傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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26-6.届けたい想い

 合流地点として案内された場所は村の南に位置する丘の上。

 古びた石碑と井戸、村全体を一望できるこの場所なら確かに合流地点としてはうってつけか。

 しかし目立つ場所では有るが、巻き戻り時にスヴェンは一度上半身裸にされミアの両親から上着を借りなければならない。

 何よりもこの場所は民家の屋根から魔法が充分に届く距離だ。

 

「あー、他に合流に適した場所はねぇのか?」

 

 ルーピンに訊ねると彼は首を横に振った。

 

「有るには有るんだけどね、地下水路に降りて中心を目指すとなると此処からの方が最短なんだ」

 

「距離感で言えば民家通りから進んだ方が速そうだが、こっからの方がそこまで入り組んでねぇのか」

 

「そっ、此処からなら地下水路を真っ直ぐ直進するだけで中心に辿り着ける。ただ……」

 

 言い淀むルーピンにスヴェンは察する。

 確かに聞けば最短距離に思えるが、実際はそう単純じゃない。

 地下水路に居る使い魔擬きが行く手を阻むなら戦闘は避けられない。

 それ相応の数が居るとなれば手早く排除する必要も。

 

「使い魔擬きが他の通路と比較して数が多いってか」

 

「こっちに危害を加えるということは無いんだけど、数は通路を埋め尽くすほど。それにスヴェンに対しては攻撃的になるかもしれない」

 

 それは当然だ。エンケリア村の村人やルーピンは使い魔擬きと時の悪魔に対して有効手段は無いに等しい。

 使い魔擬きにとって危害にもならない、ただ妨害するだけで済む手合いにわざわざ攻撃する必要性もなかった。

 だが、スヴェンは一巡目で使い魔擬きを殺している。

 使い魔擬き同士で情報共有しているならこちらの情報は恐らく時の悪魔にも届いてる可能も考慮しなければ。

 

「使い魔擬きは互いに情報を共有してんのか?」

 

「一度だけ調査中に騎士団を囮に隙を突いたことが有ってね。その時には中央の魔法陣にどうにか辿り着けたけど……障壁と待ち構えていた使い魔に成す術なく、ね」

 

 どうやら巻き戻りの魔法陣は理論に基づき導き出した解答では無く、そこに実際に存在している事を確認した上での発言だった。

 これでそこに確実に在ることが証明され、同時に待ち受ける使い魔にスヴェンの警戒が跳ね上がる。

 

「使い魔か。ソイツはどんな見た目なんだ? ミアの情報じゃあ仔猫らしいが……」

 

「仔猫とはまた……アレを仔猫と表現して良いのか些か疑問だね」

 

「仔猫ってのはあんま観たことがねぇからよく判らねえが、眼にした者から戦意を奪い虜にするって話らしい」

 

「……確かに騎士も村人も、ボクもアレを相手に戦意喪失してしまったよ。それだけ……うん、なんと言うか虜にしてしまうんだ」

 

 言葉を濁しながら額から汗を流すルーピンにスヴェンは眉を歪めた。

 それが事実なら非常に厄介な使い魔と言えるだろう。

 仔猫とは情報で聴いているが、それも単なる比喩表現でしかないのかもしれない。

 実際はもっと異なるーーそれこそ大の大人を容易く虜にしてしまえる未知の姿形か。

 

「使い魔も厄介だな……ん? アンタらが使い魔と接触できたのは一度だけか?」

 

「3年もあれこれ動き回って一度だけだよ」

 

 ルーピンほどの頭脳に優れ、エルリア魔法騎士団も居る状況で地下水路の中央に辿り着けたのは一度だけ。

 それは使い魔擬き同士で情報を共有し、こちらの動きに対して先手を打っていることが判る。

 

「地の利を持つ村人も出し抜く使い魔擬き共と戦意喪失させる使い魔か。こりゃあ結果を出せってのは酷な相手だな」

 

「スヴェンは理解が速くて助かるよ。それに洞察力も良い」

 

 褒められても何とも思わない。

 洞察力も観察眼も戦場で培った技術に過ぎない。

 殺しに活かすために磨いた技術を褒められても心は何も感じられず、むしろ褒めるべきは真っ当な手段で技術を磨いた者達だ。

 

「それよか、使い魔の見た目は?」

 

 ルーピンに使い魔の姿に付いて訊ねると彼は渋い表情を浮かべ、

 

「あれは、なんというか……そう、非常に興味深いと言うべきか。会えば判るっと言うべきか……」

 

 非常に話し辛い、それとも悪魔と同じように眼にした者に何らかの認識阻害かーーやはり仔猫ってのは比喩表現で実際は精神を消耗させちまうのか?

 スヴェンが使い魔に警戒心を浮かべるとルーピンが額の汗を拭う。

 

「とにかくあまり情報は提供できないんだ」

 

「思い出すだけ精神に負担が生じる類いか?」

 

「あ、ああ、うん。まあそんなところかなぁ」

 

 ルーピンの様子が可笑しいが、思い出すだけで精神に負担がかかるなら仕方ない。

 スヴェンはこれ以上は危険だと判断し、使い魔に関して質問を止めた。

 どこ吹く風で口笛を鳴らすルーピンに思わずじと眼になるも、

 

『エンケリア村の諸君、わたしの声が聴こえるか?』

 

 村全土に響くベルサック村長の声にスヴェンとルーピンが耳を傾ける。

 残り三十分も無い状況でベルサック村長がどうやって村人全員に話を切り出し説得するのか、その方法が疑問だったが如何やら杞憂だったようだ。

 

『時獄などと言う訳の分からない結界に閉じめられて3年が経過した。その間、我々は脱出、結界解除を目的に行動を起こしたがどれも失敗に終わってしまった』

 

『いま村で暴れてる君達はきっとわたし達に失望してしまっているのだろう。しかし、もう少しだけ待って欲しい! ようやく、漸くだ! 村に変化が訪れたっ!』

 

『誰も突破できなかった時獄を突破して村に訪れた者が1人! 彼はいまルーピン先生と協力して時獄解除に動き出している』

 

『手始めに巻き戻りの魔法の解除、これを解除すればもう時が戻ることは無い。我々の時間は漸く12時以降を迎えられるっ! だから君達に村長として頼みが有る!!』

 

『もう無闇に殺し合わず、誰も傷付け合わないで欲しいっ!』

 

 ベルサック村長の村人に当てた頼みの声は果たして彼らに届いたのか。それは此処からでは判断できないが、少なくとも外で声に耳を傾けていた村人は涙を流している。

 その涙は漸く時が進むことに対する期待感からなのか、それとももう戻れない事を意味する涙なのか。

 どちらにせよベルサック村長の説得が上手くいかずともエンケリア村の解放に動くことは変わらない。

 

「ルーピン、次のループ時に上着を持って来てくれねぇか?」

 

「上着? ああ、突入時に弾かれてしまったのか。分かった君のサイズに合う服は幾らでも有るから持って行くよ」

 

 スヴェンは彼に頼み、そして刻限が訪れーースヴェンは二度目の巻き戻りを体験した。

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