傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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26-10.間に合わせるために

 魔王城の書庫に山積みにされた本の側でフィルシスはページをめくりながら古い呪いに付いて文献を漁っていた。

 

「これも違う」

 

 知りたい知識が書かれていないとするや、本を机に乗せ次の本を手に取りまたページをめくる。

 レーナに残された時間は決して多くない。

 幸い今はオルゼア王がレーナに施した魔法で延命処置を取っていると部下から報告を受けたが、それでも安心などできない。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 ぱさ、ぱさ、何度もページをめくる音と足音が書庫に響き渡り始めてから既に九時間が経過。

 

 所用で訪れた魔族の文官がフィルシスに声をかけようか躊躇うほど、彼女は熱心に文献を漁り続ける。

 それでもフィルシスが求める情報は記載されておらず、嫌な推測が頭の中に何度も浮かぶ。

 ラスラ司祭が独自に開発した呪いか、邪神に授かった呪いのどちらかなら古い伝承、呪いを記述した書物に記されている可能性は限りなく低い。

 だが、それは結局のところラスラ司祭しか呪いを知らず、解呪もスヴェンに任せる他に選択肢がない事を意味する。

 それは判っていたことだ。判っていたことだが、

 

「弟子に背負わせる重荷じゃない……それは判ってるんだ」

 

 一国の姫君の命運を異界人、一個人に任せるなど到底考えられないだろう。

 しかしスヴェンはレーナに召喚され魔王救出を果たし、ミルディル森林国で邪神教団の司祭を追い詰め、不完全ながら復活した邪神眷属の再封印に貢献した。

 これだけ功績を振り返ればスヴェンはもはや英雄に相応しい実績を示している。

 誰しもがスヴェンが影ながら得た功績を知れば、英雄と持て囃しレーナを救うように懇願するだろう。

 スヴェンが英雄扱いを嫌がろうとも真実を知った人々は、スヴェンの事情もお構い無しにレーナが助かる方法を選ぶ。

 

 ーー呪いの杞憂を打ち明けた私がして良い思考じゃないけど……。

 

 最初は協力者か依頼を出せば引き受ける傭兵程度、あとは戦ってみたい好奇心に駆られて接触したがーーどうにも自分はスヴェンのことを相当気に入っているようだ。

 

「私が迷ってもスヴェンは引き受けるんだろうね」

 

 本に手を置きながらそんなことをぼそっと呟き、背後に突如現れた気配にフィルシスはため息を吐く。

 

「乙女の独り言を盗み聞きなんていい度胸だね」

 

 背後に振り抜きと共に鞘から抜き放った一閃を放ちたい衝動だが、各国の王族と付人に対して手を出せばたちまち外交問題だ。

 面倒な事態を考慮したフィルシスは背後の人物ーーエルロイに振り返った。

 

「お前ほどの強者でも零したくなる、か」

 

「空間魔法を使ってまでわざわざ盗み聞きに来るほど暇なのかい?」

 

「暇じゃない。暇じゃないが、お前にラスラが授かった呪いに付いて伝えておこうと思ってね」

 

 やはりラスラ司祭の呪いは邪神から授かった魔法だったか。嫌な推測が当たってしまったことにフィルシスは無表情でエルロイを見詰める。

 

「アイツが授かった呪いの魔法は対処を死に誘うもの……一度呪いを受ければ解呪する余地など与えず死に誘う魔法だった」

 

「……だったってことは今は違うんだね」

 

「呪いに対する対策、レーナ姫本人の魔力がラスラの魔力を軽く上回っていたからこそ今の状態に陥っている」

 

「姫様の魔力が呪いに対して抵抗していた。それはルーピン所長と推測の段階で予測していたけど、呪いに潜伏期間が有ったのは本来の半分にも満たない効果が発揮した影響ってことかな」

 

 ルーピン所長と話し合った段階で浮上していた予測に付いて告げれば、エルロイはつまらなそうに肩を竦めた。

 

「はぁ〜天才が揃えば少ない手がかりで解答を導き出すか。……そうだ、だから呪いはレーナ姫の体内に潜伏することで機会を窺っていたのさ」

 

 呪いの発動には対象に対する負の感情が必要とされる。それが長年の研究で得た呪いに関する知識だ。

 しかしエルロイの言い方はまるで違うっと言ってるようなものだ。

 それとも古い呪いや邪神が授ける魔法は既存する魔法と異なるのか。

 

「まるで呪いに意志が有るような言い方だね」

 

 疑問を晴らすように訊ねれば、

 

「術者の意志が呪いに宿る。わたしを生かす不老不死の呪いもノーマッドを生かす呪いも邪神の意志によって働いてるのさ」

 

 そんな事実を何食わぬ顔で語るエルロイの瞳は確かに遠い過去を映していた。

 目の前の彼が現在から過去に眼を向けるのもこの際どうでも良い。フィルシスにとってエルロイも邪神教団も過去にエルリアに混乱を招いた元凶に過ぎないのだから。

 

「キミが過去に眼を向けようともどうでもいい」

 

「スヴェンと言いお前もわたしに対して辛辣すぎじゃない?」

 

「つまり姫様が受けた呪いはラスラ司祭の殺意が込められているってことで良いんだね」

 

「無視とか泣きそう……あぁ、その認識で間違いないよ」

 

 ラスラ司祭の殺意の影響を受けた呪いがレーナを殺そうとしている。それは理解できるが、結局のところすぐに解決できる問題でもないことにフィルシスは眉を歪める。

 

「それで解呪の方法は何か知らないのかい?」

 

「一度発動した死の呪いはラスラの執念も合わさり解呪不可能だよ」

 

 現代では解呪不可能だと永い時を生きるエルロイにはっきりと言われてしまえば、フィルシスにも諦めが付く。

 足掻いて別の方法を模索することを諦め、スヴェンに託す。当初の予定に戻ることにフィルシスはままならないっと息を吐いた。

 だが、エルリア騎士団長として。スヴェンに対する感情を押し殺して彼を過去に向かわせ、何もせず安穏と日々を過ごすなど到底容認できない。

 だからこそフィルシスはスヴェンに頼ることを前提に、彼が行動に移れるように用意するべきだと結論を出した。

 

「やることが出来たからもう行くよ」

 

「お前の策が功を成すことを祈ってるよ」

 

 それはどっちの神に祈るのだろうか? そんなどうでも良い疑問が頭に浮かんでは泡となって消える。

 フィルシスは書庫から退室し、すぐさま同行者に選んだ部下達が待つ待機室に駆けた。

 スヴェンが戻って来る前に必要な資料を集まるために。

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