傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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26-7.巻き戻りの魔法陣へ

 二巡目が訪れたスヴェンは上半身裸のまま合流地点の村の丘を訪れていた。

 そこから見渡す村は嫌というほど静かで、出歩いていた村人がすぐに自宅に引き返す。

 前回のベルサック村長の声が村人に届き影響を与えたのか。

 スヴェンが思案する中、背後に魔力の気配を感じ取り振り返れば上着を片手に持つルーピンの姿がそこにあった。

 

「思ったより早かったね」

  

 さっそく上着を受け取り着替えたスヴェンは簡潔に答える。

 

「村の入り口から此処は近い方だからな」

 

「なるほど、今回失敗してしまったら次も此処にするとしよう」

 

「失敗前提で話すなよ。だいたい異界人なんざ得体の知れない存在はそう長く信じられねぇだろ」

 

 ベルサック村長は時獄から解放の目処が立ったと大々的に喧伝した。

 元々信頼されていた彼だからこそ効果を発揮し村が静まり、喧騒の音が聞こえないほどに。

 しかしこの静寂も失敗を重ねれば、もう村人は誰の声にも耳を貸さないだろう。

 それだけベルサック村長とルーピンは危険な賭けに出ているのだ。

 だからこそ失敗は許されない。依頼達成に繋がる行動なら確実に達成すべきだからだ。

 

「君の言う通りだ。まだわたしを先生と慕う者は多いけど、それでも村の半数はもう耳を貸してくれない」

 

 エンケリア村の一件はルーピンの力、知識不足とは誰も思わないだろう。

 いや、そもそも理不尽な現象に対して対応し解決策を導き出し、クルシュナに情報を送っただけでも凄いことだ。

 スヴェンは内心で彼に対して称賛の言葉を浮かべ、地下水路に井戸に歩む。

 ふと文字が刻まれた石碑に眼が行くが、此処に刻まれた言葉は時獄解放後にミアかレイ辺りに聞けば済むこと。

 また一つ解決しなければならない理由を作ったスヴェンはそのまま井戸のロープを伝って地下水路に降りる。

 

 ▽ ▽ ▽

 

「コイツはまた……」

 

 降りた瞬間、魔法が飛来し避けたがーー目前には通路を埋め尽くすほど。それこそ数えるのもアホらしくなるほどの使い魔擬きが待ち構えていた。

 予想通りとはいえ、この数を一人で相手にしながら突き進む。

 スヴェンは口元を吊り上げガンバスターを片手に魔法の弾幕が放たれる通路を駆け出す。

 戦場と似た高揚感を内心に潜めながら使い魔擬きに刃を振り抜き両断、そのまま腰を軸に刃を薙ぎ払うことで纏めて使い魔擬きを斬り裂く。

 

「この数は……」

 

 背後にルーピンの声が聴こえるが、使い魔擬きの標的は自分だけ。

 そう確信したのは使い魔擬きの身体がこちらに集中し、魔法陣が絶えず狙っているからだ。

 属性を纏わないただの魔法弾。それでも直撃を受ければたちまち集中砲火により嬲り殺しにされる。

 スヴェンはそうならないために足を止めず、進路を妨害する使い魔擬きに対してのみガンバスターを振り抜く。

 風を斬る一閃が地下水路に響くと同時に使い魔擬きの胴体が両断される。

 両断しながら突き進むが、それでも依然と数が減った様子は無い。

 使い魔擬きの目的は時間切れまで防戦すること。スヴェンの殺害など目的の二の次に過ぎない。

 時間制限付きの戦闘など自爆スイッチが押された軍用基地から脱出する時以来か。

 スヴェンは過去の戦場を思い浮かべながら、ひたすら淡々と使い魔擬きを斬り伏せーー魔法の弾幕は跳躍し壁を足場に走り抜けることで確実に距離を詰めながら避ける。

 

「曲がり角にも待ち伏せしてやがんな」

 

 使い魔擬きから発せられる魔力を察知したスヴェンは舌打ちした。

 目的はこのまま北に通路を直進した中心地点だ。

 丁度近付きつつある十字路の曲がり角から感じる気配から通れば即座に魔法が飛んで来るだろう。

 更に無視した使い魔擬きが背後から魔法を放ってる状態だ。

 

 ーーこのまま直進すりゃあ良い的だな。

 

 わざわざ的にされるつもりは無い。故にスヴェンは通路の床を力一杯踏み抜き更に加速を加えることで一気に十字路を駆け抜ける。

 魔法が遅れて十字路を飛び交う光景に、

 

「本命は前方か」

 

 スヴェンは前方から飛来する魔力の閃光を、魔力を纏わせたガンバスターで弾く。

 閃光が横に反れ、壁を撃ち抜く。瓦礫の音に構わず走り続けるスヴェンに使い魔擬きは怯えた様子で頭を抱え蹲り始めた。

 確かに狭い通路に対して挟撃、そこに追い打ちとして魔力の閃光を放てば一部の奴は無力化できる。

 しかしこのテルカ・アトラスには強者が余りにも多過ぎる。

 先程の魔法ならフィルシス達には無意味で、ミアにも防ぐことができる範疇だろう。

 この世界に存在しないを前提にしたという特殊条件下でも無ければエンケリア村は誰かの手に解決されていた。

 

 ーー異界戦争の時には既に異界人は存在していたが、概念の対象にならねぇのは何故だ?

 

 今更の疑問にスヴェンは構わず突き進み、進路を阻む使い魔擬きを斬り裂く。

 無数に存在する異世界から召喚された異界人に対しては、単に世界の違いから時獄が上手く作用しないのか。

 スヴェンはそんな事を漠然と考えながらいよいよ見え始めた地下水路の中央に眉を歪めた。

 フロアに続く入り口に見える空間が歪んだ壁。これにルーピン達は阻まれ続けて巻き戻りの魔法陣を解除することができなかった。

 いや、正確には一度は辿り着いたが二度目以降に張られたのだ。

 スヴェンは背後に視線を向け、ルーピンが後方の遠い位置に居ることにボヤく。

 

「少し速度を上げ過ぎたか?」

 

 フィルシスなら問題なく着いて来れるーーそれこそ追い抜き追い付き、障害を減らしながら競争に入るだろう。

 そんな光景を浮かべたスヴェンはため息を吐く。

 

 ーー3週間近くフィルシスと居た影響か、判断基準がアイツになってるな。

 

 無意識に判断基準をフィルシスにしていた。これは巻き戻りの魔法陣を解体した後に正さなければ何処かでズレが生じる。

 そう判断したスヴェンは中心の部屋入り口に近付き、歪んだ空間にガンバスターの刃を振り抜く。

 刃が歪んだ空間を斬り裂き、ガラスが割れた音と共に本来在るべき入り口が目前に現れた。

 扉も何も無いただの入り口にスヴェンはルーピンの距離を再確認しながら踏み込む。

 瞬間、魔力の気配にガンバスターを構え直し、

 

「時の歪みを破る奴なんてはじめてねぇ。主人様の邪魔はさせない!」

 

 巻き戻りの魔法陣を護るように堂々と腕組みで待ち構えた声の主にスヴェンは眼を見開きただただその異質さに困惑を隠せず、一瞬だけ思考停止に陥ったのだ。

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