傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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26-5.期待は呪い

 スヴェンとルーピンはエンケリア村の大通りに建ち並ぶ民家の中でも大きめながら豪邸とは程遠い一軒家を訪れていた。

 

「村長、ベルサック村長ぉ〜」

 

 何度かドアをノックするルーピンの声にドアが開き、

 

「ルーピン先生……っとそちらの者は、まさか村の外から?」

 

 窶れた頬、疲労が目に見えて判る顔付きをした中年の男性ーーベルサック村長がスヴェンを一眼で部外者と理解していた。

 流石は村長だけあって村人全員の顔を把握しているのか。スヴェンは内心で感心を浮かべながら、

 

「あぁ、村の外から来たスヴェンだ」

 

 簡潔に告げたスヴェンにベルサック村長は黒い瞳を開く。

 

「という事は外の状況は!? レイは、わたし達の息子は無事なのかっ!?」

 

 問い詰めるように肩を掴むベルサック村長にルーピンが意外そうな眼差しを向ける。

 父親として息子を心配しているなら彼の反応は当然のものなのかもしれない。

 スヴェンはベルサック村長の様子を観察しながら敢えて彼の手を払い除けず伝えた。

 

「アンタの息子はエルリア魔法騎士団の小隊長になってる。それとレイから『助けに行けなくてすまない』っと」

 

 それを告げた瞬間、ベルサック村長は膝から崩れた。

 まるで長年心配していた息子の安否を知ったように。

 いや、少ない情報だがレイの近況を知れた事で安心したのだ。それが父親という存在なのかーー俺が知ってるのは、俺を道具として利用してきた自称義父、戦場に置き去りにした血縁上の関係程度か。

 ベルサック村長を通して父親という存在を理解してみようかと一瞬でも思ったがやはり結論は同じだ。

 親という存在は自身の想像の範疇には納まらず、また理解も難しいのだと。

 そんな思考を浮かべるスヴェンにベルサック村長はこちらを見上げながら涙を拭う。

 

「情け無い姿を見せてすまない」

 

「……いや、子を想う親心故にだろ」

 

「面と向かって言われると恥ずかしいけど、妻にはわたしから伝えておくよ」

 

 鬱の眼差しを浮かべるベルサック村長にスヴェンは得心をえた。

 ベルサック村長の妻は精神が壊れ寝込んでいる状態なのだと。

 あまり無用な希望を抱かせるなど悪趣味でしたくはないが、それでもスヴェンは伝えなければならないことを告げる。

 

「時獄の外にミアとレイが来ている」

 

「2人が村の外に……喧嘩してないといいがぁ」

 

 心配そうに村の外に顔を向けるベルサック村長にスヴェンとルーピンは互いに顔を見合わせた。

 ミアとレイは互いに貶し合う程度の仲だ。それは不仲というよりは気心知れた幼馴染としての関係性か、それともライバル関係と表現するべきかスヴェンは表現に詰まらせた。

 詰まらせたがベルサック村長に問うた。

 

「あー、昔から2人は喧嘩を?」

 

「口喧嘩から始まって殴り合いは常だった。それで喧嘩が終わるといつもミアがレイの怪我も治療して『これでパパとママにしかられずにすむね』で締め括って終わるんだ」

 

 昔を懐かしむベルサック村長は続けて語り出す。

 

「泳げず治療魔法以外の他の魔法が使えないミア、多才で直ぐにマスターしてしまうレイ。村の大人達はレイに期待していたけど、わたしとあの子の家族はミアに期待していたんだ」

 

 親として子に期待を寄せないのは残酷なのでは? そんな疑問が浮かんだスヴェンにベルサック村長は苦笑した。

 

「鉱山では不慮の事故で重傷を負う鉱山労働者が多くてね、村長と鉱山長の立場として期待してしまったんだ」

 

 立場から来る期待感と大人が子供に向ける期待感は似ているようで違う。

 少なくともスヴェンから見ればベルサック村長の印象は、レイという息子を心配しながらミアという他人には道具としての側面を見出した大人という印象を受ける。

 

