのは違う。それこそスヴェンが言う不義理だ。

 

「……それは、時の悪魔が二柱によって創造されたから絶対に倒せないような存在ってことですか?」

 

「どんな悪魔も時の悪魔に傷を付けたことは無いよ。それこそ時を操る魔力を狙った邪神眷属でもね」

 

「どうやって倒せって言うんですかぁ?」

 

「いや、完全無敵ってわけじゃないらしいよ? 一応本人曰く世界に存在しない武器や技術は痛いほど効くらしい」

 

 それは既にルーピン所長が解き明かした情報だ。逆に言えば現状スヴェンと彼が持つガンバスターしか通用しない。

 

「現状まともに戦えるのはスヴェンさんだけですか」

 

「そうだね、明確な弱点と倒し方はスヴェンを当てるぐらいかな……他の異界人じゃあ話にならないだろうしね」

 

 全く見込みが無い訳では無いが、彼らの普段の言動と態度を眼にしていると信頼に欠ける。

 何よりもやはり単純に実力が不足してしまっているのが要因だ。

 スヴェン達がミルディア森林国に出発してから程なくして騎士団の訓練所で異界人主導の大会が開かれた。

 主催目的は誰が本当の英雄かを決めるものだったが、その中でも頭一つ抜き出ていたのがアンドウエリカ(安藤恵梨香)だった。いや、大会自体は結果的に言えば彼女の優勝で幕を閉じたのだ。

 ただその中でも日々の鍛錬が身を結んだサトウリュウジ(佐藤竜司)の戦績にも眼を見張るものが有る。

 しかしこの後日に行われた二度目の大会は訓練中の騎士も巻き込む事態に発展し、結局のところは面白半分で参加した騎士に全員敗北という結果で英雄を決める大会は幕を閉じ、それ以降異界人は大人しく日々の生活を謳歌している。

 そこまで思い出したミアはため息を吐く。

 

「他に導入できる戦力が居ればなぁ」

 

「時獄は悪魔も侵入できない鉄壁の結界だからねぇ……それにしても時の悪魔は如何して召喚に応じて時獄なんて展開したのかなぁ」

 

 確かにそこが謎だ。故郷を三年も閉じ込めた時の悪魔が憎い事に変わりはないが、目的を知るべきではないのか?

 

「何か知らないんですか? 時の悪魔の行動原理とか」

 

「普段は時の歩みに身を任せて寝て過ごしてるばかりの悪魔だからねぇ〜」

 

「あぁ、そうだった。時の悪魔と常に行動してる使い魔にも気を付けるべきかな」

 

 ただでさえ厄介な時の悪魔を相手にするというのに使い魔まで居る。

 それだけで眩暈が起きるが、これはスヴェンに伝える為に必要な情報だ。

 ミアは自身に言い聞かせて双子の悪魔に訊ねる。

 

「その使い魔というのは厄介なんですか?」

 

「うーん、眼にした者から戦意を奪い虜にしてまうかなぁ」

 

「魅了系の魔法が得意ということですか?」

 

 果たしてあのスヴェンに、美少女を美少女とも認識しない目の節穴代表のスヴェンに通用するのか疑問を禁じ得ない。

 ミアの疑問に双子の悪魔も困惑を浮かべながら言葉に詰まらせる。

 

「えっとぉ……うーん〜スヴェンなら問答無用かもしれないけどぉ、今の所はどんな悪魔も邪神眷属も虜にされちゃってるからなぁ」

 

 それはもう危ないのでは? そもそも一体どんな姿をしているのか。

 

「えっと、どんな姿なんですか?」

 

「簡単に言えば仔猫さ、愛くるしい鳴き声とうるうるした瞳で戦意を削ぎに来るよ」

 

 仔猫、あの人々を魅了してやまない仔猫が使い魔だと?

 

「考えただけでも可愛いじゃないですかぁ!?」

 

 いや、スヴェンが犬派なら話は別だが小動物や仔猫や仔犬、そしてレーナはどんな人物も魅了してしまう。

 もしかしたらスヴェンは予想以上の苦戦を強いられるのではないか? 同時にこうも考えてしまう、問答無用で倒しに行くスヴェンの姿はなんか嫌だ。

 

「……うぅ〜スヴェンさんには時の悪魔だけに集中して欲しいなぁ」

 

「……それはそうと次は攻撃手段だったね。時を冠する存在だけあって時間停止は当然、時間加速や延長も使えるね」

 

 それは想定していた通りの攻撃手段だ。そもそも時の悪魔が厄介、強敵ならば時間操作から併用して繰り出される攻撃魔法だ。

 

「攻撃魔法に付いては? どんな属性系統の魔法が得意なんですか?」

 

「得意な魔法? 得意な魔法……あれ? 少なくとも我々は時の悪魔が攻撃魔法を使用した瞬間を眼にしたことが、無い?」

 

「……っ!? まさか、時間停止中に魔法を使うから誰も魔法を使われた事実を認識できないということですか?」

 

「そうなのもかしれない。少なくとも我々は眼にした事が無いのは確かだね」

 

 それでは防御手段も限られて来る。それこそ全身に魔力を細かく巡らせ、魔力の鎧を形成する他に防ぎようが無い。

 

 ーー魔力の鎧って大昔は使われていた防御手段だけど、魔力制御が困難過ぎて廃れた方法だっけ。

 

 そもそも既存の魔法や魔力が通じない時の悪魔に対して魔力を使った防御は意味を成すのか?

 そんな疑問が頭に浮かぶが、ミアは不安を拭う為に頭を振った。

 自分が不安に駆られてはスヴェンも良い気がしないだろう。それに彼は時の悪魔からエンケリア村を解放する為に辛い鍛錬に励んでいる。

 

「私が不安になっても仕方ないですね。それよりも今は必要な情報を集めること!」

 

 その言葉を口にしてミアは漸く気が付く。得た情報の大半が既に知っている内容だということに。

 

「……あのぉ、私達が知らない情報って無いんですか? 例えば如何して時の悪魔に既存する魔法が通用しないのとか」

 

「我々が知り得る情報は全てだよ。ただ忘れないで欲しい、我々悪魔も学習して対策を講じることを。それが人の専売特許とは思わないことだよ」

 

「肝に命じて置きますよ」

 

 ミアはそう答え、双子の悪魔に報酬をいくら支払うべきか頭を悩ませながら金袋からアルカ大金貨二枚を差し出した。

 

「うん、妥当な報酬だね。それじゃあまたご贔屓に」

 

 スヴェンに伝えるべき欲しい情報は手に入った。その大半は既に知っている内容だったが、それでも使い魔の存在は大きい。

 ミアはスヴェンに伝えるべき情報をメモに書き溜めながら次の予定に眉を歪めた。

 このあと直ぐにまたシェルノーグ村に戻って新米騎士の精神治療に取り掛かる事になっている。

 フェルシオンの一件から理論を構築していた精神治療、この治療が成功したら次はユーリ伯爵の治療の番だ。

 ミアは意を決してエルリア城の地下広間を経由してシェルノーグ村に戻った。

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