傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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25-5.エンケリア村に向けて

 クルシュナの自室に到着したスヴェンはソファで互いに睨み合うレイとミアに苦笑を浮かべる。

 記憶が正しければレイはミアの依頼に対してーーいや、エンケリア村を解放する方針の違いですれ違いを起こしていた。

 故郷解放まで十数年も待てず異界人を頼る事を選んだミアと時間をかけて後輩を育て、新しい魔法技術で解放に望むレイ。

 二人の方針は過程は違えど齎す結果はエンケリア村の解放だ。だが、エンケリア村が時獄によって時間を蹴り返している以上はレイの方針では村人全員が廃人になる危険性が高い。

 それでもレイがこの場に居るのは彼なりに妥協して協力するためなのだろうか?

 スヴェンは互いに威嚇し合うレイとミアからフィルシスとクルシュナに視線を移す。

 するとクルシュナは申し訳なさそうにしながら謝罪を口にした。

 

「すまない、吾輩は貴殿から預かっていた荷電粒子モジュールを断りもなく素材に使用した」

 

 すでに壊れ修復不可能な荷電粒子モジュールが素材ときて利用されたことにスヴェンは特に怒りもせず。

 

「構わねえよ、既存する材料が使えねぇなら壊れた物を再利用するってのは上等手段だ」

 

 クルシュナに好意的な意見を述べ、彼はそれに対して小さな笑みを浮かべる。

 そしてスヴェンはフィルシスに訊ねる。

 

「それで……依頼主のミアがこの場に居るのは判るが、レイはなぜなんだ?」

 

「キミには万全の状態でエンケリア村解放に臨んで欲しいからね。レイ小隊長とミアはエンケリア村到着までの護衛さ」

 

 依頼主に護れる傭兵が何処に居るだろうか? 様々な反論の言葉が頭に浮かんでは深妙なミアの眼差しが反論の言葉を打ち消す。

 瞳の奥底から覗き見える故郷のために何かしたい。そんな硬い意志を宿した瞳で訴えられればスヴェンには何も言えなかった。

 むしろ彼女の意志を尊重してやりたいとさえ思ってしまう。

 

 ーーあー、この世界に来てから随分と思考が甘くなってるが、まぁいいか。

 

「エンケリア村解放後に生じる負傷者の治療はミアが必要か。だが、心が壊れた奴は……」

 

「そっちの方は大丈夫だよ。スヴェンさんとフィルシス騎士団長が救出した騎士の子、彼女は精神崩壊を起こしたけど精神治療のおかげで回復の兆候が見え始めてるの」

 

「フェルシオンのユーリ伯爵もね」

 

 それはスヴェンが眼を見開き驚愕するには充分な吉報だった。

 精神崩壊を起こした患者の治療は非常に困難だ。それかそデウス・ウェポンの科学技術が生み出した仮想空間による精神治療でやっとの難題をミアは魔法で漕ぎ着けたというのだ。

 

「アンタが発表したっつう論文か?」

 

「そっちは無機物の自己修復魔法の研究論文だよ。精神治療魔法は自己修復魔法の応用になるけど……」

 

「はぁ〜ミア、その話はきっと長くなる。僕達にはやるべきことが有る筈だろ?」

 

 ミアが開発した自己修復魔法と精神治療魔法が気になるが、レイの言う事も正しい。

 

「スヴェン、早速で悪いけど出発は明日の早朝で構わないかい?」

 

「あぁ、移動日数も考慮すりゃあ速い方が良いからな」

 

「じゃあ今から予定を話すよ……明日僕達は大型転移クリスタルでエルリア南東部のヒュルケイ村に転移、そこから東に位置するエンケリア村に向かって10日ほど荷獣車で移動するんだ」

 

 転移クリスタルによる短縮ーーこれは魔王救出の旅を終えてから知った事だが小型転移クリスタルは騎士団の詰所に設置されており、騎士は自由に各地の騎士団の詰所を行き来できるそうだ。

 最も現地に向かい小型転移クリスタルを設置しなければエルリア城の大型転移クリスタルから転移することはできないが。

 

「到着後は時獄を突破、エンケリア村の何処かに潜伏する時の悪夢の討伐及び封印か」

 

 スヴェンは目的を確認するように口にするとクルシュナがテーブルに瓶を一つ置く。

 瓶に刻まれた見覚えーーいや、早速馴染み深いデウス・ウェポンの文字にリノンの関与を察した。

 瓶に刻まれた『器より離れし魂』『悪魔よ、宿りたまえ』『汝を縛る聖なる器に』『汝、器に縛られよ』っと呪文が記されている。

 

「コイツを唱えりゃあ良いのか?」

 

「唱える必要は無いから安心したまえ、魔封瓶は魔力を流し込めば誰にでも扱える代物なのだよ」

 

 魔法が扱えないスヴェンにとって魔道具は便利な代物だ。それが魔力を有する誰にでも扱えるのだから。

 

「悪魔さえ器から引き剥がせば誰でも封印できるってことか」

 

 万が一自分が倒れた場合、その時は時の悪魔の封印を誰かに委ねる必要が有る。

 

「……現地の騎士と情報共有が出来たら有益な情報が得られるんだけどねぇ」

 

「ふむぅ、あれからルーピン所長から音沙汰無しですな……」

 

 内部の状況は一切不明、いやルーピン所長のメッセージには此処は地獄だと記述が有った。その言葉は停滞してしまった閉鎖空間ゆえの地獄なのか、村人同士の争いが発生してしまったのか。

 単語一つで推測は様々だがーー敵は時の悪夢と契約者に限らねえか。

 

「ま、警戒することには変わりねぇだろう」

 

「スヴェンさん、もしも私の家族に会ったら……その、難しいと思うけど……」

 

 ミアの言いたい事は判る。もしも家族が時獄の状況を受け入れ、解放を阻んだとしても傷付けないで欲しいのだと。

 普段なら敵対者の身の安全など保証しないところだが、これも依頼人の意向だ。

 それにエンケリア村の村人は一般人だ、状況ゆえに理性が外れた状態であろうとも決して一線を越えてはならない一般人なのだ。

 

「確約はできねえが、極力傷付けねえよう努力するわ」

 

 肩を竦めるように告げれば、

 

「うん、それともしも会う事が有ったら私は元気にしてるって伝えて欲しいなぁ」

 

 家族への伝言を頼まれた。

 

「判った……レイ、アンタの家族に伝えることは有るか?」

 

「……直接助けに行けなくてすまないっとだけ」

 

 苦笑を浮かべながら告げられた伝言にはレイの悔しさが宿っていた。

 故郷を自身の手で救いたい。それは人として当たり前の感情なのかもしれないが、故郷すら持たないスヴェンにとってはレイの悔しさは理解できても結局のところ根本的な感情は判らないままだ。

 

「了解した……他に確認事項や話すべき事は有るか?」

 

 四人を見渡すとそれぞれが首を横に振る。

 

「話が終わりなら俺は帰るぞ」

 

 スヴェンはテーブルに置かれた魔封瓶をサイドポーチにしまい、ドアに振り向くと。

 

「スヴェンさん、明日からまた一緒に旅が始まるね」

 

「今回は短いだろうが、レイも居ることを忘れんなよ……ってか頼むから俺の目の前で喧嘩なんざすんなよ」

 

「善処はするよ」

 

「そうだね、私も善処はするよ」

 

 それは善処する気が無い時によく使われる謳い文句だ。

 二人にとってそれが戯れあいならスヴェンは何も言う気にもなれず、フィルシスとクルシュナに目配りしてから退室するのだった。

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