傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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第二十六章 鐘楼か告げる刻限
26-1.狂った村人


 村にポツンっと佇む小屋に訪れたスヴェンはひび割れた木造のドアを軽く叩く。

 何度か加減を加えてドアを叩き家主を呼び出すも一向に返事が無い。

 

「ルーピン所長、居ないのか?」

 

 民家が密集する広場から離れた水路近くの小屋にルーピン所長が滞在していると教えられて来てみれば、肝心の彼は不在の様子。

 他に行きそうな場所と言えばエルリア魔法騎士団の詰所だが、スヴェンは此処から比較的近いエルリア魔法騎士団の詰所に顔を向けーー喧騒と村人達の罵声、怒鳴り声。そして互いに武器を手に揉める村達の様子に思わずため息が漏れる。

 生憎と今はあそこに続く通路で村人達が争い騎士が止めに入っている真っ最中だ。そんな場所に自ら首を突っ込んでは時間を浪費してしまう。

 

「頭数が足りない……」

 

 こちらを狙う殺気。隠すこともしない明確な殺意と矢を引き絞る弦の音。

 視線だけ向ければ背後の一本木の上からこちらに狙いを定める若い男性。手早くスヴェンは足下の小石を一つ拾い上げた。

 

 ーー此処まで物騒になるなんてな。

 

 普通ならルーピン所長を訊ねる不審人物に対して向ける殺気とも考えられるがーースヴェンはちらりと向けた視線で捉えた歪んだ笑みに眼を瞑る。

 ルーピン所長がメッセージとして送った言葉、『ここは地獄だ』の意味は時間の巻き戻りから脱せず、狂気に駆られる村人と生死の繰り返しを意味していたのか。

 こんな状況をミアとレイには伝えられないが、そもそも時獄から解放して村人達は元の生活に戻れるのか?

 一度人を殺して得た快楽と狂気から簡単に抜け出せるものなら傭兵など廃業真っしぐらだ。

 未だこちらを狙う若い男性にスヴェンは一つため息。アレは獲物が動く瞬間を待っているのだろう。

 狩人のなりきり、獲物を一発で狩る。何度か繰り返し得た快楽と確かな自信を若い男性の眼からありありと伝わって来る。

 此処で射抜かれるのも御免だ。スヴェンは背後に振り向くと同時に拾った小石を投擲した。

 放たれる矢を半身を逸らすことで躱し、

 

「あだっ!?」

 

 額に直撃した小石によって若い男性が木の上から落ちた。

 地面に背中を打ち付け、衝撃と痛みに悶える若い男性にスヴェンは素早く距離を詰めーー首筋にガンバスターの刃を押し当てる。

 

「なぜ俺を狙った?」

 

「……毎日毎日、変化が無い。人を殺しても12時を訪れたら最初に戻る。だったら遊んだって良いじゃないかっ」

 

「なるほど、なら俺はアンタを危険人物と見做し殺した方が得策か」

 

 殺しを遊びにする。その結果なにが訪れようとも文句は言えない。

 向けられる殺意に対して若い男性は酷く狼狽えた様子で喉を鳴らした。

 ガチガチと口を震わせながら若い男性が叫んだ。

 

「つ、罪の無い村人を手にかけるなら騎士が黙ってないぞ!」

 

 スヴェンはまだ目の前の男が誰かを射抜いた姿を目撃した訳でない。だが、彼の言った言葉には正当性など皆無だ。

 記憶を保持したまま時間が巻き戻るなら彼に射抜かれた者達は覚えているはずだ、射抜かれた瞬間と死ぬ瞬間を。そして若い男性がどんな表情で自身を殺害したのかも。

 

「そんな村人を的にして遊んだのはアンタだろ」

 

 スヴェンは躊躇なく冷徹な眼差しでガンバスターを振り上げ、若い男性は両手を必死に動かす。

 

「死を繰り返すってんなら死んだ後に何が待ってるのか是非とも教えてもらうじゃねぇか」

 

 振り下ろすガンバスター。目前に迫る刃に若い男性は耐え切れず、恐怖心から失禁しながら意識を手放した。

 首筋で寸止めにした刃を戻したスヴェンは背中の鞘にガンバスターを納める。

 傭兵として村人を害する気は無い。いくら村人が殺人に手を染め、殺しの快楽に溺れようとも彼等がエンケリア村の住人である限りスヴェンはミアとの契約に基づいて手を出す事は無い。

 最も例外は居る。万が一時の悪魔と契約したのが村人なら討伐優先順位に従って契約者は殺害する。

 スヴェンは気絶した若い男性をそのままに改めてエルリア魔法騎士団の詰所に視線を向けた。

 

「殴り合いに騎士まで参加かよ」

 

 殴られた騎士が拳で殴り返し、別の誰かに殴られる。そして始まった村人と騎士の乱闘騒ぎにスヴェンがため息を吐くのも無理はなかった。

 あれでは暫く騒ぎは治りそうに無いだろう。それなら自分は自分で時の悪魔の探索に移るだけだ。

 スヴェンはルーピン所長の小屋を後に一先ず地下水路の探索を開始した。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 整備が行き届き一定の清潔感が保たれた地下水路を訪れたスヴェンは通路を道なりに進む。

 既に探索の手が及んでる可能性は充分捨て切れないが、

 

「今のところ魔力の流れは……」

 

 視界に映る魔力の流れは水路の底から一定の方向に続いていた。

 これは恐らく地下水路の環境を整えるために設置された魔法陣に影響しているのだろう。

 それ以外に魔力の流れは無く、水音ばかり聴こえるだけで地下水路は静かだ。

 村は騒がしいというのに地上の音は此処まで届かないようだ。

 しかし地下水路には確かに複数の気配を感じる。村人かルーピン所長か、それとも騎士団か。

 制限時間が有る状態で無駄は省きたいが情報も得たい。

 

「出会い頭に仕掛けられなきゃいいがな」

 

 スヴェンはため息混じりに引き続き真っ直ぐ地下水路を道なりに進む。

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