傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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3-10.信徒の意地

 広い噴水広場跡地で待ち構えていた亡者の群れにスヴェンとミアに冷や汗が浮かぶ。

 

「コイツは面倒だな」

 

「何処を切り抜けても亡者、完全に囲まれる前に中央区画に行かないと」

 

 ミアは焦りを顕に、杖を強く握り込んだ。恐らく亡者に完全に囲まれた状況が脳に過ってしまったのだろう。

 スヴェンは過去に一度体験した事が有る光景だが、アレは二度と体験したくもない。

 

 ーー本命に辿り着いたとして、コイツらが止まる保証はねえな。

 

 しかし行動が遅れれば遅れる程、進路も退路も断たれ窮地に陥るのは眼に見えていた。

 スヴェンはミアに視線を向け、アシュナが近場に潜んでいることを確認し、

 

「このまま突っ切る」

 

 ガンバスターを振り回し、刃を地面に叩き付けることで衝撃波を放った。

 衝撃波は前方の亡者を呑み込み、出来た進路に向けて駆け出す。

 噴水広場跡地を駆け抜けるがーードッカーンッ! 地下遺跡に爆音が鳴り響く!

 やがて亡者は音の方向に身体を向け、スヴェンとミアに目も向けず、ぞろぞろと歩き出した。

 腐敗の酷い身体を引きずり歩く亡者の背中を二人は警戒心を剥き出しに見送る。

 やがて噴水広場跡地は嘘のように静寂に包まれ、

 

「さっきの爆音は、アトラス教会の連中か?」

 

「そうだと思うけど、目的は子供達の救出の筈だよね」

 

 亡者が突入したアトラス教会の侵入者に向かって行ったとすれば、子供の救出も困難になると思われるがーー連中はそれ相応の戦力を導入してんのか?

 スヴェンはアトラス教会の戦力に僅かな期待を寄せ、

 

「仕方ねえ、俺達は潜伏中の邪神教団に集中するしかねえな」

 

「そうだね……でもあの人を置いて来てよかったの?」

 

 ミアは通った通路を振り向き、杞憂に満ちた眼差しを向けていた。

 恐らく彼女は鳴神タズナが逃げる可能性を危惧しているのだろう。

 

「腰骨は砕いた、奴は動けねえよ」

 

「そっか。万が一動けたとしても地上のラオさんに捕縛される可能性の方がずっと高いか」

 

 ミアの結論にスヴェンは頷き、そのまま噴水広場跡地を駆け抜ける。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 受け取った地図を頼りに地下遺跡を突き進むが、中央区画に近付けば近付く程、激しい戦闘音が近付く。

 幸いスヴェンとミアが辿り着いたーー崩れ風化した建物が並ぶ大通りには戦闘の様子は見られず。

 スヴェンとミアは警戒を最大限に、礼拝堂に続く道を進む。

 思えば地下遺跡と聴いて古い施設を連想していたが、実際に訪れてみればメルリアの地下遺跡は過去の町だと判る。

 繁栄を築いた町が滅ぶことなど歴史の中で特段珍しいこともでない。

 スヴェンが内心で過去の歴史に付いて意識を傾けた時、突如崩れた建物の影から一つ影が飛び出した。

 一つ目の紋章が刻まれた白いフードを目深に被った邪神教団の信徒にミアが敵意を剥き出しに杖を構える。

 ミアの敵意に邪神教団の信徒が槍を構えーー丈夫な造りかつ到底邪神教団が用意するには難しそうな質の良い武器にスヴェンは眉を歪めた。

 

「良い武器を持ってんじゃねえか。邪神教団ってのは武器を鍛造する施設でも持ってんのか?」

 

「我らの崇高なる目的に共感した同志は意外と多いのだよ」

 

 馬鹿正直に答えた邪神教団の信徒にスヴェンは拍子抜けに感じつつも、エルリア国内は愚か様々な国の内部に邪神教団の協力者が存在していると認識した。

 スヴェンはミアに視線だけを向け、槍を身構える邪神教団の信徒に突っ込む。

 距離を縮めたスヴェンに対して邪神教団の信徒は、魔力を纏った突きを放った。

 ガンバスターを横薙ぎに払うも、魔力を纏った槍の刃に弾かれる!

 魔力の障壁を斬った時と似た感覚に眉を歪めながら、スヴェンは迫る突きを咄嗟に身体を捻ることで躱す。

 邪神教団の信徒はミアを視界に捉えつつ、スヴェンに向けて連続の突きを放つ。

 スヴェンはガンバスターを盾にーーガキン、ガキン、ガキン! 絶え間なく放たれる突きを防いだ。

 

「やはり普通の異界人とは違うようだな。如何だ? 貴様も我々と共に来る気はないか?」

 

 邪神教団の信徒が放った勧誘の言葉にミアはスヴェンの背中に視線を向けた。

 

 ーー万が一此処で彼が裏切るようなことがあれば。

 

 ミアは密かな決意を胸に宿す。

 しかしスヴェンはそんなミアの決意を他所に、ガンバスターを一閃。

 ぼとりっと槍を持った邪神教団の信徒の腕が地面に舞う。そして邪神教団の信徒の切断面から血飛沫が噴き、地下遺跡の床を鮮血で汚す。

 邪神教団の信徒は突然の事に一瞬だけ呆然とする。しかし想像を絶する激痛によって現実に引き戻れた邪神教団は、

 

「ぎいやぁぁ!! う、腕がァァ!!」

 

 悲痛な叫び声が崩れた建物が並ぶ大通りに響き渡る。

 そこにスヴェンは、容赦無く邪神教団の信徒にガンバスターを突き付けた。

 

「ひっ!」

 

 邪神教団の信徒は見た。冷酷な瞳でコチラを見据える男の眼差しを。

 殺しに躊躇も無い無感情かつ無機質な瞳に邪神教団の信徒は心から恐怖した。 

 だが、邪神教団の信徒は心の底から這いずる恐怖に負けじと、

 

「ふふっ、これで我が魂が邪神様の贄になるのであれば本望!」

 

 意地と邪神に対する信仰心から祝福の眼差しを向けた。

 

「情報を吐けば助かるとしてもか?」

 

「同志を売るならば死を選ぶ!」

 

 スヴェンは名も知らない邪神教団の信徒にーー自分なりの敬意を評してガンバスターの刃で首を刎ねた。

 地面に転がる邪神教団の信徒の首ーーフードから曝け出された素顔は幸福に満ち溢れた表情だった。

 絶望も恐怖も一切感じさせない満ち足りた表情、とても殺害される人物が浮かべるものとは程遠い感情にスヴェンとミアは眉を歪めた。

 邪神教団の信徒が邪神に抱く信仰心の高さは大きな脅威になり得る。

 スヴェンは大通りの先に続く礼拝堂を真っ直ぐと見詰め、確かな足取りで歩き出す。

 そんな彼にミアも気を引き締めて後に続く。


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