 ーーいや、単に俺が外道だから極端な捉え方をしてるだけか。少なくともミアの両親が見せた眼差しは目の前の男とは違う。

 

 ベルサック村長が見せた眼差しはあの男と同じ眼だ。

 道具としての期待だけの眼差し。そこに他の感情は一切無い冷徹だが合理的な期待感だ。

 

「アイツは道具じゃねえよ」

 

「……そうだね、中等部に進学したレイにも同じことを言われたよ。あの時のレイの眼は酷く冷たかった」

 

 少なくともアドラとミリファはミアの近況を喜んでいた。

 治療魔法の天才以前に自分達の娘に対する誇らしさも垣間見えたのも確かだ。

 村長故の立場でミアに期待するベルサック村長に対してレイは察したのだろう。

 実の親が幼馴染に向ける感情を。

 

「……レイなりにアンタの考えを見抜いたんだな」

 

 それでもミアは恐らく故郷の怪我人に対して治療魔法を使う。彼女がそういう性格だからだ。

 尤もドヤ顔のおまけ付きで仕方ないと笑うのだろう。

 

「大人になって子を持ったわたしは、いつのまにか汚い大人になっていたよ」

 

 自嘲を浮かべるベルサック村長にスヴェンは首を振る。

 

「それが大人だろ。特にアンタの立場なら労働者の事を考えんのも役目の一つだろ」

 

「ミアを立場関係無く素直に応援できたら……お前さんを寄越したのはきっとミアなんだろう?」

 

「あぁ、アイツが俺に依頼した。故郷を時獄から解放してくと」

 

 事実を告げればベルサック村長は空を見上げ、深く息を吐く。

 

「あの子は優しいなぁ」

 

 大人としてミアの成長と才能に期待できなかったベルサック村長の姿にスヴェンは何も言わず、エンケリア村の外に視線を向けた。

 

「大人の期待感か……呪いだな」

 

 レイは実の親に期待されなかったが、周囲からは期待されていた。そして今は期待に応えるようにエルリア魔法騎士団の小隊長に出世を果たしている。

 実の家族以外からは誰にも期待されなかったミアは、治療魔法に関する研究を進め新しい再生治療魔法の発表。功績で博士号を得るに至りーー無機物再生魔法や精神治療魔法を完成させた。

 大人達の期待も有ったが成長を遂げたのは二人自身だ。

 しかし、大人の期待というのは時に残酷で歪めてしまう。

 

 ーーいや、あの男とは違うか。

 

 頭に浮かんだ葉巻が良く似合う眼帯の傭兵とベルサック村長やアドラとミリファは明らかに違う。

 むしろ比較対象として扱うことすら三人に失礼だった。

 スヴェンがそんな思考を浮かべると黙って会話を聴いていたルーピンが咳払い。

 

「2人の過去の話も良いけど、続きは時獄を解放した後にでもしないかい?」

 

「……ルーピン先生、まさか目処が付いたのですかっ!?」

 

「彼は時の悪魔特効と言うべき存在だよ」

 

「おい、先ずは巻き戻りを止めるために村人の説得か無理なら閉じ込める必要もあんだろ」

 

「巻き戻りが発生しないとなれば正常に時間が流れる……うん、村人の説得はわたしに任せてくれ」

 

 村長として活力に満ちたベルサック村長の力強い眼差しにスヴェンとルーピンは頷く。

 村人を説得し理解を得られる者は彼を置いて他に居ないだろう。

 正に適任の人材だ。そう思考に浮かべたスヴェンに、

 

「それじゃあスヴェンを村を救う英雄として紹介しよう」

 

 地獄にも等しい提案を出した。

 

「それは辞めてくれ。村人全員の期待ってのは重荷でしかねぇ」

 

「そうかぁ……」

 

 残念そうに肩を落とすベルサック村長。自身の隣で爆笑するルーピンをスヴェンは鋭く睨んだ。

 

「次は何処に行く?」

 

「残り時間は1時間か。それじゃあ次の合流地点に案内しよう」

 

 そう言ってルーピンは村の南に歩き出した。

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